朝鮮王朝時代を舞台に、"悲しい目"の刺客と彼を追う女刑事との激しくも美しい禁断の愛を描いた歴史アクション。主演は韓国の若手2大スターである『オオカミの誘惑』のカン・ドンウォンと、『恋する神父』のハ・ジウォン。アクション映画のスタイルをとりながらも、宿敵同士の切ない愛を描くラブストーリーとしても見応え充分。時代劇の常識を覆す華麗な映像美と凝ったアクション演出にも注目だ。[もっと詳しく]
異形な二人のデュエリストは、舞踏のように剣を交わし、「性愛」を代替する。
この作品は、韓国の人気コミック「茶母」を原作としている。
茶母(ダボ)というのは、食母(シンモ)、針母(チムモ)と同じく、ヤンバン階層(社会階級の一番上の階層)の下働きを引き受け、「女刑事」とでもいうべき「捜査権」が与えられている。
ダボはしかし、であり、身分としては(朝鮮時代の最下層階級)とそう異なるわけではない。
日本でもファンが多いテレビドラマ「チェオクの剣」はまさしくそのダボの活躍を描いており、演じるのも、この映画と同じく、ハ・ジウォンである。
同じ、コミックを原作としているが、「デュエリスト」は、別伝と考えたほうがよい。「デュエリスト」その言葉の意味どおり、決闘する者。
500年続いた朝鮮王朝時代。偽金事件を巡って、捕盗庁に所属する従事官と6人の刑事。
その一人がダモであるナムスン(ハ・ジウォン)である。
そして、事件の背景に「悲しい目」をした仮面の男(カン・ドンウォン)がいる。
「悲しい目」の男は名前のない刺客であり、彼を育てたのは偽金事件を仕組み社会不安を煽り、王の退位を目論む軍務長官ソン(ソン・ヨンチャン)であった。
ナムスンは自分に武術を教えたアン刑事(アン・ソンギ)らと、証拠を握るため、ソンの屋敷に潜入するのだが・・・。
話は謎解きのように進むのだが、そんな捕物帖は、この作品にとってはひとつのもっともらしいエピソードにしか過ぎない。
この映画の主題は、捜査する側と捜査される側に、宿命的に引き裂かれたナムスンと「悲しい目」の男との、純愛物語あるいは「ロミオとジュリエット」のような禁断の恋愛感情である。
出会いは、一目惚れであるが、互いにそれほど自分たちの感情に自覚的ではない。
武術に長けたふたりの「決闘」を通じて、息遣いは交じり合い、死を賭けた剣の激しい遣り取りで、無言の会話が成立し、剣と剣が火花を散らす度合いに応じて、無意識に濃密な「エロス」が発現することになる。
追い、追われるものは、いつしか、逢瀬を楽しむかのように、剣を交わすことになる。
それはまるで「決闘」というよりも、一篇の「ダンス」のようだ。
劇中の「決闘」シーンは、タンゴのテンポに乗せて甘美に、クラシカルな旋律にあわせて荘厳に、そしてロックのリズムに煽られて激しく、ほとんど<性愛>といってもいいほどの濃密な空間をもたらすことになる。
こんなにも、美しい決闘シーンを、僕はいまだかつてみたことがない。
「マイ・ブラザー」などで活躍した撮影監督ファン・ギソクの功績が大きいのであろう。
とくに、「悲しい目」の男の死を伝えられ、在りし日の姿を追うように、背景は暗闇、白い雪が激しく吹き募る幻想のなかで、ナムスンが「悲しい目」の男を呼び寄せ、剣を交わす。スローモーションの多様、音はなく、剣が風を雪を切り裂く音だけが、延々と響きわたる。
これは、映画史に残る、哀切で美しい決闘シーンである。
しばらくして、主題歌が響き、ますます激しく決闘=愛撫が展開される。
ナムスンは男たちの世界の中で、「性」を棚上げし、時には付け髭までして男に扮装し捜査を続ける。ソン長官の屋敷への潜入捜査にあたって、ナムスンは華やかな装束をまとい酌婦として宴の場に潜り込むのだが、ついぞ「女性」を演じることに落ち着かない様子だ。
一方、小さい頃から、孤児でソン長官にひきとられ刺客として育てられた「悲しい目」の男。ソン長官の愛を受けているが、稚児としての過去もあるのかもしれない。花街も闊歩するが、決して、女性に巧みだとは思えない。
この二人とも、本来の「性」で自然に振舞うことなく、いわば両性具有のような存在を強いられている。
「悲しい目」の男の剣先が、ナムスンの衣裳を少し切り裂く。乳房のふくらみのほんの一部が露出しただけで、ナムスンはその場にへたり込んでしまう。「悲しい目」の男は、目のやり場に困惑する。
奥手な少年少女のようであり、とても命の遣り取りをしていた同士にはみえない。
この二人にとっての<<性の交歓>は、ただただ剣舞を通じての触れ合いに、代替されたのである。
カン・ドンウォンは「彼女を信じないでください」のコミカルで人のいい青年役でもなく、「オオカミの誘惑」での不良っぽく突っ張ってはいるが、本当は病弱な宿命を背負った孤独な少年でもなく、ひたすら愛を知らず孤高の刺客を演じて、実に実に美しい。
