金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(アリス)106

2019-05-05 07:03:44 | Weblog
 俺は相手が喋るのを待った。
苦々しそうな表情のザッカリー。
「正直に答えた後は・・・、俺はどうなる」
「今日は聞くだけだ。
答えてくれれば首輪を外す。
・・・。
嘘だったら、どうするか・・・な」
 頭部を負傷した護衛はと見れば、血を流し過ぎたのか、
身動き一つしない。
このままだと死ぬのかな・・・。
ポーションを掛ければ・・・。
助かるのかな・・・。
手持ちのポーションはあるにはあるが・・・。
助ければ助けたで弊害が出る。
此奴は悪党の一人。
普通に暮らしている者が迷惑する。
 鍛冶スキルを起動した。
死に行く者に首輪は要らないだろう。
魔素に変換した。
 もう一人の護衛。
此方は気絶したまま、
擬態とも思えない。
此方の首輪も魔素に変換した。
でもそれで終わりじゃない。
モデルケースにすることにした。
鍛冶スキルで造り上げる物は上半身を覆う鎧。
亀の甲羅をイメージ。
頭と手足のみを出して、そう、亀人。

 ザッカリーは相手の視線が逸れたので反撃の機を窺った。
武器さえ手にすれば魔法使いの一人や二人、怖れるものではない。
冒険者であった頃は手玉に取っていた。
 従魔は、と見れば視線がぶつかった。
小さな両眼で憎々しげに睨んでいた。
異常な殺気。
こんなのに殺す理由を与えるのは下策でしかない。
 人間の方に目を遣った。
フード付きのローブは見るからに安物。
腰に提げている短剣もそのようだ。
何れも一見すると、露店でも売っているような、ありふれた物。
足が付かぬように意識しているのだとしたら、
裏家業の者、と言う言葉しか思い浮かばない。
 肝心の顔が分からない。
認識阻害のスキルでも掛けているのだろうか。
背格好からすると、見た感じは青年。
ただ全体的に女のようにか細い。
 と・・・、見る間に護衛二人の首輪が消えた。
そして一人の上半身が亀の甲羅のような形状で覆われた。
全く継ぎ目のない脱着不可能な鎧。
五つの穴から頭と手足が出ているだけ。
正しく亀の甲羅の鎧。
 驚きを通り越し、驚愕動転、背筋が凍った。
尋常ではない。
まず首輪の消し方が理解できない。
そして亀の甲羅に似た鎧。
材料が何一つないのに、こんなに簡単に造り出せるとは。
見覚えのある鍛冶スキルでもなければ、
噂に聞いた錬金スキルとも違う。
これは一体何なのだ。
加えて魔法使いの杖も、魔方陣も、呪文も、詠唱も・・・、ない。
完全な無詠唱。
様子を窺うに、まだまだ余力があるらしい。

 俺は顔色が悪化の一途を辿るザッカリーに言葉を掛けた。
「嘘を付いても殺しはしないが、
このような亀の甲羅の鎧をプレゼントさせてもらおう」
「お前達は何者だ」
「質問はこちらがする。いいか」
 自分の立場が分かったのか、渋々頷くザッカリー。
それを見て俺は質問した。
「お前は妖精を売っているだろう。
その数は・・・」
 聞いた瞬間、ザッカリーの視線がアリスに向けられた。
思い出したようだ。
「もしかしてお前、馬車で出荷した妖精か」
 言葉が終わると同時にアリスがバク宙、鮮やかなハレーション。
現れたのは金髪で金色の瞳を持つ三対六枚羽根の妖精。
それで終わりじゃなかった。
飛翔し、ザッカリーの胸元に飛び蹴りを喰らわせた。
一発で床に倒すと、取り敢えず溜飲が下がったのか、
天井付近で待機の姿勢。
 上半身を起こし、胸元を押さえながらザッカリーが口を開いた。
「馬車はどうした」
「安心しろ。
迷惑料として俺が貰った」
「くっ・・・、返せ。俺のもんだ」
「頭に血が上って自分の立場を忘れたのか」
 俺は水魔法、ウォーターボールの小っちゃいのを撃ち込んだ。
額に一発。
頭を冷やす目的で威力を殺したつもりが、
相手を大きく仰け反らせてしまった。
ずぶ濡れのザッカリーを見ながら、俺は念を押した。
「自分の立場を思い出したか」
 ザッカリーが頷いた。
「分かった。
売り先なら俺よりも詳しい奴がいる」それでも足掻く。
「サンチョとクラークか・・・」
 俺の言葉に詰まるザッカリー。
そこで鎌をかける事にした。
「夕べ、この先の倉庫で騒ぎがあったのは知ってるだろう。
奉行所の連中が駆け付けて来た騒ぎだ」
「・・・、知ってる。それが」
「俺達は倉庫にサンチョとクラークを誘い込み、痛めつけて尋問した。
当然、話しは妖精の売り先だ。
魔法を使い過ぎて騒ぎになってしまったが、口は割らせた。
で、確認の為にここに来た。
二人の答えとお前の答えが一致すれば問題はない」
 ザッカリーの目が泳ぐ。
「二人は無事なのか」
「自分より二人の心配か、余裕だな。
無事かどうかは捕まえた奉行所の手当て次第だな。
それより問題はお前が無事にここを切り抜けられるかどうかだ。
さあ、どうする。
お前が協力を拒否するのなら、ここに居る連中、
一人一人を締め上げて吐かせるだけだ」
 ザッカリーの全身から力が抜けた。
完落ちか、半落ちか、どっちだろう。
「分かった」

 ザッカリーに売り先の地図を書かせた。
子爵家一枚。
伯爵家一枚。
 出来上がりが気に食わないのか、
アリスが怒ってザッカリーの頭を引っぱたいた。
「痛ってって、なに済んだよ」
 俺はザッカリーに注意した。
「俺達は他所もんだ。
迷わずに済むように描き直してくれるか。
近所の目立つ建物を入れてくれると助かる」
 アリスを警戒しながら、文句も言わず描き直してくれた。
二件がザッカリーが関わった分だそうだ。
「これで良いか」
「クラークはファミリーの一員じゃないんだろう。
内緒で売っているような事はないのか」
「・・・無いと思う」
「妖精を買っている、と言う噂を聞いた事はないか」
「妖精とか精霊の売買は昔は禁止されていた。
今はそうでもないが、それでも神社や教会にばれると厄介なんだよな。
だから噂は流れてこない。
けどな・・・」
 言いながらザッカリーが急いで一枚書き上げた。
「五年前に亡くなった先代にそんな噂があった」
 侯爵家一枚。
ザッカリーが他人事のように言う。
「馬鹿貴族三家。
当人は馬鹿でも屋敷の警戒は厳しいぞ。
それに屋敷で妖精を飼っているとは限らない。
何れも領地持ちだからな。
それでも取り返すのか」

 俺は鍛冶スキルでザッカリーの首輪と、
亀の甲羅形状の鎧を魔素に変換して、アジトから撤退した。
当然、人目を憚って屋根からだ。
屋根から屋根へ移動している最中、アリスに尋ねられた。
『殺さなくて良かったの』
『俺達は殺し屋じゃないだろう』
『そうだけど・・・。
仲間を直ぐに助けに向かう』
『その前にすることがある。
助けた妖精を匿う場所を見つけてからだ。
何をするにしても段取りを考えないとね』


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