神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの

2013-09-23 14:22:20 | SF

『スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの』 籘真千歳 (ハヤカワ文庫 JA

 

スワロウテイルシリーズが4巻目で完結。

異性間で感染するウィルスからの隔離のため男性地区と女性地区を分離し、それぞれのエリアでは異性の替わりに人工妖精〈フィギュア〉と呼ばれる美形アンドロイドと結婚するというあまりにもオタク的な設定と、過剰な少女趣味的描写で話題を読んだ作品だったが、最終的には新たな知性とのファーストコンタクトというSF的大ネタにたどり着いた。

そもそもが、フィギュアにやどる意識はどこから来るのかという疑念に始まり、悲劇の計算機的人工生命体の登場、さらに生身のアンドロイドの誕生秘話といったあたりが伏線となり、最後の付録的に裏テーマが明らかになるという趣向。ここを蛇足と見るか、最大のテーマと捉えるかは人それぞれだと思うが、ハヤカワ文庫で出す以上はこれくらいの大風呂敷は必然だ。

小説としての仕掛けも、わざと読者を混乱させるようになっており、ここも評価が分かれそう。Aパート、Bパート、Cパートでそれぞれの“揚羽”を主人公にストーリーが進むのだが、最初は時系列がよくわからない上に、前作までの詳細をよく覚えていないと、ちょっとした記述を見落としてしまう。

それでも、読み進めていくうちに構成の意味が明らかになると、たどり着くはずの結末も見えてしまい、それはどうしてもハッピーエンドではなさそうな感じがして、それに気付いた時に涙が出そうになった。

この仕掛けだけではなく、意図的なのか、意図せずなのか、読者を混乱させる罠があちらこちらに。そこが世界に深みを与えているのが面白いところ。たとえば、揚羽が麝香に語った物語は真実なのか騙りなのか、揚羽が与えた第4法則は本当はなんだったのかなど。これらの不整合には作者の単純ミスもありそうで怖い。

さらに、D、E、Fと蛇足的にパートは進むのだが、実はその一部はアナザーエンドなのではないかという気がする。そういった意味では蛇足中の蛇足なのだけれど、トゥルーエンドでは救われない読者の心の救済という意味ではとても効果的なエピソードだと思った。

ちょっと本筋とは別な話題として、国民と国家についての問題提起が、多少不快ながらも面白かった。“不快な”という理由は、そんな話を突然持ち込むなよという程度の感想でしかなく、別にこのテーマが不快というわけではないのだが。

国民が不在の国家は成り立つのか。例えば、納税や社会保障は日本国籍を持つ日本人以外も対象になっているのであるから、国民不在の国家というのは存在可能かもしれない。しかし、日本国憲法においては主権は国民にあるとされている以上、日本国民が“存在しなく”なれば国家の主権者が存在せず、国家は崩壊する。この強引なロジックと、それを実現してしまう力技の設定、そして、それに対してなんとしても日本という国家を守ろうとする壮絶な闘いは、思考実験としても興味深く、全体的にほんわかしたフィギュアたちのエピソードとの激しい落差が印象的だった。

一方で、ニーチェ談義についてはどうにも乗れず。だいたい、元ネタを読んでいないし、語られる内容もあまり頭に入らなかった。この超人談義が揚羽と真白の行動の起点になっていることは想像できるのだが、残念ながら、ちょっと興味をそそられなかった。

そういうネタはさておき、人間に奉仕するために生まれた美少女アンドロイドの揚羽(3人それぞれの“揚羽”、そして4人目の“揚羽”)それぞれの想いが世界を動かし、読者の心も動かすという感動作だった。

なお、続編は無くていい。というか、これ以上のさらなる蛇足は不要でしょう。雪柳や他のフィギュアたちの日常を描くスピンアウトならいいかもしれないけど。

 


[SF] 夢幻諸島から

2013-09-23 14:05:33 | SF

『夢幻諸島から』 クリストファー・プリースト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

なんとも感想の書きにくい小説だ。そもそも、これは長編小説なのか、短編集なのか、はたまた、文字通りのガイドブックなのか。

おそらくは、太陽系外のどこかの惑星。大半を海で覆われた星の夢幻諸島と呼ばれる無限の島々で起こるエピソードの集成。

共通して現れる人名はほとんどが芸術家である。小説家、建築家、画家、思想家、記者、喜劇役者……かといって、彼らを主人公とした連作短編というわけでもない。

そもそも、不思議な物理現象によって高高度からの撮影ができず、地図の作成できないような土地であり、多数の方言が入り混じっているために、ある島の話と別な島の話が実は同じ島の出来事を描いたものである可能性があったりする。

