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天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

絵本の深みにはまる

2025-05-16 05:00:43 | アート

結と優希がいて彼らを楽しませる絵本を探すようになった。子どものためになる内容、ということは考えない。「ためになる」の中身がわからない。とにかくあれやこれや借りて来て読んでやっている。最近、以下のようなものを読んでやって結はおもしろがった。

優希はまだそう反応しない。

 

『よりみちエレベーター』

文・絵: 土屋富士夫  徳間書店

おばあちゃんちにお使いをたのまれたひでくん。届けるのはアイスクリームだが、飛び乗ったエレベーターが「同じところをいったりきたりはもう飽きた」と寄り道をする話。なんとかお使いを果たしてハワイの海へワープ。

結は、エレベーターから出た水に押し流される展開をえらく喜ぶ。絵本は奇想天外。小説だとリアリティとの関連で奇想天外は出しにくいが絵本は自由に遊ぶことができる。

 

 

『か~なむらのそんちょうさん』

文:おおなり修司 絵:中川学 絵本館

か~なむらのそんちょうさん。彼のもう一つの仕事は獣医。牧場の具合の悪い牛を診察に出かける。腹をマッサージしていると溜まっていたうんこが噴出して全身どろどろ。

結は、大声で笑う。子どもにとってうんこ物はとにかく受けるのである。腹がすっきりした牛がダンスを踊るシーンが冴える。

 

 

『かぞえうたのほん』

文:岸田衿子 絵:スズキコージ 福音館書店

「すうじさがしかぞえうた」「いーいーいーかぞえうた」「ひのたまかぞえうた」「ききたいかぞえうた」「へんなひとかぞえうた」「すいぞくかんかぞえうた」の6章から成る。

小生は「へんなひとかぞえうた」が特に好き。

よんくん ようかん よくにてたべた

ろくくん ろーるぱん ほどいてたべた

ななくん なっとう あらってたべた

じゅうくん まんじゅう つぶしてたべた

このへんは特におもしろい。結は、まんじゅう つぶしてたべた、を何度も言って笑う。

言葉遊びのナンセンスである。岸田の文章とスズキの絵が相乗して無意味をただただ笑える世界。

 

 

『こいしがどしーん』

絵:長 新太 文:内田麟太郎  童心社

せんにんというのが いるんだけどね。

かすみを くって、

かすみの へをして、

ぼーと くらしている。

しんじる?

しんじないだろうな。

そのように話が始まる。そこへ地球の千倍もあるでかい星が地球めがけて飛んで来る。みんな、逃げるべく下界は大騒ぎ。みんなが信じない仙人が小石をひとつ転がして地球を救ってしまう。嘘みたいな痛快なおもしろさ。嘘である。長新太は絵本のために生まれてきたような底が抜けた才能の持ち主であった。

 

 

『おじさんのかさ』

文と絵:佐野洋子 講談社

おじさんは立派な傘を持っている。外へ出るときは必ず持ってゆく。小雨のときは傘をささずに歩く。傘が濡れるから。たくさん雨が降ると雨宿り。傘が濡れるからです。雨がやまないときは知らない人の傘に入ります。自分の傘が濡れるからです。

大事な傘を雨で濡らしたくないおじさんが傘が開くときが来た、なぜか?

佐野洋子は自分の作品を読むのが子どもであるという意識を持っていないだろう。子どもに媚びていないから詩情が突き抜ける。自分の表現は子ども、大人問わず万人に通じるという信念が確固とした彼女の感性に打たれるのである。

 

 

絵描きにとって一枚ものを創るのが最高の営為かもしれないが、絵本という複製(印刷)は万人に幸福を与えてくれる。今、絵本は1500~1700円程度で買うことができる。印刷されてたくさん世に出ているからである。

絵本を読んでみて小説より当たり外れがないように感じる。文字ばかりで小説でファンタジーを表現しようとするとき「ありそう」という感じ、リアリティの壁を越えることが要求される。俳句もしかり。「嘘だろう」と思われたら作品は失敗である。

けれど絵本は嘘だろうと思われてもおもしろければよいのである。よって絵本はすごく自由なのである。大人もはめをはずすことができる世界である。大人たちよ、絵本をもっと読もう!

 

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岸に座し弁当ひらく南風

2025-05-15 00:40:06 | 自然

 

きのう、多摩川の桑の実と胡桃の生育を視察し、そこで昼飯を食う気になった。贅沢をしたくなり立川駅ビルの紀伊國屋で弁当を調達した。

紀伊國屋弁当ひらく薫風に

 

黒米やら赤米やらあまりお目にかからぬ御飯を新鮮に感じる。いつもよりよく噛む。

老鶯や嚙めば噛むほど飯美味く

 

前回ここへ来たときもここの鳥たちの声の良さにほれぼれした。きのうもいい声で鳴いてくれる。ここをまほろばと思う。

鳥の声空にきらめく五月かな

 

 

 

