けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

複雑な方程式を単なる1次方程式と勘違いするな!(オリバー・ストーン監督の発言から)

2013-08-16 23:59:48 | 政治
中々、夏休みで旅行に出かけると、ニュースなど見聞きする時間が無くなり浦島太郎状態になりブログがご無沙汰になってしまった。少々リハビリが必要だが、少しずつ世の中で何が起きているのかがつかめるようになってきたのでブログを再開したい。

まず復帰後のブログのネタとして最初に選んだのは、昨日のNHKニュース9におけるオリバー・ストーン監督の発言についてのコメントである。彼はアメリカ人にしては比較的珍しく、広島、長崎への原爆投下を不要とし、あくまでもソ連の参戦、ないしはその後の冷戦を想定したソ連への牽制(メッセージ)として原爆投下を決断したのだと非難している。この発言は、彼が先日、日本外国特派員協会で記者会見した際の発言でもあり、その記者会見ではニュース9での発言に更に加えて「日本はまず中国に謝罪することから始めるべきだ。中国で多くの罪を犯したことや多くの人を殺害したことに対して。そうすれば、中国は自ずとこれまでとは違った目で日本を見るようになる」、「米国との安保や地位協定から脱却すべき」などの発言も行っていた。この手の発言の共通する点を今日は指摘させて頂きたい。

まず、彼の根底にあるのは「世界平和」などの高貴なコンセプトであろう。その複雑な高次で非線形の連立方程式を解くには、アメリカの事情であったり、中国の事情であったり、イスラエルやイスラム諸国の事情などに関するありとあらゆる拘束条件を全て満たした解を見出すことが求められる。例えばオリバー・ストーン監督の母国であるアメリカ国内に目を向ければ、アメリカ政府の世界の警察、ないしは覇権国家としての地位を不動のものとするという野望を阻止するため、反政府的な活動を続けることが正義であると彼らは確信する。しかし、それはアメリカの事情に関するひとつの拘束条件に過ぎず、この条件を満足すれば世界平和が達成できるというような十分条件とはなっていない。例えば、前ブッシュ政権においては、イラクのフセイン大統領の暴走を防ぎ、大量破壊兵器の使用やテロ組織への支援を防止するために、イラクを成敗することが世界平和、ないしはもう少し下世話にアメリカの国益に叶うと多くのアメリカ人は確信していた。しかし、イラクの暴走を阻止するというのは単に一つの拘束条件にしかすぎず、実際にはイランの暴走も阻止するというもう一つの大きな拘束条件を同時に満たす解を求める必要があったのである。結果的に、イラクの衰退はイランに対する重石を外すことになってしまい、結果的にイランの核開発と中東地域での突出した強大化に繋がってしまった。ブッシュ前大統領がイラク進攻を決断した前後のイケイケ状態のときは、イランの方からアメリカに核開発の放棄を含めた譲歩案を示したとも言われるが、アメリカはイラクを抑えてしまえばイランへのプレッシャーも直接かけやすいと勘違いして、その絶好の好機を逃してしまった。方程式の拘束条件のひとつにこだわりすぎて、他の条件を無視して裏目に出た良い例だろう。

これは全く日本においても同様であり、前自民党政権時代に民主党が「アメリカ追従ではいけない!物言う日本にならねば!」と言い、政権を奪取してアメリカとの距離を置き、中国と急接近するに至った。確かに、アメリカの属国かの様な卑下した対応は宜しくないが、日米同盟を半ば否定し、中国が喜ぶことを何でもかんでもしてやりさえすればそれで世界平和が訪れるかと言えば、結果は真逆となってしまった。小泉政権時に小泉元総理が靖国参拝して中国や韓国との関係が悪化したと言われるが、実際には中国の方から首脳会談を求めてくるような状況であり、単なる政治的なポーズであったり国内向けのガス抜き工作であった。しかし、民主党政権の3年3か月の間に、中国、韓国(さらにはアメリカも同様だが)との関係は最悪とも言うべき状況になってしまった。自民党政権に変わり安倍総理の右傾化が指摘されたりもするが、民主党政権時代の関係に比べればまだまだましな方である。つまり、中国の顔色を窺えば、それによりアジアでの外交的安定性が増すという幻想は明らかな間違いであり、完全に覇権主義に走る中国とうまくバランスを取りながら、不安定平衡点ながら平和な状況を保とうとするならば、それは寧ろアメリカとの関係を強固にする方が方程式を解く上では厳密解に近い近似解を得やすいということを経験的に知った。

