こう着した感があるISILによる日本人誘拐事件であるが、少しばかり思うことを書いてみる。全体的にバラバラな内容だがご容赦願いたい。
まず、サジダ・リシャウィ死刑囚との交換との要求が出てきたとき、誰よりも先に東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏が「日本・日本国民と、ヨルダン政府・ヨルダン国民との間に亀裂を走らせようとする戦術と思われます」と指摘した。私は当初、もっと直接的な目的があってのことだと感じたが、現在の推移を見る限りはその予測は正しそうに見える。ヨルダン側がヨルダン軍パイロットのモアズ・カサスベ中尉の解放を最優先するのは当然であるが、ISIL側は完全にこれを無視した形になっている。ISIL側の主張からすると、要求が受け入れられなければパイロットを先に殺害するとしているが、この辺は少々、おかしなロジックがある。まずは、この辺から・・・。
まず、そもそも今回の誘拐事件の真の目的は何なのか・・・。というより、誘拐は横に置いたとして、SISL側において優先順位の高い課題は何かを考えてみた。彼らにとっての第1の課題は収入(経済力)の確保である。空爆等により一時の勢いは完全に失速し、新たな地域の制圧と略奪による財源の確保はとん挫し、石油の密売による収入も石油施設に対する攻撃と原油価格の暴落でじり貧状態である。次なる財源は身代金によるものだから、その意味では当初の身代金誘拐は現状に沿った理に適った行動と理解できた。しかし、その後に「金ではない、サジダ・リシャウィ死刑囚の解放が目的だ」と変わってきたところで何が目的かが分からなくなった。彼女は自爆犯という捨て駒だから、彼女の重要性はそれほど高くないという理解に私も同意する。しかし、その理解の基で何かの真実を探し出そうとするよりも、それが何かの攪乱目的であるかも知れないことを考え、「そもそも、ISILは何をしたいのか?」と考えてみた。
多分、金の次に来るのは「空爆の阻止」であろう。その次に来るのは、戦力の拡大(新たな戦士のリクルート)ではないかと私は考えた。この視点が仮に正しいとすると、その先にあるものが少し見えてくる。
まず、「空爆を中止しろ!」とISILが世界に向けて要求しても、それは「なんだ、空爆がボディーブローの様に効いていることを認めるんだね!」と思われてしまう。だから、本音はともかくとして建前上は「空爆なんて、へっちゃらさっ!」と彼らは振る舞わざるを得ない。とすると、日本の様に直接空爆に参加していない国に対し揺さぶりをかけ、「空爆側の十字軍陣営に少しばかり距離を置いた方が実際は得だよね(リスクが小さいよね!)」という空気を醸し出すのが有効である。しかし日本だけがターゲットである訳はないので、その他の空爆に参加する国々に対して暗黙の別のメッセージを出したいはずである。そのメッセージとは、「空爆した際に撃墜されると、パラシュートでパイロットが脱出しても、ISILに捕らわれの身になった時に、恐ろしい事態が待ち受けているぞ!」という恐怖を空爆に参加するパイロットやその家族に植え付けるためのものであろう。今回のケースでの空爆とは、本来は地上軍の投入などよりも圧倒的にリスクの小さな戦術で、だからこそ厭世気分のアメリカでも許容される選択肢なのである。しかし、そこで撃墜されて捕らわれの身になると、地上戦で相手からの銃撃を受け、恐怖と苦しみの中で死んでいく兵士以上に、長い長い恐怖と苦しみに耐えなければならない可能性があるのである。
