碓井広義ブログ

<上智大学教授のメディア時評> 見たり、読んだり、書いたり、話したり、時々考えてみたり・・・

朝ドラ「まんぷく」 実録路線への不安と期待

2018年10月07日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


NHK朝ドラ「まんぷく」
実録路線への不安と期待


NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)の新作「まんぷく」が始まった。安藤サクラが演じるヒロイン、福子のモデルは日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)の妻、仁子(まさこ)だ。百福は「インスタントラーメン」を発明した人物であり、ドラマの中では「たちばな工房」の立花萬平(長谷川博己)となっている。

物語は昭和13年からスタートしており、女学校を卒業した福子は、ホテルに電話交換手として就職したばかりだ。32歳の安藤が18歳の福子になり切っているのは演技派女優の面目躍如だが、明るすぎて高すぎるテンションは朝からちょっと鬱陶しくもある。

安藤は映画「万引き家族」でも生かされていたように、何を考えているのかわからない、暗いキャラクターを演じさせたら世界レベルの女優だ。それが朝ドラという舞台に合わせて無理をしているようにも見えるのだ。

漫画家・水木しげるの妻、武良布枝(むらぬのえ)がモデルだった「ゲゲゲの女房」以降、朝ドラでは実在の人物をモデルにした作品が多く作られてきた。「カーネーション」(デザイナーのコシノ3姉妹の母・小篠綾子)、「花子とアン」(翻訳家・村岡花子)、「あさが来た」(実業家・広岡浅子)などだ。

大正生まれの仁子は、希代の起業家である百福を徹底的に支え続けた。ただし、仁子自身は翻訳家でも女性実業家でもない。伝記などによれば、肝っ玉母さん型の普通の主婦である。こうした、誰かを「裏で支えた人物」をドラマの主人公として成立させるのは結構難しい。参考になるのは「ゲゲゲの女房」だろうか。ゲゲゲならぬ、「インスタントラーメンの女房」。制作陣の腕の見せ所だ。

また、実在の人物がモデルであることが、必ずしも良い結果につながるわけではない。
何かに気をつかっているのか、事実や現実に縛られて、物語の幅や奥行きが狭まってしまうことがあるからだ。その残念な例としては、アパレルメーカー「ファミリア」を興した一人である坂野惇子がモデルだった「べっぴんさん」。「吉本興業」創業者の吉本せいを取り上げた「わろてんか」などがある。

とはいえ、脚本は大河ドラマ「龍馬伝」も手がけてきた福田靖。安藤サクラも長谷川博己も演技については折り紙つきだ。間違っても「チキンラーメン誕生60周年」という企業イベントの一環と思われたりしないよう、ポスト平成時代を生きる視聴者に新たな女性像、家族像を提示してくれる、刺激的な朝ドラであってほしい。

(北海道新聞 2018.10.06)

「Nスペ」戦争特集の試み 可視化された戦場の現実

2018年09月10日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


「Nスペ」戦争特集の試み 
可視化された戦場の現実

かつて8月になると、「戦争」をテーマにした番組を何本も目にしたものだ。しかし最近の民放ではあまり見かけなくなった。その分、NHKの健闘が目立つのかもしれない。

8月11日に放送されたのはNHKスペシャル「祖父が見た戦場-ルソン島の戦い 20万人の最期-」(制作=名古屋放送局)だ。

「ためしてガッテン」などで知られる小野文恵アナウンサーが、ルソン島で戦死した祖父の足跡をたどった。亡くなった場所も日付も不確定だが、最近公開された、アメリカ公文書館の極秘資料が手がかりとなる。

そこにはアメリカ軍がルソン島で確認した、日本兵の遺体の数と場所が記録されていた。このデータを島の地形図に重ねることで、戦いの進行状況がわかってくる。

つまり20万人の日本兵がいつ、どこで戦死していったのかが可視化されるのだ。地図上に刻々と増えていく無数の赤い点。その一つ一つが人の命であることを思うと胸がつまる。

