元NHK看板ディレクター、和田勉さんが亡くなった。
14日のことだ。
その演出作は「天城越え」「けものみち」「ザ・商社」など、テレビ史に残る、忘れられないドラマばかりである。
“アップのワダベン”といわれ、そのドラマをワンカットでも見れば、和田さんの作品だと分かるくらいだった。
「テレビは人間を見せるもの。人間の象徴は顔。その顔をアップで見せるんだ」
アップは和田さんの武器だった。
かつてドキュメンタリードラマ「夏目雅子物語」を制作した際、和田さんにインタビューをお願いした。
夏目雅子もまた、和田さんの薫陶を受けて自分の殻を破り、大きく成長した女優の一人だったからだ。
ドラマ「ザ・商社」での夏目雅子を語る和田さんは楽しそうだった。
「(夏目を)ヒロインに決めた時、彼女、私は胸がないけど、大丈夫ですか?って訊くんだよね。ペチャパイだっていうの。そんなこと、心配してるんだよ。お母さんのスエさんは胸があるのにね」
そう言って、例のガハハハという笑い声を響かせた。
あの「ガハハハ」も、もう聞くことはできない。
授業で、和田さんが昭和34年に手掛けたドラマ「日本の日蝕」を、一部だが、学生たちに見せた。
また、お元気な頃のインタビュー映像も。
こんなとてつもない作り手がいたことを、若い彼らにも伝えたかったのだ。
稀代のドラマ・ディレクター、和田勉。
享年80。
合掌。