トッペイのみんなちがってみんないい

透析しながら考えた事、感じた事。内部障害者として、色々な障害者,マイノリティの人とお互いに情報発信したい。

マイノリティと文学「青頭巾・雨月物語」

2009-01-08 02:10:04 | 文学
 上田秋成の雨月物語は、本来は全編を通して読み進めていくものであるが、今回は「青頭巾」を抜き出してみる。各編はそれぞれに有機的につながっているはずなのだが。

 以前にふれた「稚児観音縁起絵巻」では、老僧のもとに現れた稚児は長谷観音の化身であった。稚児の持つ、あるいは持たされた聖性を表現したものなのだろう。童子から稚児潅頂という儀式を経て稚児というものに変化していく。女性蔑視の思考もはらんだものだったのだろう。

 「青頭巾」では、稚児ゆえに破戒する僧が描かれている。

 下野の国の富田という村里の山の上にある由緒のある寺には、代々高徳の僧が住んでおられた。現在の僧も学識も深く修行も積まれた徳の高い御方であった。越の国に潅頂の戒師として招かれた時に、12、3歳になる少年を伴って帰ってきた。身の回りの世話をさせるためにである。その少年の雅な容姿に魅了された高僧は寵愛するあまり、長年行ってきた仏事や修行も怠りがちになったようだ。しかし、今年の4月に少年は病気になり、日増しに悪くなるのを、国府の官位の中でも重だった名医に診てもらったものの治療の甲斐もなく死んでしまった。悲しみのあまり、少年の亡骸を火葬にも土葬にもすることなく、遺体を抱きしめ、顔に頬ずりをし、その手を握り締めて、やがて気が狂ってしまった。生前同様に少年を愛撫しながら、肉体が腐りただれてゆくのを惜しんで、肉をしゃぶり骨をなめ、結局は食べ尽くしてしまった。それからというものの、僧は山から村里へ下りてきては、新しい墓を暴いてはまだ新鮮な肉を食らう鬼と化してしまった。

 その村里に快庵禅師という高徳の上人が訪れた。当初は、村人たちは快庵禅師を件の僧と間違えて恐れていたが、やがて人違いとわかると事情を話し出した。

 話を聞いた禅師は翌日、荒れ果てた寺を訪れる。枯れ木のように痩せた僧が現れ、寺を去るように話す。禅師は一夜の宿を借りたいと言うと、僧は好きにすれば良いと答えた。その夜、僧は禅師を襲おうとするが、どこを探しても禅師の姿は見えなかった。翌朝、禅師が夜通しずっと同じ場所にいたことに気が付く。禅師は、僧に「愚僧の肉が食べたければ食べるがよい」と言う。僧は、禅師を見て生き仏ゆえに、鬼の濁った眼では昨晩、姿が見えなかったはずだと感心する。
 
 禅師は自身がかぶっていた青頭巾を僧の頭にかぶせ、「江月照松風吹 永夜清宵何所為 (こうげつてらししょうふうふく えいやせいしょうなんのしょいぞ)」という歌を授け、「おまえはこの場を動かずにこの句の真意を考え抜け。もし、真意が理解できたときは、本来の仏心にめぐり逢うことができる」といった去っていった。

 翌年の冬の十月の初旬に、再び快庵禅師はこの村里に立ち寄られた。里の長に僧のその後の消息を聞いたが、あれ以来里には姿を見せないと言う。禅師が寺を訪れると、うすぼんやりとした影のような人物が草の茂みの中で蚊の鳴くような声で、かの歌を唱えている。禅師は即座に持っている禅杖で「如何に、何の所為か」と喝を与えて僧の頭を打つと、僧の姿は一瞬のうちに消えて、青頭巾と白い骨だけが草葉の中にとどまっていた。

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2 コメント

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ありがとう! (マロヤ)
2009-01-10 10:45:31
寒さが続いています。
屋外は吹き付ける冷風がすごいです!
お体に気をつけて頑張ってください。
返信する
ありがとうございます (トッペイ)
2009-01-10 15:52:40
 もうすでに風邪をひいている状態ですが、何とか頑張ってみます。
 コメントと応援、ありがとうございました。
返信する

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