神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 黒十字サナトリウム

2008-10-25 14:33:44 | SF
『黒十字サナトリウム』 中里友香 (徳間書店)




第9回日本SF新人賞受賞作品、二作目。
徳間の赤本。

選評でも「ポーの一族」があげられていたが、雰囲気は少女マンガ風。
親友、妹、妹の想い人……。時を越えたラブストーリーといえばきれいだけど……。
独特な雰囲気があって、読者を惹き込む力がある。寄宿舎とか、サナトリウムとかの単語に反応する人には、たまらない小説かも。

SF Japanに番外編収録時、ネタバレしないように登場人物の書き方を工夫したという涙ぐましい努力もあるので恐縮ですが、以下ネタバレします。



作中で語れる吸血鬼がらみの薀蓄や解釈はなかなか興味深い。
復活した死者=吸血鬼という伝承から、キリスト=吸血鬼という解釈。言われてみれば当然なのだが、まったく気付かなかった。吸血鬼というと、どちらかというとアンチキリストのイメージが強いので。先入観というか、天使幼稚園出身(笑)ゆえの強い刷り込みというか。

吸血鬼自体に善悪はなく、ただそういう存在として描かれるところはSF的だが、後半に行くにつれ、世俗的な吸血鬼のイメージに近づいていくあたりが弱いところか。ナースドリーの物語である第4章で終われば綺麗だったのかもしれないが、この章が一番の失敗作っぽい。いろいろな意味で、大傑作になり損ねた感じがする。

吸血鬼は食物ではなく、精気=エネルギーを糧とするということで、放射能=エネルギーからチェルノブイリにつながっているのか。また、石棺は原発のコアではなく、イエス・キリストの棺を暗示しているのか。このあたりも、もうちょっと疑似科学的に突っ込んでいって貰いたかったところ。

とはいえ、これが処女作なのだから、徳間書店は素晴らしい鉱脈を掘り当てたかも。
問題なのは、今後、著者がSFを書くかどうかわからなそうなところか(笑)