神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 寄港地のない船

2016-03-31 23:59:59 | SF

『寄港地のない船』 ブライアン・オールディス (竹書房文庫)

 

なぜに今さらという感じではあるが、オールディスのなんと初邦訳作品。

タイトルからしていきなりネタバレしているけれども、文明が退行しつつある世代宇宙船内の話。

世代宇宙船といえば、ハインラインの『宇宙の孤児』が有名だが、これはそれを下敷きにしたオールディス流の回答版。「本当に頭がふたつあるの?」にはクスっとさせてもらった。

戦時中(!)に東南アジアで過ごした経験が元になっていると言われるジャングルや変異しつつある生態系の描写は、かの代表作『地球の長い午後』を思わせる。そのジャングルを切り開くと通路や部屋があって、過去の遺物が残っているという設定は、世界の謎解きという面からもワクワクする。世界樹の迷宮かよ!

基本的に科学技術の多くが失われた設定なので科学考証的にボロは出にくいが、この宇宙船が何なのか、どこからどこに向かっているのか、なぜ文明が退行したのかといった設定面はまったく古びておらず、びっくりする。

当初の目的地も11光年かそこらなので、どこぞの宇宙戦艦が目指したマゼランと比べると現実味がある。生まれる前どころか、約60年も前に書かれた小説なのに、ぜんぜんレトロフューチャーじゃなかった。

知能を持ったネズミなんかも出てくるので、そもそも彼らはヒトなのかという疑問を持ちながら読んでいたので、すべての謎が解明されたときには、ああそっちだったのかという驚きとともに、納得感があった。最終的には、実は××だったというありがちなオチから、人間怖い系の展開になっていくのだけれど、1958年という発表年を考えると、いろいろな類型の元祖としてリスペクトせざるをえない。

 

[SF] 寄港地のない船
『寄港地のない船』 ブライアン・オールディス (竹書房文庫)
http://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/6030701

http://www.takeshobo.co.jp/photo/shohin/9784801903555-m.jpg
http://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/6030701


なぜに今さらという感じではあるが、オールディスのなんと初邦訳作品。
タイトルからしていきなりネタバレしているけれども、文明が退行しつつある世代宇宙船内の話。
世代宇宙船といえば、ハインラインの『宇宙の孤児』が有名だが、これはそれを下敷きにしたオールディス流の回答版。「本当に頭がふたつあるの?」にはクスっとさせてもらった。
戦時中(!)に東南アジアで過ごした経験が元になっていると言われるジャングルや変異しつつある生態系の描写は、かの代表作『地球の長い午後』を思わせる。そのジャングルを切り開くと通路や部屋があって、過去の遺物が残っているという設定は、世界の謎解きという面からもワクワクする。世界樹の迷宮かよ!
基本的に科学技術の多くが失われた設定なので科学考証的にボロは出にくいが、この宇宙船が何なのか、どこからどこに向かっているのか、なぜ文明が退行したのかといった設定面はまったく古びておらず、びっくりする。
当初の目的地も11光年かそこらなので、どこぞの宇宙戦艦が目指したマゼランと比べると現実味がある。生まれる前どころか、約60年も前に書かれた小説なのに、ぜんぜんレトロフューチャーじゃなかった。
知能を持ったネズミなんかも出てくるので、そもそも彼らはヒトなのかという疑問を持ちながら読んでいたので、すべての謎が解明されたときには、ああそっちだったのかという驚きとともに、納得感があった。最終的には、実は××だったというありがちなオチから、人間怖い系の展開になっていくのだけれど、1958年という発表年を考えると、いろいろな類型の元祖としてリスペクトせざるをえない。


[SF] S-Fマガジン2016年4月号

2016-03-24 23:59:59 | SF

『S-Fマガジン2016年4月号』

 

表紙は誰かと思ったら、故デヴィッド・ボウイ。『地球に落ちてきた男』なんかは有名だけれど、S-Fマガジンで特集されるとはびっくりだ。映画出演だけではなく、火星人設定のコンセプトアルバムなんかもあって、SFとの親和性は高かったのだろう。今だと誰になるんだろう。BUMP OF CHICKENもSEKAI NO OWARIもちょっと違うような気がするけど、Linked Horizonまで行くとまた違うような。あ、GACKTか?

