神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 2312 ─太陽系動乱─

2014-11-06 23:01:13 | SF

『2312 ─太陽系動乱─ (上下)』 キム・スタンリー・ロビンスン (創元SF文庫)

 

本質は断片である。

メインとなるストーリーはあるものの、ミステリとしてはクズと言えるレベルであるし、ラブストーリーとしては陳腐すぎる。

しかし、西暦2312年という混沌とした太陽系社会における“何かの前夜”を、主人公のスワンを中心に切り取った断片としてみれば、非常に興味深いし、未来予測の示唆に富んでいる。

その時代の社会情勢や科学技術を説明するための「リスト」や「抜粋」と称する断章がいたるところに埋め込まれており、これが作品本体と言っても言い過ぎではない。どこかに、注釈が本体という作品があったかと思うが、まさにそんな感じ。

スワンが水星から冥王星まで太陽系を縦横無尽に駆け巡るのも、2312年の太陽系社会をまんべんなく紹介するための設定に思えてしまう。

水星の自転に合わせて軌道上を動く都市、テラフォーミングと中国化が進む金星、気象変動により荒廃した地球、さらには木星や土星の衛星、外惑星、そして、それらを結ぶ交通機関は、なんと、内部をくり抜かれ、スペースコロニーと宇宙船の機能を併せ持ち、なおかつ、失われた地球の生態系を再現したテラリウムだった。

このあたりはまさに2312年の太陽系観光案内でもあるわけだ。

そして、2312年の太陽系社会は激変のさなかにあり、ひとつの時代の始まりをまさに迎えようとしていた。

“ヨーロッパの火薬庫”と言われた時代のバルカン半島を示す“バルカン化”という単語が登場するように、この時代は更なる混乱の前夜であることが強く示唆されるが、これから起こることは明示どころか暗示もされない。

しかし、それと同時に多用される“アッチェレランド(次第に速く)”という言葉が指し示すように、あるいは、人工知能による反乱と追放というメインラインの物語が指し示すように、SFファンならばその先の世界を幻視できるのじゃないか。

 

ところで、両性具有関連をアーシュラって呼ぶのは、阿修羅じゃなってSFヲタネタだよね。

 


[SF] ブギーポップ・アンノウン 壊れかけのムーンライト

2014-11-06 22:53:52 | SF

『ブギーポップ・アンノウン 壊れかけのムーンライト』 上遠野浩平 (電撃文庫)

 

積読消化。古本じゃなくて、新刊で買ってるので、かなりの塩漬け。ちなみに、『ヴァルプルギスの後悔』も4冊まとめて積読中。

相変わらずな感じで何より、というのが感想。古い友人に会ったような。

テーマは、ひとが心の奥底に持っている願いなんてろくなもんじゃないかもねということでありながら、それを上回る感情としての恋心といったところか。

しかし、この街は人造人間やら改造人間やら世界の敵やら世界の敵の敵ばかりしか住んでないのかよ。さすが、セカイ系の元祖ではあるよな。

 


[SF] 星界の断章 3

2014-11-06 22:49:17 | SF

『星界の断章 3』 森岡浩之 (ハヤカワ文庫 JA)

 

いろいろ忙しかったのがひと段落したので、積読消化しようと取り出したのがこれ。

SFマガジン掲載で既読のエピソードも、はるか昔過ぎて記憶にないかと思ったが、割と覚えていた。

この短編集では、アーヴという種族を理解するための様々なエピソードが語られるが、単純なステレオタイプにとどまらず、架空の種族をここまで細かく作り込んだのかという驚きがある。

しかしながら、いかんせん、記憶力の減退とともに、その価値がよくわからなくなりつつあり……。

登場人物も本編の『星界の紋章』や『星界の戦旗』につながる人々なのだろうが、すでに誰が誰やら。

こういうのは、本編にドップリ嵌っていたころに読みたかったよ。というか、これから本編を読む若者がうらやましい。

とはいっても、『星界の戦旗』が終わっていない以上、いずれ、若者も我々と同じ目に合うのは必然なんじゃないか。

 

今回は短編個別の感想は省略。一番好みなのは「海嘯」かな。

 

 


[SF] 火星の人

2014-11-06 22:40:15 | SF

『火星の人』 アンディ・ウィアー (ハヤカワ文庫 SF)

 

「火星のロビンソン・クルーソー」として宣伝されていたけれど、自分が想像していたのとはちょっと違った。

というか、想像以上に凄かった。

というのも、ロビンソン・クルーソーというと、通りがかりの船に救出されるまで無人島で一人で生き抜いた(フライデイもいたけど)というお話だけれど、この『火星の人』では、火星に取り残された宇宙飛行士がいかにして火星で生き抜いたかだけではなく、火星からの脱出のために彼自身のとてつもない努力と、それだけにとどまらず、地球のスタッフや、彼を火星に置き去りにしてしまった着陸船スタッフをも巻き込んだ果敢なチャレンジが感動的に描かれている。

