奴隷生活の話しはしたくない呂布だったが、嫌な事は必ず誰かが聞いてくる。
実際、遠くから、「奴隷で辛くなかった」と年若い娘が声を上げた。
無邪気な瞳を呂布に向けてきた。
美事な剣舞で宴席を盛り上げた娘ではないか。
少し酒が入っているのか、顔が赤い。
真っ直ぐな興味だけで、他意はなさそう。
これでは邪険に出来ない。
みんなの目も興味津々。
呂布は諦めた。
軽く喋る事にした。
「涼州の出身ということで牧場に回された。
最初の仕事は牧童の下働きだ。
すぐ牧童になれたから、苦労らしい苦労はしていない」
奴隷生活を簡潔に纏めた。
苦労自慢もしない。
赤ら顔の一人が突いてきた。
「奴隷の身分を買い戻したのか。それとも逃げて来たのか。
買い戻したのなら、大した才覚だ。
逃げて来たのなら、大した度胸だ」
酔っぱらいの一撃は容赦がない。
「才覚の持ち合わせがないので、逃げて来た」と呂布は苦笑い。
途端に、みんなから歓声が上がった。
拍手する者もいた。
白髭の爺さんが顔をくしゃくしゃにして言う。
「よく逃げて来られた。立派、立派。
追っ手が来ても、儂達がこの村には一歩も入れん。
だから何の心配もするな」
別の一人が激昂した口振り。
「そうじゃ、そうじゃ。
盗まれた物は持ち主に返すもの。
呂布もこの涼州から盗まれた物。涼州に戻して当然。
追っ手が来たら、俺が槍の錆にしてくれる」
「俺も、俺も」と騒々しくなった。
呂真が、みんなに言う。
「落ち着け、みんな。
漢の大地は広い。隣り合わせの国も多い。
いったん逃げた者を探し出すのは、干し草の中から針を探し出すようなもの。
一介の商人の手には余る。
追っ手もそれを知ってるから、ここまでは追ってこないだろう」
みんなが頷く。
逃げるだけなら、どこへでも逃げられる。
漢の大地はどこまでも地続きなのだ。
牧童の腕を活かして北方騎馬民族に紛れてもいい。
西域に向かってもいい。
南の蛮地もある。
いざとなれば、見た事はないが、東方には塩辛い水が広がる「大海」というものがあり、
果てしなく遠くまで、際限なく広がっているのだそうだ。
「そこへ船で漕ぎ出せば、さらに遠くまで行ける」とか。
だけど呂布は逃げ隠れするつもりはない。
家族を探すのに、姿を晒すのを厭うわけには行かない。
向かって来る敵あらば、断ち斬るだけ。
堂々と白日の下に身を晒すつもりでいた。
みんなに、その点をはっきりと言う。
「どこに逃げるつもりもない。
やることが残ってる。
母や弟達、妹達を捜し出さねばならない」
騒いでいた者達が押し黙る。
困惑したように互いに目を交わす。
呂甫が飲んでいた手を止め、呂布を見た。
「探すなとは言わない。気持ちは分かる。
だけど何か手掛かりがあるのか」
呂布は彼の方に顔を向け、「それがないから、ここに戻って来た」と言い、
みんなに正対して続けた。
「誰か、他に戻って来た奴はいないのか。
姿を見かけたという噂はどうだ。
追っ手を恐れて、隠れてはいないのか。
奴隷に買われた先からの便りは。
誰か何かないか。
あったらお願いだ。教えてくれ」
みんな、めいめい勝手に喋りだした。
隣り合う者達と真剣に検討してくれた。
だが何も得られなかった。
さして期待していなかったので落胆はしない。
家族を探す方法は他にもある。
細い線だが、それを辿るのも手だろう。
呂布は問う。
「俺達の村を襲った盗賊団の名は」
傍の呂真がぎょっとした顔。
「それを聞いてどうする。
奴等を追うのか」
呂布は平然と答えた。
「昔のことでも、あれだけの大仕事。誰か何か覚えているだろう。
どこの奴隷商人に売ったのか分かれば、探すには、それで十分。
そのついでに首領の首を落としてもいい」
中年男の一人が答えた。
「じかに見た者は一人もいない。
だから、はっきりとは答えられない。
ただ、同じ時期に、あの辺りで見かけられた盗賊団は一つだけ。
赤嶺団と呼ばれる連中だ」
