サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10496「時をかける少女」★★★★★☆☆☆☆☆

2010年10月28日 | 座布団シネマ:た行

今まで何度も映像化・映画化されてきた筒井康隆原作のSF短編小説「時をかける少女」を新たな視点で映画化した上質の青春映画。母の代わりに1970年代にタイム・リープした娘の切ない体験を丁寧に描写する。ヒロインを演じるのは、アニメーション版『時をかける少女』でも主人公の声を担当した仲里依紗。その相手役の純朴な青年を『ROOKIES -卒業-』の中尾明慶が演じている。今も昔も変わらない人を思う気持ちにじんわりと胸が熱くなる。[もっと詳しく]

仲里依紗が、太腿あらわに疾走するシーンなんかは、拍手ものなのだが・・・。

『時をかける少女』は、映画やテレビで何度も何度も見ている。
筒井康隆の珍しく少年少女用のジュヴナルとして発表されたのが、1966年のことだからもう半世紀前になる。
僕たちはまず1972年にNHKの5回連続ドラマとしての『タイムトラベラー』そして何年か後の『続・タイムトラベラー』に夢中になった。
当時僕は大学生であったが、筒井康隆の新潮社の文庫本の全巻読破にかかっていた頃だ。
そして1983年、大林宣彦監督の尾道三部作のひとつとして『時をかける少女』が製作された。
もちろん松任谷由美の作詞・作曲の主題歌で、ヒロインと同じ15歳の少女役に原田知世が抜擢された。



その後も1985年に南野陽子が芳山和子を演じ、ショコタンファンなら知らぬものはいないが、亡くなった中川翔子の父親である中川勝彦が主演している。
94年には内田有紀が主人公を演じ、設定された妹役に安室奈美恵が起用された。
97年には、大林版「時かけ」の製作者であった角川春樹が、今度は自らメガホンをとり、新人である中本美奈を起用して(原田知世がナレーション)、全編モノクロの思いいれたっぷりのシネマを発表したが、失笑の渦となった。
02年にはテレビ版で安部なつみがヒロインとなったが、これだけは僕は見ていない。
そして06年、ある意味で「時かけ」最高傑作と言えるかもしれないが、細田守監督のアニメ版『時をかける少女』が発表された。
ここでは姪っ子である紺野真琴というヒロインが設定され、その真琴役に仲里依紗が声優として起用された。



最新版の『時をかける少女』では、根岸吉太郎、井筒和幸、滝田幸二郎などの助監督を長く勤めた谷口正晃が長編初監督をつとめている。
脚本には菅野友恵を起用し、和子の娘であるあかりが母の依頼で1972年のあの理科実験室にタイムリープするという、母子二代の「時かけ物語り」に変身させた。
ヒロインには、僕も『純喫茶磯辺』(08年)の演技で絶賛した仲里依紗が、彼女いわく「原田知世版」ほど優等生ではなく、「アニメ真琴版」ほどサバサバした元気少女でもなく、ちょうどその中間を狙ったキャラづくりをした、ということなのだが、彼女らしいヒロインの引き受け方に好感を持つことが出来た。
まあしかし、なんといっても「時かけ」の魅力は、主人公の少女が制服姿で全速力で疾走するところである。
ついでにアニメ版では、エイッとばかりに空にジャンプするところが気持ちいいのだが、さすがに実写ではそうもいかず、仲里依紗はグリーンウォールをバックに太腿あらわによく駆けている。
そこだけは谷口監督を褒めてあげたいと思う。



あかりは1972年4月に跳ぶつもりであったが、1974年2月に着地してしまう。
そこにいるのは、捜し求める深町一夫ではなく、映画監督志望の純朴な青年涼太(中尾明彦)だった。
涼太はどこからみても、もさい青年だ。
8mm映画を撮ることに青春しているが、そして何人かの仲間に慕われてもいるが、田舎に残した両親のことも気にかかる。
1974年の貧乏たらしい、そしていつの間にか社会人としてのコースから逸脱していってしまうような、いけてない悶々とした日々。
なんのことはない。
これは1974年、当時21歳で関西の大学に通いながら、授業に出るわけでもなく、自分の世界に引籠もっていた僕そのものではないか(笑)。
あのとんでもないださいファッションセンスも自分のあの頃を見るようだし、最初に確保したアパートも僕の場合はもっとひどかったかもしれない。
たまたま風呂屋の二階に下宿させてもらっていたので、いつでも風呂には掃除や番台当番の引き換えに、ロハで入ることが出来たのだが。
僕の場合は、髪の毛は背中の真ん中ぐらいまであったけれども、あかりのような可愛い子が空から降ってきたら、涼太ほど抑制がきかなかったかもしれない(笑)。