この設定は、作中の事実として語られている。そして、それぞれの島の逸話はすべて伝聞であるとの表明もされている。すなわち、最初から正確な事実を記載したものではないのである。

その中から、読者がいかようにも物語を引き出せること、それがこの作品の一つの魅力かもしれない。たとえば、ミステリ好きならば、パントマイマー殺人事件の真実を読み解こうとして見ても良いし、恋愛ものが好きならば、ある小説家と彼が愛した女性の生涯に想いを馳せてみるのもいいだろう。

しかし、そこに描かれているエピソードや伝聞が真実であるのかどうかは誰も知らない。編者ですら、知らないという“設定”なのである。まさしく、確信犯的騙りの文学。

混沌の中から何かを読み解こうとする人、もしくは混沌そのものを楽しもうとする人、読み方はそれぞれだろうが、どうにでも楽しめそうな稀有な作品。

自分はコミス殺人事件をもっとも意識して読んでいたのだけれど、わざと真相がわからないようになっているのだという結論に達し、解読を諦めた。そもそも、ある喜劇役者の死と、あるパントマイマーの死と、コミスの死は同じ事件を述べているのかすら怪しくなってしまった。まさに、プリーストの術中にはまってしまった感じ。でも、それが心地よい。

 


[コンサ] 2013 J2 第34節 札幌 vs 長崎

2013-09-22 23:59:59 | コンサ

2013 J2 第34節 コンサドーレ札幌 1-0 V・ファーレン長崎 @スカパー


先週、いきなり悲劇的なニュースが飛び込んできた。上里が右膝前十字靱帯断裂、全治8か月。

前節の栃木戦はフル出場していたのだが、その後の練習で痛めたというわけではなく、いつぞやの怪我が悪化して今頃発覚ということのようだ。まさか、ここで手術してしまうと選手が足りなくなるので、河合の復帰まで隠していたということでもないだろう。

その河合も肋骨を痛めた上に、この日はイエローカード累積で出場停止。ボランチは俺らの10番宮澤だけになってしまったのだが、今年はいまひとつの出来で、なかなか信頼できない。ボランチを組む相手はルーキー離れしたルーキーの深井。これまた怪我からの復帰直後で、良く間に合ってくれたものの、不安は残る。

そんな中、北海道どころか全国的な注目を浴びているのがベトナムの英雄、レ・コン・ビン。遂に右サイドで先発出場。これまでは短時間の途中出場のみだったので、先発でどこまでやれるのか、ベトナムの英雄がどれほどのものなのか見せてもらいたいところ。

もうひとつのサプライズはGK曳地。前節4失点とはいえ、GKの責任とは思えないので先発交代にはちょっとびっくり。曳地にとっては、これがラストチャンスかもしれないぐらいの扱いだろう。

 

コイントスに勝って、キャプテン内村は風下を選択。厚別の風は強めだが、神経質になるほどの影響は無さそう。後半にフェホを入れてロングボール勝負を狙っていたのかもしれない。

先発のレコンビンは噂とは違い、フォアチェックを積極的に仕掛けている。連携も悪くなく、守備面での不安は無い。しかし、今日もシャツはイン。

序盤はお互いにサイドを起点として攻撃を組み立ててきた。札幌攻撃陣は、フェホというターゲットがいないせいで、グラウンダーでボールをつないでいく戦法。いっぽうの長崎は、DFラインの裏へ抜ける長い縦パスを狙う感じ。

最初にゴールを奪ったのは札幌。砂川→内村→前田→上原→レコンビンのダイビングヘッド!