また、「ボイス」「友引忌」などで、「ホラークィーン」とも呼ばれ、クォン・サンウと共演した「恋する神父」ではコミカルな役柄も演じ、もちろん「チェオクの剣」では激しい剣劇も演じているハ・ジウォンは、韓国でも幅広い役柄をこなせると評判の若手実力派女優であるが、この作品でのアクションシーンは、まことに堂に入っていた。
禅武道の流れなのか、独特のカンフーや朝鮮特有の仮面劇の動きも加味されているのだろうが、二人の剣舞の振り付けがこよなく美しい。
ナムスンの動きは、低い姿勢から始まり(野球の投球フォームも真似たという)、星飛雄馬のように高く足を持ち上げ、鶴のように優雅に舞い、蜂のように相手に飛び込む。
「悲しい目」の男は、緩急をつけた円舞とともに、目にも留まらぬ剣さばきが艶やかだ。
序盤の金色の仮面も、原色の衣裳も、心憎い。二人が、悲しい定めをふっきるかのように、慟哭のような「ウォーーー!」という声をあげるシーンも、その切ない雄叫びが心に残る。
ひとつ文句も言いたい。
コミックが原作であるせいか(お約束)、あるいは緊張に満ちたシーンの連続に緩急をつけるためか、アン・ソンギやハ・ジウォンが大袈裟なコミカルなシーンを何箇所も演じさせられている。
韓国映画に特有な演出過多ともいえる。上質な舞踏劇を観劇中に、いきなり下手くそな道化が場をわきまえず闖入するみたいなものだ。
韓国同胞たちの反応やお約束事はいざ知らず、僕は、そのことだけは、「またか」と不愉快になってしまう。
ちょっとこの映画を持ち上げたりすると、恥ずかしい気はしますけどね。
僕は、うっとりしながら見ていましたよ(笑)
一緒に観ていた主人はスローモーションやコマ送りに
イライラしてました(笑)
私は彼の美しさに目が眩んで、ひたすらそれだけに集中しました(笑)
まるで彼のプロモーション用映画のようでした。
TBさせてください。
そうですね、またか、ということになってしまいますからね。
中国映画は、また、ちょっと過剰のあり方が、違いますけどね。
日本映画に関して、韓国の観客の意見もきいてみたいですね。
韓国映画の最大の弱点は、トーンの統一感を保たない(保てない)ことであると思っています。
例えば、恋愛(悲恋)ものでは、前半を喜劇、後半をシリアスに作り、強いコントラストを演出しますが、これが野暮ったく泥臭い。トーンを一定にし、主題をより深く沈潜させるのが洗練された映画の演出と考えます。
また仰るように、喜劇的演出・演技が大げさなのも参りますね。
とんでもないです。
映画blogは、たとえ一行でも、自分の印象を残せば、それでいいんじゃないでしょうか。
anoと申します。
この記事を読んで、貴殿の思考力に脱帽し、自分がこの映画について公の場で発言したことが恥ずかしくなりました。。。勉強になります!
たしかにそうですね。
「悲しい目の男」は一度は主を裏切った形になって、最後は、やはり殉じるというものでしたかね。雪降る中で、敵味方が判別しにくかったですね。
この物語 コミックが原作だったんですね
知りませんでした…
しかし あの決闘シーンは 美しかったですね
コマのとりかた 音楽と うまく調和したシーンでした
ただ 最後の警察がなだれ込むシーンは
私的にですが もうちょっと敵味方を区別してほしかった…
ってことで また よろしくです
あえて、コミカルな要素を挿入して、破調を求めるのは、コミックのひとつのお約束みたいなところがあります。
で、コミックだと、そのことが自然に受け入れられたりするんですが、実写だと違和感が残ります。
これは、やっぱり、基本的な「文法」が違うんじゃないかなと、感じているんですけどね。
TBありがとうございました。
確かにコミカルなシーンはあまり必要がなかったかも
しれませんね。
そういうシーンを持ってこなくても、アン・ソンギやハ・ジウォンは充分この映画の魅力を引き出せる役者さんだと
私は思っています。
いつも記事を読ませて頂いて、「う~んそうか!!」と思う事がたくさんあって、自分の記事のつたなさを痛感します(苦笑)
はじめての韓国映画が「デュエリスト」だったんですか。
理解不能!さもありなんです。
でも、いろんなタイプの韓国映画があり、ある日突然、はまっちゃうこともあります。だからなんだ、というところですが(笑)これに懲りずに韓国映画を、もう少しは探険してみてください。
つたないブログにトラックバックありがとうございました。気付くのが遅れて今頃書き込みして申し訳ありません。
何だかマンガみたいだと思ってたら原作がマンガなんですね。俳優の演技もストーリー展開も、私には理解不能でした。折角の初めての韓国映画だったんで非常に残念です。
最近になって自宅でDVDを見るようになりました。これからもいろいろと参考にさせていただきますので、宜しくお願いいたします。
もう一度、鑑賞するまでは、ないかもね(笑)
僕は、名場面集だけ、編集して、環境映像で、流しておきたいなあ。
ウチではとことん酷評してしまった作品でしたが、コチラの記事を読んでこの作品への見方が少し変わりそうな気がしました。
もう一度鑑賞してみようかしら・・・?
