朝が来て、反項羽連合軍に動きが見られた。
前線の将兵が、にわかに騒がしくなったのだ。
それも包囲する全ての陣営であったものだから、西楚軍に緊張が走った。
「一気に総力戦に出るつもりだ」と。
ところが違った。
包囲軍は最前線の後退をしていただけ。
平地の馬止めの柵を撤去し、岩場や丘、窪地を利用した場所に再布陣した。
包囲網に穴が空くのは承知らしい。
よくよく見ると、
「攻防の攻を捨て、防を選んで陣に籠もった」ようにしか見えない。
包囲しながらの防御陣。
「簡単に西楚軍を突き破れない」と判断して、
疲弊覚悟の長期戦を選択したのか。
それでも敵勢が目前に居る事に変わりはない。
槍は届かないが、矢は届くし、罵声も届く。
項羽は敵を挑発するように単騎で最前線に立った。
これに応じる敵の将兵は皆無。
熱に駆られたかのように再布陣に奔走する者ばかり。
項羽の隣に李布将軍が現れた。
配下の将軍の中では最も頼りになる武将の筆頭だ。
平時は温厚なのだが、いざ戦場となると人格が一変する。
その先頭に立つ姿は、まるで鬼。
多勢の敵を見ても全く怖じけず、何度でも突撃を繰り返す。
しかし、ただの猪武者ではない。
単調な攻撃を繰り返しながらも、流れのなかで敵の状態を見極め、
急所を見抜くや、間髪入れずに巧みな用兵で、攻撃の手を変化させる。
下馬して片膝つこうとするのを、項羽は片手で押し留めた。
「ここは戦場。挨拶は省略だ」
李布将軍は挨拶代りに軽く頭を下げた。
「覇王様、敵の動きを如何見ますか」
「お前の陣所の前も同じ動きか」
「はい、まるで亀のように首を引っ込め始めました」
「包囲陣に穴を開けすぎのようにも気もするが、・・・。
その気になれば、いつでも踏みつぶせる距離だ。
・・・。
懸念するとなれば、火矢攻撃の前段階として距離を置いた可能性もある。
ほんの僅かな可能性だがな。
定石からすれば火矢攻撃だが、
案ずる必要はないだろう。この辺りは岩山が多いからな」
「するとこれは」
「張良が何らかの策を行なおうというのだろう。
包囲陣の穴は、付け入る隙を見せたのか、あるいは逃げ道を意味するのか」
そこへ虞姫が馬を寄せて来た。
相も変わらぬ肌の露出の多い軽武装姿。
少し離れたところには側周りの女兵士数騎が待機していた。
「誘いの穴に乗ってみましょうよ」と虞姫。
小当たりして敵の様子を探る方法もあるにはあるが、・・・。
「敵が来ないなら、少しは味方の兵を休ませるのも兵法だ」
虞姫は執拗な催促はしない。
先頭に立って敵の動きを睥睨した。
「よく見れば、盾の陰に弓兵や槍兵が潜んでいるのね」
馬止めの柵の代用として、大型の盾が連ねるように並べて置いてあった。
その陰に潜む兵を見つけたらしい。
虞姫の長い黒髪が風に棚引いて美しい。
項羽は思わず見取れてしまった。
そんな自分に苦笑いしながら、彼女の後ろ姿を観察した。
乗馬姿勢に一点の乱れもない。
とても懐妊している姿ではない。
目の前の虞姫は敵勢以上に気に掛かる。
約束の明後日が来た。
朝餉もそこそこに劉邦は張良の宿舎を訪れた。
呼び出しても良かったのだが、待ちきれなかった。
「手筈は整ったのか」
張良は朝餉の途中だったが、嫌な顔一つせず、
「全て整いました。後は夕暮れを待つばかりです」と拱手した。
「夕暮れまで待たなくてはならぬのか。
今からでは駄目なのか」
まるで子供のような催促。
張良から策の概要は聞いていたが、心逸る様子。
なにしろ敵陣に矢の代わりに歌を射るのだ。
これまでの戦では見た事も、聞いた事も無い戦術だから、
心が逸って急いて仕様がないらしい。
張良は主君を諭した。
「今宵は誰一人眠れぬ夜を過ごす事になります。
ですから貴方様は今のうちに身体を休められる事です」
昼間は何も動きがなかった。