砂川から内村へサイドのオープンスペースへ出した長いボールからの完璧な崩しだったが、前田の浮き球のパスを上原がシュートミスして終わりかと思った。ボールはゴールラインと水平に飛んで逆サイドへ。しかし、その先にはレコンビンが飛び込んできた。上原、ナイスパス(笑)

しかし、このゴールで喜び過ぎたレコンビンはユニを脱いでサポ前へ。あえなくイエローカード。

その後も、まえしゅんの流し目フェイントからのドリブル突破など、コンサドーレが主導権を奪って観客を沸かせるプレーが続いたが、なんと大事件発生。レコンビンが相手のユニフォームを手で引っ張って転ばせてしまったとの判定でイエローカード二枚目。これでレコンビンが退場。

得点機会阻止にもあたらず、このプレーにイエローカードは厳しいような気もするが、TLではイエロー相当なプレーとのコメント多し。

一人少なくなったコンサドーレは内村が右サイドに入って、4-4-1というか4-5-0の布陣へ。そのままなんとか1-0で前半終了。

少ないチャンスでカウンターを狙う攻撃陣はともかく、DF陣にミスが多く、裏を取られ過ぎで怖い。オフサイドをアピールして手を挙げる暇があったら必死で追いかけろ。アピールするのは、直接プレーに関与していない選手に任せろ。

 

後半開始時に、前田に替えて荒野。内村がワントップに戻って4-4-1。守備では2ラインのブロックを作り、ワントップのカウンターに賭けるという寸法。

当然ながら、長崎に攻め込まれるシーンが多くなる。札幌はカウンター一本狙い。後半開始直後は荒野が勢い良くボールを追っていったが、本当に序盤だけ。

それでも、攻撃では惜しいシーンを何度も作る。荒野、内村、砂川が絡んでカウンター。攻撃時には4-2-3ぐらいのシステムに見える。気にしていた風の影響はほとんど見えない。

後半半分を過ぎたあたりで、深井に替えてフェホを投入。これは前を増やしたいのではなく、深井の膝の問題だったかもしれない。4-4-1の布陣は変わらず、中盤は右から内村、荒野、宮澤、砂川の並び。

このフェホが高い、速い、顔が怖いの3拍子で、長崎が必要以上に警戒してしまった気がする。DFがさらに下がって、数的優位を生かし切れない。

そして、守備固めで砂川に替えて櫛引。櫛引をどこに使うのかと思ったら、右サイドバック。日高が一列前。3バックかとも思ったが、相手ボールの時にはしっかりとした4枚2列のブロックを作っていたので、明らかな4-4-1。

櫛引は攻撃にもからむし、悪くない。一方、日高のSHは下がり過ぎて櫛引とポジションかぶる場合が多く、微妙。

最後はとにかく相手ボールになるたび、相手パスが前線の選手へ通るたび、手に汗握る、スリリングというよりはスリラーな感じの試合だった。

しかし、守り切った。なんとか勝った。痺れた。

 

相手を圧倒して攻め勝つ試合も気持ちいが、こうやって必死で守り切った試合の緊張感からの解放感も捨てがたい。これはただのサッカー好きには味わえない、応援するチームがあってこそ感じることができる感覚だと思う。

ヒーローインタビューは曳地。「今まで足を引っ張ることが多かったけど、みんなに助けられて」とか、「ビンの退場は自分のミスキックから」とか、苦労人な立場と優しい性格がわかる内容だった。曳地の目もウルウル。解説の曽田も「うるっときた」。

終わってみれば、シュート数は札幌 8-4 長崎で相手の2倍。前半4-2なので、一人少ない後半も同じ4-2。長崎は追加失点を恐れたのか、一人少なくなった札幌を攻め立てるだけの迫力が無かった。そこがチームとしての未熟さなのかもしれない。少なくとも、J2一年生のチームに、そう簡単にJ1に行かれてはたまらない。

これでホームは8試合負けなし。うち、7試合は完封勝ち。厚別神話は続くよどこまでも。

そして、初先発、初得点、初退場を決めたレ・コン・ビンの英雄っぷりはすごかった。途中交代で初出場のときは初アシストも決めたし、本田以上に“持っている男”かもしれない。この試合は、本国ベトナムでも、伝説の試合になるんじゃないか。

厚別神話の継続、そして、英雄レコンビン伝説の新たなるはじまり。今日みたいな気持ちを前面に押し出して気迫で守る試合ができれば、結果はついてくるでしょう。是非ともプレーオフ圏内に滑り込んで欲しい。

(J1だとそれだけじゃ足りないのは何度も思い知ってるけどな!)

