サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 07181「オーロラ」★★★★☆☆☆☆☆☆

2007年01月03日 | 座布団シネマ:あ行

荘厳な宮殿を舞台に繰り広げられる、美しき王女と画家の許されぬ悲恋の物語。身分違いの恋に生きる男女の情念を華麗なダンスで表現する。『エトワール』のニルス・タヴェルニエ監督が、幻想的で美しい物語を創り上げた。主演に抜擢されたのは新星、マルゴ・シャトリエ。その相手役を人気実力ともにパリ・オペラ座ナンバーワンのエトワールであるニコラ・ル・リッシュが務めている。夢と現実が交錯する迫力のダンスシーンは圧巻。[もっと詳しく]

観客席の女性たちは、バレエに憧れた少女時代を思い出して、上気する。

 2000年にニルス・タヴェルニエの「エトワール」が上映されたとき、世界でも屈指のクラシックバレエ団である「パリオペラ座バレエ団」の秘密を垣間見た気になった。
300年の歴史を誇るこのバレエ団だが、この映画の撮影時に団員は154人と報告されている。
バレエの世界は厳しい階級性が支配しているが、最高位ダンサーは「エトワール」と称され12人。次いでプルミエ・ダンスールが10人、スジェが39人、コリフェが34人、カドリーユが48人、研修生11人の内訳だ。
エトワールは最高峰と認められた者が得る称号であるが、プルミエ以下は厳しい昇進試験の連続となる。当然、挫折し去っていくものも多い、超競争社会である。

オペラ座バレエ団の団員のほとんどは、「パリオペラ座バレエ学校」の卒業生である。
女子の場合、8歳~11歳で入学をするが、30人~40人の枠に毎年400人~500人が殺到する。通常6年のカリキュラムとなっている。
オペラ座の
ガルニエ宮の2階で練習をしているため、団員は「オペラ座のねずみたち」と呼ばれている。
「エトワール」はこの歴史あるバレエ団そのものの擬似ドキュメンタリーのようなつくりであった。

クラシックバレエそのものの歴史は、人間が未開の時代から身体表現としてのさまざまな舞踏・舞踊を編み出してきた歴史から比べれば、随分と新しい。
14世紀から16世紀にかけてイタリア王侯貴族の祝宴の余興とされてきたのが、起源といわれる。
16世紀、フランスの
アンリ2世に嫁いだ、イタリアフィレンツェの名門メディチ家の王女であるカトリーヌ・ド・メディシスが自国の文化をフランスの宮廷に持ち込んだといわれる。
1661年に
ルイ14世が王立舞踊アカデミーを設立し、以降、フランスで洗練されてきたのである。

 

僕は地方都市の出身であるが、小学校の時バレエ学校に通っていた女の子はクラスに一人はいた。
バレエ学校に通うのも電車に乗ってということで、やはりお嬢さんぽい感じの子がほとんどで、洟垂れ小僧たちには縁遠い世界ではあった。
たまたま僕は小学校の2年間ほど全国大会に出場するような器楽部に入り、何を間違ったかセーラー服(もちろん男子用のコスチューム)なんぞを着て、「白鳥の湖」なんかを合奏していたせいで、数十人の団員のなかに、バレエ学校にも通っていた女の子が数人いた。
その関係で発表会なんかに呼ばれたりもしたことがあった。

その後、大人になってから女性とおしゃべりしていて子供の頃の話になったとき、「バレエをやっていたの」という娘が結構いた。
都会の洒落たミッション学校でもあるまいし、あまり信用できないなと思う子もいた。
なぜなら、ある程度本格的にバレエをやっていた子は、日常の姿勢や歩き方がまるで違うから、一目でわかってしまうからだ。

 

オーロラ」はオペラ座バレエが全面協力してのフィクションとしてのバレエムービーである。
昔々、バレエが禁じられている王国に、バレエが大好きなお姫さまがおられました・・・ではじまる物語。
バレエが本当は好きなのだが、国を治めるためバレエを禁止する王様。
腹黒く権力を狙い、王様を操る家臣。
王様への愛と娘であるオーロラ姫の自由を求め、板挟みになって苦しむ王妃。
束縛を嫌いダンスをやめることができないオーロラ姫。
将来の王を求められるがオーロラ姫を慕う優しい弟王子。
オーロラ姫の肖像画を描くために呼ばれ、身分は違うが相思相愛となる画家。
典型的な人物配置だ。

財政悪化だと実は王国の財産を横領していた家臣に脅迫され、舞踏会を開き、オーロラ姫の結婚相手を探す王様だが、「金のための結婚」など、王妃もオーロラ姫も望まない。
舞踏会にくる王子たちは、まるで日本の「竹取物語」の寓話のように、財宝とともにオーロラ姫の気をひくために、異国の踊りを披露する。

 