特に、著者が言及したと解説に記載されているように、火星の人である主人公を襲うトラブルはことごとく必然的なものであり、偶然に頼った天災でも、神のごとき著者が無理矢理に起こしたトラブルではないということは強調しておくべきだと思う。

それらは着陸船訓練のトラブルミッションとは違って、仕組まれたトラブルではない。仕組まれたトラブルなしに、これだけの物語が生み出されるというのは凄いことだ。それだけ、火星という環境が過酷なのだということなのだろう。

そして、さらに特筆すべきは、主人公がトラブルを解決するときの冷静な思考だ。彼の独白は日記のようなログエントリでしかないので、その時に本当はどう思ったかは、まったく異なるのかもしれない。しかし、最終的に解決策を考えだす科学的知見と態度は、まったくもって尊敬に値する。

正直言って、こんな自分が理系であることが恥ずかしくなるくらいだ。

酸素の量、水の量、電力、食糧、それらの必要量はどれほどか。そして、それを確保するためにはどうしたらいいのか。その解決策はどれも驚きだが、計算による裏付けがしっかり小説中に表現されている。

間に合わせの部品や創意工夫で作り出した間に合わせの仕掛けに対しては、必ず試験を行ってから慎重に使い始める。

物語の主人公は得てして危険に飛び込むことあるが、彼が飛び込む危険はわずか数パーセントだ。それでもなめちゃいけない。スパロボ大戦だって命中率5%でも落ちるときは落ちるものだ。

彼は繰り返す試験によって仕掛けを改良し、リスクを最小限に抑えていく、本当に、爪の垢でも煎じて飲ませたい。っていうか、飲みたいくらい。

真の理系小説というのはこういうものなんだろうなと感心した。そして、計算結果がエンターテイメントになるという事実に、新しい可能性を見た。

 


[SF] SFマガジン2014年11月号

2014-11-06 22:22:41 | SF

『SFマガジン2014年11月号』


「特集・30年目のサイバーパンク」は、タイトル通り、『ニューロマンサー』の刊行から30年目となった現在からサイバーパンクを見直す特集。

特集記事としての出来は高く、楽しんで読んだ(ジェームス怒々山とか、ぜんぜん覚えてないぞ!)けれど、逆にサイバーパンクとは何なのかがわからなくなってしまった。

たとえば、「パパの楽園」をサイバーパンクとはどうしても思えないわけですよ。ARやVRや仮想人格が出てくればなんでもサイバーパンクなのかというのが疑問。確かに、著者のウイリアムズはサイバーパンクの一派として有名なのだけれど。

現在のサイバーパンクとしてリストアップされた作品の多くにもサイバーパンクのイメージが無いな。神林の『機械たちの時間』も当時からサイバーパンクとは別の文脈で評価されていたような気が。

まぁ、よく言われる話ではあるが、サイバーパンクというサブジャンルはSF界にまさに“浸透と拡散”し、姿が見えなくなったというのが俺的感覚。さらに言えば、サイバーパンクとはウィリアム・ギブスンと黒丸尚であって、それ以上でもそれ以下でもないという感じか。


「パパの楽園」 ウォルター・ジョン・ウイリアムズ/酒井昭伸訳
ある程度予想通りの展開で進むのではあるが、最後の最後に胸糞悪い結末。親のエゴというのはいつの時代も、傍から見るとおぞましいものだ。

「水」 ラメズ・ナム/中原尚哉訳
これを現在の広告のデフォルメと見るべきか。いつも商業主義の行きつく先はディストピアでしかないのか。

「戦争3.01」 キース・ブルック/鳴庭真人訳
猿が木の枝で猿の頭をかち割った時から、戦争が何度バージョンアップしてきたのか知らないけれども、インターネットによって生み出された“なんとか2.0”の先の、とあるバージョン。ディストピア的に見えてしまうのは、どうしてそうなったのかがわからないために理不尽に思えるからなのかな。

「と、ある日のお弁当」 宮崎夏次系
最後のセリフが多層的な意味を持って解釈できるので、背筋がぞわぞわする。

「About a Girl〈前篇〉」 吉上亮
後篇読むまで評価は保留なのだけれど、なんだかえらいことになっているのできちんと収集がつくのか。またちょっとグロ入ってますが、人間の性質を突き詰めていくと、嗜虐性は外せないものなのか。

「トーマス老の回顧 怨讐星域〈最終話〉」 梶尾真治
怨讐星域が遂に完結。前回から30年後に飛ぶので肩すかしな感じはあるが、回想で語られるがゆえに、最後にどちらに転ぶのかがわからない。この結末は、良くも悪くもカジシン的だなと思った。