 

 


[コンサ] 2013 J2 第33節 栃木 vs 札幌

2013-09-16 08:54:44 | コンサ

2013 J2 第33節 栃木SC 4-3 コンサドーレ札幌 @栃木県グリーンスタジアム


今回も関東後援会バスツアーで参加。札幌からのJTBアウェイツアーが合流もあって、新宿発と羽田発品川経由の二台体制。バスツアーが2台出るのは、この組織になってから初めてとのこと。

この日は台風が接近中で午前中から激しい雨。しかし、バスが出発する昼ごろには次第に晴れはじめ、青空も見えてきた。豪雨の中での観戦を覚悟していたが、もしかしたらこのままいけるかもしれない。


バスは停車するSAが計画と多少変わったぐらいで、特に何事も無くスタジアム到着。今回は選手入り口に突入しなかったよ(笑)

バスがついても、まだ青空が見える。恒例のバスお出迎えもできた。あたりまえですけど、試合前は無愛想ですね。

定番の宇都宮餃子と一枚岩チキンをいただきます。ビールはサッポロが見当たらなかったので、なんとバドの生。バスの中で、LIONビール(持ち込み)とClassic飲んだしね。

札幌はワントップにフェホ、トップ下に内村、そして、右サイドに前田を起用。左サイドは荒野。こうやって見ると、荒野だけが格下なイメージだけれど、前線からのチェックでかき回して欲しい。前田のサイドはどの程度守備ができるかが課題。

相手の栃木には近藤祐介。監督が松本育夫に交代した初戦ということで、気持ち的に凄く良い位、凄く悪いかのどちらかなんじゃないかと予想。ちょっとやりずらい感じはある。

 

 

試合はピッチの悪さを気にしてか、フェホへのロングボールで攻める札幌。しかし、ボールが収まらず、返ってファールを取られるという展開。栃木の方がパスでつなごうという意識が見えるが、お互いにミスが多く、それが相手のチャンスにつながるという下位リーグにありがちな展開。要するに、ミスの多い方が負け。

ゴール裏の立見席が低くて、なんだかよくわからないうちに先制(前田だったのか!)できたものの、前半終了間際に失点。前節も試合終了間際に失点して引き分けに終わっているので、なんだか嫌な予感。

後半もフェホ中心の組み立ては変わらず。しかし、栃木の高木にドリブル突破から綺麗に決められる。札幌の守備はシュートを撃たせないようにマークに付いてシュートコースを切るのが基本なのだけれど、積極的にアタックにいかないのでドリブルで斜めに突っ込んでこられると対処のしようが無いんじゃないか。

その後、内村がロングスローからシュートを決めて同点。しかし、直後にまた栃木が逆転。ここから大粒の雨も降り始め、スタジアム全体がバタバタし始める。

そして、問題のシーン。フェホと競り合った栃木の選手が倒れたままで、相手キーパーがボールをピッチ外へ。そのスローインを札幌の選手がプレゼントボールで返さずにそのままフェホのゴール。

これは揉めるなと思ったけれど、ルール上は全く問題なし。スポーツマンシップでも、栃木の選手の明らかな時間稼ぎに見えたので、どっちもどっちという感じだろう。

ついでに、札幌のゴール裏からペットボトルが飛んだのはこの時だっけ? 揉める前だったはずなので、はしゃぎ過ぎた誰かの仕業だと思うけど。

このプレーの判定を巡って栃木の選手が審判に詰め寄るが、そもそもプレゼントボールはルールに規定されていないので判定が覆されるはずがない。その後のプレーでも、双方熱くなって一触即発の雰囲気。そこでサポが歌うのが「俺たちと熱くなれ」というのはさすがにどうかと思ったけど。

そして最後の最後に失点。これもドリブルで突っ込んできた選手を止められなかった。J2の守備は相手にミスをさせることが大きくなってしまうが、さすがにそれだけでは止められないようだ。

試合終了後にコールリーダーが一部のサポに切れていたみたいだが、対決というよりはサポがリーダーに説教されただけの模様。何があったのかはよくわからん。ヤジか、ペットボトルの件と思われ。

 

小川慶治朗って誰だよ。(正しくは、内村)

とにかくいろいろあって、後味の悪い試合だった。雨で濡れたせいで、気分も最悪。そもそも、座席が低すぎて試合も良く見えてない上に、ビデオ録画失敗したし。再放送録画中……。

さらに、帰りのバスでモンハンやって車酔いするし。

まぁ、いつまでも引きずっても仕方がないので、切り替えていこう。プレーオフなんて、今年の目標ですらない。行けたらラッキーのボーナスステージだ。それくらいの割り切りで行こう。