昨日から続く静寂が一帯を支配していた。
だが、敵も味方も緊張していた。
決着は間近いと。
夕暮れになると張良が劉邦の前に現れた。
「参りましょうか」
側周りの武将の先導で見張り台へ向かった。
一番星が真上で輝き始めた。
逸る心を抑えて劉邦は見張り台に上がった。
張良が続いた。
心地好い風が通り抜けた。
見張り台の向かいの低山の連なりに篝火が点り始めた。
敵陣も夜に備えて余念がない。
日が暮れるのは早い。
「それでは」と張良が劉邦に勧めた。
劉邦が見張り台から身を乗り出し、下に控えた将兵の集団に合図した。
「始めよ」
下に控えていたのは楚出身の将兵ばかり。
一斉に彼等が口を開いた。
中華で広く知られた楚の南の民謡が歌われた。
国は違っても誰もが知っていた。
山暮らしを楽しむ単調なものだが、暖かな日溜まりを思わせる歌。
見張り台の下から始まった歌が左右の陣に拡がってよく。
遅れることなく歌に歌が重ねられてゆく。
それが包囲陣全てに拡がるのに時間はかからない。
始まりは小さな歌声であったが、合唱となって一帯に拡がっていた。
気付くと山の一つも動かしそうな勢い。
守備陣包囲陣関係無く全ての耳を支配下に置いていた。
ここまで歌声に力があるとは。
空気までが振動していた。
見張り台の上の劉邦は鳥肌が立った。
歌の上手い下手を通り越した世界を見せつけられた。
長い戦暮らしに荒んだ心を癒してくれる。
包囲する側の自分がこれでは、
包囲される側ともなると、どういう気分で歌を聞いているのやら。
劉邦は張良を褒め称えようと振り向いた。
すると、張良の目から涙が零れていた。
何も問わずにいると、張良が口を開いた。
「予想はしていたのですが、予想以上でした」
「そうだな、これは鳥肌ものだ」
「項羽殿には届かないでしょうが、将兵には届くでしょう」
「これで戦が終わると思うのか」
「はい。
項羽殿は生ける武神ですが、残りは屈強でも普通の人間ばかりです」
★
泥鰌サンが大飯原発再稼働に血道を上げています。
関電の、「夏場の電力需給が逼迫する」という説明だけを理由に、
再稼働問題を早期決着させようとしています。
安全性なんてものは置き去りです。
なにしろ万一の事故が起こった際の、手当てがボロボロなんです。
とりあえず工程表は提出してあるみたいですが、当てには出来ません。
「工程表の工事を前倒ししろ」とも注文をつけません。
第三者に関電の供給力を検証させようともしません。
原子力村の村人達の政治力の前に屈しているようです。
結論ありきとしか見えません。
下手な三文芝居。
馬脚どころか、裏方が透けて見えます。
信頼を取り戻してから論議して欲しいものです。
大震災が発生し、福島クラスの事故になったら、どうなるのでしょう。
あの閉鎖されたような地域に住む人達には逃げる道路があるのでしょうか。
残念です。
・・・。
何も起こりませんように。
でも、日本の全ての原発を廃炉にするとなると、それはそれで大問題です。
廃炉に従事する人材は足りるのか。
廃炉費用は誰が負担するのか。
何年かかるのか。
それ以前に最終処分場は決まっているのでしょうか。
もしかして、地元で厳重な石棺にして、子々孫々任せにするのでしょうか。
まさに戦後から続く、「行き当たりばったり、成り行き任せ」の日本の政治。
思わず、「たどりついたらいつも雨降り」を思い出しました。
吉田拓郎サンが書いた曲です。
歌ったのは、ザ・モップス。
なんか、最近はそんな気分です。
頭の中は カラッポに なっちまってる ~♪
★
ランキングです。
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前線の将兵が、にわかに騒がしくなったのだ。
