ジョン・ロンスン原作のノンフィクション「実録・アメリカ超能力部隊」を基に描く娯楽作。アメリカ軍に実在したという、ラブ&ピースの精神で世界を救おうとする特殊エスパー部隊のぶっ飛びのエピソードの数々が披露される。物語の語り手に『天使と悪魔』のユアン・マクレガー。彼を無謀なミッションに巻き込む男を、『マイレージ、マイライフ』のジョージ・クルーニーが熱演する。次々と登場するおよそ軍隊とは思えないへなちょこ技に大爆笑。[もっと詳しく]
超能力というのは、ヘナチョコぐらいが安心する。
ジョン・ランスン原作の「実録・アメリカ超能力部隊」を、文庫本であったが大笑いしながら読んだ。
なにに大笑いしたかというと、大真面目に軍がエスパー研究をしているのだが、それが「最強のエスパー戦闘軍団」をつくる(これはこれでSFやアニメのお馴染みのテーマ)というよりは、なるべく「無血」でありたいというように「道徳的戦闘」をミッションとしていたことだ。
目的が「平和の戦士」というよりは、手段が「平和の戦士」なのだ。
どちらかというと、ロールプレイングゲームの「白魔道士」のようなもの。
そしてお馴染みの、念動力や透視能力や予知能力を鍛え上げることになるのだが、それがまたお粗末なしろものなのだ。
しかしながら大真面目に「ジェダイの戦士」を養成しようとしているのが可笑しい。
もっと可笑しいのが、その訓練方法が「ニューエイジ思想」をベースとしているところである。
兵士たちは、ヒッピーのように髪の毛を伸ばし、あごひげを生やし、ドラッグで瞑想しながら、「ラブ&ピース」を唱えるのである。
そして「いいかい、雲を動かして見せるからね」などと宣言し、「キラキラ眼力」で空を凝視し続けるのである。
こうして実力はともあれとして、新・地球軍マニュアルに則って、エスパー軍は組織されたのだった。
『グッドナイト・グッドラック』でジョージクルーニーとコンビを組んで、なかなか硬質で良作な製作・脚本を手がけたグランド・ヘスログは、今回は監督としてこの抱腹絶倒の「実録」を原作として、絶妙な役者陣をキャスティングした。
語り役のミシガン州の地方紙の記者役ボブにユアン・マグレガー。
妻に浮気されて、失意のどん底で半ばやけっぱち気味に03年、イラク駐留軍の従軍記者を志願して、クェートに赴く。
そこで以前に「エスパー軍」の取材をした時に、名前を聞いていた軍で二番目の超能力者というリン(ジョージ・クルーニー)に偶然出会い、同行することになる。
リンを通して、この新・地球軍を任されたビル(ジェフ・ブリッジス)や、彼の能力に嫉妬して反目することになるラリー(ケヴィン・スペイシー)のことなどを知る。
ボブはそんな能力のことなどはなっから信じてないが、奇妙な同行劇に振り回されることになる。
僕たちは、軍の訓練と言うと、マッチョでハードな海兵隊式訓練のようなものしか知らないから、ジャクジーにつかりながら「愛と平和」を満喫したり、カルト教団のような瞑想に耽るシーンが面白くって仕方がない。
「ジェダイの戦士」たちは自らが「平和的非殺傷兵器」になることを目指している。
だから「ヤギ」を見つめながら、「倒れろ、倒れろ!」と念波を送ったりする。
あるいは「体外離脱」を目論んだり、「遠隔透視能力」と称して精神を集中したり、壁を通り抜けようとして跳ね返されたりするのである。
相当に可笑しいが、もともと冷戦のさなか、「スターゲイト計画」と名づけられて、CIAやスタンフォード研究所などと協同して、ベトナム戦争によるトラウマを受けた元兵士などから選抜して、「効果なし」ということで04年に解散するまで、大真面目に実在した部隊なのである。
共産圏とりわけソ連との、宇宙、軍事の激烈な競争が、超能力分野にまで及んだのである。
もちろんソ連だって、水中で赤ちゃんを養育したり、冷凍保存の人間を隔離したりにとどまらず、奇妙な「エスパー戦士」の研究、養成をやっていたことは、ほんとかどうかは別として月刊『ムー』のお得意の特集テーマのひとつである。
石森章太郎の人気名作漫画であった「サイボーグ009」でも、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」でも、映画の『ファンタスティック・フォーシリーズ』でも、そのほかゴマンとある超能力ユニット戦士たちのお話は、結構好きなのだが、あまりに超能力者のパワーが強すぎると収拾がつかなくなってしまうのが難点だ。
でも『ヤギと男と男と壁と』に出てくるエスパー軍団は、まあユリ・ゲラーとどっこいどっこいぐらいに思えるから、なんとなく滑稽で親近感が涌くというものだ。
スプーンをどんなにヒョイと曲げられたとしても、金正日の頭を小突くことさえもできない。
でも、超能力というものは(僕は信じているが)、所詮リアル世界ではそれぐらいのことのほうがいいのかもしれない。
だって「神の奇蹟」というのはあるのかどうか知らないが、エスパー戦士がその領分にまではズカズカと入っていって欲しくはないからだ。
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軍隊と超能力をこういう切り口で処理し、ヒッピーの思想が混じえたおとぼけタッチは可笑しいけれど、僕にはちょっとピンと来ないところがありました。
>ジェダイ計画
原作からありましたか。
すると、ユアン・マグレガーの起用はお話から生まれたと考えるべきですね!
オカピーさんのレヴューはいつも見ていますよ。
半分ぐらいは見ているんだけど、ほとんどこちらはレヴューしていないので、コメントだけするのも失礼かなと思って。
根性がないです、僕は(笑)。
時間があっても以前ほど分析的に映画評を書く気にはなれず、手抜きも甚だしいですが、kimionさんの真似をして自分のことも文章に織り込んで書くなどしています。
TBあるなしに関係なく、どしどしお願いしますよ。