神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 監視機構

2015-04-20 23:59:59 | SF

『監視機構』 ジェフ・ヴァンダミア (ハヤカワ文庫 NV)

 

《サザーン・リーチ》三部作の二作目。いまだ〈エリアX〉の全貌は掴めず。

『SFが読みたい!』にランキングされ、Web本の雑誌でもSFとして紹介されていたけれども、これはフォーマット的には完全にホラー小説。第1部の『全滅領域』は構成上あのような形にならざるを得なかったんだろうけれども、第2部になっても基本的には変わらず。

何が起きているのかは主人公の主観的にしか語られず、思わせぶりな謎だけが提示され続ける。読者は、新局長となって赴任した主人公である〈コントロール〉とともに、〈エリアX〉に対する最前線基地である〈サザーン・リーチ〉の謎を紐解いていくことになる。

前局長の正体が未帰還の〈心理学者〉であるという愕然とする事実が簡単に明らかになるものの、その先の究明は遅々として進まず。もうひとつの重大事項である〈心理学者〉と〈燈台守〉の関係が明らかになるのは終盤。かといって、中だるみなわけではなく、主眼は〈コントロール〉と〈サザーン・リーチ〉が巻き込まれたスパイ合戦じみた権力闘争。

この側面もまた、〈エリアX〉に負けず劣らずの魑魅魍魎が跋扈する謎領域なのだけれど、主人公の〈母親〉とやらが絡んでさらにカオスに。当初、この〈母親〉というのは何かのコードネームかと思っていたのだけれど、どんどん本物の母親だということがわかってきて、これまたホラーっぽい感じに。子供の職業にまで過干渉し、手駒に使う凄腕スパイの母親って、どう考えたってホラーネタでしょう。

最後には遂に帰還した前局長と共に〈エリアX〉の侵攻が始まるわけだけれども、主人公は〈生物学者〉を追って逃亡してしまうため、最終的に何が起こったのかはわからず。

ついに邂逅した〈生物学者〉とともに〈エリアX〉に飛び込んだ〈コントロール〉の運命はいかに……。といういかにもな終わり方で次巻へ続く。

第3部はSF的な広がりのある結末を期待したいのだけれど、果たしてどうなるか。

 


[SF] 全滅領域

2015-04-09 23:59:59 | SF

『全滅領域』 ジェフ・ヴァンダミア (ハヤカワ文庫 NV)

 

《サザン・リーチ》三部作の一作目。

ストルガツキーでバラードで、主観記録なので真偽不明というところまで先に知っていたので身構えすぎたのか、特に引っかかるところ無く読んでしまった。

《エリアX》の謎については、おいおい明らかにされるのだろうと思って、そこに興味を持たなかったというのが良かったのか、悪かったのか。

意味わからないのは当たり前。回答は無いというのがわかっていて読むのは楽だが、あまり面白みも無い。後でいろいろひっくり返されるのがわかっていると、大胆な仮説も立てる気がしないわけで。

あとはここからどの方向に転がっていくのかだが。この手の、理不尽ホラー系は解決篇が陳腐なことが多くてガッカリすることが多いのだけれど、これはそれなりに評判がいいようなので期待したい。

 


[SF] リライブ

2015-04-06 23:59:59 | SF

『リライブ』 法条遥 (ハヤカワ文庫 JA)

 

『リライト』に始まる4部作の完結篇。超絶バカSFだった第1作に対して、2作目以降は、結果的に、ただの蛇足と言い訳。

途中までは時系列(というか、因果関係)が無矛盾であることを追って、パズル的な楽しみができたのだけれど、そればっかり続くと、そろそろ飽きてきたので、さいごは流した。はいはい、それで合ってます。

“「あったこと」を「なかったこと」にはできない”って言うけれども、実はそれは小説の内容でしたっていう、ある意味万能なメタネタを最初にやってるくせに、今さら何を。

今回はヤスヒコの手紙という体裁なので、全篇にわたる種明かしという位置付けが強く、これまで不明だった、“そこまでして何をしたかったのか”という動機が語られるわけだけれども、せっかくの種明かしが、あからさまに同情を誘う物語りなくせに、手紙という体裁のためか内容が薄すぎて感情移入しづらい。

結局、奇想天外なマジックに対しては、わざわざ種明かしなんていらなかったんだとしか言いようが無い。

そういうわけなので、未読の人は『リライト』だけ読んで馬鹿笑いするのがオススメ。2巻以降の存在は無視するべし。

 


[SF] 有頂天家族 二代目の帰朝

2015-04-02 22:38:19 | SF

『有頂天家族 二代目の帰朝』 森見登美彦 (幻冬舎)

 

森見登美彦10周年記念祭りが肩透しになってから1年。やっと、『有頂天家族』の続編が出版された。実に7年ぶりとは信じられないが、毛玉たちとのうれしい再開である。

サブタイトルに『二代目の帰朝』とあり、矢一郎を始めとする4兄弟は京都に住んでいるのに、いったいどこに帰るのか……。と思いきや、なんと二代目とは赤玉先生の息子であった!