ちなみに話は逸れるが、テロやゲリラとは異なり、戦争とは国際法で認められた殺し合い行為である。兵隊が相手兵士を幾ら殺しても、戦争に勝つ限りにおいて、その罪を問われることはない。いわば、一種のスポーツの様な位置づけで、それ故に関連したルールがそこにある。そのルールでは、捕虜と言えども扱いを紳士的に行わなければならず、そこで虐待を行えば戦争犯罪として問われる可能性がある。だからこそ、捕虜交換もそのルールの上で行われることになる。しかし、テロやゲリラにはその様なルールは適用されず、基本的に捕虜交換のルールはそこには存在しない。青山繁晴氏などの指摘では、サジダ・リシャウィ死刑囚との交換が捕虜交換と見なされれば、ISILが戦争の当事国として「国家」との扱いを受けたことになり、その様な既成事実の積み上げのために今回の後藤氏とサジダ・リシャウィ死刑囚との交換を主張しているものと解釈される。ただ、このロジックで考えれば、本当の捕虜であるヨルダン人パイロットの方が「捕虜交換の既成事実」には好都合であり、この解釈は一部に腑に落ちない部分が残される。
次に、先ほどの説明の様に、捕虜になった空軍パイロットへの恐怖を植え付けたいのであれば、さっさとヨルダン人パイロットを殺してしまったら、ISIL的には非常に大きな損失になる。どうせ捕虜になっても殺されると分かっていれば、捕虜になる前に自決されてしまう可能性が高まるからだ。選択肢がなければ、人間はそれほど苦しむことはない。しかし、選択肢があると悩まざるを得なくなり、生き残るための地獄の苦しみが、大きな恐怖心を芽生えさせることになる。したがって、常識的に見れば、パイロットの解放がされないとヨルダン政府はサジダ・リシャウィ死刑囚を解放しないが、それに対するペナルティとしてパイロットを殺してしまうと、結局は恐怖を植え付けるISILの戦略に対してはマイナスの効果を生むことになる。この辺が不思議な展開なのである。
次に、最初に後藤氏と湯川氏の誘拐に対する身代金要求のビデオは、今までと同じ作りで動画であった。画像に細工がされているのではないかとか、色々と多くのプレーヤがやいのやいのと話題にし、世界にISILのプレゼンスを示すのには効果的な戦略であった。しかし、その後に公開された情報はそれらと一線を画すものであった。大体、今時、静止画なんてインパクトが無さすぎる。終いには、写真すら出てこないで文字しか表に出ないとなると、更に宣伝効果としては低いものになる。湯川氏の殺害を示す写真を手に持っていた映像は、画像解析で「本当は湯川氏は死んでいない」ことがばれないように、わざと映像の画質を落とすための細工ではないか・・・とも読めなくもなかったが、その流れで行けばパイロットの写真を手に持っていたのは、「本当はパイロットは生きていない」ことを隠すための細工ということになってしまう。どちらにしても、国際的な情報発信の効果としては、明らかに最初の映像よりもインパクトは小さいものである。新たな兵士のリクルートが目的であれば、ここは何としてでも話題性のある映像を流すべきで、非常に高精細の残虐な動画を流せばそれの方が効果は絶大である。しかし、日ごとにチープになっていく展開は、全く持ってリクルートに対しては超裏目の展開である。ここも不思議な展開である。
ここで、本当は当初の目的と同じ金目当てであるにしても、折角だから一粒で三度美味しい方がいいに決まっているで、金目当てならば第2、第3の目的、課題に対してマイナスの効果を許容できるというものでもない。つまり、ISILの上層部が意図している効果的で理に適った戦略を、少なくとも後藤氏の監禁されている周りでは、適切に実行できない状況になっていることが証明された形である。これは、やはり空爆や原油価格の暴落が、ボディブローの様に徐々に効き始めていることの表れであろう。元々、彼らはシリアの政府軍及び反政府勢力とも対立しているのだから、彼らとの関係が拮抗状態(ないしはそれ以下)になれば、お互いの間の消耗戦でじり貧となり、その結果として地上軍を投入するまでもなく、みるみる勢力が弱まることが期待できる。
とまあ色々考えると、それが後藤氏の解放にとってプラスかマイナスかは読めないが、日本人誘拐事件がISIL側にとっては彼らの行き詰まり状態を世間に晒すきっかけとなったことになる。それは、今後の日本人誘拐のリスクを若干ではあるが減らす効果をもたらすかも知れない。まだ答えは出ていないが、答えがでたらその辺の解析も含めて世界各国で総括を行って頂きたい。