そしてデータと同様、当時を知る貴重な情報となったのが、生き残った元兵士たちの証言と持ち帰った日誌などの資料だ。そこからは悲惨な戦場の様子が浮かび上がってきた。飢えのあまり、亡くなった同僚の革靴を煮て食べる者がいる。傷病兵たちに自決用の手りゅう弾や毒薬が配られただけでなく、銃剣によって命を奪われた者もいたという。

大本営はルソン島の戦いを本土防衛のための時間稼ぎと位置づけ、食糧を送らない「自活自戦」や、投降を禁じる「永久抗戦」を現地に強いた。敗走する祖父たちがさまよったジャングルに立った小野アナの思いを、視聴者も共有できたのではないだろうか。

もう1本、可視化された戦場の現実を見せてくれたNスペがあった。8月13日放送の「船乗りたちの戦争-海に消えた6万人の命-」(制作=大阪放送局)だ。

戦時中、軍に徴用され沈没した民間の船は7千隻。犠牲者は約6万人に達した。その中には危険な海上監視の任務についた、「黒潮部隊」と呼ばれる小型漁船と漁師たちも含まれている。

この番組では、やはりアメリカ側の資料を基に、広い太平洋のどこで、いつ民間船が沈没したのかを地図上に示していった。3年4カ月の間、なんと1カ月に100隻のペースで船が失われていく。

十分な武装も持たない民間船が、猛烈な攻撃にさらされる様子を思うにつけ、軍部のずさんな計画と実行、そして不都合なデータを示さない隠蔽(いんぺい)体質にも強い憤りを感じた。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2018.09.01)

日曜劇場「この世界の片隅に」 戦時下の「日常」丁寧に描く

2018年08月07日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


日曜劇場「この世界の片隅に」
戦時下の「日常」丁寧に描く

日曜劇場「この世界の片隅に」(TBS-HBC)は決して大きな物語ではない。背景となっているのは戦前から敗戦にかけての「戦争の時代」だ。しかし国家や軍人の話ではないし、戦場の場面も登場しない。

主人公は広島市の郊外で育ち、県内の呉に嫁いだ北條すず(松本穂香)。ただしヒロインではあるのだが、たとえばNHK朝ドラ「とと姉ちゃん」の小橋常子のように出版社を創立したり、「べっぴんさん」の坂東すみれのように子供服メーカーを興したりはしない。市井の女性であり、普通以上にぼんやり、のんびりしている。そして明るくて優しい。

18歳のすずが海軍に勤める公務員、北條周作(松坂桃李)と結婚したのは昭和19年だ。早朝、坂を下って井戸の水を汲んでくることに始まり、三度の炊事、洗濯、掃除、縫い物、さらに足の悪い義母の世話と、嫁いだ日から休む間もなく働いている。現代から見たら過重労働に思えるかもしれないが、すずは細かいことを気にしない。自分が周作や北條の家に必要とされていることを素直に喜びながら生活している。

このドラマを見ていると、戦前も戦中も「人の暮らし」は続いていたという当たり前のことを思う。どんな時代にも「日常」というものが存在するのだと。

ごく「普通」の女性が過ごす、ごく普通の「日常」。ところが戦争が進んでいくことで徐々に世の中も人々も変わっていく。普通が普通でなくなっていき、当たり前が当たり前でなくなっていく。だからこそ、すずの(そして私たちの)「日常」や「普通」や「当たり前」が、何物にも代えがたい大切なものだとわかってくる。小さな物語が静かに伝える、大きなメッセージだ。

主演の松本穂香は、朝ドラ「ひよっこ」で主人公・谷田部みね子(有村架純)が集団就職で入社した向島電機の同期、青天目(なばため)澄子を演じて注目された。この時の澄子のぼんやり感やおっとり感と、松本自身がもつ透明感や純粋さのイメージが北條すずのキャラクターと見事に重なっている。

