サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 11538「ハーモニー 心をつなぐ歌」★★★★★★★★☆☆

2011年09月21日 | 座布団シネマ:は行

世代も境遇も異なる女性たちが集まった女子刑務所を舞台に、合唱団を結成して歌の力で奇跡を起こしていく受刑者たちの姿を描く感動ドラマ。DVや裏切りなどで心を閉ざした者、罪の意識から生きる力を失った者など、個々に問題を抱えたヒロインたちが合唱を通して自分と向き合い、他者を受け入れていく過程を、珠玉のコーラスが奏でるスタンダードナンバーの数々で描く。幼い息子との別離を余儀なくされる主人公を演じるのは、映画『シュリ』テレビドラマ「LOST」のキム・ユンジン。クリスマスコンサートでささやかな奇跡を呼び起こすクライマックスに号泣必至。[もっと詳しく]

わかっていても泣かせられる。それはやっぱり快感だ。

号泣とまでは行かなくとも、ちょっとウルウルしたいなという気分の時は、やっぱり韓国映画だ。
それぞれの境遇をかかえる韓国唯一のチョジュ女子刑務所が舞台である事。
生後18ヶ月までは産まれたこどもといっしょに在監できるという特殊事情。
97年に結成され、白いドレス姿で実際に年に1,2度の外部公演までするという刑務所内合唱団がモデルになっていること。
韓国内でもこの映画で300万人が号泣したと言う触れ込みであること。
そういう前情報だけで、十分「泣きの予感」を持つことが出来る。
そして、期待通り、泣かせてもらった。



日本の女子刑務所の実態をほとんど知ることが無い僕は、古い話で恐縮だが、梶芽衣子主演の『女囚さそり』シリーズぐらいしかイメージがないのだ。
あるいは高校生ぐらいの時に、欲情を刺激するしかないような、エロティックな『女刑務所、禁断の喘ぎ』とかなんとかいい加減なタイトルの内外の「実録もの」を何本か見た程度である。
そこでは、サディスティックな看守がいて、女囚に鞭かなんかをもって酷い責めを負わせるか、女囚同士の派閥抗争の陰惨な実態が、興味本位に描かれているものが多かったように思う。
そういうイメージに洗脳されている者から見れば、この韓国の女子刑務所はずいぶんと開放的なように見える。
実際のチョジュ刑務所に撮影許可を出していたが、クランクイン10日前に許可が出て、大慌てで撮影準備に入ったらしい。
そういうことから見ると、映画で見るこの女子刑務所のありようは、ある程度は現実に近いのかもしれない。



同じ韓国映画で『私たちの幸せな時間』という作品があった。
監督はソン・ヘソン。人生に絶望する死刑囚にソン・ヘドン。屍のように生きる女性にイ・ナヨン。
このふたりはある縁で毎週木曜日の10時から3時まで、シスターの立ち会いはあるがアットホームな部屋で面会をして食事をしたりする。
あるいはキム・ギドク監督の『ブレス』。
失語の死刑囚に孤独な女が訪問を繰り返し、やがて女は面会室の壁を四季に応じて全部張替え、歌を披露し、抱擁する。
さらにはパク・チャヌク監督の『親切なクムジャさん』。
『チャンヌグ』のイ・ヨンエが獄中で13年間復讐プランを練るのだが、この獄中の部屋の造作も、なんだか明るかったのだ。
映画の中のこととしても、あるいは「死刑囚」などに特別になにかの計らいがあるのか、ちょっとそういう空間が特別に用意されることに対して、意外な気がしたところがあるのだ。
韓国では「死刑廃止法案」が上程されたが否決はされており、死刑制度そのものは存在している。
けれども自らも死刑告知を受けたことのある金大中政権下の98年から実際に死刑は執行されてはいないと聞く。
キリスト教信仰のなんらかの影響があるのかもしれない。



妊娠中であったヒロインのジョンヘ(キム・ユンジン)は、夫のDVに抗して死に至らしめてしまい十年の刑を受けている。
刑務所で息子ミヌを出産し、その存在は女囚たちの癒しともなっているが、別れの日は近づいている。
慰問合唱団の透き通るような声に感動したジョンヘは、合唱クラブをつくることを提案する。
夫とその浮気相手を殺害してしまった元音大教授のムノク(ナ・ムニ)を口説き、また新入りの声楽科出身でソプラノが美しいユミ(カン・イェウォン)を入れることで、音痴だらけでまとまりのつかなかった合唱クラブもさまになってくるのだが・・・。



キム・ユンジンは『シュリ』やテレビドラマ『LOST』でお馴染みだし、ナ・ムニも国民女優でお母さん役にも定評が高い。
今回の拾い物は、カン・イェウォン。
『TSUNAMIーツナミー』でも美しい女優さんが出てきたなと思ったが、今後ブレイクするような予感がする。
彼女の歌うアイルランド民謡からとられた「ダニー・ボーイ」は秀逸だった。
もうひとり、新入りの看守刑務官役コンを演じたイ・ダヒ。
涙もろくて人情のある看守で合唱団ではピアノを弾いている。
この子の存在が、この映画を脇でヒューマンなものにしていた。



クリスマス・イブの日にソウルでの全国合唱大会に招かれる。
ここでも歌われるのは、グリーグの「ソルヴュイグの歌」だ。
女囚たちのゆかりの者たちが、観客席で涙ぐんでいる。
そして、舞台の照明が落ちる。
観客席から子どもたちの合唱団が、ろうそくを持って歌いながら舞台にあがってくる。
ジョンヘの手をつかむ男の子はもちろん成長したミヌだ。
わかっていても、泣かせられる。
だから、韓国映画は、やめられない。

kimion20002000の関連レヴュー

私たちの幸せな時間
ブレス
親切なクムジャさん




 

 


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
不覚にも (sakurai)
2011-10-03 16:45:48
ティッシュを忘れてしまい、受付のお姉ちゃんにティッシュをもらい、万全を期して見ました!
泣く快感ってのが、よーくわかります。
人間ときどき泣いた方がいいですよね。
こういう映画見て、号泣している自分はまだまだ大丈夫だな~と思いますです。
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sakuraiさん (kimion20002000)
2011-10-03 17:17:56
お久しぶり。
僕は寝転び鑑賞ですが、タオルを用意していました(笑)
号泣もたまには、「健康法」のひとつになるかもしれませんね。
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Unknown (Nakaji)
2011-10-04 21:03:13
こんにちは♪
私もなくと思ってタオル持参でした。。。

たしかに号泣って健康法かもしれないですね。
なく快感ってわかりますわ~
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Nakajiさん (kimion20002000)
2011-10-04 23:09:59
こんにちは。つらいのは、泣く予感がしていたのに、てんで涙腺が刺激されない、しかもつまんない映画。
モニターを蹴り上げます(笑)
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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2012-01-19 20:58:12
僕は昨年母のことで随分涙を流したせいか、この作品では余り泣けませんでしたね。

バランス良く出来ていて好感のもてる作品でしたが、元音楽教授の死刑囚が家族と会うシーンで幕切れが予測でき、作者がこのメッセージを発したくて作ったのではないかと思ったら、ちょっと興が覚めました。
囚人と家族の絆を描くだけで十分ではないか、と残念な気分に・・・。
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オカピーさん (kimion20002000)
2012-01-26 10:37:53
こんにちは。
なんか日本の刑務所とずいぶん雰囲気が違いますねぇ。それが驚きでした。
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