それも包囲する全ての陣営であったものだから、西楚軍に緊張が走った。
「一気に総力戦に出るつもりだ」と。
ところが違った。
包囲軍は最前線の後退をしていただけ。
平地の馬止めの柵を撤去し、岩場や丘、窪地を利用した場所に再布陣した。
包囲網に穴が空くのは承知らしい。
よくよく見ると、
「攻防の攻を捨て、防を選んで陣に籠もった」ようにしか見えない。
包囲しながらの防御陣。
「簡単に西楚軍を突き破れない」と判断して、
疲弊覚悟の長期戦を選択したのか。
それでも敵勢が目前に居る事に変わりはない。
槍は届かないが、矢は届くし、罵声も届く。
項羽は敵を挑発するように単騎で最前線に立った。
これに応じる敵の将兵は皆無。
熱に駆られたかのように再布陣に奔走する者ばかり。
項羽の隣に李布将軍が現れた。
配下の将軍の中では最も頼りになる武将の筆頭だ。
平時は温厚なのだが、いざ戦場となると人格が一変する。
その先頭に立つ姿は、まるで鬼。
多勢の敵を見ても全く怖じけず、何度でも突撃を繰り返す。
しかし、ただの猪武者ではない。
単調な攻撃を繰り返しながらも、流れのなかで敵の状態を見極め、
急所を見抜くや、間髪入れずに巧みな用兵で、攻撃の手を変化させる。
下馬して片膝つこうとするのを、項羽は片手で押し留めた。
「ここは戦場。挨拶は省略だ」
李布将軍は挨拶代りに軽く頭を下げた。
「覇王様、敵の動きを如何見ますか」
「お前の陣所の前も同じ動きか」
「はい、まるで亀のように首を引っ込め始めました」
「包囲陣に穴を開けすぎのようにも気もするが、・・・。
その気になれば、いつでも踏みつぶせる距離だ。
・・・。
懸念するとなれば、火矢攻撃の前段階として距離を置いた可能性もある。
ほんの僅かな可能性だがな。
定石からすれば火矢攻撃だが、
案ずる必要はないだろう。この辺りは岩山が多いからな」
「するとこれは」
「張良が何らかの策を行なおうというのだろう。
包囲陣の穴は、付け入る隙を見せたのか、あるいは逃げ道を意味するのか」
そこへ虞姫が馬を寄せて来た。
相も変わらぬ肌の露出の多い軽武装姿。
少し離れたところには側周りの女兵士数騎が待機していた。
「誘いの穴に乗ってみましょうよ」と虞姫。
小当たりして敵の様子を探る方法もあるにはあるが、・・・。
「敵が来ないなら、少しは味方の兵を休ませるのも兵法だ」
虞姫は執拗な催促はしない。
先頭に立って敵の動きを睥睨した。
「よく見れば、盾の陰に弓兵や槍兵が潜んでいるのね」
馬止めの柵の代用として、大型の盾が連ねるように並べて置いてあった。
その陰に潜む兵を見つけたらしい。
虞姫の長い黒髪が風に棚引いて美しい。
項羽は思わず見取れてしまった。
そんな自分に苦笑いしながら、彼女の後ろ姿を観察した。
乗馬姿勢に一点の乱れもない。
とても懐妊している姿ではない。
目の前の虞姫は敵勢以上に気に掛かる。
約束の明後日が来た。
朝餉もそこそこに劉邦は張良の宿舎を訪れた。
呼び出しても良かったのだが、待ちきれなかった。
「手筈は整ったのか」
張良は朝餉の途中だったが、嫌な顔一つせず、
「全て整いました。後は夕暮れを待つばかりです」と拱手した。
「夕暮れまで待たなくてはならぬのか。
今からでは駄目なのか」
まるで子供のような催促。
張良から策の概要は聞いていたが、心逸る様子。
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これまでの戦では見た事も、聞いた事も無い戦術だから、
心が逸って急いて仕様がないらしい。
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「今宵は誰一人眠れぬ夜を過ごす事になります。