 


[SF] SF宝石

2013-09-09 22:08:13 | SF

『SF宝石』 小説宝石編集部/編 (光文社)

 

日本SF作家クラブ50周年に合わせて蘇った「SF宝石」。装丁も雑誌形態なのだが、それならばもうちょっと雑誌っぽく編集後記とか載せても良かったんじゃないか。本当に、読み切り小説を寄せ集めただけの体裁。

これってもしかして、アンソロジーは原稿料が安い問題とも絡んでくるのかな。印税がページ割なので、云々みたいな。経費を考えると、文庫本よりもこういうムック形式が一番安いのかもしれない。

全体的な感想は、掲載作品がバラエティに富んでいるのは良いけれども、宝石というよりは玉石混交になっている気がする。本当に、編集に手間を掛けずに、投稿作品を版組しただけなんじゃないかと思えるくらい。いわゆるビッグネームの作品も、なんだか一味足りない感じだし、思いつきを書き留めただけのような小説もあり……。

SFプロパー外の作家の作品では、ひたすら説明的なオチが目立つのもなんとなく興醒めだった。SFって、やっぱりそういうイメージなのだろうか。

タイミング的に『NOVA』の第1期完了に重なっているため、SF界において『NOVA』の位置を継ぐことを期待していたんだけれど、このまま企画は続くのだろうか。もうちょっと薄くてもいいので、シリーズ化も考えて欲しい。

その際には顔の見える編集者を置いて、編集後記に裏話を書いたりもして欲しい。そういうのも含めて、アンソロジーの魅力だと思うのだ。


○ 「擬眼」 瀬名秀明
人間は視覚に極度に依存した生き物だと思っている。なので、非常に怖いホラーに感じた。おれ、おまえが指し示す意味も、ネットワークとしての群体を指し示す意味でおもしろかった。

○ 「ゲーム」 新井素子
日本人的宗教観ならではの発想。これを“ゲーム”と考えることができるのも、極めて日本的なのではないか。

○ 「イグノラムス・イグノラビムス」 円城塔
いわゆるアカシック・レコード仮説と、意識の遅延問題から論理的に帰結する自由意思への疑念。相変わらずひねくれた自問自答の論理展開がおもしろい。

○ 「上海租界祁斉路三二〇号」 上田早夕里
第二次世界大戦前夜の上海租界の雰囲気は非常に趣深いのだけれど、なぜの部分が弱い気がする。科学にポジティブに期待する気持ちは強く感じる。特に、昨今の社会情勢においては、こういうのはありがたい。

○ 「集団自殺と一二〇億頭のイノシシ」 田中啓文
これが一番面白かったというと語弊があるか。最後の絵本ネタはきれいに伏線を回収しているのではあるが、駄洒落というか、地口の部分が全体的なテーマに絡まず、局所的な小ネタに終わっているところがいまいち。

△ 「アフターバースト」 井上雅彦
ロボットにも死後の世界はあるんです。

◎ 「『いおり童子』と『こむら返し』」 小川一水
少子化と人口減少がはっきりとした社会影響を与えている近未来の話。舞台設定以外はSF風味が薄いのだが、いろいろな社会問題に対する意識が見えておもしろい。

○ 「ソラ」 結城充孝
これもちょっとだけ未来の話。しかし、二つのテーマがいまひとつ融合しておらず、無理やりSFにした感じ。ソラとナツの物語だけで十分だったかもしれない。

○ 「遺され島」 樋口明雄
ゾンビィ! どうせなら、少佐がもっと悪い人でも良かったと思う。

△ 「中古レコード」 中島たい子
やりたかったことはわかるのだけれど、ネタの考え過ぎなんでは。

○ 「宇宙の修行者」 両角長彦
オチがすばらしい。というか、オチだけ。

△ 「シミュレーション仮説」 小林泰三
敢えて丸を付けず。この人にしては凡作。SF向けじゃなくてホラー向けに余っていた原稿なのか。そうであるならば、もっとグチャグチャにグロいのを頼みます。

△ 「五ヵ月前から」 石持浅海
ありがちなゴーストストーリー。主人公たちが論理的に解明しようとする姿勢は共感できる。

○ 「レテの水」 福田和代
タイトルがネタバレなのが惜しい。

△ 「レンタルベビー」 東野圭吾
設定としては悪くないのだけれど、もうちょっとおもしろい話にできなかったのか。主人公がまじめ過ぎなので、ストーリーも直球過ぎ。

 