また夫役の松坂、その姉である尾野真千子、すずの母親の仙道敦子、そして遊郭の遊女・リン役の二階堂ふみなどいずれも適役で、じっくりと物語の世界を味わうことができる。

全体としてはレベルの高いドラマになっているが、もしかしたら途中で、延々と続く「日常」に飽きる視聴者も出てくるかもしれない。とはいえ、この夏ゴールまでつき合う価値のある1本であることは間違いない。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2018年08月04日) 

脚本家・倉本聰が執筆中の新作「やすらぎの刻(とき)~道」

2018年07月10日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


脚本家・倉本聰 83歳の挑戦
執筆中の新作「やすらぎの刻(とき)~道」

脚本家・倉本聰が現在、「やすらぎの郷」(17年、テレビ朝日―HTB)の続編となる「やすらぎの刻(とき)~道」(19年4月から1年間の放送、同)の執筆に取り組んでいる。しかも描かれるのは老人ホーム「やすらぎの郷」の物語だけではない。

筆を折っていた主人公、脚本家の菊村栄(石坂浩二)が発表のあてもないまま“新作ドラマ”を書き始める。菊村の頭の中だけで作られていく話で、倉本はこれを「脳内ドラマ」と呼んでいる。「やすらぎの刻~道」では、やすらぎの郷の現在だけでなく、この脳内ドラマも映像化されていくのだ。

物語は昭和11年から始まる。主人公は山梨の山村で生まれ育った少年。実際の倉本よりちょっと年上だ。設定について倉本に問うと、「元々20歳だった徴兵年齢がどんどん下がり、最後は17歳までいった。終戦の時、僕は11歳で召集の恐怖はなかったけれど、2、3歳上の人たちにはあったはず。その一番怖いところに差しかかる年代を題材にしたかった」。

また脳内ドラマには、物語上の重要な場所として満州が出てくる。「満州では開拓民が集団自決したり、ソ連兵にひどい目に遭わされたりしました。その末裔が日本に逃げてきて山奥の村でひっそり暮らしている。そういう女性をたとえばマヤ(加賀まりこ)にやらせてみたい」と倉本は言う。

前作の「やすらぎの郷」では、姫こと九条摂子(八千草薫)が亡くなり、及川しのぶ(有馬稲子)は認知症となって去り、三井路子(五月みどり)もスタッフと結婚していなくなってしまった。さらに井深涼子役の野際陽子も逝去した。だが、脳内ドラマにはこうしたメンバーもキャスティングされていく。脚本を書いているのは菊村なので配役のイメージも自由自在だ。視聴者は親しんできた懐かしい人たちと再会できるかもしれない。

倉本によれば、「やすらぎの刻~道」のキーワードは「原風景」である。「子供の頃に遊んで帰った、田舎のどろんこの一本道がある。やがて舗装されると人々が町へと出ていく。故郷は過疎になり、道にはペンペン草が生えてくる。それが登場人物たちの原風景。そこに帰っていきたいという老夫婦を書きたい」そうだ。

場所も時代も違う2つの物語が同時進行して、それが入れ子細工になっていく。通常のドラマとは大きく異なっており、いわば新たなドラマの形の提示とさえ言えるだろう。83歳の現役作家による命がけの挑戦だ。

(北海道新聞 2018.07.07)

ヒロインも脇役も光る、朝ドラ「半分、青い。」

2018年06月05日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


NHK朝ドラ「半分、青い。」
ヒロインだけでなく脇役のキャラクターも光る

主人公が母親の胎内にいる時点から始まったNHK朝ドラ「半分、青い。」。楡野鈴愛(永野芽郁)は、1971(昭和46)年に岐阜県東濃地方で楡野宇太郎(滝藤賢一)と晴(松雪泰子)の長女として生まれた。この両親で思い浮かぶのが「ひよっこ」のヒロイン、谷田部みね子(有村架純)だ。

