昨夜7時からTBSテレビのプレバト、俳句の部を見た。題して「炎帝戦」。
順位上位から特に夏井いつき先生の添削に注目した。
①セイウチの麻酔の効き目夏の空 藤本敏史(FUJIWARA)
ユニークな句。「セイウチの麻酔」を考えた藤本さんに脱帽した。
②喧噪の溽暑走り抜け潮騒 NON STYLE石田 明
ぼくは破調を警戒する立場だがこのリズム感は納得。先生の指摘したように、「溽暑」と「潮騒」を対比させる感覚がいい。
この2句がこの位置に来たことは納得できる。
③夏の果ボサノバと水平線と 東国原英夫
ぼくはここまでの破調を俳句で認めたくない。藤田湘子は晩年の飯田龍太が七・五・五を重用したことを、俳句は五・七・五の詩形であって七・五・五ではないと批判した。そういう師についたので、五・五・七はもう感覚的に俳句を逸脱していると拒否してしまう。
したがってぼくの査定だとこの句を⑦から⑨あたりに下げる。
④籐椅子の脚もとにある水平線 横尾渉(Kis-My-Ft2)
一読していうことのない句だと思った。
先生が椅子の脚と作者の脚のまぎらわしさを指摘して、<籐寝椅子のあしもと
にある水平線>と添削したが、ぼくは原句のほうがすっきりしていると思う。人間の脚であろうと椅子の脚であろうとこの場合どっちでもいい。その位置に水平線があれば十分。状況を明らかにしよとうとしすぎて添削が勇み足になったのでは。
⑤雷鳴を吸ってうねるや蒼き海 千賀健永(Kis-My-Ft2)
これを<雷鳴を吸いうねり立つ蒼き海>と添削したとき感心した。
こんなふうには思いつかず原句でいいと妥協していた。この添削はずば抜けているのだが、「雷鳴を吸う」という擬人化はおもしろくない。俳句はそもそも「雷鳴にうねり立つ」という簡素のほうがいいいのだ。これは作者の問題。
⑥星空の螺鈿を恋ふる夜光虫 梅沢富美男
ぼくは東国原句を⑦から⑨あたりに査定したがこの句もそのあたり。
先生のおっしゃった通り「やりすぎ」のひとこと。先生は<星空の螺鈿さざめく夜光虫>と直した。これでいいのだが、夜光虫と螺鈿のイメージがまだ近すぎる。<星空の螺鈿さざめくソーダ水>くらい離したいがここまでやると添削ではなく改作。
⑦夕凪の帆に寝葉巻の老漁師 三遊亭円楽
円楽師匠がこんなにすっきりしない人格とは思わなかった。
先生が指摘したように中七の混雑が傷。先生は<夕凪の帆に寝て老漁夫の葉巻>と添削したがその「夕凪の帆に寝て」がわからないのだ。ぼくは「帆の下に寝る」でないとわからない。帆をハンモックのように使用している映像が出て、こんな使い方があるのかと驚いた。帆をハンモックにするのだろうか……。普遍性のない句だよ。
⑧荒神輿はねる鳳凰波けたて 中田喜子
これは語順の問題であるとぼくもすぐわかった。
ぼくは<波蹴立て鳳凰跳ねる荒神輿>としたが先生は、<波蹴立て跳ねる鳳凰荒神輿>とした。ぼくは鳳凰と荒神輿が密着しないほうが流れると判断した。
⑨渋滞の後部座席の浮き袋 フルーツポンチ・村上
先生が得意の毒舌で「わかったらしろよ」とおっしゃたっときぼくはわかっていなかった。名詞のみだと動きも作者の意図も出にくいのでなにか動詞が要るなあ、とは思っていた。
先生は行きなら<渋滞の座席を弾む浮き袋>で、帰りなら<渋滞の座席を沈む浮き袋>とした。
発想はこれでいいが、「座席を弾む」は変。<渋滞の座席に弾む浮き袋>であり、帰りは<渋滞の座席に縮む浮き袋>であろう。
とにかく先生にいわれるまで村上君同様わからなかったので完敗。先生の添削は総じてうまいと思う。その結果、添削句はいったい誰のものかわからなくなるのであるが。
なお、ぼくも海の句の句をいくつか書いた。
白靴はまつすぐ海へ行きたがる わたる
昼寝覚水平線に白帆あり わたる
見届けに行く母の屍と夜光虫 わたる