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まず、サジダ・リシャウィ死刑囚との交換との要求が出てきたとき、誰よりも先に東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏が「日本・日本国民と、ヨルダン政府・ヨルダン国民との間に亀裂を走らせようとする戦術と思われます」と指摘した。私は当初、もっと直接的な目的があってのことだと感じたが、現在の推移を見る限りはその予測は正しそうに見える。ヨルダン側がヨルダン軍パイロットのモアズ・カサスベ中尉の解放を最優先するのは当然であるが、ISIL側は完全にこれを無視した形になっている。ISIL側の主張からすると、要求が受け入れられなければパイロットを先に殺害するとしているが、この辺は少々、おかしなロジックがある。まずは、この辺から・・・。
まず、そもそも今回の誘拐事件の真の目的は何なのか・・・。というより、誘拐は横に置いたとして、SISL側において優先順位の高い課題は何かを考えてみた。彼らにとっての第1の課題は収入(経済力)の確保である。空爆等により一時の勢いは完全に失速し、新たな地域の制圧と略奪による財源の確保はとん挫し、石油の密売による収入も石油施設に対する攻撃と原油価格の暴落でじり貧状態である。次なる財源は身代金によるものだから、その意味では当初の身代金誘拐は現状に沿った理に適った行動と理解できた。しかし、その後に「金ではない、サジダ・リシャウィ死刑囚の解放が目的だ」と変わってきたところで何が目的かが分からなくなった。彼女は自爆犯という捨て駒だから、彼女の重要性はそれほど高くないという理解に私も同意する。しかし、その理解の基で何かの真実を探し出そうとするよりも、それが何かの攪乱目的であるかも知れないことを考え、「そもそも、ISILは何をしたいのか?」と考えてみた。
多分、金の次に来るのは「空爆の阻止」であろう。その次に来るのは、戦力の拡大(新たな戦士のリクルート)ではないかと私は考えた。この視点が仮に正しいとすると、その先にあるものが少し見えてくる。
まず、「空爆を中止しろ!」とISILが世界に向けて要求しても、それは「なんだ、空爆がボディーブローの様に効いていることを認めるんだね!」と思われてしまう。だから、本音はともかくとして建前上は「空爆なんて、へっちゃらさっ!」と彼らは振る舞わざるを得ない。とすると、日本の様に直接空爆に参加していない国に対し揺さぶりをかけ、「空爆側の十字軍陣営に少しばかり距離を置いた方が実際は得だよね(リスクが小さいよね!)」という空気を醸し出すのが有効である。しかし日本だけがターゲットである訳はないので、その他の空爆に参加する国々に対して暗黙の別のメッセージを出したいはずである。そのメッセージとは、「空爆した際に撃墜されると、パラシュートでパイロットが脱出しても、ISILに捕らわれの身になった時に、恐ろしい事態が待ち受けているぞ!」という恐怖を空爆に参加するパイロットやその家族に植え付けるためのものであろう。今回のケースでの空爆とは、本来は地上軍の投入などよりも圧倒的にリスクの小さな戦術で、だからこそ厭世気分のアメリカでも許容される選択肢なのである。しかし、そこで撃墜されて捕らわれの身になると、地上戦で相手からの銃撃を受け、恐怖と苦しみの中で死んでいく兵士以上に、長い長い恐怖と苦しみに耐えなければならない可能性があるのである。
ちなみに話は逸れるが、テロやゲリラとは異なり、戦争とは国際法で認められた殺し合い行為である。兵隊が相手兵士を幾ら殺しても、戦争に勝つ限りにおいて、その罪を問われることはない。いわば、一種のスポーツの様な位置づけで、それ故に関連したルールがそこにある。そのルールでは、捕虜と言えども扱いを紳士的に行わなければならず、そこで虐待を行えば戦争犯罪として問われる可能性がある。だからこそ、捕虜交換もそのルールの上で行われることになる。しかし、テロやゲリラにはその様なルールは適用されず、基本的に捕虜交換のルールはそこには存在しない。青山繁晴氏などの指摘では、サジダ・リシャウィ死刑囚との交換が捕虜交換と見なされれば、ISILが戦争の当事国として「国家」との扱いを受けたことになり、その様な既成事実の積み上げのために今回の後藤氏とサジダ・リシャウィ死刑囚との交換を主張しているものと解釈される。ただ、このロジックで考えれば、本当の捕虜であるヨルダン人パイロットの方が「捕虜交換の既成事実」には好都合であり、この解釈は一部に腑に落ちない部分が残される。