個人的には『SFが読みたい! 2016年版』のベストSF 2015上位陣の読み切り小説が多数掲載されていることがうれしい。どれも今年度ベスト級の出来。特にイーガンの「七色覚」と、倉田タカシの「二本の足で」はオールタイムベスト級だと思う。毎回、これぐらいの質と量っていうのは難しいですよねー。


○「overdrive」 円城塔
思考が光速を越えたらどうなるのか。物語ることを突き詰めていった『エピローグ』に続き、今度は思考ることか。相変わらず良くわからない蒟蒻問答だが、確かにトリップするわ。

○「烏蘇里羆(ウスリーひぐま)」 ケン・リュウ/古沢嘉通訳
『紙の動物園』収録作品で言えば「良い狩りを」に連なるスチームパンク的作品。いきなり北海道の羆害事件が出てきて驚く。蝦夷地の開拓から逃れた羆は妖魔なのか、……あるいはアイヌか。

○「電波の武者」 牧野修
『月世界小説』と同設定らしい。野放図な妄想が実体化して、現実を侵食していく。しかし、現実と地続きの妄想はこの現実社会を抽象化し、抽出し、抽籤で500名様に当たりまぁっす!

○「熱帯夜」 パオロ・バチガルピ/中原尚哉訳
『神の水』からのスピンアウト。ルーシーがシャーリーンと出会ったときのエピソード。渇きの時代を生きる強い女性がここにもひとり。

○「スティクニー備蓄基地」 谷甲州
えーと、ラミエル?

○「七色覚」 グレッグ・イーガン/山岸真訳
視覚障碍者がインプラントをハッキングして手に入れた七色の世界。脱出したはずが疎外されていたという皮肉。「それ、もうアプリがあります」という台詞の破壊力。技術のコモディティ化は社会を良くも悪くも変えてしまう。

○「二本の足で」 倉田タカシ
“二本の足で”動き出すのはスパムメールというのが爆笑モノ。一発ネタで終わるかと思いきや、架空の記憶をしゃべり続ける偽者の友人の存在が甘酸っぱくてほろ苦い。断片的に語られる近未来の日本社会も興味深い。これはぜひ長編化して欲しい。

○「やせっぽちの真白き公爵(シン・ホワイト・デユーク)の帰還」 ニール・ゲイマン/小川 隆訳
なんで天野喜孝の絵じゃなかったんだろう。シン・ホワイト・デュークなんて聞いたこともなかったけれど、おもしろいことをやっていたんだなと今さらながらの感想。

○「突撃、Eチーム」 草上仁
遺伝子操作や出産前遺伝子診断が進んでいった先の未来。人間の失われた能力が特殊技能になり得るというコメディ。これ、見方を変えると障碍者と呼ばれる人々の特殊技能を活用しようという話にもなるのかも。

 


[SF] ロックイン

2016-03-17 23:59:59 | SF

『ロックイン ―統合捜査―』 ジョン・スコルジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

タイトルの“ロックイン”は、感覚や意識はあるのに身体を動かせない状態であり、ある種の伝染病によって引き起こされる。

パンデミックによる壊滅的被害を世界中に引き起こしたヘイデン症候群。この病気を生き延びた者の多くはロックイン状態となってしまい、脳内に埋め込んだネットワークを用いて“スリープ”と呼ばれるロボットを遠隔操作して暮らしている。という設定。

また、ヘイデン症候群からの回復者には、統合者(要するに生身のスリープ)になる適正を持つものもいた。すなわち、脳内に他者を受け入れ、身体の制御を明け渡すことができるのだ。

ここまでならばSFではよくある話なのだが、さらに、あまりにも患者が拡大したために、このヘイデン症候群への福祉政策が財政難の原因となり、福祉予算を大幅にカットすることになりそうという状況下で物語の幕は上がる。財政難のために福祉政策の予算が削減されるというのは、SFではなく現実にもありそうな話。

主人公シェインはロックインに陥ったヘイデンであり、上院議員に立候補しようとする富豪の父親に利用される息子であり、FBIの新人捜査官である。彼が最初に担当した事件では、ホテルの部屋に身元不明死体と、黙秘する統合者。はたして、誰が誰を殺したのか。

スリープに対してそのまま中身の三人称が使われたりするので、読み始めからかなり混乱する。さらに、女性の統合者の中に男性が入っていたり、男性同士のカップルが普通に存在していたりするので、ちょっとした叙述トリック気分。しかしながら、この叙述トリックを現実化したようなことが事件の真相に係わってくるのでなかなか侮れない。