懐かしの2660年からタイムリープしてきたケン・ソゴルももちろん登場することになるのだが、公式サイトで大林宣彦が絶賛しているほど、この最新版『時をかける少女』が斬新だとは僕は思わない。
大林宣彦の『時をかける少女』にしたってすごい名作のようなイメージがあるが、ちょうどアニメ版の時に、懐かしくなってDVDで見直したことがあるが、こんなにださかったの?というシーンがたくさんあった。
もちろん半世紀前の技術やカメラ性能であることを前提としても、だ。
芳山和子がタイムリープするシーンなど、吹き出したくなる稚拙さだった。
それでは最新デジタル技術がフルに使える最新版の『時をかける少女』ではどうかといえば、これもまるで貧困なイメージの映像化なのである。
時の狭間に落下し、時を駆ける仲里依紗がなにやら波頭に追いかけられ、数字で直喩される時間が崩れていき、エイッとばかりに跳んだ指の先には、鳥が逃げるように羽ばたいている。
この谷山監督は、たぶんとてつもなく真面目でオーソドックスな人なのだろう。
誰もが知る「時かけ」を自在に調理するには、ちょっとイマジメーションが乏しいのではないかと思われた。
逆に安心して見ていられると言う意味では、合格点なのかもしれないが・・・。



それにしても、DVDの映像特典でスタッフへの一言インタヴューみたいなのがあり「あなたがリープできるとしたらどの時代に行きたいですか?」という設問があった。
うーん、たくさん、あるな。修正したいところ・・・。
でも、タイムリープのお約束事として、過去をいじらないこと、そしてそこでの出来事も、ケン・ソゴルによって記憶が消されてしまうんだな。
デリートか。
やっぱり記憶の世界に(それが変形されたり仮構されていたとしても)、なにほどかの意味を置いている僕にとっては、孤独であるかもしれないが、ケン・ソゴルの側に回って見たい気がする。

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純喫茶磯辺



 

 

 


 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
latifaさん (kimion20002000)
2010-11-02 00:59:03
こんにちは。
テレビドラマだけど、どうなんだろう、DVDでも出ているといいけどねぇ。
もう僕もうろ覚えですけどね。
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えーっ (latifa)
2010-11-01 19:22:56
kimionさん、こんにちは^^
>1985年に南野陽子が芳山和子を演じ、ショコタンファンなら知らぬものはいないが、亡くなった中川翔子の父親である中川勝彦が主演している。
94年には内田有紀が主人公を演じ、設定された妹役に安室奈美恵が起用された。

この2つとも見てなかったし、今日の今日まで知りませんでした。
なんだか凄い豪華なメンバーですね!
見ていれば良かったなあ・・・。
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sakuraiさん (kimion20002000)
2010-10-30 18:10:30
こんにちは。
原作としては、「七瀬シリーズ」の方が、哀愁があって好きなんですけどね。
筒井康は「時かけ」には、「わしの作品で一番稼がせてもらって親孝行じゃ」なんて言ってますが、ジュヴナイルで恥ずかしく思っていたのか、彼が書いている「時かけ」のシナリオ脚本は、メチャメチャパロディーで、僕等の「時かけ」神話を茶化しているんですよ。
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72年 (sakurai)
2010-10-30 15:57:16
はは。
あたしはその時、小学生でした!
でも、毎週みてましたよ!少年ドラマシリーズ!もう最高でしたね。
七瀬ふたたびなんかもあったような。。
とにかくはまりまくって見ておりました。
今回のは、あの少年ドラマシリーズを受け継いだような気にさせてもらいました。
ちょっと安田成美の年齢設定に無理を感じましたけどね。

>亡くなった中川翔子の父親である中川勝彦が主演している。
すいません、とんとショコタンファンでないもんで、知りませんでした。そうだったんですか!
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