しかし・・・やっぱ、あの意味も分からず笑いが乱入してくるのはどうしてもノレませんね・・・。
僕は、わりと、個人的に、両性具有的というか、中性的と言うか、そういう感じが好きなんですね。
少年のような大人になる前の少女とか、男装の女性とか、女性的な線の細い青年とか。
だから、このふたりの交錯は、なんか、嗜好にあったんでしょうね。
こうしてkimon20002000さんのレビューを拝読させて頂くと、
いかに自分の底が浅いか思い知ってしまいます。
これはこっちゃんの感情的に、まったく入り込めなかった映画です。
恥ずかしい感想をTBさせてください。
※あ、リンク承諾の件、ありがとうございました。
本ブログのサイドメニューと、別リンクページこちら↓
http://kocchanhonehone.blog75.fc2.com/blog-entry-7.html
にリンクを貼らせて頂きました。
これからも宜しくお願い致します。
ドンウォン君が美しいかどうかは別として(笑)、この役柄がね。「オオカミの誘惑」のときには、SMAPの中居君に似ている子だなあ、と思っていたんですけどね。難解というより、あんまりストーリーそのものは、どうでもいいんじゃない、という映画じゃないかと(笑)
確かに映像は超美しかったですネエ・・
私もあのお笑いは要らなかったのではないかと・・
美しいものを 台無しにするようで。
とはいえ、難解な映画でした・・・・
コミカルなところねぇ。
どちらがいいというより、日本人は映画をわりとまじに鑑賞するために、映画館に行きます。
韓国人は、映画館で、大声を上げたり、みんなで、楽しんだりということが多いようです。
日本でも、あらかじめ、寅さんなんかだと、泣いたり、笑ったり、という目的でいくんですけどね。
まあ、モード変換ができにくいということなのかしらね。
「恋する神父」のハ・ジウォンが出ているということで、観た映画ですが、コミカルのツボ、やはりちょっと笑えず引いてしまいますね。彼女よりカン・ドンウォンを美しく描いていたのも、私にはマイナスでした。
「傷」で読み込み不可になる場合、レンタル店に返却してまた同じの借りても、途中までは見ているので、もうしらけるという場合もありますよね。僕は、観る気なくなったのでほかの作品に代替してくれ!と要求したことがあります。
>latifaさん
同じ原作といっても、設定は異なりますから「外伝」ということですね。僕も、このコミックそのものは、読んではいません。
TBとコメントありがとうございました~。
>韓国の人気コミック「茶母」を原作としている
チェオク・・(茶母)と同じだったとは、やっぱり、そうだったのか~~と、こちらで知ることが出来て、なんだかスッキリしました^^
そうですね、コメディテイストの処は要らなかったorちょっと演出過剰という風に私も思いました。
こちらこそTB&コメントありがとうございました。
確かにDVDって頭の予告編が飛ばせなくて本編までに時間かかったりしますよね。
時々グッタリしちゃいます。
デュエリスト、カン・ドンウォンがすばらしく美しかったのは良かったんですが、コミカルな演出はビミョーでした。
スルプンヌン=悲しい目は、コミックから抜け出たような、美しさですね。ハ・ジウォンも、お間抜け演技さえ、させられなければ、結構、はりあった場面もあったんですけどね。
『オオカミの誘惑』ではそれほどのめりこまなかったんですけど、これを見て私の中で彼がブレイクしました^^
スルプンヌンの美しさが、ハ・ジウォンの魅力を完璧に超えちゃってて、ちょっとお気の毒でした。
たしかに、コミックの文法のひとつではありますが、あそこまで、映画に持ち込まれると、うんざりしますね。
>mitomitoさん
音楽、とくに主題歌は予告編でさんざん流れましたけどね。エンドロールのデュエットは、聞き惚れました。
>猫姫さん
韓国映画界の重鎮のアン・ソンギまで、「ひょうきん」をやらせちゃうんですからね。ハ・ジウォンなんて、口尖らせて、「蛸娘」になっちゃうわけだから、やめてよね(笑)
あの笑いねぇ、、文化の違いなんでしょうか?
笑い無しに、シリアスに作って欲しかったですね。
そか、、、愛撫、なんですね。なるほどねぇ、、、
そういわれれば、そうですね。 納得。
とにかくカン・ドンウォンをいかに美しく撮るか、ということにこだわったそうで、大きなスクリーンで見たときはドキドキしました。
音楽も印象的で気に入ってます。
よろしくお願いします☆
コミックだったんですね。。。実は私も同じところでうんざりしました。ってか、観てる方が恥ずかしくなっちゃうんですよ。
ハ・ジウォンのこっちに向けてお尻フリフリにもビックリしました。なぜOKになったのか。。。
またお邪魔させていただきます。
エンドロールの聞きなれた、主題曲のデュエット。ミーハー気分で、何度も、聞きなおしました。ツボです(笑)