シェインが富豪の特権を利用して、身体は自宅に置いたままで、あっちにこっちにスリープを乗り換えて捜査を進めるのもスピード感を生んでおもしろい。スリープならば撃たれても平気だろうと思いきや、レンタルのスリープは使用者が壊さぬように痛覚センサーが強めに設定されているとか、クスリとさせる小ネタもいろいろ冴えている。

軽快に読めるSFミステリの秀作ということではあるのだが……。

統合者の設定はともかく、身体障碍者が遠隔操作のスリープを利用して社会生活を行うという未来はけして夢物語ではなく、目前に迫っているのではないか。そして、スリープを利用することが障碍者の権利として認められた場合、社会的というか、法令面、倫理面、いろいろな方向で軋轢を生む可能性は高いだろう。

保護される弱者から特権を持つ強者への移動は、取り残された弱者や、強者から転落した者たちの不満を生み、世論の反動保守化の強める。これって、どこかで見た光景のような気が。こういうエンターテイメントの中に、さらっと根深い話を突っ込んでくるのがスコルジーらしくて良い。

ところで、スリープ(sleep?)なの、スリーブ(sleeve?)なの?

 


ミステリー・ワンダー・ランドのセンス・オブ・ワンダー[7] クスコの街角、14角の石

2016-03-13 23:31:22 | ペルー

昨日ほどではないにしても、またしても早朝から移動開始。今晩から2日間はマチュピチュ泊で、大きなスーツケースは持ち込めず、手荷物は一つだけと言われていたので、リックサックに入れる服装に悩む。結局、ほとんどの人は大きめのバッグと小さめのバッグという二つ持ちだったので、そんなに悩む必要は無かった。

朝5時のレストランはパンとバターと飲み物だけ。と思ったら、今日はチーズとハムがあった。もしかしたら時間が遅くなると、ちゃんとソーセージとかスクランブルエッグとか出てくるんじゃないのか?

早朝、曇り空の海沿いをホテルからリマ空港へ。ここから国内線でクスコへ。おもしろいのが、リマ空港は手荷物検査の列が国際線と国内線で分かれているくせに、その先で通路が合流していること。セキュリティ的に大丈夫なのかね。ここで逆に行ってしまう人がいるので、添乗員さんが口を酸っぱくして念を押していた。

飛行機は3席+3席と小さめ。約1.5時間の飛行で、飲み物とお菓子のサービス。ここではインカ・コーラを飲んでみた。うーん、メロー・イエロー?

クスコに着くと、ピーカンのいい天気。飛行機から見下ろしたクスコの街並みは、屋根がみんな同じ赤茶色。高地の盆地に発展した街なのだが、今では山の斜面の上の方にまで家が建っている。その家もすべて赤茶色。

クスコ空港には黄金マスクのモニュメントが飾られていたり、レンタカーブースのカウンターにはコカの葉がザルに入れておいてあったりと、なかなか趣深い。リマとはまた違う国にきた気分。

空港の外に出ると、4000メートルの高地なので風は涼しいが、太陽がジリジリと熱い。空気も薄いはずだが、そんなに気にならない。

ここでクスコのガイド、ホセさんと合流。この人はなかなか面白い人で、日本に出稼ぎに来ていた時にお世話になったので、その恩返しでガイドになったんだとか。

クスコの市街はそのまま世界遺産に指定されている歴史ある街並み。とはいえ、あまり見る余裕も無く、まずは太陽の神殿へ。

ここはインカの宮殿を教会に作り変えてしまったという有名な場所。外観だけでも、精緻なインカの石組みの上に粗雑なスペインの石組みがのっかてるのがよくわかる。インカの石組みのすごさは上に登ってみるとわかるが、壁面だけでなく、壁の内部までもが継手のように組み合わさっていることだ。これなら確かに地震にも強いし、長持ちするだろう。

壁の外側にはこぶし大の突起があるが、これは彫刻が削られた跡ではなくて、夏至や春分の日といった特定の日の影によって作る絵やサインだと言われている。しかし、壁が破壊されて全容が不明なため、何のモチーフだったのかはわからないらしい。まったく、キリスト教はどこへ行っても世界の破壊者だな。

教会の内部には一部だけ当時の様子がわかる遺跡が残っており、そこが公開されていて写真撮影も可能。一方、他の教会部分や回廊の絵画は撮影禁止。こんなところにも、スペイン人のケチな小ささが出ているんじゃないか。

神殿の中には、水洗トイレとも言われる水路が刻まれた石や、隙間を埋めた爪の先ほどの小さな石、90度の角度に内側をえぐられた石など、様々な石の加工技術を見ることができる。これはすごい。