みね子は64(昭和39)年の「東京オリンピック」の時に高校3年生だった。物語の最後で「すずふり亭」の秀俊と結婚したが、71年には25歳になっているはずで、鈴愛を産んだ晴とみね子はほぼ同世代だ。つまり、「半分、青い。」の背景となっている時代は「ひよっこ」のその後であり、鈴愛も律(佐藤健)もいわば「みね子の子供たち」に当たる。好評だった先行作品との“ゆるやかな連続性”を意識したこの設定は上手い。

加えて岐阜編では、「あまちゃん」で話題となった「80年代文化」も登場した。松田聖子のヒット曲から温水洗浄便座まで様々なアイテムで楽しませてくれたが、このあたりも成功例を踏まえた見事な目配りと言える。

鈴愛は小学3年生の時、片方の耳が聴こえなくなってしまった。朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」だ。しかし、このドラマは「障害も個性だ」という姿勢で貫かれている。鈴愛が「障害のある女の子」ではなく、「個性的でユニークな女の子」として描かれていることに好感がもてる。

現在ドラマの舞台は東京へと移っており、鈴愛は漫画家を目指して修業中だ。元々朝ドラではヒロインが「何かのプロ」になろうと切磋琢磨するのが王道で、これまでも様々な職業に就いてきた。「梅ちゃん先生」の医師、「花子とアン」の翻訳家、「まれ」のパティシエなどだが、変わったところでは「ちりとてちん」の落語家というのもあった。そんな中でも漫画家はかなり異色で、垣間見る創作の現場は視聴者にとっても興味深い。

しかも鈴愛が弟子入りした売れっ子少女漫画家、秋風羽織(豊川悦司)のキャラクターが秀逸だ。長身、長髪、サングラス。徹底的に自分のルールと価値観にこだわる偏屈さ。さらに浮世離れした天才のお茶目な一面もある。

脚本の北川悦吏子と豊川の組み合わせは、95年の「愛していると言ってくれ」(TBS-HBC)、01年の「Love Story」(同)などがあるが、今回、豊川が恋愛ドラマの主演とは違うポジションを大いに楽しんでいることが伝わってくる。ヒロインだけでなく脇役も輝いている朝ドラにハズレはない。

(北海道新聞 2018.06.02)

秀作ドキュメンタリー HTBノンフィクション「聞こえない声」

2018年05月05日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、HTBノンフィクション「聞こえない声」について書きました。


ドキュメンタリーならではのアイヌ遺骨問題
HTBノンフィクション「聞こえない声」

4月23日の深夜、HTBノンフィクション「聞こえない声~アイヌ遺骨問題 もう一つの150年~」(北海道テレビ)が放送された。アイヌ民族の遺骨問題と現在まで続く差別をテーマにしたドキュメンタリーだ。撮影・演出は制作会社アウンビジョン代表の藤島保志ディレクター(以下、藤島D)である。

明治以降、大学の研究者などがアイヌ民族の墓地を掘り起こすなどして収集した、いわゆるアイヌ遺骨。全国12大学で保管されてきた遺骨は1600体以上(14年、内閣府調べ)だ。そのうちの1000体が放置されていた北海道大学に対し、子孫たちは返還を求めて提訴してきた。一部は和解の成立で戻されたが、頭蓋骨と手足が揃わないものも多い。

番組には道内各地に暮らすアイヌの人たちが多数登場し、遺骨問題や差別について率直に語っていた。「アイヌの魂がさまよっていて神の国に行けない」(旭川・川村兼一さん)。「とりあえず掘ったところに還せやって、それだけだ」(静内・葛野次雄さん)。「遺骨には尊厳がある。自分のじいちゃん、ばあちゃんの墓を外国人が来てあばいたら、どういう気持ちになるか」(平取・萱野志朗さん)。「北大は嘘ばっかり言うんだわ、嘘ばっかりだ」(浦河・小川隆吉さん)。

