神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] サムライ・ポテト

2015-03-23 23:59:59 | SF

『サムライ・ポテト』 片瀬二郎 (河出書房新社 NOVAコレクション)

 

著者の片瀬二郎は2001年にENIXエンターティンメントホラー大賞を受賞しながら、10年間沈黙していたという。それが創元SF短編賞で大森望の目に留まり、再デビュー。その後、『NOVA』後半の常連となり、ついに《NOVAコレクション》から単行本発行にいたる。

表題作「サムライ・ポテト」の初出は大森望責任編集の『NOVA』シリーズだが、シリーズ中、1、2を争う傑作だった。夕暮れの電車内で電池切れ警告音が響くラストシーンは、何度読んでも涙を誘う。

この人の作品は、アイディアは目新しくないものの、その料理方法は独特で、当初の読みとは予想も付かない方向に、突然転がり出す処が面白い。しかも、それでいながら、その転がり方は、自分が昔に考えたようなシナリオと比較的重なっていて、まるで他人のような感じがしない。

『SFが読みたい!』でもベスト10にランクインしているくらい好評なので、まさか再び沈黙してしまうことはないと思うのだけれど、今後が気になる作家の一人である。

 


「サムライ・ポテト」
商店街の店頭で接客するキャラクターロボットが意識を持ってしまったら。それを気付かせてくれたのは児童虐待が疑われる少年の姿だったが、そこから物語は予想外の方向へ。意識とは何かを考えさせられる問題作。

「00:00:01pm」
こちらも『NOVA』初出。よくある時間静止ネタで、主人公が世界に絶望し、そこから復活していく様子が物語の核なのだけれど、その過程で登場する狂女の存在が、ある意味怖すぎる。

「三人の魔女」
これまた良くある仮想現実ネタなのだけれど、途中までの世界を疑う展開から、なぜこの世界が作られたのかが明らかになる結末のアンバランスさがおもしろい。そんな理由で、というのは、必ずしも陳腐な結末を意味するわけではない。

「三津谷くんのマークX」
イスラム国が猛威を振るっている昨今、現実感を増していく物語。誰もが使えるオープンソースとテロの結びつきは藤井太洋も指摘しているとおり。その魔法のような技術の紡ぎ手としての葛藤よりも、相手に一泡吹かせてやりたいという気持ちが前に出ていて痛快だけれど、それでいいのかという気も。

「コメット号漂流記」
これも序盤で仮想現実を疑ったが、スペースコロニーの話。攻撃を受けたスペースコロニーから剥がれ落ちたコンビニでサバイバルする話と思いきや、壮絶な戦闘が始まり、爽やかに見えても世界が終わる予兆で終わる。女子高生の素直な感情が理不尽な世界をぶち壊す様に喝采を送りたい。

 


天空の鏡に憧れて[3] 乗継

2015-03-23 22:36:58 | ボリビア

経由地のダラスで一旦、アメリカ入国。

ESTA登録のおかげで、機械で楽々パス。のはずが、妻の人は有人窓口へ誘導されてしまった。

ちょうどシステムの入れ替え時期で空港ごとに対応がまちまちのため、添乗員さんも把握していなかったが、一度でも入国して(指紋登録とかして)たらパスで、そうでない場合は登録のために有人窓口へ行けということらしい。

一時はどうなることかと思ったけれど、なんとか妻の人も通過。

ダラスでは時間があったので、今度こそビールをと思ったけれど、あいにく、登場ゲート付近ではビールが売ってない。到着ターミナル付近にはアイリッシュバーがあったのだけれど、モノレールのスカイリンクで戻らないといけない。そんなわけで、Au Bon Painというベーカリーカフェでサンドイッチ。ソフトドリンクのメニューが無くて訳が分からなかったけど、ドリンクディスペンサーの表示を見て注文。サンドイッチの味は、アメリカにしてはおいしかったのではないか。

ダラスから国内線でマイアミへ。ここは国内線なので、機内ではドリンクサービスのみ。

妻の人がメニューを見て、クランベリー・アップルジュースを頼むが、売り切れ。残念と思っていたら、CAの方が後から持ってきてくれた。これには妻が感激。アメリカン航空、ちょっとだけ見直した。