桑苺が旬を迎える。今週末はかなり食べられるだろう。結を連れて来ることになりそう。よもや鳥どももこれを狙っているのではあるまいな。

鳥どもの声にぎやかや桑苺

 

桑の木があちこちにあり実をいっぱいつけている。誰も肥料をやらないのにこれだけの実をつけるとは愛いやつ。太陽と二酸化炭素と水を基にして果実をこしらえるのは神秘と言わざるを得ない。

桑の実の鈴なりの枝なだれたる

 

 

 

鳥の姿を探すが空は青いばかり。声がするから鳥がいることはいるまばゆい空。

鳥声のひかり行き交ふ夏野かな

 

草叢には白い花が点在する。綺麗だが近寄ると手足をやられる。ひどいときは衣服を破られる。しかしそこへ立ち入って胡桃を拾うことは多々ある。藪の中の道をしばし見る。

花茨ひとすぢの道つひに絶ゆ

 

 

 

多摩モノレールの橋の下、日光を避けることができ、風が涼しい。

風涼し急がぬ音のモノレール

 

紀伊國屋のぼた餅は最高。「もち麦おはぎ」と表示されている。まさにモチモチ。

あんぐりとぼた餅を食ふ若葉かな

ぎしぎしににぼた餅食ひし手を拭ふ

 

鳥声の弾んでゐたり三尺寝

腹が満ちると眠くなる。一瞬意識が薄れた。

 

川岸の動かぬ水に蠅生まる

大川の流れは多岐にわたる。本流は遠く近づけないし茂る草に隠れている。岸辺の水はゆったりしている。何度来ても快適なところである。

 

 青胡桃

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結界には入れないぞ

2025-05-14 03:18:28 | 大相撲

大栄翔(右)の起死回生の「突き落とし」

 

大相撲夏場所が3日目を迎えた。優勝して横綱を目指す大の里は阿炎ののど輪に耐えて勝利したが横綱豊昇龍は王鵬にはたき込みで屈した。小生は関脇の大栄翔VS前頭筆頭の若元春に注目した。

日本相撲協会公式サイトはこの一戦を「若元春に左差された大栄翔さらばと右に周り込み、正面踏み止まっての突き落としで命拾い。」と解説する。

注目した理由は、大栄翔は典型的な押し相撲、若元春は四つ相撲と対照的であるから。立ち合いの攻防で若元春が優った。若元春の左が大栄翔に入り体を寄せることができた。若元春に「いける」の思いがあっただろうし小生も若元春の勝率7割と見た。大栄翔は劣勢。押し相撲は相手との距離を取ることが生命線だが密着を許した。「結界」に入られたのだ。

 

左が入り若元春優勢となった瞬間

 

「結界」は、仏教用語で、修行のために一定区域を限ること。また、その区域に修行の障害となるものの侵入を許さないこと。

押し相撲力士の結界は自分の前50センチにある。大栄翔はもう一つの結界である土俵際に追い込まれ、結界と結界のわずかな隙間で起死回生の「突き落とし」を決めた。劣勢の押し相撲力士の最後の手段が「突き落とし」である。短い時間の攻防ながら見どころが多い一戦であった。

この一戦は大栄翔の今場所の調子を見る試金石であった。若元春の左差しの劣勢から勝ちを拾った大栄翔は調子が良い。大関への足がかりを築くことができるか。

 

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多摩最強4人句会in田無

2025-05-13 05:05:47 | 俳句

 

きのう田無駅の駅ビルのデニーズで鷹同人4人が昼食をとり句会をした。中心は西東京市在住の中田芙美(91)である。10日ほど前、芙美さんから久しぶりにメールが来て「俳句5月号の<藤田湘子のメソッド>をお読みになりましたか」という。あわてて雑誌を読み、感想を返信した。これをきっかけに俳句よもやま話となった。

「ひこばえ句会」がコロナ禍で終わってから芙美さんと会う機会がなくご無沙汰している。飯を食おうと話が発展したとき「じゃあZさんもぜひ一緒に」というので小生がZに連絡した。Zは芙美さんを「東京の慈母」と仰いでおり小生の手配に飛びついた。鷹同人が3人集まればこれで句会はできるが、一人加えればなお分厚い。そうだZの腹心のAを呼ぼう。声をかければスピッツように駆けてくるはず。案の定、駆けつけてキャンキャン喜ぶ。事は運動会の大玉送りのように運んだ。

芙美さんの長寿と句業を祝すには格好の3人ではないか。「多摩最強4人句会」がここに出来したのである。全く他人であった者が俳句を通じて知り合い修練し、集まればすぐ句会が始められることを喜ぶ。きのうほどそれを思った日はない。これが長年俳句をやってきたすばらしさであると4人が感じ入ったのである。

小生は3人に「自分のベスト7句をここに出せ」と発破をかけていた。後に「流星道場」10句、「ひこばえネット」10句、「KBJ句会」10句、「ジャッカル」5句が控えるがそれらをないがしろにしてもここに全力投球した。

