サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10488「最後の贈り物」★★★★★☆☆☆☆☆

2010年09月21日 | 座布団シネマ:さ行

『天国の階段』のシン・ヒョンジュン主演によるヒューマンドラマ。娘が肝臓に重い障害を抱えていると知ったシングルファーザーのヨンウは、服役中の友人・テジュに臓器の提供を依頼するのだが…。ハ・ジウォンが特別出演。

韓国映画のほどほどの作品は、やはりなかなか見るのを止められない。

相変わらず、DVDの数本に一本は、韓国映画を見ている。
たとえばこの週末に見た、韓国映画3本。
『最後の贈り物』、『その男の本、198ページ』、『 あなたは遠いところに』。
『最後の贈り物』は、妻が死んだ後育てている娘にウィルソン病が発覚した刑事が、服役中の昔仲間に肝臓提供を依頼するが、娘は実はその男の娘であったというお話。
『その男の本、198ページ』は、図書館に通う男がいつも蔵書の198ページを破り取るのを司書である女性が目撃し問い詰めるが、その男は事故で記憶を無くし、最愛の女性からのメッセージが図書館のどこかの本の198ページに綴られているので探していたのだと言う。
『あなたは遠いところに』は、ベトナムに出兵した亭主に愛されなかった妻が、慰問団に紛れ込むようにベトナムを訪れ、ベトコンに捕獲されたり戦場を彷徨ったりしながら、ついに亭主と再会を果たすお話。
どれもありえない設定で、映画作品としても、それほど上等ではない。



にもかかわらず、僕は韓国映画を見るのをやめない。
それほど夢中になる役者がいるわけでもないし、監督にしてもキム・ギドクやパク・チャヌクを除けば、全作品を見ている監督さんはいないかもしれない。
それでもこのレヴューには書かないほうが多いが、月に7,8本は見ている勘定だ。
なぜなのだろう?邦画のほとんどは、まあそれなりに前評判の高そうなものに絞っているというのに。
レベルの高い作品や、問題作を、話題にしているのではない。
それなりに量産されている、それなりの映画群を、比較してのことだ。
邦画だって、お涙頂戴のありえない設定や、役者人気に寄りかかった作品や、難病ものは数多い。
しかし、どこかが違うのだ。
同じようにくだらないと思っても、韓国映画の多くは苦笑いをしながらも、また泣かされちゃったなとか、相変わらずベタな演出だなと呆れながらも、どこかでそれを愉しんでいる自分がいる。
けれど、邦画の場合には、心底腹立たしくなってくることが多いのだ。



ひとつにはソフィスィケートの度合いなのかもしれない。
もちろん、日本の多くのトレンディ・ドラマの映画版や、JPOP文学やケータイ文学や人気ミステリーの映画化や、お笑い芸人やグラビアアイドルや演劇畑芸人の横滑り作品の方が、韓国映画のそれよりソフィスティケートされているのである。
ある意味では文学的で、都市的で、お上手に撮られているといってもいい。
だから逆に、それがいったいなんなんだ?とイチャモンをつけたくもなるのかもしれない。
韓国映画の多くは、もっとダサイし芋っぽい。
おしゃれを意識すればするだけ、透けて見えるかっこ悪さが露出する。
いまどきそれはないだろう、というベタさを抜け出すことが出来ない。
しかしその粗さが、どこかで共感を呼ぶことになるという逆説のようなものだ。



もうひとつはドラマツルギーの徹底ということだ。
邦画の多くは、日常的共感や癒しや笑いも含めた小さな不条理に、腕を競い合っているようなところがある。
そこでは大上段に構えたドラマツルギーなどは、野暮ったいもの邪魔なものとして排除される傾向がある。
そのくせ、説明過多に陥ってしまうという、自己撞着に蝕まれてもいるのだが。
そこでは、韓国映画は乱暴なほど潔い。
一度決めた、ドラマツルギーはとにかく強引にでも展開される。
だから、それほど解説することもない。
ありえない設定でも、力づくで観客を巻きこんでしまうのだ。
映画の良し悪しというよりも、こんな設定でよく一本を作り上げましたね、という驚嘆のようなものである。
けれどそこには、なにかしら映画の原点を思わせるような、懐かしさのようなものが感じられるのかもしれない。
簡単に言えば、映画を観終わった後の、満腹感のようなものだ。
たとえ、B級グルメであろうが、癖になる脳内物質への刺激があり、ちょっと懐石料理や極上スィーツはたまにはいいけどね、という違いかもしれない。



『最後の贈り物』でいえば、娘への肝臓移植で昔仲間の囚人に依頼というところで、話の筋書きはわかることになる。
あとは、刑事と囚人と死んでしまった妻と病気の娘をめぐる、つまりはふたりの父親のお話であることは小学生もわかることだ。
普通ならこんなお話は、オール読物で泣かせの浅田次郎に似合いそうなものだが、シン・ヒョンジュンとホ・ジュノという親父二人の汗臭い熱演と少女の健気さで、泣いてしまうのである。
『その男の本、198ページ』でいえば、いくら記憶喪失といえども、図書館で必要ならコピーが出来ることがわかりそうなものなのに、本を積み上げて片っ端から破っていくのは、誰が見たって不自然だろうと思うのだが、なんだかこの司書の目線で、一緒にその本を最後まで探してあげたくもなってしまうのだ。
『あなたは遠いところに』では、『王の男』(06年)で素晴らしい演出を見せたイ・ジュニク監督とは思えないような緊張感のない脚本なのだが、『ファミリー』(04年)や『夏物語』(06年)で美人ではないのになぜか心にひっかかるスエが、姑に気を遣いオドオドウジウジして夫にも愛されていないヒロインが、ベトナムでサニーと名乗り次第に大胆な自己表現をしていくようになる変貌を、1971年当時のファッションや歌やという記憶と共に、いつのまにか戦場にまでつきあってしまうのである。
苦笑するしかないが、やめられないのだ。

kimion20002000の関連レヴュー

王の男
ファミリー
夏物語



最新の画像もっと見る

コメントを投稿