神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 軌道学園都市フロンテラ

2015-12-31 16:02:45 | SF

『軌道学園都市フロンテラ(上下)』 ジョーン・スロンチェフスキ (創元SF文庫)

 

詰め込み過ぎで長過ぎ。それでいながら、坦々と出来事が過ぎ去っていくだけなので若干退屈。

エイリアンとのファーストコンタクト、メディアに操作された大統領選挙、人工衛星都市フロンテラの危機。たしかにすべてが絡み合っていくのだけれど、どれかひとつを本線としてクローズアップしておいた方が良かったんじゃないか。

ただでさえ、新語や造語を説明もせずに使っていくスタイルなので、序盤はそれについていくのが精一杯。そのうえでストーリーも迷走していくとなれば、これが読みやすい小説になるはずもない。

細かいネタのひとつひとつは確かに面白いのではあるけれども、小説として面白くないのは致命的。学園ものらしく、登場人物だってキャラ立ちした女の子も各種取り揃え、BL方面だってしっかり押さえているという絶好の設定にも関わらず、なんとも残念な結果に。

訳者あとがきの通りに、本当に本国では学園を舞台としたオフビートのコメディとして評価されているのであれば、たぶん訳文が失敗している。

訳者の金子浩さんはベテランなので、もしかしたら下訳の人の問題もあるんじゃないかと思うけれど、文章は日本語としてこなれていないし、完全に海外文学の翻訳調。十代の少女を主人公としたストーリーには大きなハンデになってしまった感じ。

たとえば、ヴォネガットとかを読み慣れている人なら楽しめるかもしれない。だからと言って、そういう方にはお勧めしないけど。

ここは思い切ってラノベ調、せめて新井素子調にでも訳すべきだったんじゃないか。ついでに萌え絵も付けて……って、それじゃハヤカワか。

 


[SF] 絶深海のソラリスII

2015-12-10 23:59:59 | SF

『絶深海のソラリスII』 らきるち (MF文庫J)

 

 

かなり衝撃的だった『絶深海のソラリス』の続編。

生き残った二人と、前作での犠牲者の姉を含めた新たなパーティが、深海生物アンダーの殲滅に挑む。

これまたライトノベル的に強烈なキャラクター小説でありながら、壮絶なアクション・サスペンス・スリラーでもある。この見事なアンマッチ振りはとにかく凄い。

前作が前作だっただけに、いったいどういう結末になるかと思っていたのだけれど、これは一本取られた。冷静に考えれば、予想の範囲というか王道なのだろうけれど、壮絶すぎる戦いに引き込まれてしまって、そこまで頭が回らなかった。

ああきて、こうきたとすると、次は……。なんて、ちょっと不純な楽しみ方をしてしまうあたりが、ちょっと自分でもズレてるとは思うが、それもまた魅力のひとつとして考えてもらえれば。

ところで、タイトルにある“ソラリス”の意味がいまだに明らかにされていないのだが、これは最終的に解決されるのだろうか。「僕が考えた最強の……」という前振りが、“ソラリス”の正体に関係しそうでもあるのだけれど、果たしてどうだろうか。

あと、今のところ、「深海」という舞台設定も隔離された場所程度の意味しか持っていないので、深海ならではのアクションや悲劇にもちょっと期待したりして。

 

(↓ネタバレ↓)

 

 

 

 

 

 


ミナトが見せた映像は即興にしてはずいぶんと芝居がかっているというかなんというか……。あの極限状態でここまで悪ノリできるとは、こいつ性格が相当悪いな。

 


[SF] 絶深海のソラリス

2015-12-02 23:59:59 | SF

『絶深海のソラリス』 らきるち (MF文庫J)

 