マイアミ到着は深夜近くだったので、売店やスタンドもクローズ。ここでもビールが飲めない。

マイアミからラパスへは出国なのだけれど、相変わらずよくわからない感じの入国とは比べ物にならないチェックの甘さ。

深夜にやっとマイアミからラパスへテイクオフ。ここの席は妻の人と隣同士。どうやら、ツアーの名簿の順番で、くっつくかわかれるかは運任せのようだ。

席にいくと、枕と毛布のセットが無い。いや、わかってるよ、そこの男の子とおばさんだろ。直接言ってトラブルになるのも怖いので、CAさんへクレーム。ちょっと偉そうな制服の男の人だったけれど、機内巡回して複数持っている人からあっさり奪還。さすが。ここでもアメリカンのイメージアップ。というか、成田-ダラスが最悪でしょ。

こんな時間に機内食ではあるが、体内時間はお昼時なのでちょうどいい。今回も、チキンかパスタでパスタを選択。アメリカ名物のジャンクなチーズマカロニが出てきた。これ、実は嫌いじゃない。

ボリビア便はアルコール無料対象航路じゃなかったはずなんだけれど、なんとダラス便と同様、ワインは無料。白ワインを頼んだら、ミニボトルが出てきたので、これは$7かと思ったら、なんとfree! 相変わらず、よくわからん。

 

 

 


[SF] SFマガジン2015年4月号

2015-03-23 21:46:34 | SF

『SFマガジン2015年4月号』

 

隔月刊になってから実質1回目の出版。

cakesでの週刊S-Fマガジンは読むのを忘れて無料期間を過ぎてしまうので、紙の媒体も捨て難い。いや、週150円でいつでも読めるんだけどさ。この当たりの心理的敷居の高さは、慣れなのだろうけれども、如何ともし難い。

ハヤカワSF文庫の2000番到達記念特集として、ハヤカワSF文庫総解説PART1[1~500]と題して、500番までの総解説が掲載されている。Twitter上で担当者を探したりと、出版前から苦労が見える特集記事だ。暇なときにパラパラとめくるために永久保存版。

逆に言うと、まだ全部に目を通してないです。細かく読むと、すごいことがいろいろ書いてあるらしいが、今はネットで流れてくるそれらの二次情報だけでも充分おもしろい。そのうち暇になったらちびちび読んでいこう。

ちょっと気になったのが、各巻の表紙をコラージュしたページに抜けがあること。早川に在庫が無いなら、アマゾンのマーケットプレイスでもどこでも入手できそうなものなんだけれど。と思ったら、これは《ターザン》の未刊行作品分らしい。いつの日か刊行されるときが来るんだろうか。そういう俺も、ターザンなんて、一冊も読んでない。

 


「ガニメデ守備隊」 谷甲州
読みきり扱いなのだけど、連載だよね。毎回書いているけど、これだけだと何のことやら。

「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」 田中啓文 《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》
くすくす笑いが止まらないネタ満載。夕陽パノラマとか、大伴某とか。そうかそうか、田中啓文は2代目だったのか。まさかとは思ったけど、ケイブンシャの正式表記を調べてしまったよ。

「長城〈後篇〉」 小田雅久仁
やっぱり〈前篇〉だけの短編でよかった気がする。どんどんディープなインナースペースに突き進んでいくのが、ただのオカルトにしか読めなくなった。

「良い狩りを」 ケン・リュウ/古沢嘉通訳
これは度肝を抜かれた結末。ケン・リュウは叙情的ファンタジーしか書かないと思っていたのに、これはびっくり。いきなりのオールタイムベスト級だった。魔法と妖術の衰退と、新たな魔法としての蒸気機関なんて説明は蛇足すぎる。


神林長平と円城塔のこれまでの連載はちょうど佳境なんだろうけど、2ヶ月空くとさすがに厳しい。特に、神林のも円城のもややこしい話なので、記憶が・・・・・・。

新しい方の連載も、冲方丁のはせっかくの感情の高まりが冷やされてしまうので隔月刊は悪影響だと思う。川端裕人のはまだなんとか付いていけそう。

 


[SF] SFマガジン2015年2月号

2015-03-23 21:38:08 | SF

『SFマガジン2015年2月号』

 

