ヤマト達の野営地は、少し離れた所にある崖の岩棚。
普通の人間では登れない場所で、雨風を遮るように、上に岩が迫り出していた。
人が10人くらいは寝れそうな広さがあり、草が敷き詰めてあった。
佐助が小太刀で草を刈り、若菜が運んだのだ。
その2人はすでに寝入っていた。
ヤマトの中の猫又が、不思議な気配に起された。
柔らかくて暖かい、そして何やら怪しげな・・・
それが微かな風に乗って流れて来た。
斑猿とはまったく別の種類の物だ。
ヤマトはその気配を追った。
崖を駆け登り、森に駆け入った。
月光を浴びて木から木へ跳び移り、岬を奥へ。
寝ている鳥達を起こさぬように、気を使いながらしなやかに跳ぶ。
途中で斑猿の臭いが強くなってきた。
どうやら前方の岩山が彼等の棲家らしい。
発見されると面倒になるので迂回した。
行き着いた先は、岬の先端の小高い山・・・
どう見ても変な感じの山だ。
ようく見てみると、螺旋階段状の段々畑が頂上まで続いていた。
ただ、もう何百年も手入れされていないようだ。
苔の生えた石垣がそれを物語っていた。
ヤマトは気配の流れを辿って、石垣から石垣へ跳びながら、山を駆け登った。
が、どこまで行っても気配の源が見つけられない。
山の内部から流れ出しているかのようだ。
頂上には大きな岩が不自然に置かれていた。
その内部はくり貫かれ、祠が造られている。
奥に祀られている神には見覚えが無い。
50センチほどの石像で、人のような猿のような・・・
岩肌に文字が彫られているのだが、南蛮文字とも少々違うようだ。
岩の周辺を調べる。
気付いた時には襲撃を受けていた。
背後から体当たりを喰らい、岩に叩きつけられた。
殺気を上手く隠して襲ってくるとは、侮れぬ奴だ。
ヤマトの中で寝込んでいたドングリ達が悲鳴を上げた。
龍に入れ替わった。
軽く雄叫びを上げて、岩の上に跳び上がり、相手を睨みつけた。
体長1メートル程の白い犬が1匹いた。
眼光鋭くヤマトを睨み返してくる。
手足が長く、強靭そうな体躯。牙がキラリと光った。
ただ、白犬から放たれる気の質は、あの気配とは別物だ。
白犬がヤマト目がけて跳びかかって来た。
普通の犬にはない跳躍力だ。
ヤマトはそれを跳び下りて、迎え撃った。
空中で両者が激突して、絡み合うようにして落下した。
地面すれすれで両者は左右に分かれて着地し、次の瞬間には再び激突した。
人でさえ簡単に倒すヤマトの体当たりを、白犬は互角に受け止めていた。
牙に自信があるのか、噛み付く隙を窺っている。
ヤマトは警戒しながらも、意地になったかのように幾度も体当たりを繰り返す。
しだいに白犬の体当たりから勢いが失われていく。
龍の攻撃能力を持つヤマトには、尋常ではない持続力がある。
対して白犬は魔物だとしても、所詮は犬。龍とは器が違う。
ヤマトは相手の足がふらついたのを見逃さない。勝負はあったようだ。
再び猫又に入れ替わった。
人の言葉で白犬に話しかけた。
獣から魔物の類に変化すると、共通語として人の言葉を使用する。
白犬もそうなら人語を喋れなくても、少しは理解はする筈。
「オイラはヤマト」
白犬は不審そうに見返した。
「オイラはヤマト、人の言葉を喋れるかい」
白犬は耳を傾けながら、口を開いた。
それは聞き慣れぬ言葉であった。南蛮の言葉とも違う。
怒っているような、訴えかけるような・・・
どうやら「ここは俺の縄張りだ。勝手に入るな」と言ってるようだ。
ヤマトは軽く頷いて、山から下りた。
白犬もあえて追っては来ぬようだ。
鞍馬側の洞窟に朝日が射した。
鬼が出てくるのを妨げる為に、馬止めの柵が二重に設けられていた。
昨日、慶次郎達が鬼達を追い返した後で、高僧・萌来が麓の百姓を集めて、
