今日は農業政策について、私自身あまりよく理解できていないので、その整理の意味を込めてコメントを書いてみる。違っていたらご指摘をお願いしたい。
まず、先日テレビのニュースでは政府が減反政策の廃止という歴史的転換を決断したと報じていた。しかし一方で、例えばテレビ朝日のニュースなどで「『減反見直し案』決定も…補助金増額で“骨抜き”」という報道のされ方をしていた。この中では「減反を廃止できるのかどうかが焦点でしたが、与党からの要求で農家への補助金は増額され、大転換というより、骨抜きの改革案となりました。」と非常に批判的であった。減反で補助金が増えるというのは私的には何とも意味不明なので、いろいろと調べてみた。先週?のBS朝日の「激論クロスファイア」には林芳正農水相が出演していたので、そのビデオを見て解説を聞いてみると、農水省では一言も「減反廃止」とは言っていないらしい。正確には「生産調整の見直し」であり、減反の定義次第であるが、転作を含めた減反への政府の関与(補助金等)を止める訳ではなく、寧ろ積極的に関与すると言ってよい状況である。結果的に補助金の総額は増額されるのだが、問題は戦略的、国益的にそれが有益かどうかという判断である。
さて、言うまでもなく減反政策とは、外国の米と比べて生産単価が高い日本の米が商業ベースに乗るためには、生産された米を政府が高価で買い上げて安価で市場に流すという農業保護の政策に対し、これが需要を超える過剰な米の生産に直面すると、無駄に政府の税金が投入される上に膨大な米の在庫を抱えることになり、生産量を調整することを目的として作付け面積の減少を要求する一方でそこに補助金を投入することになった制度である。私の調べた限りで定かでないのは、転作奨励金という形で米から別の農作物や花などに農地を振り替えることへの補助金を投入する一方、耕作放棄地(休耕田)として転作しないでも補助金が支払われており、その金額がどの様な配分になっているのかは分からなかった。しかし、単純に考えれば転作すればそちらでの収入が期待される一方、転作して数年すれば何処かで転作奨励金の対象外になりそうな気がする一方、耕作放棄地の場合には明らかに減反指示に応じ続けているのは明瞭なので、こちらは補助金が継続的に貰えるような気がする。日本の農家の大部分は兼業農家で、お米の作付け面積は1ヘクタールに満たない農家が多い。つまり、兼業農家の場合には耕作放棄して稼働を減らし、その分、別の仕事に就けば2重取りで効率が良い。だから、耕作放棄に伴う純粋な減反政策の補助金は、農家の規模を縮小する方向で機能してしまっていた可能性が高いと私は感じた。現在の目指すべき農業は、競争力を付けるために大規模化を志向すべきであり、そのためには純粋な減反政策は兼業農家の保護に繋がり好ましくない。兼業農家の小規模な農地を集約し、それを企業などが大規模にな生産体制で活用する方向で進めるためには、補助金を出すなら耕作放棄ではない者に提供すべきだと考えた。この点で、林農水相の説明には納得出来た。
ただ、先のテレビ朝日のニュースなどでは補助金の増額を問題としていたので、ここで農水省が推奨する家畜用の飼料用米への転作奨励金というものの考え方を整理してみた。まず、この飼料用米の何たるかを調べてみた。参考になる資料が下記に見つかった。
ISSUS BRIEF Number 716 (2011年6月16日)「飼料用米の現状と課題」
飼料用米とは言うまでもなく家畜の飼料用に用いる米のことであり、現時点では生産量は極めて少ない。飼料用米の中には、所謂飼料用米そのものに加え、稲ホールクロップサイレージ(稲WCS)と呼ばれる実だけでなく茎や葉も同時に収穫し、密封して発酵させた粗飼料などが含まれ、これは輸入乾牧草の代替となる。ただ、この粗飼料は牛など限定的な家畜に利用され、豚や鳥には利用されない。この稲WCSは一見合理的に見えるが、収穫には専用の機械が必要で、普通の試料用米の様に主食用米の機械を利用できないらしい。このため、飼料用米として稲WCSを生産するには、ある程度の大規模な農家でないと対応できない。ちなみに、飼料用米の利点としては、豚肉の場合には脂肪中のリノール酸が減り、オレイン酸が増加するという。オレイン酸はオリーブ油に多く含まれ、人の場合にはリノール酸よりオレイン酸の方がずっと健康には良いと言われている家畜も同様と考えれば、飼料用米の利用にはそれなりのメリットはあるようである。ただ、鶏卵では、飼料用米の給与量が多くなるほど卵の黄身の色が薄くなると言われており、消費者の指向的には黄身の色が濃いのを好み、そのためにパプリカなどを鶏の飼料に混ぜたりすることも考えれば、鶏卵用の飼料には向かないかも知れない。
この飼料用米の見直しは、バイオ燃料の関連で2008年頃に国際的な穀物価格の高騰が起きたことに起因し、投機的な動きの影響も合わせて国内での自給率の向上には大いに意味のある動きである。ただ一方で、諸外国からすれば家畜飼料の穀物の日本への輸出にブレーキをかける効果もあり、大掛かりな補助金で対処するのには課題が残る。特に、非関税障壁と見なされれば、WTOなどに提訴される可能性も否定できない。現在は規模が小さいからある程度の許容範囲内にあるのだろうが、今後、生産調整の見直しの中で飼料用米の作付けが増大し、そこへの補助金が膨大になると外国も黙ってはいなくなる可能性はある。この辺の論理武装は必須だろう。