さて句の清記となったとき何句選にするか考えるのが座長の仕事。6句選という冒険を試みた。流星道場もひこばえネットもKBJ句会もおよそ8句みて1句採るというレート、1割2分5厘(0.125)の選句である。したがって21句で3句採ると0.143であるが小生は6句、0.286が可能ではないかと読んだ。小生がこの句会にかけた熱量を3人も持って来ていれば6句選は可能。なにせ「多摩最強4人句会」なのである。

期待通りみんなの出来がよかった。最後まで読まないうちにダメと思う句がほとんどない。6句以上採ってもいいと思ったほどである。

芙美さん以外の3人は常に激しい意見交換をしているので歯に衣着せぬ言い合いとなった。芙美さんは久しぶりに眼前で激しい言葉の応酬を見て興奮しているようである。プロレスのど突き合い。ボクシングのガード無しの殴り合い。「そこは突っ込なまきゃ」とか「もっと抉らなきゃ」とか女子がかような乱暴な言葉を発してよいものか。ZもAもプロレス向きの性格であり容赦ない。俺は女子プロレスのレフェリーで芙美さんはその観戦者か。顔の汗を拭きつつ楽しそう。

「刺激が欲しかった」という芙美さんには言葉のシャワーになったか。「いいえ、消防のホースの放水みたいでした」と芙美さんが喜んだ。駆けつけた3人にとっても稀に見る良い時間であった。ブラボー!

デニーズはよい店である。12時から15時まで滞留して1500円。食事+句会には格好の店である。また句会出張サービスをしようかと思う。敬愛する中田芙美のために。

 

女子は贈答に心を砕く。どなたから頂いたか覚えていないが小生も菓子賜った。ここでお礼する。

 

 

 

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佐藤賢一『かの名はポンパドール』

2025-05-12 04:31:45 | 

『かの名はポンパドール』巻頭の肖像画  2013年/世界文化社

 

本書の巻頭に主人公の肖像画を多々収録している。そこに以下の文章がある。

十八世紀――いうところのロココの世紀、数えきれないくらいの肖像画を描かれたひとがいる。最も若い肖像画が二十五歳のとき、最も歳を重ねた肖像画が四十二歳のとき。それはロココの世紀に名を残す画家たち目にさらされてなお、決して飽きられることのなかった美しさだった。かの名はポンパドール――ポンパドール侯爵夫人ジャンヌ・ポワソン

時代は18世紀のフランス。平民の身分ながらブルジョワ階級の娘として貴族の子女以上の
教育を受けて育ち、16歳で社交界にデビューするやパリ中の評判となり、その美貌と知性でルイ15世の心を一瞬にして奪ってしまったジャンヌ・アントワネット・ポワソン。ルイ15世の寵姫、ポンパドール侯爵夫人となり、フランスのみならずヨーロッパの芸術、文化の発展に目覚ましい貢献を果たし、事実上の宰相・外相の役目まで務めた、ポンパドール夫人の類い稀な活躍。

と、版元は宣伝する。

 

ジャンヌ・アントワネットは夫を捨てて最高権力者ルイ15世の寵姫となる。ルイ15世狩に来る森をカラフルな馬車を走られて目を引くなどの手練手管で取り入って。

知性があり、教養もあり、機智に富んで、気品も高く、優雅さを兼ね備えた存在。乳房は小振りで育児とほど遠い、美そのものを感じさせる女、ジャンヌ・アントワネットに王は虜になり、ヴェルサイユ宮殿に部屋を与えるまでの評価をする。

しかしジャンヌはもともと蒲柳の質にて、王の子を流産する。以後、性交を負担に感じ、交わりをしない境地を王との間に創っていく。いわば冷感症なのだが、その真の理由を作者は、白帯下(はくたいげ/こしけともいい、膣に白色粘液性混濁様の液体が流れる病気)に罹患したせいとする。これはジャンヌ以外にも多くの女性と関係したルイ15世からうつされた性感染症とする。それを市民から「白い花を散らす」などと揶揄されるくだりがあるがこれが事実であったかどうか、些末なことながら作者に質したいほど気になった。

作者は作家になる前、東北大学大学院で西洋史学を専攻していて中世に歴史に精通しているが、さて、そのような下ネタを伝える文献が存在するのか。フィクションであろう。貴族のこういった下世話なところに踏み込むのがこの作家の真骨頂である。

当時のフランスの宰相・外相の役目まで務めたことは教科書で習わなかったことで新鮮であった。宿敵オーストリアのマリア・テレージアの要請を受けてフランスにとって前代未聞の宿敵との同盟関係を女同士で画策する。カトリックの反発を押しのけて発禁されていた百科全書を解禁したり、セーブル磁器をフランスの誇る産業に高めたり、ロココ調洋式の城や屋敷等の建築文化に貢献したりは教科書で学べなかった点であり、王の囲われ者をはるかに逸脱した能力に驚いた。

性病など尾籠なことを多々織り交ぜながら花のある内容に仕立てた作者の能力を買う。

 

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