創刊55周年記念号というわりに、特別な記事は無かったような気が。隔月刊刊行に移行した一発目でもあるが、先月号が出ているので、実際に2か月空くのは次号の4月号からだし、いまいち実感が無く。

特集記事の「PSYCHO-PASS サイコパス2」も映画の宣伝レベルで終わり。まがりなりにも文芸誌としては、もっと突っ込んだ記事が欲しかったかもと思いつつ、映画を見に行けていないので、ネタバレされてもという気も。

サイコパス2のテーマは "What's color?" なのだけれど、横山えいじ『おまかせ!レスキュー』の巻頭カラーネタがいい感じでかぶっていておもしろかった。鹿矛囲が「お前の色は何色だ?」と問いかけるシーンで、「白黒」って表示を出して欲しい(笑)

それよりも、この号は、冲方丁『マルドゥック・アノニマス』の連載がついに開始された号として記録されることになるだろう。新カトル・カールともいうべきクインテットの出現と、新しい仲間の登場、そして、あっさり退場とか、厳しすぎる。『ベロシティ』を超える壮絶な戦いが待ち受けるであろうことが予感され、喜ぶべきか、おののくべきか。

そもそも、ウフコックの死が描かれることは予告済みで、プロローグもガス室の描写から始まるのだからネタバレも糞も無いわけだが、やはり、愛すべきキャラクターとの別離がカウントダウンされ始めるのは心が痛い。

川端裕人『青い海の宇宙港』も連載開始。これ、まだ初回だけれど、これ絶対おもしろいやつだよ。王道の少年×冒険×科学文学。

円城塔『エピローグ』は、世界の大きな構成が見えてくる感じだけれど、あまりに支離滅裂すぎて、詳細がどうなっているのかよくわからない。『NOVA+』の短編「Φ(ファイ)」も、もしかしたら関係あるかもしれない。

 


「製造人間は頭が固い "The Institutional Man"」 上遠野浩平
SFマガジン初登場ながら、まさかの統和機構ネタ。しかも、強化人間の出自をめぐるキーとなる小道具もあり、なぜこれがSFマガジンに載ったのかをいろいろと邪推してしまう。

「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」 ケン・リュウ/古沢嘉通訳
なんだか合わなかった。仮想空間ならではの時間の流れの速さをうまく使っているのとは思うのだけれど。

「影が来る」 三津田信三 《TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE》
著者も言うように、ウルトラQというよりは怪奇大作戦とか、トワイライト・ゾーンネタ。そういえば、新聞記者って探偵と並んでこの手のミステリで主人公になることが多かったのだけれど、昨今のマスゴミ的な風潮からか、主人公が新聞記者というだけで昭和レトロを感じてしまう。

「長城〈中篇〉」 小田雅久仁
前篇だけで完結でもよかった気がするのだが、さらに連載は続く。この世界の論理的説明はつけられるのか、それとも、不条理な幻想で終わってしまうのか、雰囲気は嫌いじゃないだけに、結末のつけ方に期待したい。

- 「PSYCHO-PASS GENESIS(予告篇)」 吉上 亮
あまりに予告篇すぎて、拍子抜け。

「と、ある日の兄と弟」 宮崎夏次系
最近、時々掲載されるコミック枠。なんで主人公は、親ではなく、兄だったんだろう。

 


天空の鏡に憧れて[2] 出発

2015-03-23 21:22:22 | ボリビア

ツアーは成田空港の集合時間が16:00だったので、家で軽く昼食を済ませてから、余裕を持って出発。

のはずが、なんと中央線でトラブル発生。乗るはずだった中央特快が運転取り止め。とりあえず来た快速に乗るも、約20分のロス。このままでは新宿から予約した成田エクスプレスに間に合わない。

東京駅まで行って、次のNEXを捕まえるか、それとも、別ルートを考えなければならないのか。と、電車内で焦って検索。

なんと、このまま東京駅まで行けば、乗り換え時間9分で新宿発の成田エクスプレスに追いつけることが判明。これはNEXが恵比寿経由でぐるっと大回りするせい。しかし、NEXは東京駅の横須賀線ホームへ到着するため、京葉線とまでは行かないまでも、中央線ホームからは深くて遠い。