もう一度アメリカに話を戻せば、まずはアメリカ政府が襟を正すべきという路線は一見正しくもあるが、それにより他の拘束条件に悪影響を及ぼすのであれば、それは決して正しい選択とは言えないのである。つまり、あまりにも多くの考慮すべきパラメータが存在するとき、多くのパラメータを固定したまま一つのパラメータ(例えば、アメリカ国内でどの様な政治的活動をすべきかという選択)を僅かに変化させたとき、どちらに振った方がより平和に近づくか(逆の言い方をすれば、戦争から遠ざかるか)を評価し、一見、こちらの方が良さそうに見えても実際には裏目に出るから逆の行動の方が賢明である・・・などの政治的な判断をしなければならない。例えばスノーデン容疑者を例に取るならば、アメリカ政府の行動は決して褒められたものではないから是正されるべきだとは思うが、あの告発の結果、より悪質なサイバー・テロを隠れて実施している中国への追及は確実にし難くなってしまった。正攻法で中国にサイバー・テロを思いとどまらせることが出来なければ、アメリカは今後、より地下深くに潜航して情報を収集し、中国などからのサイバー・テロに備えなければならなくなる可能性がある。その結果は現在よりもワンクラス上の国家による監視であり、この次は情報告発者が出ないような鉄壁の守りを固めて監視活動を行うようになるのかも知れない。その世界はスノーデン容疑者が期待するようなユートピアの世界ではなく、寧ろ地獄と背中合わせの世界だと思われる。決して、彼はその様な世界を望んでいないのだろうが、結果としてはその様な世界へ誘導するきっかけを世界に提供する役割を演じたと見ることが出来る。

この様に、全ては一面だけを見て全てを語ってはいけない。オリバー・ストーン監督がもし賢明な人であるならば、私は彼に聞いてみたい。アメリカが広島、長崎に原爆を落とす必要がなかったというのであれば、それは論理的には原爆は罪のない民間人に対する無差別の大量虐殺を行ったことを意味するから、日本にはその虐殺行為に対する損害賠償の請求権が存在することを意味すると理解できる。即死者、ないしは短期間の死者だけでも20万人近い犠牲者を出したが、そこでは死ぬことがなく長期的な原爆被害に苦しむ人も含めれば多分100万人を超えるであろう被害者が存在する(ないしは存在した)。彼ら、ないしはその遺族が一斉に損害賠償をアメリカ政府に仕掛けたら、オリバー・ストーン監督はアメリカ政府はその賠償責任を認めるべきだと言うのであろうか?例えば着かえ目に見て、原爆での短期的な死者20万人に1000万円、残りの80万人に200万円の補償金を払うとすれば、総額3.6兆円の賠償になる。金額や人数の妥当性は怪しいが、兆単位の国家賠償を認める気はあるのであろうか?別に私は「原爆は必要だった」などという立場には決して立ちはしないが、「謝っちまえよ!」と安直に叫ぶ人が、その「謝る」ことの背後にある意味を理解して発言しているのかに関して私は懐疑的である。

オリバー・ストーン監督がどの様な意図で原爆投下の必要性を否定しているのかその答えを私は知らないのであるが、彼が同様に言う「まずは中国に謝罪すべき」という発言は、中国、韓国に対してこれまでの条約などを破棄して、新たに請求権を認め直すような行動を日本政府に求めていることと等価である。ないしは、中国に対して尖閣諸島を差し出せと言っているのかも知れない。しかし、それはこれまでの日本政府の行ってきた賠償や謝罪、民間レベルでの経済援助などの金額に換算すれば気が遠くなるような膨大な援助をチャラにした発言であり、中国側に関する事情を一方的に汲んだ発言でしかない。つまり、複雑な方程式の解を解く上で、たったひとつの拘束条件のみに着目し、それ以外の条件を無視した解というのは全く近似解としての意味を持たない。自己満足の解でしかない。
なお、以上の様に彼の主張には納得できない部分が多くあるのだが、しかし面白い発言をしていたことは特筆すべきである。というのは、原爆投下の必要性を当時のアメリカ政府は「戦争で死ぬことになる数千の米軍兵の命を原爆投下で助けることが出来た」と主張していた。しかし、それがオリバー・ストーン監督が学生であった頃には米兵10万人の命に膨れ上がり、さらに前ブッシュ政権下では米兵100万人になっていたという。これはまさに南京大虐殺の被害のインフレーションそのものであり、南京大虐殺での本当の被害者はせいぜい数千人であるという予測に繋がる。しかも、軍服を着ない民間兵は現在に至るまでゲリラ、ないしはテロリストと国際法で認められている事実を考慮すれば、捕虜として扱われずに殺害された民間兵がその程度の数に上ったことは容易に類推できる。彼にはこの様な視点で、歴史の精査を単なる戦勝国側の言い値、プロパガンダとは一線を画して証拠に基づき確認することの重要性を訴えてみれば良いと思う。

彼の様な著名人はその影響力が大きい。だからこそ、彼の様な情報発信者と根気強く対話し、彼の主張も理解する一方で、彼にも日本の真実を理解してもらう努力を続けていくべきなのだと思う。

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