これだけの方々が一つのテレビ番組の中で証言していることに驚く。なぜならアイヌの人たちも決して一枚岩ではない。遺骨問題についての考え方や対応にも差異があるからだ。10年以上も手弁当で取材を続けてきた藤島Dへの信頼感が語らせていると言っていい。

一方、藤島Dは北大だけでなく、200体の遺骨を保管する東大、さらに国に対しても「今後、アイヌ民族の遺骨をどうするのか」と何度も取材を申し込んできた。しかし「ナーバスな問題だから」と一切拒否される。マイクを向けられた内閣官房アイヌ総合政策室の担当参事官が、無言のまま逃げるように立ち去る姿が象徴的だった。

この番組の特色は、遺骨や差別の問題をアイヌの人たちの目線で描いていることだ。ドキュメンタリーには署名性があり、制作者の「私はこう見る」という意思がそこにある。藤島Dは敢えてアイヌ民族の側に立つことで、私たちに聞こえない声、私たちが聞こうとしない声に耳を傾けるよう促しているのだ。

最後に、まさに「ナーバスな問題」を扱った番組を放送したHTBに敬意を表すると共に、午前1時すぎではなく、もう少し視聴しやすい時間帯での再放送をお願いしたい。

(北海道新聞 2018.05.04)

深夜枠「ドラマ24」の意欲的コラボ「オー・マイ・ジャンプ!」

2018年04月08日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「オー・マイ・ジャンプ!」について書きました。


50作達成の深夜枠「ドラマ24」
意欲的コラボ「オー・マイ・ジャンプ!」

先月23日、「オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~」(テレビ東京―TVH)が最終回を迎えた。「ドラマ24」の50作目となる記念作品だ。

これまで「湯けむりスナイパー」(09年)、「勇者ヨシヒコ」シリーズ(11~16年)、「まほろ駅前番外地」(13年)などが流され、昨年も「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」、「孤独のグルメ・シーズン6」と話題作が続いた。

ドラマとはいえ低予算。有名俳優も望めない。そこで深夜ならではの実験的・刺激的なドラマを目指した。ゴールデンタイムでは成立しないマニアックな内容。多少は過激な表現もOK。知名度に縛られない自由なキャスティング。大根仁や福田雄一など気鋭の監督の起用。弱点を個性に変える逆転の発想だ。

50作目の「オー・マイ・ジャンプ!」は、今年創刊50周年となる「週刊少年ジャンプ」とのコラボ企画だった。まず物語の舞台である秘密クラブ「オー・マイ・ジャンプ!」に集う人々が強烈だ。「ジャンプ」にやたら詳しいマスター(斉木しげる)。「NARUTO」の格好をした智子(生駒里奈)。「Dr.スランプ」アラレちゃんと同じサロペットと帽子の美樹(佐藤仁美)。そして「聖闘士星矢」の聖衣を着た水川(寺脇康文)もいる。

そこに元愛読者で営業マンの主人公・月山(伊藤淳史)が加わり、毎回一つの作品をめぐるエピソードが展開された。たとえば第8話では月山が上司(ケンドーコバヤシ)から「魁!!男塾」さながらのハードな特訓を受ける。月山は「ジャンプ」が成功するまでの苦難の歴史(後発だったため)を知って発奮し、厳しい試練に耐えていく。

そして最終話。マスターが100年後から来た未来人であることが判明する。しかも未来社会で漫画は「邪悪なもの」として迫害されているというのだ。メンバーはマスターと共に未来へと向かい、「検閲するAI」(鈴木梨央演じる双子姉妹)と対決。もちろん命がけの「ジャンプ愛」で勝利した。

超マニアックなこのドラマ。ジャンプ好きにはたまらないし、そうでない人も出演者たちの予想を超える熱演に見入ってしまう。ドラマ24らしい「こだわり」と「ゆるさ」のブレンド具合が抜群だった。