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実際、遠くから、「奴隷で辛くなかった」と年若い娘が声を上げた。
無邪気な瞳を呂布に向けてきた。
美事な剣舞で宴席を盛り上げた娘ではないか。
少し酒が入っているのか、顔が赤い。
真っ直ぐな興味だけで、他意はなさそう。
これでは邪険に出来ない。
みんなの目も興味津々。
呂布は諦めた。
軽く喋る事にした。
「涼州の出身ということで牧場に回された。
最初の仕事は牧童の下働きだ。
すぐ牧童になれたから、苦労らしい苦労はしていない」
奴隷生活を簡潔に纏めた。
苦労自慢もしない。
赤ら顔の一人が突いてきた。
「奴隷の身分を買い戻したのか。それとも逃げて来たのか。
買い戻したのなら、大した才覚だ。
逃げて来たのなら、大した度胸だ」
酔っぱらいの一撃は容赦がない。
「才覚の持ち合わせがないので、逃げて来た」と呂布は苦笑い。
途端に、みんなから歓声が上がった。
拍手する者もいた。
白髭の爺さんが顔をくしゃくしゃにして言う。
「よく逃げて来られた。立派、立派。
追っ手が来ても、儂達がこの村には一歩も入れん。
だから何の心配もするな」
別の一人が激昂した口振り。
「そうじゃ、そうじゃ。
盗まれた物は持ち主に返すもの。
呂布もこの涼州から盗まれた物。涼州に戻して当然。
追っ手が来たら、俺が槍の錆にしてくれる」
「俺も、俺も」と騒々しくなった。
呂真が、みんなに言う。
「落ち着け、みんな。
漢の大地は広い。隣り合わせの国も多い。
いったん逃げた者を探し出すのは、干し草の中から針を探し出すようなもの。
一介の商人の手には余る。
追っ手もそれを知ってるから、ここまでは追ってこないだろう」
みんなが頷く。
逃げるだけなら、どこへでも逃げられる。
漢の大地はどこまでも地続きなのだ。
牧童の腕を活かして北方騎馬民族に紛れてもいい。
西域に向かってもいい。
南の蛮地もある。
いざとなれば、見た事はないが、東方には塩辛い水が広がる「大海」というものがあり、
果てしなく遠くまで、際限なく広がっているのだそうだ。
「そこへ船で漕ぎ出せば、さらに遠くまで行ける」とか。
だけど呂布は逃げ隠れするつもりはない。
家族を探すのに、姿を晒すのを厭うわけには行かない。
向かって来る敵あらば、断ち斬るだけ。
堂々と白日の下に身を晒すつもりでいた。
みんなに、その点をはっきりと言う。
「どこに逃げるつもりもない。
やることが残ってる。
母や弟達、妹達を捜し出さねばならない」
騒いでいた者達が押し黙る。
困惑したように互いに目を交わす。
呂甫が飲んでいた手を止め、呂布を見た。
「探すなとは言わない。気持ちは分かる。
だけど何か手掛かりがあるのか」
呂布は彼の方に顔を向け、「それがないから、ここに戻って来た」と言い、
みんなに正対して続けた。
「誰か、他に戻って来た奴はいないのか。
姿を見かけたという噂はどうだ。
追っ手を恐れて、隠れてはいないのか。
奴隷に買われた先からの便りは。
誰か何かないか。
あったらお願いだ。教えてくれ」
みんな、めいめい勝手に喋りだした。
隣り合う者達と真剣に検討してくれた。
だが何も得られなかった。
さして期待していなかったので落胆はしない。
家族を探す方法は他にもある。
細い線だが、それを辿るのも手だろう。
呂布は問う。
「俺達の村を襲った盗賊団の名は」
傍の呂真がぎょっとした顔。
「それを聞いてどうする。
奴等を追うのか」
呂布は平然と答えた。
「昔のことでも、あれだけの大仕事。誰か何か覚えているだろう。
どこの奴隷商人に売ったのか分かれば、探すには、それで十分。
そのついでに首領の首を落としてもいい」
中年男の一人が答えた。
「じかに見た者は一人もいない。
だから、はっきりとは答えられない。
ただ、同じ時期に、あの辺りで見かけられた盗賊団は一つだけ。
赤嶺団と呼ばれる連中だ」
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