豊作を祈る虹の神殿、稲妻の神殿、太陽の神殿。大空のコンドル、大地のピューマ、地下のヘビという3層構造。わずかに残る遺跡から、インカの人々の世界観が伝わってくる。自然を恐れ、敬い、祈る。その宗教観は、八百万の神に親しむ日本人にはわかりやすいかもしれない。

 

神殿の外に出ると、細い路地を行く。路地の左右にはインカの石組みを再利用した壁や、模倣した壁が続く。昔からの石組みは博物館や店舗に転用されている。これだけ街中に遺跡が露出し、生活の場となっている都市というのも珍しい。自分たちの街の持つ観光的な資産価値を良くわかっているのだろうか。

その路地裏でガイドさんが示した小さな石。これがなんと14角の石。石組みの隙間を埋めるような複雑な形をしている。

続いて、大きな13角の石。1メートル以上もあるこんなに大きな石をどうやって精密に加工するのやら。

最後に、12角の石。この石だけは大人気で、観光客の切れ目が無い。隙を狙って、やっと写真が撮れるくらい。そのくせ、13角の石や14角の石は人気が無い。ガイドブックに載ってないことと、13は縁起が悪い数字で、14角の石は小さいからだそうだ。

ここでガイドのホセさんの持ちネタを。「インカの人は勤勉。だから、こんな石組みが作れた。日本人も勤勉。でも、ペルー人、勤勉じゃない。どうして。半分スペイン人だから」そう言って、ホセさんはグフフフと笑った。

 


ミステリー・ワンダー・ランドのセンス・オブ・ワンダー[6] ピスコサワーに撃沈

2016-03-13 21:44:07 | ペルー

幼いころからの憧れ、ナスカ地上絵上空の遊覧飛行はかなりゲロゲロな感じで終了。帰りの機内は完全にグロッキー。吐き気を抑えて、眼を閉じて眠ろうとする。無事(いろいろな意味で)にピスコ空港に着陸したときには本当にホッとした。

中には完全にダウンしている人もいて、しばらく空港で休憩。その間に次の飛行の準備をしていたけど、乗客はまた数人。なぜこんなに少ないのかは、ガイドさんにも思い当たることは無いらしい。もしかしたら、前日にアメリカ東海岸で大雪のため、飛行機が欠航していたのが影響しているのかも。

とりあえず、メンバー全員が復活してから昼食のレストランへバスで移動。

レストランは壁に地上絵のモチーフが飾られた観光地仕様。その中で眼を引くのがデカデカとしたクスケーニャの看板。ここまでクスケーニャが席巻しているのか。これは現地に来なければわからない情報だろう。

どうしようか迷ったけど、クスケーニャはクスコまでお預けにして、ピスコ発祥のカクテル、ピスコサワーをいただく。ピスコ酒はブドウから作った蒸留酒で、これを樽で醗酵させたらブランデー?

ピスコサワーはライムの酸味であっさりとしていて、クラッシュアイスをシェイクしているので夏にぴったり。卵白が入っているためか、フワフワの泡が浮いていて、見た目は可愛らしい。しかし、この店のピスコサワーは舌がピリピリするぐらいアルコール分がやけに濃かった上に、グラスもやたらとでかい。

食事は魚介のスープとペルー風パエリア。このパエリア的なものは現地語で何と言うのかわからないけれども、かなりおいしかった。米はインディカ米の形をしているが、充分にスープを吸っているのか、パサパサ感はほとんど無かった。味はちょっとスパイシーで、ファミレスにあるメキシカンピラフのよう。

ちなみに、ペルー料理はだいたい味が濃い目で、ビールを飲みながら食べるにはちょうどいい感じなのだが、手元にあるのは高濃度のピスコサワー。ショートカクテルだというのに、かまわずグビグビ。

おかげで、帰りのバスはほとんど気を失っていたようで、気付くとトイレ休憩のお土産物屋さん。観光初日だし、完全に塀で囲まれた立地の観光客仕様なので物価は高めだろうと、あまり買い物はしなかったのだけれど、思い返せばクスコや空港よりもちょっと安かったし、品揃えも良かったので、実はここがオススメだったのかもしれない。

この日はホテルに帰るともう夕方。一休みして夕食。

食事前にナスカの写真をカメラのFlashAirからスマホにコピーしようとしたのだが、認証がうまくいかずに失敗。これは日本で事前に確認しておくべきだった。PCがあればパスワード変更できたのに。

