俺は相手が喋るのを待った。
苦々しそうな表情のザッカリー。
「正直に答えた後は・・・、俺はどうなる」
「今日は聞くだけだ。
答えてくれれば首輪を外す。
・・・。
嘘だったら、どうするか・・・な」
頭部を負傷した護衛はと見れば、血を流し過ぎたのか、
身動き一つしない。
このままだと死ぬのかな・・・。
ポーションを掛ければ・・・。
助かるのかな・・・。
手持ちのポーションはあるにはあるが・・・。
助ければ助けたで弊害が出る。
此奴は悪党の一人。
普通に暮らしている者が迷惑する。
鍛冶スキルを起動した。
死に行く者に首輪は要らないだろう。
魔素に変換した。
もう一人の護衛。
此方は気絶したまま、
擬態とも思えない。
此方の首輪も魔素に変換した。
でもそれで終わりじゃない。
モデルケースにすることにした。
鍛冶スキルで造り上げる物は上半身を覆う鎧。
亀の甲羅をイメージ。
頭と手足のみを出して、そう、亀人。
ザッカリーは相手の視線が逸れたので反撃の機を窺った。
武器さえ手にすれば魔法使いの一人や二人、怖れるものではない。
冒険者であった頃は手玉に取っていた。
従魔は、と見れば視線がぶつかった。
小さな両眼で憎々しげに睨んでいた。
異常な殺気。
こんなのに殺す理由を与えるのは下策でしかない。
人間の方に目を遣った。
フード付きのローブは見るからに安物。
腰に提げている短剣もそのようだ。
何れも一見すると、露店でも売っているような、ありふれた物。
足が付かぬように意識しているのだとしたら、
裏家業の者、と言う言葉しか思い浮かばない。
肝心の顔が分からない。
認識阻害のスキルでも掛けているのだろうか。
背格好からすると、見た感じは青年。
ただ全体的に女のようにか細い。
と・・・、見る間に護衛二人の首輪が消えた。
そして一人の上半身が亀の甲羅のような形状で覆われた。
全く継ぎ目のない脱着不可能な鎧。
五つの穴から頭と手足が出ているだけ。
正しく亀の甲羅の鎧。
驚きを通り越し、驚愕動転、背筋が凍った。
尋常ではない。
まず首輪の消し方が理解できない。
そして亀の甲羅に似た鎧。
材料が何一つないのに、こんなに簡単に造り出せるとは。
見覚えのある鍛冶スキルでもなければ、
噂に聞いた錬金スキルとも違う。
これは一体何なのだ。
加えて魔法使いの杖も、魔方陣も、呪文も、詠唱も・・・、ない。
完全な無詠唱。
様子を窺うに、まだまだ余力があるらしい。
俺は顔色が悪化の一途を辿るザッカリーに言葉を掛けた。
「嘘を付いても殺しはしないが、
このような亀の甲羅の鎧をプレゼントさせてもらおう」
「お前達は何者だ」
「質問はこちらがする。いいか」
自分の立場が分かったのか、渋々頷くザッカリー。
それを見て俺は質問した。
「お前は妖精を売っているだろう。
その数は・・・」
聞いた瞬間、ザッカリーの視線がアリスに向けられた。
思い出したようだ。
「もしかしてお前、馬車で出荷した妖精か」
言葉が終わると同時にアリスがバク宙、鮮やかなハレーション。
現れたのは金髪で金色の瞳を持つ三対六枚羽根の妖精。
それで終わりじゃなかった。
飛翔し、ザッカリーの胸元に飛び蹴りを喰らわせた。
一発で床に倒すと、取り敢えず溜飲が下がったのか、
天井付近で待機の姿勢。
上半身を起こし、胸元を押さえながらザッカリーが口を開いた。
「馬車はどうした」
「安心しろ。
迷惑料として俺が貰った」
「くっ・・・、返せ。俺のもんだ」
「頭に血が上って自分の立場を忘れたのか」
俺は水魔法、ウォーターボールの小っちゃいのを撃ち込んだ。
額に一発。
頭を冷やす目的で威力を殺したつもりが、
相手を大きく仰け反らせてしまった。
ずぶ濡れのザッカリーを見ながら、俺は念を押した。
「自分の立場を思い出したか」
ザッカリーが頷いた。
「分かった。
売り先なら俺よりも詳しい奴がいる」それでも足掻く。
「サンチョとクラークか・・・」
俺の言葉に詰まるザッカリー。
そこで鎌をかける事にした。
「夕べ、この先の倉庫で騒ぎがあったのは知ってるだろう。
奉行所の連中が駆け付けて来た騒ぎだ」
「・・・、知ってる。それが」
「俺達は倉庫にサンチョとクラークを誘い込み、痛めつけて尋問した。
当然、話しは妖精の売り先だ。
魔法を使い過ぎて騒ぎになってしまったが、口は割らせた。
で、確認の為にここに来た。
二人の答えとお前の答えが一致すれば問題はない」