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夕暮れになると張良が劉邦の前に現れた。
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側周りの武将の先導で見張り台へ向かった。
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張良が続いた。
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日が暮れるのは早い。
「それでは」と張良が劉邦に勧めた。
劉邦が見張り台から身を乗り出し、下に控えた将兵の集団に合図した。
「始めよ」
下に控えていたのは楚出身の将兵ばかり。
一斉に彼等が口を開いた。
中華で広く知られた楚の南の民謡が歌われた。
国は違っても誰もが知っていた。
山暮らしを楽しむ単調なものだが、暖かな日溜まりを思わせる歌。
見張り台の下から始まった歌が左右の陣に拡がってよく。
遅れることなく歌に歌が重ねられてゆく。
それが包囲陣全てに拡がるのに時間はかからない。
始まりは小さな歌声であったが、合唱となって一帯に拡がっていた。
気付くと山の一つも動かしそうな勢い。
守備陣包囲陣関係無く全ての耳を支配下に置いていた。
ここまで歌声に力があるとは。
空気までが振動していた。
見張り台の上の劉邦は鳥肌が立った。
歌の上手い下手を通り越した世界を見せつけられた。
長い戦暮らしに荒んだ心を癒してくれる。
包囲する側の自分がこれでは、
包囲される側ともなると、どういう気分で歌を聞いているのやら。
劉邦は張良を褒め称えようと振り向いた。
すると、張良の目から涙が零れていた。
何も問わずにいると、張良が口を開いた。
「予想はしていたのですが、予想以上でした」
「そうだな、これは鳥肌ものだ」
「項羽殿には届かないでしょうが、将兵には届くでしょう」
「これで戦が終わると思うのか」
「はい。
項羽殿は生ける武神ですが、残りは屈強でも普通の人間ばかりです」
★
泥鰌サンが大飯原発再稼働に血道を上げています。
関電の、「夏場の電力需給が逼迫する」という説明だけを理由に、
再稼働問題を早期決着させようとしています。
安全性なんてものは置き去りです。
なにしろ万一の事故が起こった際の、手当てがボロボロなんです。
とりあえず工程表は提出してあるみたいですが、当てには出来ません。
「工程表の工事を前倒ししろ」とも注文をつけません。
第三者に関電の供給力を検証させようともしません。
原子力村の村人達の政治力の前に屈しているようです。
結論ありきとしか見えません。
下手な三文芝居。
馬脚どころか、裏方が透けて見えます。
信頼を取り戻してから論議して欲しいものです。
大震災が発生し、福島クラスの事故になったら、どうなるのでしょう。
あの閉鎖されたような地域に住む人達には逃げる道路があるのでしょうか。
残念です。
・・・。
何も起こりませんように。
でも、日本の全ての原発を廃炉にするとなると、それはそれで大問題です。
廃炉に従事する人材は足りるのか。
廃炉費用は誰が負担するのか。
何年かかるのか。
それ以前に最終処分場は決まっているのでしょうか。
もしかして、地元で厳重な石棺にして、子々孫々任せにするのでしょうか。
まさに戦後から続く、「行き当たりばったり、成り行き任せ」の日本の政治。
思わず、「たどりついたらいつも雨降り」を思い出しました。
吉田拓郎サンが書いた曲です。
歌ったのは、ザ・モップス。
なんか、最近はそんな気分です。
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