金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(鬼)23

2008-05-24 19:46:31 | Weblog
 鞍馬山の木々の緑が、朝日に照り映えていた。
冬の気配か、風が冷たく感じられる。
 「鬼の口」周辺を戦支度の天狗族が警戒していた。
鬼の姿は無いが、警戒は怠らない。
 頭領・弁慶は長老・常陸と、「鬼の口」を塞いでいた巨石の破片を調べて回った。
枯葉が風に乗って、洞窟に吸い込まれていく。
風の行く先は鬼の国なのだろうか。
そこへ鞍馬の高僧・萌来が一人で現れた。
この手の荒事になると、必ず彼が鞍馬を代表して出てくる。
小柄で柔和な顔の老人だが、体術・方術の達人で、油断が出来ない。
年に数回は顔を合わせるので、弁慶も軽口を叩ける。
「僧兵も昔ほどには役に立たぬようですな」
「お主らも、弓だけで逃げたと聞いたが」
「我等は人と違い、戦の文化を持ち合わせておりません」
「という事にしておくか。で、何か分かったのか」
「塞いでいた巨石は、洞窟の内側からでは無く、外から壊されたようだ」
「どうやって。手では無理だし、方術の類いなら私が気付かぬ筈がない」
「我等も誰一人として気付かなかった」
「結界はどうなっている」
「これも気付かぬうちに、外から壊された」
 巨石を囲むように、少し離れた所に地蔵を六体、六亡星の形になるように配置し、
方術で結界を張っていた。
その地蔵全てが打ち壊されていた。
「洞窟内の鬼の仕業では無く、外の誰かが、仕掛けたということか」
「そうなる」
「よそから来た鬼ということは」
「気配を消してここに近づくのは鬼には無理だろう。
それに、あの連中が小細工をするとは思えない」
「となると、何者かが気配を消してここに来て、結界と巨石を僅かの時間で壊し、
再び気配を消したまま逃げた、ということになる」
「そういうことだ」
 萌来は常陸を見た。
「我等に気付かれずに、これだけの事が出来る者に心当たりは」
「ない。が・・・何の為にやったのか」
「というと」
「ただの悪戯にしては危険だ。山に入れば我等や僧兵達に見つかる。
捕らえられれば良し、下手すれば殺される。
見つからずに巨石を壊しても、鬼達に遭遇すれば悲惨な目に遭う。
それ相当の心構えがなくては出来ない事だ」
「たしかに。目的は何だろう」
「もう一つ、気に掛かることがある。
巨石を壊した後だが、その者は本当に逃げたのだろうか」
「というと」
「鬼達が出掛けた後で、『鬼の口』に入ったと考えたら・・・」
 鬼達を尾行していた天狗達が次々と戻ってきた。

「鞍馬山の奥に鬼の国へ通じる洞窟があり、
そこへ牛若丸と武蔵坊弁慶、鞍馬の天狗達が討ち入ったそうです」
 と、鷺琥樂寺の高僧が続ける。
牛若丸とは後の源義経のことである。
そして天狗族の遠い血縁にあたる人間が武蔵坊弁慶だ。
 前田慶次郎は黙って、茶に手を伸ばした。
戦場で槍を構えても、茶を飲む所作にも、見事なくらいに華がある。
 2人は余人を交えず、広い本堂の真ん中で対座していた。
「牛若丸の戦上手はその頃からだったのでしょう。
天狗達を率いて、鬼の国を平定して戻ってきました。
その時に持ち帰った物の中に鬼の王の亡骸があったのです。
それは鞍馬の高僧の指示で、生き返らぬように首と胴体を切り離し
二つの木箱に分けられ、塩漬けにされました。
それを預かったのが箕濱寺と、この鷺琥樂寺でした」
「すると盗まれた木箱が」
「そうです。ここでは胴体を預かっていました」
 慶次郎は床下に潜んでいる者の存在に気付き、素早い動作で野太刀を抜き、
床板を刺し貫いた。
 床下に潜んでいたのは、ヤマトと佐助。
慶次郎が動くと同時に、1匹と1人も動いた。
「どこへ逃げる」
「佐助、これは逃げてるのじゃないよ。鞍馬へ向かってるのさ」
 途中で鬼の派手な足跡を見つけた。
あちこちで人が倒れているのだ。
おおかたは町人で、路上で腰を抜かせるか、気を失っていた。
鬼達を捕縛すべく出動した所司代の者達も、全滅していた。
槍が折られ、刀が折られ、鎧が壊され、いたるところに散乱していた。
多くは者は首の骨が折られているようで、身動き一つしない。

 鞍馬山入り口の広場には、僧兵と、呼び集められた付近の武士達が、
戦支度で陣を敷いていた。
鉄砲隊30数人を中心に、左翼に槍隊50数人、右翼に騎馬隊が20騎余り。
さらに左右の森に僧兵100人余りが埋伏していた。
 高僧・萌来が呼び集めたもので、歴戦の武将・河本重四朗が指揮を執っていた。
豊臣家より鞍馬の麓近くに所領を与えられている武将だ。
 箕濱寺と鷺琥樂寺を分かれて襲った鬼達が、途中で合流して現れた。
前方を立ち塞ぐ兵達を見ても、足運びは一向に変わらない。
 鉄砲隊が一斉射撃を開始した。
標的が大きい上に、逃げようとしないので、そのほとんどが命中する。
血を流し、動きが緩慢になるが、1匹も倒れない。
 そこへ右翼から騎馬隊が突入した。
遅れて左翼の槍隊も続いた。
左右の森に埋伏していた僧兵達が包囲し、輪を縮めていく。
 先頭の鬼が咆哮した。
それに他の鬼達が呼応する。
外皮に喰い込んだ鉄砲玉を、全身の筋肉で弾き飛ばし、二つの木箱を守りながら、
正面を突破する為にそれぞれが動いた。
 騎馬の者を金棒で、人馬一体を一纏めにして、一撃で打ち倒した。
幾多もの戦場を駆け抜けた騎馬隊・槍隊を、力技で叩き潰していく。




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