夕食はシザーサラダと、牛肉の細切り炒め。肉はひれ肉っぽかった。味はやはりスパイス塩味。ちょっとだけコリアンダーの気配がしたが、耐えられる程度。付け合せのライスはさすがに昼食のパエリア風に比べればパサパサだったが、ボリビアで食べたような“香水がかかったプラスチック片みたいなもの”よりは断然まともで、食べられるものになっていた。これはやっぱり、日系人が多いせいで、それなりに米をおいしく食べる方法が浸透しているのだろうね。

ここではビールを。敢て、クスケーニャではなく、リマのビールであるCrystal。日本のビールに良く似たラガービール。苦味強め。味はまあまあ。

部屋に帰ってシャワー。今朝と違って熱い。これなら問題ない。明日も早いのでとっとと就寝と思ったが、welcomeドリンクのチケットがあったので、バーに行ってここでもピスコサワー。昼間飲んだのより、アルコールも軽いしグラスも小さくてショットドリンク風。そう、カクテルって、これでいいのよ。

 


[SF] 魔法の国が消えていく

2016-03-07 23:28:49 | SF

『魔法の国が消えていく』 ラリー・ニーヴン (創元推理文庫)

 

積読消化。古本で購入。

魔法の源であるマナを有限な天然資源の一種であるエネルギー源としてロジカルに描いたことで有名な作品。

なんとwikipediaに日本語の項目もあるくらいの名作。ニーヴンの諸作でwikipediaに項目があるのは《リングワールド》とこのシリーズだけ。

“マナ”はメラネシア人の言葉から宣教師が紹介した概念らしいが、これをうまくヒロイックファンタジーに結びつけることで、ファンタジー世界が擬似科学の世界に近づくことになった。

この概念はマジックザギャザリングといったゲームや、現代の異世界系アニメ、ライトノベルにも受け継がれている。いわば、元祖的作品。これを読んでいると、一部の人にはちょっと自慢できるかもしれない。

マナは有限な天然資源ということから、石油枯渇のアナロジーとしての物語なのかと思っていたら、あまりそういう感じはしなかった。どちらかというと、マナが地上で不足しているなら、月を魔法で地上に引き降ろせばいいという案に、小惑星や彗星を資源化するという宇宙開発の発想の近さを感じて面白かった。さすが、ニーヴン。

さらにもうひとつ、創元文庫にしてはイラストが多い。小口の部分が黒く見えるほどで、ライトノベル並だ。絵師(!)はエステバン・マロート。古き良き時代の正統なヒロイックファンタジーといった様相の絵柄で、物語にとてもマッチしている。この絵柄は天野喜孝にも影響してるんじゃなかろうか。

イラストが多い創元SFはイラストレイテッドSFシリーズとして、全部で8冊あるらしい。そういえば、同じくラリー・ニーヴンの『パッチワーク・ガール』もそうだった。

そういう薀蓄はさておき、地上に残った最後の神であり、愛と狂気を司るローズ=カティの存在が面白い。この神様は、愛と狂気を司るといいながら、狂気に駆られた人間を理性的に戻す力があるのだ。これによって、人類は理知的になり、戦争を止め、農耕にいそしみ、文明が発展し始めたという。

ファンタジーの世界から、科学技術の世界への移行。それは、実は最後まで生き残った神の力のせいだったというのは、なかなか面白い皮肉な展開だ。そしてそれは、ハードSFである『リングワールド』と、ロジカルファンタジーである『魔法の国が消えていく』の両シリーズを代表作とする、まさにニーヴンらしい結末だったなと思った。

創元って、よく復刊フェアをやっているイメージがあるのだけれど、この手のイラストレイテッドSFは復刊しないのかね。

 


ミステリー・ワンダー・ランドのセンス・オブ・ワンダー[5] ナスカ激写

2016-03-06 23:56:38 | ペルー

ピスコ空港からのナスカの地上絵遊覧飛行。

まずは搭乗前に地上絵の案内図を渡される。航空写真の上に地上絵を配置し、そこに順番が振ってある。この順番に飛ぶので、あらかじめ予習してくださいということらしい。

ところがこの地図、実は問題が。地上絵のサイズが地形図とはまったく異なるので、この地図を頼りに探そうとすると、地上絵がまったく見つからない。

これに気付いたのは1番クジラを見たとき。まず自分のサイドから旋回していたのだが、近くのパンアメリカンハイウェイと枯れ川の流れっぽい地形を目印に探そうとするも、まったく見つからず。反対の側で旋回中にやっと見つけたが、この地図からの印象よりも、もっともっと小さい。