次に、先ほどの説明の様に、捕虜になった空軍パイロットへの恐怖を植え付けたいのであれば、さっさとヨルダン人パイロットを殺してしまったら、ISIL的には非常に大きな損失になる。どうせ捕虜になっても殺されると分かっていれば、捕虜になる前に自決されてしまう可能性が高まるからだ。選択肢がなければ、人間はそれほど苦しむことはない。しかし、選択肢があると悩まざるを得なくなり、生き残るための地獄の苦しみが、大きな恐怖心を芽生えさせることになる。したがって、常識的に見れば、パイロットの解放がされないとヨルダン政府はサジダ・リシャウィ死刑囚を解放しないが、それに対するペナルティとしてパイロットを殺してしまうと、結局は恐怖を植え付けるISILの戦略に対してはマイナスの効果を生むことになる。この辺が不思議な展開なのである。
次に、最初に後藤氏と湯川氏の誘拐に対する身代金要求のビデオは、今までと同じ作りで動画であった。画像に細工がされているのではないかとか、色々と多くのプレーヤがやいのやいのと話題にし、世界にISILのプレゼンスを示すのには効果的な戦略であった。しかし、その後に公開された情報はそれらと一線を画すものであった。大体、今時、静止画なんてインパクトが無さすぎる。終いには、写真すら出てこないで文字しか表に出ないとなると、更に宣伝効果としては低いものになる。湯川氏の殺害を示す写真を手に持っていた映像は、画像解析で「本当は湯川氏は死んでいない」ことがばれないように、わざと映像の画質を落とすための細工ではないか・・・とも読めなくもなかったが、その流れで行けばパイロットの写真を手に持っていたのは、「本当はパイロットは生きていない」ことを隠すための細工ということになってしまう。どちらにしても、国際的な情報発信の効果としては、明らかに最初の映像よりもインパクトは小さいものである。新たな兵士のリクルートが目的であれば、ここは何としてでも話題性のある映像を流すべきで、非常に高精細の残虐な動画を流せばそれの方が効果は絶大である。しかし、日ごとにチープになっていく展開は、全く持ってリクルートに対しては超裏目の展開である。ここも不思議な展開である。
ここで、本当は当初の目的と同じ金目当てであるにしても、折角だから一粒で三度美味しい方がいいに決まっているで、金目当てならば第2、第3の目的、課題に対してマイナスの効果を許容できるというものでもない。つまり、ISILの上層部が意図している効果的で理に適った戦略を、少なくとも後藤氏の監禁されている周りでは、適切に実行できない状況になっていることが証明された形である。これは、やはり空爆や原油価格の暴落が、ボディブローの様に徐々に効き始めていることの表れであろう。元々、彼らはシリアの政府軍及び反政府勢力とも対立しているのだから、彼らとの関係が拮抗状態(ないしはそれ以下)になれば、お互いの間の消耗戦でじり貧となり、その結果として地上軍を投入するまでもなく、みるみる勢力が弱まることが期待できる。
とまあ色々考えると、それが後藤氏の解放にとってプラスかマイナスかは読めないが、日本人誘拐事件がISIL側にとっては彼らの行き詰まり状態を世間に晒すきっかけとなったことになる。それは、今後の日本人誘拐のリスクを若干ではあるが減らす効果をもたらすかも知れない。まだ答えは出ていないが、答えがでたらその辺の解析も含めて世界各国で総括を行って頂きたい。
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