ザッカリーの目が泳ぐ。
「二人は無事なのか」
「自分より二人の心配か、余裕だな。
無事かどうかは捕まえた奉行所の手当て次第だな。
それより問題はお前が無事にここを切り抜けられるかどうかだ。
さあ、どうする。
お前が協力を拒否するのなら、ここに居る連中、
一人一人を締め上げて吐かせるだけだ」
ザッカリーの全身から力が抜けた。
完落ちか、半落ちか、どっちだろう。
「分かった」
ザッカリーに売り先の地図を書かせた。
子爵家一枚。
伯爵家一枚。
出来上がりが気に食わないのか、
アリスが怒ってザッカリーの頭を引っぱたいた。
「痛ってって、なに済んだよ」
俺はザッカリーに注意した。
「俺達は他所もんだ。
迷わずに済むように描き直してくれるか。
近所の目立つ建物を入れてくれると助かる」
アリスを警戒しながら、文句も言わず描き直してくれた。
二件がザッカリーが関わった分だそうだ。
「これで良いか」
「クラークはファミリーの一員じゃないんだろう。
内緒で売っているような事はないのか」
「・・・無いと思う」
「妖精を買っている、と言う噂を聞いた事はないか」
「妖精とか精霊の売買は昔は禁止されていた。
今はそうでもないが、それでも神社や教会にばれると厄介なんだよな。
だから噂は流れてこない。
けどな・・・」
言いながらザッカリーが急いで一枚書き上げた。
「五年前に亡くなった先代にそんな噂があった」
侯爵家一枚。
ザッカリーが他人事のように言う。
「馬鹿貴族三家。
当人は馬鹿でも屋敷の警戒は厳しいぞ。
それに屋敷で妖精を飼っているとは限らない。
何れも領地持ちだからな。
それでも取り返すのか」
俺は鍛冶スキルでザッカリーの首輪と、
亀の甲羅形状の鎧を魔素に変換して、アジトから撤退した。
当然、人目を憚って屋根からだ。
屋根から屋根へ移動している最中、アリスに尋ねられた。
『殺さなくて良かったの』
『俺達は殺し屋じゃないだろう』
『そうだけど・・・。
仲間を直ぐに助けに向かう』
『その前にすることがある。
助けた妖精を匿う場所を見つけてからだ。
何をするにしても段取りを考えないとね』
苦々しそうな表情のザッカリー。
「正直に答えた後は・・・、俺はどうなる」
「今日は聞くだけだ。
答えてくれれば首輪を外す。
・・・。
嘘だったら、どうするか・・・な」
頭部を負傷した護衛はと見れば、血を流し過ぎたのか、
身動き一つしない。
このままだと死ぬのかな・・・。
ポーションを掛ければ・・・。
助かるのかな・・・。
手持ちのポーションはあるにはあるが・・・。
助ければ助けたで弊害が出る。
此奴は悪党の一人。
普通に暮らしている者が迷惑する。
鍛冶スキルを起動した。
死に行く者に首輪は要らないだろう。
魔素に変換した。
もう一人の護衛。
此方は気絶したまま、
擬態とも思えない。
此方の首輪も魔素に変換した。
でもそれで終わりじゃない。
モデルケースにすることにした。
鍛冶スキルで造り上げる物は上半身を覆う鎧。
亀の甲羅をイメージ。
頭と手足のみを出して、そう、亀人。
ザッカリーは相手の視線が逸れたので反撃の機を窺った。
武器さえ手にすれば魔法使いの一人や二人、怖れるものではない。
冒険者であった頃は手玉に取っていた。
従魔は、と見れば視線がぶつかった。
小さな両眼で憎々しげに睨んでいた。
異常な殺気。
こんなのに殺す理由を与えるのは下策でしかない。
人間の方に目を遣った。
フード付きのローブは見るからに安物。
腰に提げている短剣もそのようだ。
何れも一見すると、露店でも売っているような、ありふれた物。
足が付かぬように意識しているのだとしたら、
裏家業の者、と言う言葉しか思い浮かばない。
肝心の顔が分からない。
認識阻害のスキルでも掛けているのだろうか。
背格好からすると、見た感じは青年。
ただ全体的に女のようにか細い。
と・・・、見る間に護衛二人の首輪が消えた。
そして一人の上半身が亀の甲羅のような形状で覆われた。
全く継ぎ目のない脱着不可能な鎧。
五つの穴から頭と手足が出ているだけ。
正しく亀の甲羅の鎧。
驚きを通り越し、驚愕動転、背筋が凍った。
尋常ではない。
まず首輪の消し方が理解できない。
そして亀の甲羅に似た鎧。
材料が何一つないのに、こんなに簡単に造り出せるとは。
見覚えのある鍛冶スキルでもなければ、
噂に聞いた錬金スキルとも違う。
