天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

鷹5月号小川軽舟を読む

2022-04-26 14:25:14 | 俳句


小川軽舟鷹主宰が鷹5月号に「ランキング」と題して発表した12句。これを小生と山野月読が合評する。小生が●、山野が○。

紅梅を恋ふる白梅老いにけり
●梅を書くのにこういう手があったのかと驚きました。
○「老い」たのは「白梅」の方ですよね、読みとして。老いらくの恋でしょうか、こういうモチーフだと川端康成を思ってしまいます。「紅」は赤子にも通じる若さ、「白」は白寿ではないけれど死に通じるような象徴性を上手く活かしてます。
●おいらくの恋、川端康成……よくそこまで感情移入して読めますね。それにも驚きました。言葉使いで一句になるということに希望を持ちました。内容にそう感動はしないのですが。
○この擬人化は悪くないと思いますけど。

猿山も寝静まりたる朧かな
●夜の猿山ですね。昼間は観客が来て双方キャーキャーいって騒がしかったのに夜は音がなくなった。目の付けどころがいいと思いました。
○「猿山の」ではダメですかね?「猿山も」の方が静けさや「朧」具合を深めるのはわかるのですが。
●ほかのところははやくから朧であったいうニュアンスでしょうか。ぼくも「猿山の」のほうが集中力が出るような気がします。

陽炎の立つなり墓地の売れ残り
○景の把握が新鮮です。墓石の代わりに「陽炎の立つなり」というレトリック。
●切れ味のいい句で、ぼくも「陽炎の立つなり」に注目しました。ここで九音消化した手腕に。ふつう「陽炎や」とか「陽炎へる」と使用すると四、五音で終わってしまいます。すると「墓地の売れ残り」のほうで言葉を使わなきゃいけなくなる。つまり「陽炎の立つなり」で成立した一句です。では「陽炎の立つなり」に言葉がだぶついているかといえばそうでもない。ふつう季語に関する部分の言葉は縮めたいというのが俳人の基礎的な考え方ですがここでは逆に言葉をたくさん使っています。このへんの言葉のやりくり、配分のセンスは参考になります。

勾欄にざらめ雪のる伊勢参
●「勾欄にざらめ雪のる」が巧みです。たんに「欄干」でなくて「勾欄」なる言葉を持ってきたことといい情緒を出す語彙が豊富です。
○「ざらめ雪」の音感から、雪に覆われてはいるのでしょうが参道の砂利を連想させて、それがリアリティを補強するような。
●小生の伊勢参は「汁黒きうどん畏み伊勢参」ですからこの句の格調の高さがわかります。

花冷の厚き白磁にモカ啜る
●珈琲を飲むという素材にこういう言い回しがあるのかと目をみはりました。
○「白磁」の珈琲カップだと薄手のものをイメージするのですが、「厚き」とは少し意表を突かれました。熱量的な発想でいけば、「花冷」に対して「熱き」が考えられ、そこから少しずらしての「厚き」なのかな? 珈琲とせずに「モカ」と具体化して効果的。
●珈琲だと字余りになりますし(笑)
○字余りの際の処理の仕方で、さらによくすることができるわけかぁ!

舟運の町の鰻屋夕桜
●「舟運」は「しゅううん」と読みます。舟による交通です。この言葉が冒頭に効いたことで季語を引き寄せた感じがします。
○福岡の柳川で食べた鰻を思い出しました。
●ああ柳川ですか。ぼくもそこを思いました。
○まとまった数の作品の中では、箸休め的な味わい。

夜桜に上がり湯の桶ひびきけり
○中七「上がり湯の桶」が決め手。露天風呂なんでしょうね。「桶」の「ひびき」が耳に残ります。
●露天風呂と読むべきでしょうね。夜桜と桶だけで結構おもしろい句ができました。切り口次第で句はいろいろできることを提示されて句作に対する勇気をもらいました。

ミモザ生け書斎に田舎道の香り
●思い切った句です。「書斎に田舎道の香り」が読み手の意表をつきます。
○「田舎道の香り」の源として、「ミモザ」よりももっと短絡的に「田舎」っぽい植物がいくらでもありそうなところですが、そうしなかったところが実に効いてます。

土均すテニスコートに桜散る
○練習の後でもいいのですが、「桜散る」とあると試合に敗れた後を思いますね。
●試合に敗けたかはどうでもいいのですが、これもどうということのない一景を句にしています。気張らない姿勢がいいです。

清明の朝の山気の港まで
●「清明」は二十四節季のひとつ。前が「春分」で後が「穀雨」で、だいたい4月4日ころです。長く俳句をやるとわかるのですが二十四節季の季語は使いにくいです。どうやって使ったらいいか悩みます。それを大胆に使ったことに敬意を表します。
○私レベルだと、この「清明」までを十分に味わえないのですが、それでも「港」の近くまで「山」が迫っているような、この土地の地形は想像できます。
●一句を力が貫いています。使いにくい季語を使って句を書くということで門弟を引っ張っていくんだという気概を感じました。ぼくらは兼題でも出ないと難しい季語に挑戦しません。作者も兼題で作ったのかなあとよけいなことを考えてしまいます。

やどかりの痩せ脛見せて走りけり
○「やどかりの痩せ脛」なんて、よくも見ているというか、あっぱれですよ。凄いなあ。
●「痩せ脛」は俗だし擬人化なのだけれどこの領域で味を出すセンスにはいつも脱帽です。おもしろいです。

住みたい街ランキング入り燕来る
●自分が住みたい街がランキング入りしたということでしょうか。そこがあいまいじゃないですか。
○確かに曖昧と言えば曖昧ですが、これは作者が住みたい街の話ではなく、作者の住んでいる街がランクインしたのでしょう。だからどうということではないのですが、それでもランキングに載れば嬉しいような、その心情は十分理解できます。その線でいけば「燕来る」は絶妙な斡旋かと。
●うーん、そうですか。ぼくはこの句はいただけません。
○私も作品的にはあまり魅力を感じないのですが、この措辞前提で考えると見事な季語斡旋だなと思います。
●まあ季語はよさそうですがそれも上五中七次第というところです。


撮影地:府中街道沿い空き地
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