サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 06170「デュエリスト」★★★★★☆☆☆☆☆

2006年09月20日 | 座布団シネマ:た行

朝鮮王朝時代を舞台に、"悲しい目"の刺客と彼を追う女刑事との激しくも美しい禁断の愛を描いた歴史アクション。主演は韓国の若手2大スターである『オオカミの誘惑』のカン・ドンウォンと、『恋する神父』のハ・ジウォン。アクション映画のスタイルをとりながらも、宿敵同士の切ない愛を描くラブストーリーとしても見応え充分。時代劇の常識を覆す華麗な映像美と凝ったアクション演出にも注目だ。[もっと詳しく]

異形な二人のデュエリストは、舞踏のように剣を交わし、「性愛」を代替する。

この作品は、韓国の人気コミック「茶母」を原作としている。
茶母(ダボ)というのは、食母(シンモ)、針母(チムモ)と同じく、ヤンバン階層(社会階級の一番上の階層)の下働きを引き受け、「女刑事」とでもいうべき「捜査権」が与えられている。
ダボはしかし、賎民であり、身分としては(朝鮮時代の最下層階級)とそう異なるわけではない。
日本でもファンが多いテレビドラマ「
チェオクの剣」はまさしくそのダボの活躍を描いており、演じるのも、この映画と同じく、ハ・ジウォンである。
同じ、コミックを原作としているが、「
デュエリスト」は、別伝と考えたほうがよい。「デュエリスト」その言葉の意味どおり、決闘する者。

500年続いた朝鮮王朝時代。偽金事件を巡って、捕盗庁に所属する従事官と6人の刑事。
その一人がダモであるナムスン(
ハ・ジウォン)である。
そして、事件の背景に「悲しい目」をした仮面の男(
カン・ドンウォン)がいる。
「悲しい目」の男は名前のない刺客であり、彼を育てたのは偽金事件を仕組み社会不安を煽り、王の退位を目論む軍務長官ソン(
ソン・ヨンチャン)であった。
ナムスンは自分に武術を教えたアン刑事(
アン・ソンギ)らと、証拠を握るため、ソンの屋敷に潜入するのだが・・・。

話は謎解きのように進むのだが、そんな捕物帖は、この作品にとってはひとつのもっともらしいエピソードにしか過ぎない。
この映画の主題は、捜査する側と捜査される側に、宿命的に引き裂かれたナムスンと「悲しい目」の男との、純愛物語あるいは「ロミオとジュリエット」のような禁断の恋愛感情である。

 

出会いは、一目惚れであるが、互いにそれほど自分たちの感情に自覚的ではない。
武術に長けたふたりの「決闘」を通じて、息遣いは交じり合い、死を賭けた剣の激しい遣り取りで、無言の会話が成立し、剣と剣が火花を散らす度合いに応じて、無意識に濃密な「エロス」が発現することになる。
追い、追われるものは、いつしか、逢瀬を楽しむかのように、剣を交わすことになる。
それはまるで「決闘」というよりも、一篇の「ダンス」のようだ。
劇中の「決闘」シーンは、タンゴのテンポに乗せて甘美に、クラシカルな旋律にあわせて荘厳に、そしてロックのリズムに煽られて激しく、ほとんど<性愛>といってもいいほどの濃密な空間をもたらすことになる。
こんなにも、美しい決闘シーンを、僕はいまだかつてみたことがない。

マイ・ブラザー」などで活躍した撮影監督ファン・ギソクの功績が大きいのであろう。
とくに、「悲しい目」の男の死を伝えられ、在りし日の姿を追うように、背景は暗闇、白い雪が激しく吹き募る幻想のなかで、ナムスンが「悲しい目」の男を呼び寄せ、剣を交わす。スローモーションの多様、音はなく、剣が風を雪を切り裂く音だけが、延々と響きわたる。
これは、映画史に残る、哀切で美しい決闘シーンである。
しばらくして、主題歌が響き、ますます激しく決闘=愛撫が展開される。

ナムスンは男たちの世界の中で、「性」を棚上げし、時には付け髭までして男に扮装し捜査を続ける。ソン長官の屋敷への潜入捜査にあたって、ナムスンは華やかな装束をまとい酌婦として宴の場に潜り込むのだが、ついぞ「女性」を演じることに落ち着かない様子だ。
一方、小さい頃から、孤児でソン長官にひきとられ刺客として育てられた「悲しい目」の男。ソン長官の愛を受けているが、稚児としての過去もあるのかもしれない。花街も闊歩するが、決して、女性に巧みだとは思えない。
この二人とも、本来の「性」で自然に振舞うことなく、いわば両性具有のような存在を強いられている。
「悲しい目」の男の剣先が、ナムスンの衣裳を少し切り裂く。乳房のふくらみのほんの一部が露出しただけで、ナムスンはその場にへたり込んでしまう。「悲しい目」の男は、目のやり場に困惑する。
奥手な少年少女のようであり、とても命の遣り取りをしていた同士にはみえない。
この二人にとっての<<性の交歓>は、ただただ剣舞を通じての触れ合いに、代替されたのである。

 