東京駅へ到着するやいなや、でかいスーツケースを抱えてダッシュ。往きでお土産が入っていないスカスカな状態だったからできる荒業。しかも、横須賀線の上りホームと下りホームを間違える。

なんとか正しい乗車位置にたどり着いたら、なんとNEXは5分遅れ。走らなくても余裕で間に合った。しかも、到着した車両は横浜発の車両と連結のため、さらに待たされる。まったく、なんのために焦って走ったのか。

そんなわけで、無事にNEXに乗車。一路、成田空港へ。

 

成田空港ではツアー待ち合わせ場所に無事集合。

資料確認後、アメリカン航空のカウンターで個別にチェックイン。あれ、個別にチェックインなら、集合しないで来た順にカウンターに行けばよかったんじゃ……。

チェックインしたところ、新婚旅行だというのに二人の席はばらばら。本日満席のため、席移動不可とのこと。ツアー内で融通してくれとそっけない返事。添乗員さんに言ったら、個別に交渉してくれと、これまたそっけない返事。困ったものだ。

幸い、窓側2列席の窓側と、離れた席の通路側だったので、通路側の人に交渉してみるかと覚悟を決める。ボリビア直行じゃなくて、ダラス行きだから、英語はまあ通じるでしょ。

と思ったら、添乗員さんがツアー内で交渉して替えてくれました。まぁ、2列席の窓側だけ残ってるはずは無いので、かなりの確率で同じツアー内なんだろうなとは思ってたけど。

これで無事、横並びの席を確保。と思ったところで、更なるトラブル発覚。通路側の席のテレビが映らない。ああ、これが噂のアメリカン仕様か。アメリカン航空のテレビが壊れていたというのは、ブログや口コミなどで結構見かける。製造元のサムスンが悪いのか、アメリカンのメンテが悪いのか。おまけに、CAに言っても何もならないそうだ。そりゃそうだろう。座席をはずして配線調べなきゃならないわけだし。

そんなわけで、映画を見たい妻の人とポジションチェンジ。『ゴーン・ガール』が日本語で見られたらしい。新婚旅行でそれを見るのはいいのですか?

安定飛行に移ると機内食配膳。へんな時間の出発だと、無理矢理食わされる感があるのだけど、この時間帯は夕食時なので違和感ない。

しかし、ここでまたトラブル。ビールを頼もうと思ったら、$7取るらしい。おいおい、アメリカン航空のWebページには日本発着太平洋路線ではエコノミークラスでもビールとワインは無料と書いてあるじゃないか。騙された! いったいどうなってるんだ、アメリカン航空。英語でクレームつけるほどの英語力も無いので、おとなしく白ワインをいただく。安ワインにありがちな、いわゆる合成アルコール臭とか、防腐剤の苦味は無く、それなりに良いワインだったようだ。

しかし、観察していると、あちらこちらでビール$7事案が続出。みんな、Webページ見て、ビール無料って信じてるんだよね。特に、日本じゃ食事時にワインを飲む習慣は広まってないし。アルコール有料が広まってから、自分が乗る路線の情報は事前にWebで調べるようにしているのだから、Webの情報はちゃんと更新して欲しい。というか、飛行機によって(CAの気分によって?)サービス変えるのやめて欲しい。

ちなみに、メニューはペンネのペスカトーレ。これまでの経験から、アメリカの航空会社の機内食にライスが入っているのは例外なく不味い。あいつら、米がどういうものかわかってないからな。妻の人はポークジンジャーonライスを美味いと言っていたけど、味覚が信じられない。

朝食は、幸か不幸かライスが売り切れでオムレツ。と言っても、クレープみたいなものでカスタードとミカンの缶詰がくるまってた。これもそれなりに悪くなかった。

アメリカ大陸では上空からグランドキャニオンを探すも、今回は見つけられず。思ったよりも東側を飛んでたかも。ちゃんと場所を覚えておこう。

そんなこんなで、ダラスに到着。一晩かけてやっと到着と思っても、まだ経由地。これで行程のやっと半分。

 

 