ヒロインにはオペラ座バレエ学校の新星であるマルゴ・シャトリエが抜擢された。
1990年生まれの16歳である。
そこに、オペラ座バレエ団からエトワールが3名、ダンサーが35人出演している。
また、美しい王妃役は
キャロル・ブーケ。1981年「007/ユア・アイズ・オンリー」のボンドガールであり、「シャネルNO.5」の専属モデルとしても有名である。
異国の踊りの披露のひとつに、「ジャポネ国?」の王子が出てくるが、その踊りが「
山海塾」を彷彿とするような暗黒舞踏風であったのには笑ってしまった。

ともあれ、ストーリーはメルヘンチックな御伽話である。
バレエというひたすら重力の拘束を逃れて空中を舞うことを志向する舞踏の形式と、叶わぬ恋を重力のない天上で成就させるというロマンスの古典的な形式が、必然のように重ねられている。
この映画のすべては、可憐でありながら姫である毅然さも持ち、幼くもありながら女性としての妖艶さも内に秘めていて、踊ることのなかに生命の躍動を感じ取る、芸術的なあるいは表現者としての資質を持つオーロラ姫を演じるマルゴ・シャトリエの魅力につきる。
ため息がでるほどの美しさである。

 

東急文化村ル・シネマ。
客席の9割を占めるおばさま、OL嬢、女子学生たちが、こぞって上気した面持ちで、ロビーに出てくる。
映画そのものにはとりたてて上気するような要素はない。フワフワとしたメルヘンである。
きっと、自分たちが少女の頃、一度は憧れたであろうバレリーナ。
パリオペラ座バレエ団を頂点とする、世界中の少女たちの憧れの世界。
自分の中のオーロラ姫の存在に少し羞恥し、そしてまだ羞恥できることがなぜか嬉しくて、上気したのかもしれない、などとおじさんはその空気に圧倒されてしまうのであった。



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12 コメント

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Unknown (友香梨)
2007-01-05 13:22:25
はじめまして。
私のつたない記事にトラバありがとうございました。
おとぎ話なんだから突っ込んでもしょうがなかったですね。
反省。

本当に映画を見終わった人たちは幸せそうな顔で出て来ていました。
変に突っ込んであの場の雰囲気をこわさなくてよかったと思っています。
画家役のニコラ・ルリッシュがすてきでした。
もっともっと彼に踊ってほしかったです。
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友香梨さん (kimion20002000)
2007-01-05 13:28:33
あけましておめでとう。
ニコラさんも、エトワールなんですよね。
無名かもしれないけど、あの弟役の少年は、なかなかナイーブな感じがありましたね。
ちょっと、化けるかもしれません。
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Unknown (mimiko)
2007-01-15 19:35:25
はじめまして。mimikoと申します。
TBありがとうございました。

バレエってきっとだれにとっても意外と
身近な存在なのかもしれません。
違うのは距離感だけなのかも。。。
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mimikoさん (kimion20002000)
2007-01-15 22:02:04
こんにちは。
そうですね。バレエというものを、もう少し、身体表現全体にまで、拡張してもおかしくないと思いますね。普段はあまりコンサートには行かないけど、たまにみると、高揚します。
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TBありがとうございました! (nyanco)
2007-02-04 18:51:56
こんばんは。
TBありがとうございました。
マルゴ・シャトリエの可憐な美しさが、オーロラ姫にぴったりで、バレエのダンスシーンは魅せられっぱなしでした!
ジパンゴ王国のダンスは本当に山海塾みたいでしたね。
私は名古屋の名演小劇場でこの映画を鑑賞したのですが、やはりほぼ9割方、女性客で占めてました。^^:
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nyancoさん (kimion20002000)
2007-02-04 20:36:57
こんにちは。
フランスでは、山海塾はじめ日本の暗黒舞踏系は、芸術として、とっても高い地位にはあるんですけどね。でも、オーロラ姫は嫌悪していたみたい(笑)
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TBありがとうございます (玲子。)
2007-02-09 22:57:29
主人公のマルゴは可憐でかわいかったですね。
絵もとっても美しくていやされました。
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玲子さん (kimion20002000)
2007-02-10 03:23:35
こんにちは。
踊りたくて踊りたくてたまらないオーロラ姫は、とてもかわいらしかったですね。
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なるほど・・・・。 (mezzotint)
2007-03-17 10:51:57
kimion20002000さん
コメント&TBどうもです。
山海塾のような前衛舞踏が、向うでは人気あるのですね。
確かに、あの独特な舞踏は、ヨーロッパにはないですからね。
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mezzotintさん (kimion20002000)
2007-03-17 20:20:55
こんにちは。
そうなんですよ。
当初、日本では、気味悪がられて、上演場所を探すのに、とても苦労したんですけどね。ヨーロッパに行ったら、大拍手、大芸術(笑)
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