100本を超える出演オファーから、なぜ「夏物語」は選ばれたんだろう?
よくも悪くも、「甘い人生」はイ・ビョンホンの代表作となった。
カンヌはじめ、海外での映画祭でも脚光を浴び、当然、次は、ハリウッドを狙っているのかな、と思わせられたものだ。
それから2年、彼の元には、100本を超える出演依頼が殺到したという。
そのなかから選ばれたのが、スエとのラブロマンス「夏物語」であった。
なぜ?というのが正直な感想である。
1969年、世界中で、ベトナム反戦や怒れる若者たちの学園闘争が巻き起こっていた年。
韓国では、パク・チョンヒ軍人政府の3選阻止という民主化闘争で、各地の大学が揺れていた。
前年には、北朝鮮ゲリラによる大統領府青瓦台襲撃事件がおき、KCIAの北朝鮮スパイに対する追求も苛酷であった。
そんななかで、アームストロングが月面に降り立ち、「人類の偉大な一歩」と発声された。
主人公ユン・ソギュン(イ・ビョンホン)はソウルの大学生である。経済界の実力者であろう父親を持ち、子どもっぽい反抗をする中で、大学生活をノホホンと生きているようだ。デモ集会にも参加はするが、遊び人っぽい服装で、心ここにあらずといった感じである。
農村へのボランティアで行った先の村で、図書館の司書をしているジョンイン(スエ)に出会い、二人は急速に惹かれあうことになるのだが・・・。
1970年生まれのイ・ビョンホン、1968年生まれのチョ・グンシム監督にとって、この時代は親の年代に近い。
60年代のラブストーリーには、現在にない、「純情」や「深さ」や「責任感」「一途さ」のようなものがあり、そこに惹かれたと、イ・ビョンホンはインタヴューで語っている。
彼自身も、「純愛中毒」でロマンスを演じてから数年が経っている。
それにしても、もうひとつ、この世代の(現在にも普遍のロマンスの形はあるにせよ)愛の形を演じたいとする動機が僕にはよくわからない。
1969年という時代状況がそれほど丁寧に描かれているわけではない。
青年と父親との葛藤も、たいして説明されてはいない。
ジョンインの父親はアカで村を出ており、ジョンインも村の中で、疎外されているところがあることも、通り一遍の描写である。
ジョンインを連れてソウルの大学に戻り、休学届けを出そうとするソギュンは、折りしものデモ集会に巻き込まれ、キャンパスで待つジョンインとともに警察に捕まり、スパイ容疑で逮捕される。ここから、悲劇の幕は開けられるのだが、いかにも偶発の事故のようで、リアルさに乏しい。
父親の力を借り獄中からは出されるが、たぶん交換条件としての圧力が背後にあったのであろうが、ジョンインとソギュンは離れることになる。これも、展開がすぐ読める。
60歳を過ぎた初老の学者であるソギュンは、独身を貫いている。教え子の放送作家から「大切な人の現在、探します」のような番組への出演を依頼され、数十年ぶりにジョンインを探すことになる。
KCIAの圧倒的な権力(韓国ではパク軍事政権は1979年、大統領が暗殺されるまで続いた)について日本ではなかなか想像しにくいということは差し引いたとしても、施設で大切な思い出を胸に抱え子どもたちを育てるジョンインは、片方は有名な教授なのだから、もう少し早く居場所を告知してもよかったのではないか、などと思ってしまう。障害の質が、もうひとつわからない。
初老の教授を演じるイ・ビョンホンも見ものなのだが、芸能人のような髪型と病院での可愛らしすぎる入院着のせいか、どこかしらけてしまう。
とはいうものの、一瞬の夏、青春のどうしようもない軽薄さ・幼さ・格好付けの、要はフツーの青年を演じるイ・ビョンホンは、もうこういう役は(実年齢的にも)最後になるかもしれないな、と思わせるところがある。
そして、ジョンインと出会うことによってソギュンは思慮深くたくましく成長していく。また、ジョンインの引きこもりがちな心も開放されていく。このあたりの、距離の縮まり方は、みていて、気持ちが良い。
村の夏の光景にすっと溶け込んでいくことができる。
電気もなくもちろん冷蔵庫やクーラーもない暑い夏、そのなかで緑の濃いヒノキの香りが、心を癒す。
清流の水音、川岸に積み上げられた魚の形をした石、自転車をこいで感じる風、伝統家屋の日陰の心地よさ・・・そういう光景を丁寧にカメラは積み上げていく。
お国は違えど、僕たちにも懐かしい光景。
そこに、イ・ビョンホンとスエがいる、という構図があれば、ある世代のファンはそれだけで満足かもしれない。
たしかに、僕自身も、ワープするように十代後半のキャンパスやグループで行った合宿での出来事を、甘酸っぱく想い出してしまったからだ。
「純情」で「一途」で「不器用」な自分たちがいた。
だからそこでは、勝手に、自分たちを、イ・ビョンホンやスエに投影することが出来る(笑)
もしかしたら「夏物語」という作品への出演意図は、脚本・監督・製作にも野心を持つイ・ビョンホンのことだから、団塊の世代から僕たちの世代あたりをターゲットにして、そのセンチメンタリズムに、触手をのばすことを意識したのかもしれない。
kimion20002000の関連blog
「バンジージャンプする」
「甘い人生」
「ファミリー」
韓国のほとんどの映画がビョンホンを求めてるのかもしれませんね・・・
そんな彼でも日本映画HEROにゲスト出演というところが面白かったりして(笑)
私も、何故ビョンホンがこの作品に出演することを決めたのか、いまいちわかりませんでした。
彼の次回の作品「奴!奴!奴!」はちょっと楽しみです。
なんか、とんでもないことを目論んでいるような気もするし、なーんも考えてないような気もするし(笑)
イ・ビョンホンは不思議な人です。
次回作ね。
僕も、期待しましょう!
はじめてのコメントですみません。。
イ・ビョンホンの映画選びについて、私の見解は・・
彼は単純に『ロマンチスト』なんだと思います。
自分が出たい映画と、彼が演るべき映画は違うんだと、
誰か教えてあげてほしいです(笑)。
ちなみにトラン・アン・ユン監督の次回作にも出演が決まってるらしく、
そちらは楽しみにしてます。
「ロマンチスト」ね。そうかもしれませんね。あまり、深読みをしない方がいいかな(笑)
やはり、男性のファンも多いですね。
TSUTAYAで私が手に取ると回りの高年層のかたも手にとって恥ずかしいそうに?もって行きました。
ともかく、私としては映像が好きでした。障害のある恋愛、結婚というのは現在でもお堅い世界ではあるようです。
恋愛禁止という企業も少し前までは良く見ました。こういう場合、上手くいけば帰って感情が高揚してよいのですが、女性の人が二の足を踏んだりとちると悲劇というのは同様でしょう。
韓国の影を現在の韓国や日本の青年層にさしさわりのないように表現していると思いました。
障害があるから、のめりこむということも、あるんでしょうし、理不尽な差別で、障壁がつくられるということも、まだまだ多いんだと思います。
でも私的に映像に魅かれた部分もあったので、これはこれでよかったのかなーなんて思います(笑)
そうですね。彼には、独特の美意識のようなものがあるのかもしれませんね。