加えて、夷川早雲の長男、金閣銀閣の兄、呉一郎も初登場。こちらももう一人の二代目の帰朝とも言えよう。

そんなこんなで、新キャラも加え、長閑なのか騒然なのか、阿呆の血が騒ぐ物語が繰り広げられる。

『夜は短し歩けよ乙女』で登場した3階建ての叡山電車や、『聖なる怠け者の冒険』のぽんぽこ仮面まで登場し、森見ワールドは京都を飛び出し、琵琶湖のほとりや四国までも飲み込み、さらには遠くイギリスまで手を伸ばす。

長兄、矢一郎はもちろん、次兄、矢二郎にもロマンスの香り。そして、矢三郎の元・許嫁の海星が姿をひた隠しにする理由も判明。父、総一郎と母の馴れ初めなんてものも描かれ、嬉れし恥ずかしの狸たち。

さらには、弁天をめぐる赤玉先生と二代目の三角関係、薬師坊の座をめぐる弁天と二代目のライバル関係が狸界だけでなく、狸鍋の金曜倶楽部をも巻き込んでの大展開。この続きは第3部完結編を待てとは殺生な。

こんなに阿呆でいながら、ここまでハラハラドキドキの大逆転な展開で泣かせるのだから、森見登美彦という作家は侮れない。作家生活10周年記念を飾る最後の作品『夜行』も待ち遠しい。

とにかく、淀川教授のごとく、狸愛が止まらなくなる小説だった。

北海道という最果ての地で育ち、東京というあずまびとが集う地に暮らす我が身にとって、天狗や狸の住む京都はまさに異界。しかし、去年、糺の森まで行ってきたときはあいにくの雨で、狸たちはどこに隠れたのか、出会うことはできなかったのであった。残念。

 


[SF] 完璧な夏の日

2015-04-02 22:17:14 | SF

『完璧な夏の日』 ラヴィ・ティドハー (創元SF文庫)

 

最近、アメリカでリブートが続いているヒーロー物のイギリス的解釈による再構築。もしくは(解説によれば)ユダヤ的解釈なのかもしれない。

青タイツや壁に張り付く能力などもちらっと出てきたり、というか、もっとすごい人もジャーナリストとして登場したりするのだけれど、基本的にマーベルもDCも関係ないオリジナルストーリー。

映画の『ウォッチメン』に近いとのことだけれど、たしかに陰鬱とした雰囲気は、その他の陽気なヒーロー像とは一線を画しており、近しいものを感じる。

超人的能力はある特定の装置によって発信された波動によって遺伝子が変化することにより発現したものであり、能力者は全世界に平等に現れ、時節柄、第二次世界大戦の影の主力として活躍していく。アメリカでは派手なヒーローとして、イギリスでは007のようなスパイとして、ドイツでは……、ソ連では……。

そして、彼らは老化が抑えられているため、ベトナム戦争や湾岸戦争にいたるまで、戦争の影に存在し続ける。しかし、その中で、彼らは次第に精神的に疲弊していく、という設定が興味深い。

しかしながら、この物語の主軸は、霧を操る能力者であるフォッグを中心とした愛の物語である。というと、ネタバレになってしまうのか。あと、BL成分も多目。

彼らの行動理由の多くが愛や友情であったり、肉体的には不老であっても精神的には疲弊していくという描写が、能力者も人間に過ぎないことを強調し、その上で、過去から現代に至る戦争の閉塞感を表しているように思える。

ただ、この小説の体裁がどうにも納得いかない。

現在におけるある事件の発生により、隠遁していたフォッグが呼び出され、英国能力者のリーダーであるオールドマンに事情聴取を受ける設定で始まり、それに伴い、過去の回想シーンが語られるわけだが、これがフォッグの回想シーンではなく、「われわれ」という視点からの三人称で語られていく。しかも、その回想シーンも時系列的にぐちゃぐちゃで、これまでに登場していない人物が、なんの紹介も無く増えたりするので、意図的に読者を混乱させようとしているとしか思えないのだけれど、この理由が見えない。

もちろん、解説を読んでも、納得できていない。どうして、「われわれ」でなければならなかったのだろうか。

あと、読み落としているのか、読んでいる途中に寝ぼけていたのか、パリでの出来事の続きとか、フォーマフト裁判の結末とか、いろいろ書かれていないエピソードが多いような気がする。

結局、すべては「愛のため」で終わるのは美しいのだけれど、いろいろ納得できないことが多すぎて、どうにも評価できない。

あー、絶賛してる人が口々にオヴリヴィオン、オヴリヴィオンって言ってるのも、そうか腐か、としか思えないんだけれど……。