 


[SF] SFマガジン2013年10月号

2013-09-07 23:43:10 | SF

『S-Fマガジン 2013年10月号』 (早川書房)

 

今月号は特集がみっつ。特集:SFコミック、作家特集:西島大介、それに、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』公開記念小特集。

SFコミックは全然読んでいないな。今回紹介されているものの中で、実際に読んだのは西島大介の『凹村戦争』、『アトモスフィア』と『PLUTO』くらい。

別にコミックに拒否反応があるというわけではないのだけれど、小説の方を優先してしまうと、コミックを呼んでいる時間も無いという感じ。あと、内容を聞く限り、小説で読んだらぜったい壁投げ本だよなと思える(主にSF設定において)ものが多いということもある。ただし、さすがにSFマガジンの特集だけあって、ここで紹介されたものにはそういうものは無さそう。

そうは言っても、絵の持つ力というのは常々すごいと思っている。文章で長々と説明するよりも、それがどんなに美しい文章であっても、一枚の絵として提示されたときの衝撃は越えられない。まさに百聞は一見にしかず。

SFにおいても、「実は地球だった!」などのいわゆるオチを長々と説明されてもインパクトは薄れるわけだが、絵で見せれば一瞬にして、一撃必殺のインパクトとして伝わることもあるんじゃないか。そういった意味では、ラノベ形式のイラスト付き小説は1.5次元エンターテイメントとして、もっと可能性を秘めているんじゃないかと思ったり。


実は、SFコミック特集で紹介された作品の中で、一番読んでいるのは、もうひとつの特集でもある西島大介。しかし、それはJコレを全部読むという俺ルールに従っているためなだけ。Jコレで刊行されれば、コミックだろうが画集だろうがオーディオブックだろうが、何でも買いますよ。

で、その西島大介だけれども、最近SFマガジンに連載しているエッセイともフィクションともつかないやつは、どうも放射脳の匂いがしてあまり好きではない。ちゃんと本人の言動を追いかけていないので定かでは無いのだが、SF関係者にしては必要以上に放射能を怖がっり過ぎているように読める。そのあたりが実際にどうなのかは、Jコレで出たときに確認してみようと思う。どうせ、買うんだし。


最後のスタートレックに関しては、これまた不思議なことに縁が無く、宇宙大作戦の頃からまともに見たことが無い。熱狂的なトレッキーがうざくて敬遠したという記憶もないので、どうしてなのか自分でもよくわからない。これを機に2009年版の『スター・トレック』から見直してみますかね。


◎「ニュートラルハーツ File1 電気少女の気持ち」 吉富昭仁
上で書いたような絵の持つ力を感じさせてもらった作品。たぶん、これを小説でどんなにうまく書いても、ありがちな話で片づけられてしまうんじゃないか。しかし、この絵柄で、最後のコマを見たときのインパクトがとんでもなく衝撃的だった。一発ネタかと思いきや、なんと不定期連載になるらしい。

○「星の池」 丸山 薫
これも絵で見るからこその一瞬のインパクト。たぶん、小説では書けない。

△「と、ある日の忘れもの」 宮崎夏次系
これは絵柄の面白さだけだと思った。俺がSFに求めているものとはちょっと違う気がする。

○「永遠の創作物」 鷲尾直広
創作物とは何かという話。ありがちではあるけれど、結局はそこに戻ることに異議はない。絵柄がほのぼのとしていてかわいい。

○「海嘯 星界の断章」 森岡浩之
ありゃりゃ、〈星界の戦旗〉第二部は開始未定なのか。あれだけ冬眠していたくせに急に第一部完結なんて言い出すので、すぐに開始されるのかと思っていた。で、まぁ、この作品だけの感想で言うと、山羊がかわいそうだよね。もちろん、星界世界の奥行きを見せる補助線としては、地上世界に対するアーヴの考え方などがわかって面白い。

 


[SF] リビジョン

2013-09-03 23:16:19 | SF

『リビジョン』 法条遥 (ハヤカワ文庫 JA)

 

「ビジョン(vison)を見る」と、「レビジョン(revision)を上げる」を掛けたところまではなかなか面白かったのだけれど、それ以上のものは無かった。タイムパラドックスものであることはわかりきっているのだから、もうちょっと捻りが欲しかった。

