金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)212

2013-02-27 22:03:54 | Weblog
 マリリンはハッとした。
驚いて目を明けた。
何時の間にやら寝かされていた。
薄明かりが灯され、天井の紋様から劉家の自室であると気付いた。
 岩が砂煙を上げて雲散霧消すると同時に、視界が暗くなったところまでは覚えていた。
どうやら、そのまま意識を失ったらしい。
そんなマリリンを、みんなが運んでくれたに違いない。
 寝台の脇の椅子に女児、陶涼がいた。
今も兄の陶洪と二人、マリリンの世話を任されていた。
陶涼は目が見えぬにも関わらず、献身的に尽くしてくれていた。
その陶涼は疲れたのか、上半身を寝台に投げ出すようにして寝入っていた。
陶涼を起こさぬように室内を見回し、兄の陶洪の姿を探した。
いた。
片隅の椅子に腰掛けたまま、器用に眠っていた。
あれで椅子から落ちないのは、たいしたものだ。
思わず感心してしまった。
 マリリンは音を立てないように気遣いながら、寝台からスッと下りた。
掛け布団を半分だけ捲り、陶涼を優しく抱き上げ、寝台に寝かせた。
次は陶洪。
これまた熟睡しているようで、マリリンに持ち上げられても気付かない。
ソッと妹の脇に寝かせて、布団を掛けてやる。
 室外の物音からすると、
まだ就寝時間には程遠いようで、立ち働く物音が聞こえて来た。
「やさしいな」とヒイラギの落ち着いた物言い。
 どうやら彼も平常心を取り戻したらしい。
良かったと思い安心した。
 ヒイラギが返して来た。
「迷惑をかけたな」
 かえって神妙なのは気懸かりでもある。
 部屋を出て、階下の食堂に向かった。
ここからの声が廊下に大きく響いていた。
入ると、珍しい顔ぶれがいた。
胡璋や朱郁を含む五人の家臣が夕食に同席していた。
 上座の劉桂英が直ぐにマリリンに気付いた。
「大丈夫なの」
 マリリンは頭を軽く下げて拱手をした。
「ご心配をおかけしました」
「隣においでなさい」
 桂英と醇包の間にマリリンの席が用意され、ご馳走が並んでいた。
「無駄にならなくて良かった」と醇包。
 マリリンは、みんなを見回して挨拶し、席に着いた。
 桂英が笑顔で言う。
「時間が遅くなったから、食事しながら今日の報告を受けていたの」
 酒も振る舞われ、すでに家臣二人が酔っていた。
胡璋も顔が赤い。
彼等の気楽な様子から、報告が終わったと見て取った。
 桂英が手短に説明してくれた。
それによると、刺客三人は捕らえる際に手荒く扱ったせいで、身体のあちこちを痛め、
尋問出来る状況にはないそうだ。
幸い内通者を無傷で捕らえていたので、その者から内情を聞き出すことが出来た。
「マリリン暗殺は太平道を率いる張角の命令ではなく、
徐州での布教を任された者達の判断である」と。
 それは事実だろう。
マリリンが拾われた日から数えたとしても、
太平道の本拠、冀州と徐州の間を往復するには日数があまりにも足りなすぎた。
 マリリンは恐縮した。
「私の為にご迷惑をお掛けしました」
 すると醇包が笑う。
「マリリン殿が気にする必要はない。
狙われたのは確かにマリリン殿だが、それはこの邑で太平道を布教するのに、
マリリン殿の評判が邪魔になるからだ。
連中の最終目的はこの邑。
だから何も気にする必要はない」
 醇包の口調に余裕が感じられた。
太平道相手にどういう根拠から来る自信なのだろう。
相手を過小評価しているのか。
「この時代にはテレビもネットもない。
正確な情報を得られないのは仕方ないことだ」とヒイラギ。
 そうかも知れない。
マリリンは後漢末期の歴史に詳しい。
と言うか、三国志に詳しい。
だから太平道が起こす黄巾の乱の広がりを知っていた。
比べて同時代に生きる者達は正確な情報が入手出来ないので、
世間の評判に流されがちになる。
それはそれで致し方ないだろう。




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