医療裁判傍聴記

傍聴した観想など

麻酔科医6人書類送検 男児の母「法廷で事実明らかに」 東京女子医大医療事故

2020-10-21 20:33:45 | 医療界
 東京女子医大病院(東京都新宿区)で2014年、首の手術後に鎮静剤「プロポフォール」を大量投与された男児(当時2歳)が死亡した事故で、警視庁捜査1課は21日、元准教授の男性(60)=世田谷区=ら担当した麻酔科医6人が術後の安全管理を怠ったとして、業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検した。副作用の兆候を認識して投与を中止すれば、死亡を回避できたと判断した。

 捜査関係者によると、6人全員の起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。書類送検されたのは集中治療室(ICU)の実質的な責任者だった元准教授のほか、38~45歳の男性麻酔科医5人。

 送検容疑は14年2月18~21日、同病院のICUで、良性の首のリンパ管腫の手術を受けた後に経過観察中だった男児に対し、人工呼吸中の子どもには原則使用が禁じられた禁忌薬「プロポフォール」を投与し、容体の変化に適切な対応をせず、同21日に急性循環不全で死亡させたとしている。

 同病院の外部有識者による調査報告書などによると、元准教授らは18日の手術直後、人工呼吸器のチューブが外れないよう、他の鎮静剤より効き目の良いプロポフォールの投与を開始した。翌日の心電図の異常な波形に気付かず、3日目の午前中に3度目の心電図異常を受けて実施した超音波検査でも「異常なし」と判断した。

 この日の午後には、ICU内にいた腎臓小児科医が尿の変色に注目し、腎臓の炎症の可能性を指摘した。麻酔科医は同じころ、心電図の顕著な異常を見逃していた。結局、投与は4日目の朝までの約70時間にわたり、積算量は成人の許容量の2・7倍に上った。

 捜査関係者によると、これまでの任意聴取に対して「心電図などに異常はあったが、副作用の兆候という認識はなかった」との趣旨の供述をしたという。

 書類送検を受け、40代の母親は取材に「(手術に関わった)耳鼻咽喉(いんこう)科医が(書類送検の対象から)外れてしまったのは悔しいが、6人が起訴され、法廷で事実を明らかにしてほしい」と話した。一方、東京女子医大病院は「ご遺族に心よりおわび申し上げる。本件を重く受け止め、今後も安心安全の確保に努める」とのコメントを発表した。

 同病院は高度な医療を提供する医療機関として診療報酬の優遇を受けられる特定機能病院だったが、厚生労働省は事故後の15年6月、安全管理体制に問題があったとして承認を取り消した。【土江洋範、最上和喜、鈴木拓也】

 ◇東京女子医大病院の男児死亡事故の経過

※外部有識者による調査報告書や遺族への取材などに基づく

【2014年2月18日】

午前9時35分 男児が首のリンパ管腫の手術を受ける。7分間で終了

午前10時半  ICUで装着した人工呼吸器が外れることを防ごうと、鎮静剤「プロポフォール」の投与開始

【19日】

午後3時半  初めて心電図に異常な波形が現れるが、気付かれず

午後11時6分 同様の波形が再び出現

【20日】

午前7時半  3度目の心電図異常に麻酔科医が初めて気付くが、午前中の超音波検査で心臓に異常なしと判断。以降、心電図異常は死亡まで継続

午後     腎臓小児科医が尿の変色に気付き、麻酔科医に腎臓炎症の可能性を指摘

午後2時13分 心電図の別の波形に顕著な異常が出たが、麻酔科医は気付かず

【21日】

午前8時45分 首のむくみが取れて人工呼吸器を外せると判断し、プロポフォールの投与を中止

午後2時20分 容体が急変し心停止。蘇生措置を始める

午後7時59分 急性循環不全で男児が死亡

2020年10月21日20:21配信 毎日新聞