なお、この飼料用米の最大の利点は、水田での生産となるために、これまでの減反政策で耕作放棄されたり野菜などに転作された農地とは大きく異なり、急遽、主食用米の生産量を増やす必要性に迫られても、容易に戻すことが出来る。一般的に戦略物資として各国の主食に関しては少なくとも自給率を高める必要があるが、有事の際に小麦などの輸入量が低下した場合も含め、主食用米の生産のポテンシャルの維持という意味では今回の政策は戦略的に大きな意味がある。この家畜用の飼料用米として(私は、実だけでなく茎や葉も同時に飼料に使えるという意味で、「一粒で二度おいしい」効率的な)稲WCSを作ろうとすると、これは新たな機械が必要となるので、ある程度の大規模化が前提であるだろう。一方、今まで耕作放棄して兼業農家を続けてきた人々は、飼料用米を作ると仕事にならないので兼業を止めて専業に戻るか、それらの農地を集約するのに協力する形で農地を手放すか、どちらかになる可能性が高い。飼料用の穀物の価格の乱高下や、この飼料に伴う食物自給率の低下を改善するためにも、この政策は補助金の額は増えるが食料安全保障上の見地と、将来のあるべき農政への誘導という意味では価値のある政策の様に思えた。
だから、補助金の額が増えるか減るかではなく、もっと本質的なところでの議論を充実させてほしいところだが、あまりこの家畜用の飼料用米の是非について議論しているマスコミは少ない。民主党への政権交代当初、民主党が兼業農家も含めて補助金をばら撒いた個別補償制度には一定の評価を行っていた報道機関が多いと思うが、あの制度は耕作放棄地を生み出し片手間に農業を行う兼業農家を生き永らえさせるための制度である。農地の集約には逆行していると思う。(民主党政権に対しては媚びていたくせに、自民党政権に対しては)どうも、反政府的な批判をすればそれで自分の仕事は果たせたと満足しているエセ・ジャーナリストが多すぎるのではないかと思ってしまった。農地のリース制度とリースされた土地の税制などを上手く調和させ、単純な兼業農家虐めにならない形で目指すべき方向に誘導するのは好ましいことだと思う。
以上が私のこの問題に対する理解の整理である。間違っていたらご指摘をお願いしたい。
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まず、先日テレビのニュースでは政府が減反政策の廃止という歴史的転換を決断したと報じていた。しかし一方で、例えばテレビ朝日のニュースなどで「『減反見直し案』決定も…補助金増額で“骨抜き”」という報道のされ方をしていた。この中では「減反を廃止できるのかどうかが焦点でしたが、与党からの要求で農家への補助金は増額され、大転換というより、骨抜きの改革案となりました。」と非常に批判的であった。減反で補助金が増えるというのは私的には何とも意味不明なので、いろいろと調べてみた。先週?のBS朝日の「激論クロスファイア」には林芳正農水相が出演していたので、そのビデオを見て解説を聞いてみると、農水省では一言も「減反廃止」とは言っていないらしい。正確には「生産調整の見直し」であり、減反の定義次第であるが、転作を含めた減反への政府の関与(補助金等)を止める訳ではなく、寧ろ積極的に関与すると言ってよい状況である。結果的に補助金の総額は増額されるのだが、問題は戦略的、国益的にそれが有益かどうかという判断である。
さて、言うまでもなく減反政策とは、外国の米と比べて生産単価が高い日本の米が商業ベースに乗るためには、生産された米を政府が高価で買い上げて安価で市場に流すという農業保護の政策に対し、これが需要を超える過剰な米の生産に直面すると、無駄に政府の税金が投入される上に膨大な米の在庫を抱えることになり、生産量を調整することを目的として作付け面積の減少を要求する一方でそこに補助金を投入することになった制度である。私の調べた限りで定かでないのは、転作奨励金という形で米から別の農作物や花などに農地を振り替えることへの補助金を投入する一方、耕作放棄地(休耕田)として転作しないでも補助金が支払われており、その金額がどの様な配分になっているのかは分からなかった。しかし、単純に考えれば転作すればそちらでの収入が期待される一方、転作して数年すれば何処かで転作奨励金の対象外になりそうな気がする一方、耕作放棄地の場合には明らかに減反指示に応じ続けているのは明瞭なので、こちらは補助金が継続的に貰えるような気がする。日本の農家の大部分は兼業農家で、お米の作付け面積は1ヘクタールに満たない農家が多い。つまり、兼業農家の場合には耕作放棄して稼働を減らし、その分、別の仕事に就けば2重取りで効率が良い。だから、耕作放棄に伴う純粋な減反政策の補助金は、農家の規模を縮小する方向で機能してしまっていた可能性が高いと私は感じた。現在の目指すべき農業は、競争力を付けるために大規模化を志向すべきであり、そのためには純粋な減反政策は兼業農家の保護に繋がり好ましくない。兼業農家の小規模な農地を集約し、それを企業などが大規模にな生産体制で活用する方向で進めるためには、補助金を出すなら耕作放棄ではない者に提供すべきだと考えた。この点で、林農水相の説明には納得出来た。
