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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)296

2013-12-19 21:33:05 | Weblog
 呂布は赤嶺団を知らなかった。
村が襲撃された時も、奴隷として売られた時も知らなかった。
その名前すら知らなかった。
 中年男が説明してくれた。
十数年前までは涼州の西部にある山岳地帯に彼等の砦があった。
官軍が踏み込むのを躊躇うような勇猛果敢な少数民族が割拠する地域で、
そういう官軍の足元を見て、多くの盗賊団が同地に本拠を構えていた。
赤嶺団もその一つ。
赤嶺団の名は、砦のある高地の岩肌が赤っぽいことに由来した。
構成する人員は、最大時で、おおよそ二千。
一つの大きな村であった。
統率する首領の名は、「蒙儀」。
噂では元官軍の将官だったとか。
 呂布は、「手掛かりを得た」と思った。
蒙儀本人を捕らえるのは難しいだろうが、
多喜村襲撃を覚えている者なら誰でも構わない。
出来れば古株を捕らえて口を割らせる。
どこの奴隷商人に売ったのか。
それが分かれば次は奴隷商人を探し出す。
買った奴隷商人全員を捕らえてでも、売った先を命と交換に喋らせる。
十数年前の商売であっても必ず思い出させる。
誰それを、どこどこに売ったのかを。
手間はかかるが、他に手はない。
 その希望の光を中年男が打ち砕いた。
「ところがな」と。
「我らも多喜村との縁に連なる者達を集めて協議した。
州の官吏に任せようにも、当てにならないから、自分達で智慧を絞った。
そこで赤嶺団が怪しいで一致した」
 縁戚に連なる者達から資金を集め、信用の置ける武人達を雇い、
赤嶺団を調べさせるために少数民族が割拠する山岳地帯に送り込んだ。
その結果、意外な事が判明した。
赤嶺団は多喜村襲撃と同時期に姿を消していた。
本拠の砦は完全な無人。
金目の物は全て持ち去られていた。
 戻った武人達は状況から、
「赤嶺団は多喜村襲撃でかなりの収穫を得た。
それで他の盗賊団の襲撃を恐れて退去したのではないか。
あるいは何らかの理由で退去しなければならなくなった。
そこで最後の仕事として多喜村を襲撃した。
その何れかだろう」と推測した。
 落胆した呂布であったが、周囲がそれを許さない。
「呂布が戻った」という噂が近隣の村々に、あっという間に広がったせいで、
翌日より大勢が呂布目当てに押し寄せて来た。
いずれも多喜村に縁戚を持っていた者達ばかり。
みんなの質問が呂布一人に集中した。
赤嶺団は、どのようにして襲って来たのか。
村は、どのように応戦したのか。
どうして村は負けたのか。
誰それは、どのような最期だったのか。
多喜村に嫁に出した娘は、孫は、どこに売られたのか。
 当時、子供だった呂布が、全てに答えられる分けがない。
直に目にした事、耳にした事しか話せない。
押し寄せて来た者達も、それは重々承知していた。
芳しくない答えでも、文句は言わない。怒りもしない。
去り際に、みんなが、みんな、呂布の肩を抱いて言う。
「せっかく生きて戻ったんだから、長生きしろ」
「苦労したのでしょう。しばらく、ゆっくりすると良いわね」
 呂布は連日、同じ話を繰り返した。
飽きはしない。
疲れもしない。
みんなの気持ちが分かるので、自分でも驚くほどに丁寧に応対した。
 そんな所に、州の官吏が訪れて来た。
この辺りを巡廻していた州の騎馬隊であった。
口髭が印象的な武人が隊長で、副官一人、騎兵十騎を引き連れていた。
巡廻の途中で呂布の噂を耳にし、急遽、予定を変更して立ち寄ったのだそうだ。
訪問客を押しのけ、「当時の話しを聞きたい」と横柄な口振り。
 その態度に呂布の表情が引き攣る。
「順番を待て」
 実際、呂布と話しをする為に五人が順番待ちをしていた。
 口髭の隊長は自分の耳を疑う素振り。
「・・・待てと言ったのか」
「言ったが、どうした」と隊長を睨み付けた。
 隊長は不愉快そうな表情。
呂布を睨み返した。
「我らは、お上の仕事で来ている。それを何だ、その口のきき方は」
 呂布は立ち上がって隊長を見下ろした。
「お上がどうした。何か役に立つのか」
 従っていた副官が腰の太刀に手をかけた。
「その態度は何だ。お上に楯突くのか」と何時でも抜ける体勢。
 周りにいた者達が怖々と後退りを始めた。
 その様子に、呂布の傍にいた呂真、呂甫の親子が驚き、
慌てて両者の間に割って入った。
「まあ、まあ」と。
 呂布は怒りを抑えられない。
「今さら昔の話しを聞いて、どうするというのか。
当時でさえ役に立たなかったのに」と苦々しく思った。
太刀を履き、何も言わず、そのまま家を飛び出した。
 呂真の声が追って来た。
「呂布、どこに行く」
 聞こえぬ振りして足を速めた。
 気付いたら小さな足音が背後に迫っていた。
「ねえ、呂布。怒ったの」
 娘のような声。
 返事しないでいると、その者が足早に隣に並んだ。
剣舞で宴席を盛り上げた娘だ。
呂布が無視していると、「私、 蔦美帆」と名乗った。
 年頃は十八、九。
颯爽としていた。
 呂布は無視して厩舎に向かった。
自分の馬を引き出して、騎乗した。
すると蔦美帆も手頃な馬を選んで、厩舎から引き出し、騎乗した。
「どうするの」と呂布に問う。




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