さらに、天候が良すぎたのか、地面が白く反射してまぶしく、しかもほぼ真上で旋回するので、地上絵の線のコントラストがほとんどわからないくらい。なお、このページの写真はコントラストや明るさを変更して見やすくしてます。こんな風には全然見えない。

(1) クジラ
最初の遭遇。勝手がわからずにまったく見つけられず。反対側の窓にちらっとだけ見えたが、実は意外にはっきり見える方。見つけられなかった最大の原因は、その小ささ。飛行機はかなり低空を飛んでいるのだが、それでも、手を伸ばした握りこぶし大ぐらいだった。

(2) コンパス
クジラが見つかってからは、どのくらいの大きさ、コントラストを探せばいのかが分かったが、今度はどれが本物かわからないくらいにいろいろな線や幾何学模様が見え始める。えーと、コンパスってこれ?

(3) 台形
台形的なものや三角形的なものが多すぎ。そこらじゅうにある。ある意味すごい。

(4) 宇宙飛行士。
逆サイドからだったので、特徴的な地形で見当をつけてからズーム。これは比較的うまく取れた。黒い山肌に白く線が浮き出ているのがはっきりわかる。

(5) サル
白い大地に白い筋で、良く見えない。グルグル模様が見えたような見えないような。そして、乗り物酔いの気持ち悪さが一気に襲ってくる。適当に撮ったら、写ってたのは車の轍だった。こんな紛らわしいところを走り回った奴は死刑にしろ。

(6) 犬
気持ち悪くて見てない。

(7) ハチドリ
これは一番良く見えると聞いていたので、気を取り直してトライ。うまく撮れた!

(8) クモ
これもコントラストが弱くて発見できず。逆サイドで一瞬だけ見えた。確認したら、偶然撮れてたけど、周囲の幾何学模様の方がはっきりしていてわかりづらい。

(9) コンドル
コンパスか台形のそば。肉眼では見えるのに、カメラのレンズ越しだと見えなくなったので適当にシャッターを切ったら撮れてた。もうこうなってくると、モチーフが隠されているだまし絵のよう。

(10) アルカトラス
これは肉眼では良くわからず、適当にシャッターを切ったら撮れてた。これも周囲の幾何学模様に隠れてるけど、下半分に良く見ると、首の長い鳥がいる。

(11) オウム(またはトンボ)
割とでかい。特徴的なピョンとした部分が良く見える。

(12) 手
パンアメリカンハイウェイそばの展望台が目印。遠くからの方が良く見える。真上に来るとコントラストが低くなって真っ白に見える。

(13) 木
(12)のすぐ隣。ふたつまとめてちゃんと獲ったつもりが、あまり良く撮れた写真がない。

 

こんな感じで、とにかく思ったよりもはっきり見えない。未だに新しい地上絵が見つかるというのも、さもありなんという感じ。車の轍らしいものの方がはっきり見えるくらい。いやー、たいへんだった。

ガイドさんの言う通り、地上絵の眺めを楽しむなら、肉眼に限る。

 


ミステリー・ワンダー・ランドのセンス・オブ・ワンダー[4] ピスコ離陸

2016-03-06 22:51:41 | ペルー

朝の10時頃にバスが到着したのはピスコ空港。新しくてきれいな空港だ。天候は晴れ。完全に夏。カラッとした空気だが、陽射しが眩しくて痛い。

ピスコ空港はナスカ遊覧飛行の基地だが、小型機を使うために飛行が天候に大きく左右される。このため、基本的に事前予約は受け付けておらず、現地にて申し込みの方式。混んでいる日には数時間も待たされるとのことだったが、なんとこの日は我々以外に2、3人程度。すぐに飛べるとのこと。

チケット発券前に、持ち込む手荷物だけを持って体重測定。これで座席が決まる。さすが、小型機。前後左右のバランスが重要。渡されたチケットは12番。

小さな空港とはいえ、仰々しい手荷物チェック後にゲート前で待つ。

待っている間に壁の説明や写真を見たところ、この空港はなんと国際空港。まだ使用されていない建物の2階にも立派なゲートがあり、大型機へボーディングブリッジがかけられるようになっているみたい。いずれはアメリカなどの外国から直接ピスコ空港に着陸して、そのままナスカ遊覧飛行へ乗り換えってこともできるようになりそう。

