to Heart

~その時がくるまでのひとりごと

シリアの花嫁

2011-04-09 23:37:29 | the cinema (サ行)
もう二度と帰れない。
それでも私はこの境界を越える。

原題 THE SYRIAN BRIDE
日本公開 2009年
製作国 イスラエル/フランス/ドイツ
上映時間 97分
脚本 スハ・アラフ、エラン・リクリス
監督 エラン・リクリス  
出演 ヒアム・アッバス/マクラム・J・フーリ/クララ・フーリ/アシュラフ・バルフム/ジュリー=アンヌ・ロス/ウーリ・ガヴリエル

イスラエルに占領されて以来、シリア側と分断状態にあるゴラン高原の小さな村を舞台に、政治に翻弄される花嫁とその家族の運命を描くヒューマン・ドラマ。
イスラエル占領下のゴラン高原、マジュダルシャムス村。もともとシリア領だったこの土地に暮らす人々にはイスラエルの国籍を取得する権利が与えられているものの、大半の人々はシリアへの帰属意識を強く持ち、“無国籍者”として暮らしていた。そんなある日、村の娘モナの結婚式が行われようとしていた。彼女は境界線の向こう側、シリアにいる親戚筋の人気俳優タレルのもとに嫁ぐのだった。めでたいはずの結婚式。しかし花嫁の表情はすぐれない。なぜならば、境界線を越えて嫁ぐということは自動的にシリア国籍が確定してしまい、二度とイスラエル側にいる家族とは会うことが出来ないということを意味していたのだった。

物語はある晴れた朝、結婚式を迎えたモナが姉のアマルやその娘たちと、村の美容院に向かって歩いていくところから始まる。

親シリア派のモナの父親や村の長老たち、
その父や長老に逆らってロシア人と結婚したために勘当されていた長男の8年ぶりの帰郷。
次男も商売をしているイタリアから妹の結婚を祝いに戻って来ていたが、
ちょうどその日はシリアの新大統領を支持するドゥルーズ派の村を挙げて参加するデモが行われる日でもあり・・・
“無国籍者”の村からシリアに嫁いでいくモナの周りは騒がしい。



兄弟のよき理解者の姉アマルも、地元で知り合った夫との結婚生活は破綻しており、
他人の目ばかりを気にして理解のない夫や、
せっかく妻や子供を連れて帰ってきた息子に口も聞かない父親との間に入ったりしながら、
この日結婚してしまえば二度と会えない妹との最後の別れを惜しんでいた。

政情不安、宗教の縛り、その地のしきたりなど、様々に影響されずにいられないドルーズ派の結婚式。
そのたった1日の出来事を、“境界線”のある村で生きる家族の心を、
丁寧にリズミカルに描き出していて引き込まれる。

親戚で、一度も会ったことがないシリアの人気俳優と結婚しようとしているモナに驚いたけど、
(お互い写真でしか相手を知らない)
姉のアマルも、たった一度見かけただけの男と数週間で結婚とか、
イスラエル女性の結婚観は理解できないけど、
兄弟を想い、子を思う気持ちはどこでも同じ。


“境界線”で繰り広げられる、永遠のようなジリジリとしたシリア入国の手続きの間。
思わぬ事態が起きるのだけど、
勿論、あの姉妹のラストにはヨシッ!ともなったけど・・・

目も合わせず、口も聞かなかった父親の手が、
長男の肩に回されてトントンと叩かれた瞬間―決壊しました。。。
泣くような展開じゃなかったんです。我ながら驚きの涙でした.......。

明るい陽射しの中の、とてつもなく忙しく、永遠のように長い一日の終わりは・・・

この姉のアマルという名前はサンマさんの娘さんのイマルと似ていますが(笑)
演じたヒアム・アッバスのコメントでは"希望"という意味を持っているそうです。
より良い未来、良き交流と理解、非暴力、そして愛に対する希望を願ってつけられたのでしょうか。
調べてみると、現実にシリア側に歩いて国境を越える花嫁の姿は映画と同じでした。。コチラ
こちらの写真でも、二度と会えない小さな妹(?)のくしゃくしゃの顔に目が熱くなりますが、
花嫁は"希望"を見つめているという気がします。

実際にも年に何組かはあるという境界線を越える花嫁。
本作ではそのラストの解釈も、観る側に委ねられていますが、
唯一ついえるのは、
振り返るモナの表情は秀逸であり、それを見届けて歩き出す姉のアマルの思わず流れる涙に、
この二人の"希望"と"決意"が現れていたのではないでしょうか。
とてもいい作品でした