カン・ドンウォンは「
彼女を信じないでください」のコミカルで人のいい青年役でもなく、「オオカミの誘惑」での不良っぽく突っ張ってはいるが、本当は病弱な宿命を背負った孤独な少年でもなく、ひたすら愛を知らず孤高の刺客を演じて、実に実に美しい。
また、「
ボイス」「友引忌」などで、「ホラークィーン」とも呼ばれ、クォン・サンウと共演した「恋する神父」ではコミカルな役柄も演じ、もちろん「チェオクの剣」では激しい剣劇も演じているハ・ジウォンは、韓国でも幅広い役柄をこなせると評判の若手実力派女優であるが、この作品でのアクションシーンは、まことに堂に入っていた。

禅武道の流れなのか、独特のカンフーや朝鮮特有の仮面劇の動きも加味されているのだろうが、二人の剣舞の振り付けがこよなく美しい。
ナムスンの動きは、低い姿勢から始まり(野球の投球フォームも真似たという)、星飛雄馬のように高く足を持ち上げ、鶴のように優雅に舞い、蜂のように相手に飛び込む。
「悲しい目」の男は、緩急をつけた円舞とともに、目にも留まらぬ剣さばきが艶やかだ。
序盤の金色の仮面も、原色の衣裳も、心憎い。二人が、悲しい定めをふっきるかのように、慟哭のような「ウォーーー!」という声をあげるシーンも、その切ない雄叫びが心に残る。

 

ひとつ文句も言いたい。
コミックが原作であるせいか(お約束)、あるいは緊張に満ちたシーンの連続に緩急をつけるためか、アン・ソンギやハ・ジウォンが大袈裟なコミカルなシーンを何箇所も演じさせられている。
韓国映画に特有な演出過多ともいえる。上質な舞踏劇を観劇中に、いきなり下手くそな道化が場をわきまえず闖入するみたいなものだ。
韓国同胞たちの反応やお約束事はいざ知らず、僕は、そのことだけは、「またか」と不愉快になってしまう。


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31 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mikimaru)
2006-09-20 08:43:09
美しい表現ですね。映画のシーンが鮮やかに、思い出されて涙が出ました。
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mikimaruさん (kimion20002000)
2006-09-20 08:56:04
こんにちは。

エンドロールの聞きなれた、主題曲のデュエット。ミーハー気分で、何度も、聞きなおしました。ツボです(笑)
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コミックなんですか・・・ (AnneMarie)
2006-09-21 00:22:17
はじめまして。アンマリーといいます。

よろしくお願いします☆



コミックだったんですね。。。実は私も同じところでうんざりしました。ってか、観てる方が恥ずかしくなっちゃうんですよ。

ハ・ジウォンのこっちに向けてお尻フリフリにもビックリしました。なぜOKになったのか。。。

またお邪魔させていただきます。
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美しい映画 (mitomito)
2006-09-21 01:49:34
TBありがとうございました。

とにかくカン・ドンウォンをいかに美しく撮るか、ということにこだわったそうで、大きなスクリーンで見たときはドキドキしました。

音楽も印象的で気に入ってます。

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こんばんは! (猫姫少佐現品限り)
2006-09-21 03:39:47
いつもありがとうございます!

あの笑いねぇ、、文化の違いなんでしょうか?

笑い無しに、シリアスに作って欲しかったですね。

そか、、、愛撫、なんですね。なるほどねぇ、、、

そういわれれば、そうですね。 納得。
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コメント多謝 (kimion20002000)
2006-09-21 10:17:48
>AnneMarieさん



たしかに、コミックの文法のひとつではありますが、あそこまで、映画に持ち込まれると、うんざりしますね。



>mitomitoさん



音楽、とくに主題歌は予告編でさんざん流れましたけどね。エンドロールのデュエットは、聞き惚れました。



>猫姫さん



韓国映画界の重鎮のアン・ソンギまで、「ひょうきん」をやらせちゃうんですからね。ハ・ジウォンなんて、口尖らせて、「蛸娘」になっちゃうわけだから、やめてよね(笑)
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TBありがとうございます♪ (いまのまい)
2006-09-22 00:18:54
カン・ドンウォン君が半端じゃないくらい神秘的で美しく描かれていました。

『オオカミの誘惑』ではそれほどのめりこまなかったんですけど、これを見て私の中で彼がブレイクしました^^



スルプンヌンの美しさが、ハ・ジウォンの魅力を完璧に超えちゃってて、ちょっとお気の毒でした。

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いまのまいさん (kimion20002000)
2006-09-22 00:26:14
こんにちは

スルプンヌン=悲しい目は、コミックから抜け出たような、美しさですね。ハ・ジウォンも、お間抜け演技さえ、させられなければ、結構、はりあった場面もあったんですけどね。
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TB&コメントありがとうございました (kumakuma-kyoto)
2006-09-22 08:28:28
こんにちは。

こちらこそTB&コメントありがとうございました。

確かにDVDって頭の予告編が飛ばせなくて本編までに時間かかったりしますよね。

時々グッタリしちゃいます。



デュエリスト、カン・ドンウォンがすばらしく美しかったのは良かったんですが、コミカルな演出はビミョーでした。



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ダモと同コミックなんですね! (latifa)
2006-09-22 08:33:55
こんにちは、kimion20002000さん。

TBとコメントありがとうございました~。



>韓国の人気コミック「茶母」を原作としている

チェオク・・(茶母)と同じだったとは、やっぱり、そうだったのか~~と、こちらで知ることが出来て、なんだかスッキリしました^^



そうですね、コメディテイストの処は要らなかったorちょっと演出過剰という風に私も思いました。
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