ただ、先のテレビ朝日のニュースなどでは補助金の増額を問題としていたので、ここで農水省が推奨する家畜用の飼料用米への転作奨励金というものの考え方を整理してみた。まず、この飼料用米の何たるかを調べてみた。参考になる資料が下記に見つかった。
ISSUS BRIEF Number 716 (2011年6月16日)「飼料用米の現状と課題」
飼料用米とは言うまでもなく家畜の飼料用に用いる米のことであり、現時点では生産量は極めて少ない。飼料用米の中には、所謂飼料用米そのものに加え、稲ホールクロップサイレージ(稲WCS)と呼ばれる実だけでなく茎や葉も同時に収穫し、密封して発酵させた粗飼料などが含まれ、これは輸入乾牧草の代替となる。ただ、この粗飼料は牛など限定的な家畜に利用され、豚や鳥には利用されない。この稲WCSは一見合理的に見えるが、収穫には専用の機械が必要で、普通の試料用米の様に主食用米の機械を利用できないらしい。このため、飼料用米として稲WCSを生産するには、ある程度の大規模な農家でないと対応できない。ちなみに、飼料用米の利点としては、豚肉の場合には脂肪中のリノール酸が減り、オレイン酸が増加するという。オレイン酸はオリーブ油に多く含まれ、人の場合にはリノール酸よりオレイン酸の方がずっと健康には良いと言われている家畜も同様と考えれば、飼料用米の利用にはそれなりのメリットはあるようである。ただ、鶏卵では、飼料用米の給与量が多くなるほど卵の黄身の色が薄くなると言われており、消費者の指向的には黄身の色が濃いのを好み、そのためにパプリカなどを鶏の飼料に混ぜたりすることも考えれば、鶏卵用の飼料には向かないかも知れない。
この飼料用米の見直しは、バイオ燃料の関連で2008年頃に国際的な穀物価格の高騰が起きたことに起因し、投機的な動きの影響も合わせて国内での自給率の向上には大いに意味のある動きである。ただ一方で、諸外国からすれば家畜飼料の穀物の日本への輸出にブレーキをかける効果もあり、大掛かりな補助金で対処するのには課題が残る。特に、非関税障壁と見なされれば、WTOなどに提訴される可能性も否定できない。現在は規模が小さいからある程度の許容範囲内にあるのだろうが、今後、生産調整の見直しの中で飼料用米の作付けが増大し、そこへの補助金が膨大になると外国も黙ってはいなくなる可能性はある。この辺の論理武装は必須だろう。
なお、この飼料用米の最大の利点は、水田での生産となるために、これまでの減反政策で耕作放棄されたり野菜などに転作された農地とは大きく異なり、急遽、主食用米の生産量を増やす必要性に迫られても、容易に戻すことが出来る。一般的に戦略物資として各国の主食に関しては少なくとも自給率を高める必要があるが、有事の際に小麦などの輸入量が低下した場合も含め、主食用米の生産のポテンシャルの維持という意味では今回の政策は戦略的に大きな意味がある。この家畜用の飼料用米として(私は、実だけでなく茎や葉も同時に飼料に使えるという意味で、「一粒で二度おいしい」効率的な)稲WCSを作ろうとすると、これは新たな機械が必要となるので、ある程度の大規模化が前提であるだろう。一方、今まで耕作放棄して兼業農家を続けてきた人々は、飼料用米を作ると仕事にならないので兼業を止めて専業に戻るか、それらの農地を集約するのに協力する形で農地を手放すか、どちらかになる可能性が高い。飼料用の穀物の価格の乱高下や、この飼料に伴う食物自給率の低下を改善するためにも、この政策は補助金の額は増えるが食料安全保障上の見地と、将来のあるべき農政への誘導という意味では価値のある政策の様に思えた。
だから、補助金の額が増えるか減るかではなく、もっと本質的なところでの議論を充実させてほしいところだが、あまりこの家畜用の飼料用米の是非について議論しているマスコミは少ない。民主党への政権交代当初、民主党が兼業農家も含めて補助金をばら撒いた個別補償制度には一定の評価を行っていた報道機関が多いと思うが、あの制度は耕作放棄地を生み出し片手間に農業を行う兼業農家を生き永らえさせるための制度である。農地の集約には逆行していると思う。(民主党政権に対しては媚びていたくせに、自民党政権に対しては)どうも、反政府的な批判をすればそれで自分の仕事は果たせたと満足しているエセ・ジャーナリストが多すぎるのではないかと思ってしまった。農地のリース制度とリースされた土地の税制などを上手く調和させ、単純な兼業農家虐めにならない形で目指すべき方向に誘導するのは好ましいことだと思う。
以上が私のこの問題に対する理解の整理である。間違っていたらご指摘をお願いしたい。
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