自分の生んだヤスヒコに固執する女性主人公がだんだん怖くなって、意図せずホラー風味になっている気がする。っていうか、もともとホラーのつもりで書いたのか。

一番なんだかなーと思ったのは、手鏡の擬人化。「えー、僕はどうしたらいいの」って、そこは笑うところなのかなんなのか。ちょっと外し過ぎているんじゃないか。

『リライト』との関連がかなり密接で、おそらく前作を読んでいない読者にはさっぱりわからない部分も不親切。“言及があります”というレベルではなく、これだけ読んでもまったく意味が通じない。

全4部作を構想ということなので、4作全部で浮かび上がってくるストーリーもあるのだろうが、“スピンアウト”ではなく、続編、もしくは裏編であることをもうちょっとはっきりアピールした方がいいのではなかったか。

ついでに言うと、時間テーマの連作というと、どうしても北村薫の三部作『スキップ』、『ターン』、『リセット』が思い浮かぶのだけれど、これを上回ることができるのかどうか。今のところ、かなり不安な感じだが、これまでにない斜め上の展開を期待したい。

 


[コンサ] 2013 J2 第32節 札幌 vs 岡山

2013-09-01 23:59:59 | コンサ

2013 J2 第32節 コンサドーレ札幌 2-2 ファジアーノ岡山 @FootNik中野


ガンバ大阪には負けたものの、そこから気持ちのいい2連勝。アウェィで勝ってホームに凱旋。3連勝をかけて、1巡目で惜しい負け方をした岡山が相手。これは勝たなきゃダメでしょう。ということで、FootNik中野へ遠征。

この日は昼間の試合が札幌戦のみということもあって、中野と大崎2店舗で放映。そのこともあってか、店内は少な目。しかも、拍手の起き具合からみて、ほとんどが札幌サポという状況。これは勝ったら、みんなで「すすきのへ行こう」をやるしかないかと思っていたら……。

そういえば、ヱビスがSold Outになっていたよな。これもある意味フラグだったのか。まさかの札幌戦で、黒ラベルもヱビスも無しかよ。


フェホ、奈良、上原が出場停止ということだが、代役は内村、櫛引、松本と、サプライズもなく予定調和。せいぜい、横野が久し振りにベンチ入りという程度。監督もサポも今年のチームがやっとわかってきた感じ。遅いと言えば遅いのだけれど、新人監督なのである程度は仕方がない。

序盤の入りは悪くなく、札幌がボールを保持する時間も長かったのだが、どういうわけか芝が滑る。また、風上に立った岡山のカウンターがきれいにハマって怖い。

悪い予感は当たるもので、先制は岡山。ほれぼれするようなきれいなカウンターを喰らった。あれはどうしようもない。

しかし、これで終わらないのが最近の札幌。後半開始早々、サイドからシンプルにつないで、荒野のパスから内村がゴール。

立て続けに、相手GKからなんと前田がボールを奪い、これを三上が蹴り込んでゴール。さすがは愛のホットライン。

前線4人がきれいに絡んでの逆転。これは気持ちがいい試合だ。ビールも旨いし、ピザも旨い。

ところが、今年の札幌には呪いがかかっている。最初はホームで勝てない呪い。続いて、アウェイで勝てない呪い。こんどは3連勝できない呪いだ。

ときおり、岡山のカウンターにビビりながらも、ボールもゲームも支配して、最後はついにレコンビンを試合に投入して完全に勝ちを確信したロスタイム。コーナーキックから岡山の近藤にヘディングを決められ、同点。そのまま試合終了。

せっかくのレコンビン投入も全く意味なし。本当にもったいない勝ち点を落とした。

負けてない。負けていないんだけれど、追いつかれての引き分けの疲労感は半端ない。それでも、負けなかったのは良かった。理性ではそう思うのだけれど、どうにも……。


シーズン開始前は、JFL降格圏に入らなければそれでいいとは思っていたものの、こうしてプレーオフ圏内が現実味を帯びてくると、やはりそこが目標になる。京都、千葉、長崎はまだ直接対決が残っているのだし、まさかJ2一年生の長崎にJ1昇格を許すわけにはいかない。なんとしても、長崎は止めよう。

その前に、栃木だ。バスツアーは2台だ。FootNikでビール飲みながら観戦もいいけど、みんなで一枚岩チキンを喰いに行こう。