急ぎ設けたのだ。
今日はさらに強化される予定だ。
数人の僧兵が篝火を消して歩いていた。
別の所では朝飯をこしらえる僧侶達もいた。
僧兵だけでは足りないのだ。
少し離れた所に仮設の小屋も三棟建てられていた。
左の小屋から慶次郎が出てきて、水瓶の方へ歩く。
五つの水瓶いずれもが満たされている。
昨夜のうちに寺の小僧達が、夜道苦労しながら近くの小川から水を汲んできたのだ。
水を飲んでいると、傍に五右衛門が来た。
「慶次、疲れているようだが」
「疲れというよりは、寝不足だ」
「頭に血が昇りっ放しか」
「そういうこと。戦場ではよく眠れるが、今回は勝手が違う。お前は」
「同じだ。聚楽第に忍び込んだ時とは、血の流れ方が違うようだ」
「ほお、聚楽第にも忍び込んだのか」
聚楽第は秀吉が京にいるときに政務を執る城だ。
戦より絢爛豪華を重視した城構えだが、警戒は厳重で手抜きは許されない。
五右衛門が鼻を高くした。
「仕事だからな。三日前の話だが、まだ外には漏れていないようだ」
「面子があるから握り潰すだろう。で、何を盗んだ」
「盗まずに、ある物を置いてきた」
「何を」
五右衛門が嬉しそうに答える。
「奥の襖絵に『石川五右衛門参上』と筆を入れてきた」
慶次郎が朗らかに笑う。
笑う仕種にも華がある。
「その襖絵は高く売れるな」
「そうか、売れるか。そこまでは考えてなかった」
「お前は盗みもだが、書も上手い」
眠そうな顔の名古屋山三郎が出てきた。
朝は弱いのか、憂いがあり悩ましい。
★
ぶろぐ村と私は貴方のクリックを待ってます。

★
そうだ、FC2ブログランキングへ行こう。
http://blogranking.fc2.com/in.php?id=299929
FC2 Blog Ranking
普通の人間では登れない場所で、雨風を遮るように、上に岩が迫り出していた。
人が10人くらいは寝れそうな広さがあり、草が敷き詰めてあった。
佐助が小太刀で草を刈り、若菜が運んだのだ。
その2人はすでに寝入っていた。
ヤマトの中の猫又が、不思議な気配に起された。
柔らかくて暖かい、そして何やら怪しげな・・・
それが微かな風に乗って流れて来た。
斑猿とはまったく別の種類の物だ。
ヤマトはその気配を追った。
崖を駆け登り、森に駆け入った。
月光を浴びて木から木へ跳び移り、岬を奥へ。
寝ている鳥達を起こさぬように、気を使いながらしなやかに跳ぶ。
途中で斑猿の臭いが強くなってきた。
どうやら前方の岩山が彼等の棲家らしい。
発見されると面倒になるので迂回した。
行き着いた先は、岬の先端の小高い山・・・
どう見ても変な感じの山だ。
ようく見てみると、螺旋階段状の段々畑が頂上まで続いていた。
ただ、もう何百年も手入れされていないようだ。
苔の生えた石垣がそれを物語っていた。
ヤマトは気配の流れを辿って、石垣から石垣へ跳びながら、山を駆け登った。
が、どこまで行っても気配の源が見つけられない。
山の内部から流れ出しているかのようだ。
頂上には大きな岩が不自然に置かれていた。
その内部はくり貫かれ、祠が造られている。
奥に祀られている神には見覚えが無い。
50センチほどの石像で、人のような猿のような・・・
岩肌に文字が彫られているのだが、南蛮文字とも少々違うようだ。
岩の周辺を調べる。
気付いた時には襲撃を受けていた。
背後から体当たりを喰らい、岩に叩きつけられた。
殺気を上手く隠して襲ってくるとは、侮れぬ奴だ。
ヤマトの中で寝込んでいたドングリ達が悲鳴を上げた。
龍に入れ替わった。
軽く雄叫びを上げて、岩の上に跳び上がり、相手を睨みつけた。
体長1メートル程の白い犬が1匹いた。