事前の注意では、写真を撮ろうとしてがんばると乗り物酔いがひどくなるので、できるだけ肉眼で楽しむようにしてくださいとのこと。子供の頃は乗り物に酔い易かったけれども、東京の満員電車に20年間鍛えられれたのか、最近は気持ち悪くなることもめったになくなってきたので、酔い止めを飲んだら大丈夫だろうと高をくくっていた。……このときは。

ゲートから灼熱の滑走路を歩いて移動。大きな空港に小さなプロペラ機。2人のパイロット。そして、12人の乗客。なんと、12番は最後尾の席だった。シートも普通の席じゃなくって、バスの最後尾のようなベンチシート。リクライニング無し。しかも、低くて足を延ばして座る感じ。シートベルトも3点支持のハーネス。これ、もしかしてやばい席?

小型プロペラ機は砂漠と雲の上を快調に飛行。思ったより揺れは少なく、まったく問題ない。心配して損したと思った。……このときは。

そして遂に、そのときがやってきた。

はい。見事に気持ち悪くなりました。

女性パイロットが英語と日本語で「ツバサのサキ。こっこ、こっこ、ココでーす」と、お前は『イッテQ』のイモトか! というアナウンスで翼を地上絵に向けてくれるのだが、最後尾からのせいで翼の先からかなりずれたところに見える。それを肉眼で見つけ、とっさにカメラを向けファインダーをのぞいてズーム。これが良くないらしい。

3つ目ぐらいから完全に気持ち悪くなる。ハーネス状のシートベルトをしながら窓に向かって身体をひねるので、首にベルトが食い込むのも気持ち悪さを加速。脂汗を流しながら首のベルトを片手で引き下ろし、必死でシャッターを切るも、いったいどこを撮っているのかわからないくらい。

地上絵に翼の先を向けて旋回を、左右1回ずつ繰り返すのだが、自分の側が先の場合は見つけられないことも。逆側の方で見つけて、周囲の地形を記憶。その後に自分の側であたりをつけた場所にズームして探す。という方法だとうまくいったが、そもそも気持ち悪いので、そんなにうまく撮れるはずもなく。

結局、肉眼でさえ見つけられないものもあった。この奮闘結果は次ページにて。

 


ミステリー・ワンダー・ランドのセンス・オブ・ワンダー[3] パン・アメリカン・ハイウェイ

2016-03-06 22:27:04 | ペルー

ホテルで仮眠の後、というか、シャワー後にちょっとだけくつろいだだけで2Fのレストランでへ朝食に。

コンチネンタル風とは聞いていたが、本当にパンとジャムしかない。保温容器は出ているんだけど、卵もフルーツも無い。飾りみたいにオリーブか何かがちょこっと置いてある程度。

そして朝の5時。まだ暗いうちにホテルを出発。あれ、これって昨晩の救出バスじゃないか。なるほど、代替のバスが早く着いたのはこういうことか。

バスはリマから南の港町、ピスコを目指し、海岸沿いをひた走る。

海岸沿いの丘の上には派手に電飾された十字架が。そういえば、この辺りって、謎の巨大カップル像とかもあるんだっけと思っても、暗くて何も見えず。

昨晩から付き合っていただいている現地ガイドさんも、とりあえず寝ましょうかという感じで、特に案内も無し。

バスはパン・アメリカン・ハイウェイをひた走る。この高速道路はアラスカから南米大陸の南端まで繋がっているのだそうだ。凄いですね。

途中で目立ったのは、巨大な養鶏場テント。面白いことに、新しいものから古くてボロボロずたずたのものまで順に並んでいる。これって、新しいのを建てたら古いのは放置しておくんですかね。

そして、途中の集落はなぜかどこも建築ラッシュの様相。最近地震でもあって被害が出たのかと思いきや、ペルーの家はほとんどが建築中のままだという。理由はいろいろ聞くけれど、お金が貯まったらちょっとずつ増改築しているので、いつまでたっても工事が終わらないということらしい。

大きな集落が見えなくなると、今度は荒地の上に校庭のように白線を引いてある区画が目立ち始める。区画の中にはバラックがあったり、何もなかったり。これは田舎から出てきた人たちが住むための場所で、ほとんどが不法占拠なんだと。

バラックの壁には、マークや名前が書いているところが多いが、「KEIKO」と書いてあるのが眼を引く。これは、アルベルト・フジモリ氏の娘、ケイコ・フジモリ氏のことらしい。今年(2016年)は大統領選挙があり、ケイコ・フジモリ氏は有力候補なのだそうだ。日本人向けのリップサービスもあるのだろうけど、フジモリ氏の業績はペルー旅行中に何度も耳にすることになる。

