goo blog サービス終了のお知らせ 

金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(呂布)295

2013-12-15 08:35:12 | Weblog
 奴隷生活の話しはしたくない呂布だったが、嫌な事は必ず誰かが聞いてくる。
実際、遠くから、「奴隷で辛くなかった」と年若い娘が声を上げた。
無邪気な瞳を呂布に向けてきた。
美事な剣舞で宴席を盛り上げた娘ではないか。
少し酒が入っているのか、顔が赤い。
真っ直ぐな興味だけで、他意はなさそう。
これでは邪険に出来ない。
みんなの目も興味津々。
 呂布は諦めた。
軽く喋る事にした。
「涼州の出身ということで牧場に回された。
最初の仕事は牧童の下働きだ。
すぐ牧童になれたから、苦労らしい苦労はしていない」
 奴隷生活を簡潔に纏めた。
苦労自慢もしない。
 赤ら顔の一人が突いてきた。
「奴隷の身分を買い戻したのか。それとも逃げて来たのか。
買い戻したのなら、大した才覚だ。
逃げて来たのなら、大した度胸だ」
 酔っぱらいの一撃は容赦がない。
「才覚の持ち合わせがないので、逃げて来た」と呂布は苦笑い。
 途端に、みんなから歓声が上がった。
拍手する者もいた。
 白髭の爺さんが顔をくしゃくしゃにして言う。
「よく逃げて来られた。立派、立派。
追っ手が来ても、儂達がこの村には一歩も入れん。
だから何の心配もするな」
 別の一人が激昂した口振り。
「そうじゃ、そうじゃ。
盗まれた物は持ち主に返すもの。
呂布もこの涼州から盗まれた物。涼州に戻して当然。
追っ手が来たら、俺が槍の錆にしてくれる」
「俺も、俺も」と騒々しくなった。
 呂真が、みんなに言う。
「落ち着け、みんな。
漢の大地は広い。隣り合わせの国も多い。
いったん逃げた者を探し出すのは、干し草の中から針を探し出すようなもの。
一介の商人の手には余る。
追っ手もそれを知ってるから、ここまでは追ってこないだろう」
 みんなが頷く。
逃げるだけなら、どこへでも逃げられる。
漢の大地はどこまでも地続きなのだ。
牧童の腕を活かして北方騎馬民族に紛れてもいい。
西域に向かってもいい。
南の蛮地もある。
いざとなれば、見た事はないが、東方には塩辛い水が広がる「大海」というものがあり、
果てしなく遠くまで、際限なく広がっているのだそうだ。
「そこへ船で漕ぎ出せば、さらに遠くまで行ける」とか。
 だけど呂布は逃げ隠れするつもりはない。
家族を探すのに、姿を晒すのを厭うわけには行かない。
向かって来る敵あらば、断ち斬るだけ。
堂々と白日の下に身を晒すつもりでいた。
みんなに、その点をはっきりと言う。
「どこに逃げるつもりもない。
やることが残ってる。
母や弟達、妹達を捜し出さねばならない」
 騒いでいた者達が押し黙る。
困惑したように互いに目を交わす。
 呂甫が飲んでいた手を止め、呂布を見た。
「探すなとは言わない。気持ちは分かる。
だけど何か手掛かりがあるのか」
 呂布は彼の方に顔を向け、「それがないから、ここに戻って来た」と言い、
みんなに正対して続けた。
「誰か、他に戻って来た奴はいないのか。
姿を見かけたという噂はどうだ。
追っ手を恐れて、隠れてはいないのか。
奴隷に買われた先からの便りは。
誰か何かないか。
あったらお願いだ。教えてくれ」
 みんな、めいめい勝手に喋りだした。
隣り合う者達と真剣に検討してくれた。
だが何も得られなかった。
さして期待していなかったので落胆はしない。
家族を探す方法は他にもある。
細い線だが、それを辿るのも手だろう。
 呂布は問う。
「俺達の村を襲った盗賊団の名は」
 傍の呂真がぎょっとした顔。
「それを聞いてどうする。
奴等を追うのか」
 呂布は平然と答えた。
「昔のことでも、あれだけの大仕事。誰か何か覚えているだろう。
どこの奴隷商人に売ったのか分かれば、探すには、それで十分。
そのついでに首領の首を落としてもいい」
 中年男の一人が答えた。
「じかに見た者は一人もいない。
だから、はっきりとは答えられない。
ただ、同じ時期に、あの辺りで見かけられた盗賊団は一つだけ。
赤嶺団と呼ばれる連中だ」




ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。