これは一体何なのだ。
加えて魔法使いの杖も、魔方陣も、呪文も、詠唱も・・・、ない。
完全な無詠唱。
様子を窺うに、まだまだ余力があるらしい。
俺は顔色が悪化の一途を辿るザッカリーに言葉を掛けた。
「嘘を付いても殺しはしないが、
このような亀の甲羅の鎧をプレゼントさせてもらおう」
「お前達は何者だ」
「質問はこちらがする。いいか」
自分の立場が分かったのか、渋々頷くザッカリー。
それを見て俺は質問した。
「お前は妖精を売っているだろう。
その数は・・・」
聞いた瞬間、ザッカリーの視線がアリスに向けられた。
思い出したようだ。
「もしかしてお前、馬車で出荷した妖精か」
言葉が終わると同時にアリスがバク宙、鮮やかなハレーション。
現れたのは金髪で金色の瞳を持つ三対六枚羽根の妖精。
それで終わりじゃなかった。
飛翔し、ザッカリーの胸元に飛び蹴りを喰らわせた。
一発で床に倒すと、取り敢えず溜飲が下がったのか、
天井付近で待機の姿勢。
上半身を起こし、胸元を押さえながらザッカリーが口を開いた。
「馬車はどうした」
「安心しろ。
迷惑料として俺が貰った」
「くっ・・・、返せ。俺のもんだ」
「頭に血が上って自分の立場を忘れたのか」
俺は水魔法、ウォーターボールの小っちゃいのを撃ち込んだ。
額に一発。
頭を冷やす目的で威力を殺したつもりが、
相手を大きく仰け反らせてしまった。
ずぶ濡れのザッカリーを見ながら、俺は念を押した。
「自分の立場を思い出したか」
ザッカリーが頷いた。
「分かった。
売り先なら俺よりも詳しい奴がいる」それでも足掻く。
「サンチョとクラークか・・・」
俺の言葉に詰まるザッカリー。
そこで鎌をかける事にした。
「夕べ、この先の倉庫で騒ぎがあったのは知ってるだろう。
奉行所の連中が駆け付けて来た騒ぎだ」
「・・・、知ってる。それが」
「俺達は倉庫にサンチョとクラークを誘い込み、痛めつけて尋問した。
当然、話しは妖精の売り先だ。
魔法を使い過ぎて騒ぎになってしまったが、口は割らせた。
で、確認の為にここに来た。
二人の答えとお前の答えが一致すれば問題はない」
ザッカリーの目が泳ぐ。
「二人は無事なのか」
「自分より二人の心配か、余裕だな。
無事かどうかは捕まえた奉行所の手当て次第だな。
それより問題はお前が無事にここを切り抜けられるかどうかだ。
さあ、どうする。
お前が協力を拒否するのなら、ここに居る連中、
一人一人を締め上げて吐かせるだけだ」
ザッカリーの全身から力が抜けた。
完落ちか、半落ちか、どっちだろう。
「分かった」
ザッカリーに売り先の地図を書かせた。
子爵家一枚。
伯爵家一枚。
出来上がりが気に食わないのか、
アリスが怒ってザッカリーの頭を引っぱたいた。
「痛ってって、なに済んだよ」
俺はザッカリーに注意した。
「俺達は他所もんだ。
迷わずに済むように描き直してくれるか。
近所の目立つ建物を入れてくれると助かる」
アリスを警戒しながら、文句も言わず描き直してくれた。
二件がザッカリーが関わった分だそうだ。
「これで良いか」
「クラークはファミリーの一員じゃないんだろう。
内緒で売っているような事はないのか」
「・・・無いと思う」
「妖精を買っている、と言う噂を聞いた事はないか」
「妖精とか精霊の売買は昔は禁止されていた。
今はそうでもないが、それでも神社や教会にばれると厄介なんだよな。
だから噂は流れてこない。
けどな・・・」
言いながらザッカリーが急いで一枚書き上げた。
「五年前に亡くなった先代にそんな噂があった」
侯爵家一枚。
ザッカリーが他人事のように言う。
「馬鹿貴族三家。
当人は馬鹿でも屋敷の警戒は厳しいぞ。
それに屋敷で妖精を飼っているとは限らない。
何れも領地持ちだからな。
それでも取り返すのか」
俺は鍛冶スキルでザッカリーの首輪と、
亀の甲羅形状の鎧を魔素に変換して、アジトから撤退した。
当然、人目を憚って屋根からだ。
屋根から屋根へ移動している最中、アリスに尋ねられた。
『殺さなくて良かったの』
『俺達は殺し屋じゃないだろう』
『そうだけど・・・。
仲間を直ぐに助けに向かう』
『その前にすることがある。
助けた妖精を匿う場所を見つけてからだ。
何をするにしても段取りを考えないとね』
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