
黒鐘公園
島田駱舟さんから彼が主宰している印象吟句会「銀河」という小冊子が毎月届く。すべて題詠で句を作ていてその2023年3月号の題の一つが俳人も無視できないものであった。
すなわち、
雑草という名の草はない
というもの。これは植物学者・牧野富太郎の言葉らしい。いつか句会で「雑草」という句が出されたとき誰かが「雑草という名の草はない」といってたしなめた記憶がある。
この言葉をヒントにしてどんな句を作ったか。伊藤こうか選から小生の気に入った句を探した。
親分は鉄砲玉の名も知らず 菊地良雄
鉄砲玉は、鉄砲の弾丸というほかに、行ったきりで戻ってこない人間、 転じて、そのような役割を果たす者という意味がある。最下位のヤクザであろう。親分の言うなりに手足のように働き刃傷沙汰もやる。題の平等という概念の反対を句で展開しておもしろい。
以下同文誉めているのかいないのか 島田駱舟
賞状授与の場面。最初の入賞者は全文を読むがあとは面倒ゆえどこでも省略される。平等じゃないじゃないか、とかみついている。
下っ端は戦争なんかしたくない 菊地良雄
そうなのだ。戦争を仕掛けるのは政治のトップにいる人たち。下っ端は戦争でどんどん死ぬ。雑草には名前などないじゃいかと戦争で死んだ者の怨嗟の声が聞こえる。
牧野先生をイヌフグリが訴える 佐藤孔亮
あのかわいらしい花を「犬の睾丸」と名付けたのはなにゆえか。名前をもらったのはいいがもうすこし何とかして欲しかったよ、とイヌフグリが言っています。
異論多々承知五類へ一括り 金子千枝子
これは新型コロナウイルスのこと。それにしても「雑草という名の草はない」からここまで飛躍するのは凄い。
いくつかの偽名で詐欺師荒稼ぎ 堀江加代
どの偽名でも成功してどの偽名も気に入っているという詐欺師の心理。偽名で詐欺師という展開は見事。
番号の点呼にも慣れ塀の中 土方かつ子
どの草も平等という表題の意図をもっとも忠実にこなした句。人の場合、名前が消えて番号になって囚人という発想がいい。
少年Aと呼ばれた彼は今どこに 瀬田明子
未成年で凶悪事件を起こした場合マスコミがよくこう呼ぶ。行く先をわからぬようにどこかに住まわせる。ここまで題を飛躍させられるのはこの会の川柳の魅力。
我が辞書に雑魚などないとさかなクン 秋山了三
ほかの作品から見てやや飛躍が足りない印象だが、まさにさかなクンの内面を見てきたように描いた。
千鳥ヶ淵無名戦士の花筏 古川大晴
花びらのひとつひとつが戦死した人という擬人化。俳句でこの擬人化はどうしようもないが川柳だともつ。これが川柳と俳句の大いなる違い。
あだ名しか覚えていない友はるか 藤井美沙子
同級生だろう。あだ名だけれどしかとイメージがあるとその人への思慕。悪くない。
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いろいろな「雑草という名の草はない」を見てきて、小生にその意識の句があることに気づいた。去年の今ごろ書いた句。着想した場所も覚えている。結を遊ばせたプレイステーション。地面が掘られて凸凹でありいい遊び場である。
犬ころに石ころに影うららけし わたる