眼光鋭くヤマトを睨み返してくる。
手足が長く、強靭そうな体躯。牙がキラリと光った。
ただ、白犬から放たれる気の質は、あの気配とは別物だ。
白犬がヤマト目がけて跳びかかって来た。
普通の犬にはない跳躍力だ。
ヤマトはそれを跳び下りて、迎え撃った。
空中で両者が激突して、絡み合うようにして落下した。
地面すれすれで両者は左右に分かれて着地し、次の瞬間には再び激突した。
人でさえ簡単に倒すヤマトの体当たりを、白犬は互角に受け止めていた。
牙に自信があるのか、噛み付く隙を窺っている。
ヤマトは警戒しながらも、意地になったかのように幾度も体当たりを繰り返す。
しだいに白犬の体当たりから勢いが失われていく。
龍の攻撃能力を持つヤマトには、尋常ではない持続力がある。
対して白犬は魔物だとしても、所詮は犬。龍とは器が違う。
ヤマトは相手の足がふらついたのを見逃さない。勝負はあったようだ。
再び猫又に入れ替わった。
人の言葉で白犬に話しかけた。
獣から魔物の類に変化すると、共通語として人の言葉を使用する。
白犬もそうなら人語を喋れなくても、少しは理解はする筈。
「オイラはヤマト」
白犬は不審そうに見返した。
「オイラはヤマト、人の言葉を喋れるかい」
白犬は耳を傾けながら、口を開いた。
それは聞き慣れぬ言葉であった。南蛮の言葉とも違う。
怒っているような、訴えかけるような・・・
どうやら「ここは俺の縄張りだ。勝手に入るな」と言ってるようだ。
ヤマトは軽く頷いて、山から下りた。
白犬もあえて追っては来ぬようだ。
鞍馬側の洞窟に朝日が射した。
鬼が出てくるのを妨げる為に、馬止めの柵が二重に設けられていた。
昨日、慶次郎達が鬼達を追い返した後で、高僧・萌来が麓の百姓を集めて、
急ぎ設けたのだ。
今日はさらに強化される予定だ。
数人の僧兵が篝火を消して歩いていた。
別の所では朝飯をこしらえる僧侶達もいた。
僧兵だけでは足りないのだ。
少し離れた所に仮設の小屋も三棟建てられていた。
左の小屋から慶次郎が出てきて、水瓶の方へ歩く。
五つの水瓶いずれもが満たされている。
昨夜のうちに寺の小僧達が、夜道苦労しながら近くの小川から水を汲んできたのだ。
水を飲んでいると、傍に五右衛門が来た。
「慶次、疲れているようだが」
「疲れというよりは、寝不足だ」
「頭に血が昇りっ放しか」
「そういうこと。戦場ではよく眠れるが、今回は勝手が違う。お前は」
「同じだ。聚楽第に忍び込んだ時とは、血の流れ方が違うようだ」
「ほお、聚楽第にも忍び込んだのか」
聚楽第は秀吉が京にいるときに政務を執る城だ。
戦より絢爛豪華を重視した城構えだが、警戒は厳重で手抜きは許されない。
五右衛門が鼻を高くした。
「仕事だからな。三日前の話だが、まだ外には漏れていないようだ」
「面子があるから握り潰すだろう。で、何を盗んだ」
「盗まずに、ある物を置いてきた」
「何を」
五右衛門が嬉しそうに答える。
「奥の襖絵に『石川五右衛門参上』と筆を入れてきた」
慶次郎が朗らかに笑う。
笑う仕種にも華がある。
「その襖絵は高く売れるな」
「そうか、売れるか。そこまでは考えてなかった」
「お前は盗みもだが、書も上手い」
眠そうな顔の名古屋山三郎が出てきた。
朝は弱いのか、憂いがあり悩ましい。
★
ぶろぐ村と私は貴方のクリックを待ってます。

★
そうだ、FC2ブログランキングへ行こう。
http://blogranking.fc2.com/in.php?id=299929
FC2 Blog Ranking
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます