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教育の自由をめぐって『性教育裁判―七生養護学校事件が残したもの (岩波ブックレット)』

2009-10-11 01:55:36 | 読書
性教育裁判―七生養護学校事件が残したもの (岩波ブックレット)
児玉 勇二
岩波書店

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 2007年7月に、都立七生養護学校(現七尾特別支援学校)で、恐るべき教育介入が行われた。2日前に、定例都議会一般質問で、土屋敬之都議が七生養護学校で行われている性教育に関して非難を行っていた。これを受け、石原都知事は「あげられた事例どれを見ても、あきれ果てるような事態が堆積しているわけでありまして、すべての先生がそうとは申しませんが、しかし、そういう異常な何か信念を持って、異常な指導をする先生というのは、どこかで大きな勘違いをしているんじゃないかとおもうんです」と語った。そして当時の横山東京都教育長は、不適切な教育が行われないように「適切な」措置をとると答弁していた。

 その日、土屋議員を含む都議3名、日野市議1名、町田市議1名、杉並区議1名、東京都教育委員会職員7名、そして何故か産経新聞記者1名が、学校を訪れた。校長、教頭2名との面談の後、全員で、午後3時頃、性教育の教材が保管されていた保健室に入室、養護教諭らを一方的に非難した。そして、性教育用の人形の下半身をむき出しにした状態で並べ、産経新聞の記者に写真を撮らせた。翌日の産経新聞朝刊に「過激性教育を都議が視察」との見出しで記事が載った。教材も没収されることになる。

 障害者の性に関しては、世界的にも、また、国連で採択された障害者権利条約でも、性教育を含めてその重要性は認識されている。特に、知的障害者の場合は、被害者にも加害者にもなりうる可能性が高く、「性=生」教育が、障害者の自己肯定感、他者との関係における安心感を保障するためには、必要不可欠のものである。
性的自己決定権を含む人権と理解されなくてはならない。

 七生養護学校でも、問題解決のために、長い期間をかけて性教育が試行錯誤されてきた。抽象的な理解が難しい生徒のための教材の工夫や、自分の身体の大切さを認識するために作られた「からだうた」も、教師たちが、保護者の声を聞きながら作り上げてきたものであった。教育現場での評価も高く、平成13年には、心身障害者教育夏季専門研修に七生の教師が講師として呼ばれ講演を行っている。この研修会は、東京都知的障害養護学校校長会及び同教頭会が主催するものであった。

 この事件の背景には、都教育委員会の変質があった。都知事は就任直後、教育委員に氏と関係の深い人物を送り込み、「心の東京革命・推進プラン」では、「国の施策に忠実で、国のために奉仕する事に『喜び』を見出す人間を作り出す」という考えが根底にあった。それまで自由であった教育現場に、厳重な管理体制を敷き、挙句の果てには、教職員会議での挙手採択禁止の通達まで行うに至った。

 そして、産経新聞というマスコミを使うことも大きな特色であった。

 この事件の不当性に関して、東京地裁に2005年5月に、教諭や保護者が提訴する。そして2009年3月判決の判決を迎えることになった。

 判決の骨子は次の通り。
①七生養護視察に際しての三人の都議らによる養護教諭への避難などの行動は政治的介入であり、「不当な支配」である。
②都教委は都議らの「不当な支配」から教員を保護する義務があるのに放置したことは、保護義務違反となる。
③「こころとからだの学習」が、学習指導要領・発達段階を無視したとして、都教委が教員を厳重注意した事は、児童生徒や保護者からの事情聴取もなく専門家の見解も検討せず、裁量権の濫用にあたり、原告のうち12人に対する計120万円の損害賠償を命じる。

 なお、現在、裁判は控訴され東京高等裁判所で進行中である。この事件により、全国的に性教育が委縮する事態を招いた。再び、生徒の教育を受ける権利を取り戻すためには、まだ、闘いは必要である。東京地裁に判決は、その反撃のスタートラインとなるだろう。

 なお、元校長の「金崎」裁判も1審で勝訴しているが、その間の事情や、障害者と性の問題の関する問題提起、また、保護者や卒業生の声など、本書をお読みください。 


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2 コメント

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こんにちは (エウロパS2)
2009-10-11 17:17:43
「七生」が正しいんですよね。
記事の中では「七尾」になっていますよ。
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ありがとうございます (トッペイ)
2009-10-11 21:06:36
 エウロパS2さんには、これで、投稿文の表記違いを2度指摘してもらいました。
 反省しています。記事に関しては、主観的なことを除いては、事実部分に関しては正確にすることが原則です。
 最近は、身体の調子を考えなくては、ミスが続きそうなので、ブログにかける時間を減らす必要がありそうです。
 今回も、ライブドアの投稿と合わせて、内容表記の指摘、ありがとうございました。さっそく、本文の表記を直すことが出来ました。いささか、自己嫌悪の感です。
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