人が住めるのかどうかもわからないバラック小屋とは対照的に、ゲーテッドコミュニティのような場所もいくつかあった。「アジアンリゾート」なんて看板もあって、何じゃこりゃな感じ。後で調べたところ、この辺りはアジア郡という地名で、リマの人たちにとってのリゾート地らしい。検索したらあったよ、たぶんこれだ。それにしても、紛らわしい。

途中のトイレ休憩はガソリンスタンド。併設の売店は小さめ。インカコーラやコカコーラを売っている。あんまり民俗的な感じはなく、アメリカのロードサイド文化(というか、コカコーラ?)に染まっているただのガソリンスタンド。巨大なモンスターエナジーがあったけど、それって飲み過ぎると死ぬやつじゃ……。

街中に入ると、かっこよく漢字が書かれた車を発見。さすがにこれは日本の中古車じゃなくって、自分で書いたんだよな。

原付三輪車も多く見かける。ピスコ周辺だと赤い三輪車両が多いので、これは赤いものなのだと思っていたら、他の土地に行くと今度はほとんどが青かったりしておもしろい。これは流行の問題なのか、大量生産のせいなのか。

そんな感じで、バスはピスコへ到着。

 


[SF] SFが読みたい! 2016年版

2016-03-03 23:59:59 | SF

『SFが読みたい! 2016年版』 S-Fマガジン編集部

 

国内はS-Fマガジンの連載を入れれば13勝7敗。海外は積読を入れれば10勝10敗。まぁ、実際には国内10勝、海外8勝。一昨年あたりから、読む量が大幅に減ったと言っている割には、思いのほか健闘しているじゃないか。

なお、たくさん読んでれば勝ちなのかとか、勝ち負けとは何事だとか、そんな苦情は受け付けません。

ランキングを見ながら思ったことは、まさに『早川さん』で言われているとおり、国内のベテランや、海外の故人が多くランクインしていて、いったいいつのランキングなのかということだ。別にそれは悪いことではないし、『早川さん』が言うように、SF市場に活気が戻ってきたことの証拠ではあるのだけれど、市場の成熟と先鋭化は表裏一体なのがこの業界。

海外YAがどうしたこうしたという記事がある割りに、ライトノベル系SFのランクインは今回ゼロだ。

海外1位の『紙の動物園』は芥川賞作家ピース又吉が推薦したこともあり、非SFファンにも充分リーチするだろうが、国内1位、2位を僅差で分けた『エピローグ』と『月世界小説』は果たして気楽な気持ちで手に取った非SFファンでも楽しめるものだろうか。

非SFファンが、最近盛り上がっているジャンルであるSF小説なるものを読んでみようと思って円城塔の『エピローグ』を読み始めたときの当惑たるや、想像するとお気の毒様としか言いようが無い。

この状況は、なんとなく80年代を思い起こさせるような……。

それも、世代別SF作家ガイドなんてものが載っているせいで、第3世代SF作家と屑SF論争の時代をチラッと思い出してしまったせいもあるのだけれど。

それにしてもこのガイド、デビュー年で分けているとのことだが、山田正紀が第3世代に入っていたり、海外作家も日本デビュー年で掲載したりしているので、世代別というにはなんだか違和感ありありな感じ。

日本での出版年で考えれば、オールディスやレムなんかも、今まさに旬の作家ということになってしまうのだろうか。

それはさておき、記事、コラムからの感想をメモ。

この表紙はやっぱり、フォースの覚醒のあのシーンなのか?

真っ先に読んだ各出版社からのお知らせは、毎年ワクワクするのだけれど、毎年だまされるからかなぁ……。『ブルーマーズ』は最終的にいつ出るんだよ東京創元社。『愛なんてセックスの書き間違い』はどこに行ったんだよ国書刊行会。

国内1位のメッセージとして、円城塔が「作者がそれまで何を書いていたのだったか忘れてしまっても構わないよう」に構成を考えたというのには笑った。そりゃ、作者が忘れるのだから、読者だって忘れるだろう。

イーガンの難易度表示にはあんまり納得してない。『順列都市』なんてわかりやすい方だと思うけど。逆に、『ディアスポラ』よりも『クロックワーク・ロケット』の方が難易度高いと思う。

円城塔の難易度表示も必要だよな。『オブ・ザ・ベースボール』が★五つで。とか考えていると、思いついた。

そうだ、ベストSFランキングにも全部に難易度つけておけばいいんだ!