各処で絶賛、必読とされていたので読んでみた。たしかに、これはスゴイ。

万人に薦められるかといえばそうではないが、ラノベ、ホラー、SF関係の人なら、とにかく前提知識ゼロで読むべき。

なお、SF成分は2巻以降に持ち越しなので、まだ評価不能。

スゴイ部分はちょっとでもネタバレすると意味が無いので、下の方に。未読の方はback推奨。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、ストーリーとしては要するに良くあるホラー物の定石ではある。深海で皆殺しといえば、どう見たって『ディープ・ブルー』。

それを、ハーレム系ライトノベルでやったというところが、あまりに明後日の方向を向いていたがゆえに、“スゴイ”という感想しか出てこない。

思えば、子供向けとも取られかねないアニメ絵で壮絶なドラマを描いた『まどか☆マギカ』があったわけで、あれを文章でやれないはずは無いのだ。まさにコロンブスの卵。

だからと言って、この大きなギャップを簡単に再現できるというわけでもないので、そこは著者の計算と力量が、読者側の予想を大きく上回ることができたということだろう。

はっきり言って、その点だけをみれば、並み居る先人たちを凌駕している。秋山瑞人も、冲方丁も、虚淵玄も越えたよ。この絶望感と、ラストの意地悪さ加減は。

なんといっても、ヒロイン級のキャラの死ぬタイミングの悪さ。まさに、もっとも読者の度肝を抜くタイミングでやりやがった。

そして、最後に付け足しのように再会した女先輩。

まさに、すべてにおいて、いかに読者へ嫌がらせをできるかを、最大限に考え抜かれた作品。

2巻ではSFネタ関連の種明かしがされるのか、さらに意地悪さを見せるのか、はたまた出オチで終わるのか、かなり期待。

 


[SF] 孤児たちの軍隊5 ―星間大戦終結―

2015-12-01 23:59:59 | SF

『孤児たちの軍隊5 ―星間大戦終結―』 ロバート・ブートナー (ハヤカワ文庫 SF)

 

孤児たちの軍隊シリーズの完結篇。

相変わらず、政治家は無能、前線は有能。部族社会は野蛮。共産主義は悪……。といったステレオタイプに彩られたわかりやすい世界観。

その中で、ピンチに陥りながらも、何度も立ち上がる主人公。

まぁ、わかりやすい戦争SFではありますが、「孤児」というテーマが途中から活かしきれていないのが非常に残念。

第1作の『孤児たちの軍隊』では、主人公が孤児であることがストーリー上で意味を持っていたのだが、いつの間にやらただのタフなヒーローになってしまった。

名付け子が孤児になって、孤児の再生産が始まりはするものの、主人公にとってはオード軍曹やその他の人たちが擬似家族としての救いになっていて、あんまり孤児感(?)がなくなっている。

最後の作戦は命がけの危険な賭けとして、再び孤児だけの兵士で編成し、あのガニメデ作戦を再現するとか、あるいは、地球人類こそが銀河文明に見捨てられた孤児だったとか、どうにでもオチがつけられるはずだったのに。

敵のナメクジ星人は単一の群体生命であることはわかっていたが、その親玉の正体が大陸ほどもある巨大なナメクジっていうのもわかりやすいというか、芸が無い。

で、主人公と敵の親玉は最後にコンタクトするわけだけれど、これも唐突な上に会話が噛み合わないせいでなんともカタルシスが無い。今さら、単一生命だから孤独な孤児だったとか言われても、最初から持たないものと、奪われたものが比較できようこともなく、どうにも納得がいかない。

ここまで来たなら、決裂の末に最終兵器発射で終わった方が良かったんじゃないか。

だいたい、人類同士が何千人も殺しあっているというのに、今さら何を躊躇することがある。

それとも、同じ人類としてのキズナよりも、孤児同士の親近感の方が勝っていたとでも?

 

[SF] 孤児たちの軍隊 ―ガニメデへの飛翔―

[SF] 孤児たちの軍隊2 ―月軌道上の決戦―

[SF] 孤児たちの軍隊3 ―銀河最果ての惑星へ―

[SF] 孤児たちの軍隊4 ―人類連盟の誕生―