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透析しながら考えた事、感じた事。内部障害者として、色々な障害者,マイノリティの人とお互いに情報発信したい。

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透析患者のQOLの向上/性・妊娠・出産

2009-01-14 11:45:27 | 透析
 透析医療の進歩により、透析患者の余命が伸びるとともに、生きるのに精一杯の状態から、人間らしい生活を送りたいという希望も出てきた。いわゆるQOL(生活の質・人生の質ー生活者の満足感・安定感・幸福感などの諸要因の質)の向上を望むようになってきている。ただ生きているだけではなく、充実した人生を送ることが求められるようになった。仕事、芸術、スポーツなどへの挑戦など、自分の体の状態と相談しながら新しい展開を図ってみる。体が元気なうちにできることに試行してみる。もちろん、合併症などで、透析自体が負担な患者もいるのが現実であるが。今では、国内ばかりでなく、外国へも旅行することが可能となった。旅行透析を行うことができるようになったからである。積極的な社会への貢献も視野に入るようになった。

 患者の自分自身の生活に関しても、QOLの向上が現実的な問題となっている。たとえば、今まで余り語られることがなかった性の問題などである。透析患者は、副甲状腺機能亢進症、糖尿病による神経障害などにより「性機能低下」が合併症として起こりやすい。岩波新書の 白井将文著「性機能障害」では、透析患者についてもその障害について触れられている。その中で次のような説明がなされていた。
 
 透析患者のED(勃起機能の不完全な状態)の頻度は、50~80%と報告されている。しかし、高頻度に反して、治療を希望する患者は、4割位である。年代別では、30歳代が67%で一番多い。透析患者の検査として夜間勃起(NPT)の反応をみると、高頻度にNPTの異常が見られることから、透析患者の多くは器質性だと考えられる。

 要因としては、内分泌障害、神経障害、血管障害などが考えられ、これら複数の要因が複雑に絡み合って発症するものと考えられる。
 
 男性ホルモンに関しては、透析患者の血中テストステロン値が低いという報告が多くみられる。
 透析患者のEDに対し血管系の検査をすると、流入系や流出系血管に高頻度に異常がみられる。これは透析患者に高頻度に見られる動脈硬化症の病変が、陰茎の血管系に発生するのも当然と考えられる。
 神経系の検査では勃起に関与する自律神経が阻害されていると考えられる。バイアグラが慢性腎不全に対しても大変良い治療成績が得られたとの報告がある。しかし、慢性腎不全では薬物代謝の遅延などが考えられるため、医師の指導に従い「バイアグラ使用ガイドライン」を守って正しく服用する必要がある。
 この他に透析患者の貧血の改善による活動性の増加、性欲の高進、血液粘度の増加が見られる。エリスロポエチンにより貧血の改善をはかる。
  
 透析患者はこの他に、降圧薬をはじめとする様々の薬物を服用しており、しかも薬物代謝が低下しているので、薬物が健康人より大きく影響することも考えられ、こうした薬物によるEDも考えられる。

 以上のように、普段はあまり透析患者について語られることのない「性機能障害」について本書では触れられている。(※詳しい内容については、是非、本書を読んでいただきたい。)透析医療が開発された当初は、患者の余命を伸ばすことだけが目標とされてきたが、医療の進歩によりかくのごとき人間らしい生き方への希求からこのような問題が顕在化してきた。

 男性ばかりではなく、女性に関しても「妊娠・出産」が重要な問題として取り上げられるようになっている。全国腎臓病協議会の機関誌「ぜんじんきょう №231」でも、「透析患者にとっての妊娠と出産」が特集記事となっている。透析患者にとっての妊娠・出産は健常者に比べて非常に困難といわれている。透析医もこのことに関しては否定的な見解を持っている場合が多いようだ。男性同様に、女性の透析患者も性機能障害が見られることが多い。月経異常や排卵障害が頻繁に見られ、妊娠がしにくい。また、妊娠しても健常者に比べて母子ともにリスクが高くなっている。しかし、透析医療と新生児医療の進歩により、妊娠・出産の成功例も蓄積されてきている。

 透析医と産科糸の連携にはまだ問題があるが、出産適齢年代の女性にとって、子どもが欲しいという希望も、QOLの向上とともに今後は増加するものと思われる。こうした問題に対する環境が今後整備されることを希望するものである。この件に関しては、是非、「ぜんじんきょう」を読まれることをお勧めするものである。腎不全センター幸町記念病院・高津成子先生の解説とアドバイスが参考になる。その中で紹介されていう数字を最後にあげておく。
 1996年の我が国のアンケート
 対象女性透析患者3万8889名中妊娠例172名(0.44%)、うち出産例90名(妊娠例の52.3%)。