天空の鏡に憧れて[1] 発端

2015-03-23 20:55:48 | ボリビア

何をいまさらの話ではありますが、2/7から2/15の9日間でボリビア旅行をしてきたので、その顛末を記録しておこうと思う。

ボリビアといえば、サッカーファンなら、ブラジル代表が勝てない程の高地という印象しかないだろうけど、そんなところへいったい何をしに行ったかというと、天空の鏡と言われるウユニ湖をひと目見たかったのである。

ウユニ湖のことを知ったのはいつだったか覚えてもいないけれど、その時は日本発のツアーが無くて、ボリビアかペルー、もしくは、アメリカのフロリダあたりに行ってから現地ツアーを捕まえるしかなかった。まさに、知られざる秘境。

今では大手旅行会社がツアーを組んでくれるので、いい時代になったものだ。おかげで現地は日本人だらけだけどな!

新婚旅行はここに行きたいと、半ば冗談で言っていたのを聞きつけたお嫁さんが、ぜひにと言ってきたので、なんとボリビアへ新婚旅行という珍しいことになってしまった。普通、ハワイとか南の島にするだろ。

実は次の週の日程の方が、新月だし、オルロのカーニバルもあるしで良さそうだったのだけれども、仕事の都合でこの日程になった。月明かりの強さをわかっていれば、無理して次の週にしたかもと思ったのは帰ってきてからの話。

結果的には、星空はいまひとつだったものの、お目当ての天空の鏡は思う存分満喫できたので、この日程でよかったのだろう。他の日程では、鏡張りになっている場所を時間をかけて探さなければならいこともあるのに、この時は宿泊した塩のホテルからすぐ目の前が、すでに鏡張りだったからな。

ところが、この旅行は一歩間違うと大トラブルに発展しそうな事件をいくつも乗り越えて、完遂できたのである。ちょっとおおげさだけれども、ほんとにそう。大事にならなくてめでたしめでたしということも含めて、記録に残す。


[SF] ラブスター博士の最後の発見

2015-03-02 23:59:59 | SF

『ラブスター博士の最後の発見』 アンドリ・S・マグナソン (創元SF文庫)

 

あらすじを読んで見送りにしようかと思っていたけど、書評で評判がいいので購入。しかし、その内容は表紙や紹介文から想像されるようなさわやかなラブストーリーではなかった。

体裁的にはスラップスティックなドタバタコメディ。そこで描かれているテーマは、マーケティング(ステマを含む)による世界支配と、その愚かしさではないかと思う。

広告や宣伝が世界を支配するというテーマはSF小説にかぎらず、都市伝説でもよく知られたテーマだ。これは、そのテーマを寓話的に推し進めた世界での物語。

この物語がラブストーリーであるのは確かなのだけれど、あまりにひねくれすぎているので、まともなラブストーリーを期待する人には到底オススメできない。

読み終わった後で考えてみると、誰かさんの計算ミスで世界はズタズタになってしまうわけだけれども、ラブスター博士による「インラブ」の計算が間違っているとはどこにも書かれていない。シグリッドの相手がインドリディにならなかったのは計算間違いなどではなく、意図的な犯罪の結果だったわけだし。つまり、真実の愛は計算できないなんて、どこにも書かれていやしない。

だからこそ、自由意志なんて存在しないということを逆説的に強調してしまっている。人間の嗜好は計算しつくされ、それがために、人間の行動はメディア(明示的な広告やステルスマーケティング的な情報)によって簡単に操作できる。

博士は愛と死を計算し尽くして、最後には祈りや神の存在までも計算し出すわけだけれども、それだって、間違っていたとはかかれていない。そこにはちゃんと神がいたのだという解釈で正しいんじゃないか。そして、自分自身を計算しなかったことが皮肉な悲劇であると。

おもしろいのは、この物語は比較的最近に書かれたのにもかかわらず、舞台は過去のレトロフューチャーっぽいこと。

これは物語の寓話的性格をより強調しているだけでなく、かつての計算機万能な未来予測ってこんな感じだったよねという懐古的な意図もあるんじゃないか。さらに、そこで扱われていたメディアへの警鐘は、困ったことに今でも有効だよねと。

そして、こんな奇妙な万人受けしない作品を、真実の愛を説く優しいラブストーリーとして売ろうとする商業的書評はまさにマーケティング的ねじ曲げそのもの。

書評家のM氏は本当に最後まで読んだのかよ。