来年は「ジャンプ」のライバル誌、「週刊少年マガジン」と「週刊少年サンデー」の創刊60周年だ。それぞれのファンも多いので、今回のようなコラボ企画を期待したい。

(北海道新聞 2018年04月03日)


問題作「anone」 偽物と対比 物事の本質を問う

2018年03月08日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「anone」について書きました。


問題作「anone(あのね)」
偽物と対比 物事の本質を問う

今期ドラマの中で一番の問題作、それが「anone」(日本テレビ―STV)だ。主演は広瀬すず、脚本が坂元裕二。人気女優と有名脚本家の組み合わせは、それだけで話題になるはずだった。しかし、テレビ業界も視聴者も戸惑っているようだ。一体このドラマは何なのか、どう見たらいいのかと。

主人公は親と離れて育った、宿無しのハリカ(広瀬)だ。他の主要人物として、印刷所を営んでいた夫と死別した亜乃音(あのね 田中裕子)。心の通わない夫や息子のいる家を出た、るい子(小林聡美)。医者からがんで余命半年と宣告された、元カレー屋の持本(阿部サダヲ)などがいる。それまでバラバラに生きていた彼らが、捨てられるはずだった大量の偽札をきっかけに知り合い、今は亜乃音の家で不思議な合宿生活を送っている。しかも閉鎖した印刷所の元従業員、中世古(瑛太)に引っ張られて本格的に偽札を作ろうとしているのだ。「よくわからないドラマ」と思われても仕方がないかもしれない。

このドラマには偽札だけでなく、さまざまなフェイク(偽物)が登場する。ハリカは祖母(倍賞美津子)に可愛がられて暮らした記憶を持っていたが、本当は祖母ではなく施設の管理者で、虐待を受けながら生きてきた。偽の記憶は自分の心を守るためのものだったのだ。亜乃音には19歳で家出した娘、玲(江口のりこ)がいる。自分が産んだ子ではないが、娘と離れてしまったことをずっと悔やんできた。同時に、赤の他人であるハリカに母親のような感情を抱いているのも事実だ。

るい子は高校時代に望まぬ妊娠をしたが、その時に生まれなかった娘の姿が見える。セーラー服を着た幻影の娘と会話することで自分を保ってきたのだ。持本もまた余命を知ったせいで、これまでの人生が意味のあるものだったのか、わからなくなった。さらに妻子のいる中世古も、玲と彼女の息子が住む部屋に通う二重生活を送っている。彼にとって本当の家族とは何なのか。

脚本の坂元は、物語の中にいくつもの「偽物」を置くことで、その対極に位置するはずの「本物」や「本当」の意味や価値を問いかけている。つまり物事の本質を捉え直そうとしているのだ。その対象は親と子、家庭、仕事、愛情、命、生き方にまで及んでいる。果敢な野心作だが、いい意味で独特の暗さや重さもあり、広く万人受けするタイプの作品ではない。しかし最も気になるドラマ、目が離せないドラマであることは確かだ。

(北海道新聞 2018年03月06日)

オリジナルストーリーで新機軸「アンナチュラル」

2018年02月09日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評


北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「アンナチュラル」 について書きました。


「アンナチュラル」
主演と脚本家がタッグ 
オリジナルストーリーで新機軸

ドラマのシナリオには2種類ある。一つが小説や漫画など原作があるもの。もう一つがオリジナルだ。本来、前者は「脚色」と呼ばれ、ゼロからストーリーを作り上げた「脚本」とは別扱いなのだが、日本のドラマではどちらも脚本と表示される。

野木亜紀子は、いま波に乗っている脚本家の一人だ。一昨年の「重版出来!」(TBS-HBC)、「逃げるは恥だが役に立つ」(同)で大ブレイクしたが、どちらも漫画が原作だった。そんな野木の新作が「アンナチュラル」(同)で、今回はオリジナル脚本だ。しかも主演は勢いのある石原さとみ。彼女が主人公を演じることを踏まえて書かれた、いわゆる「当て書き」の脚本となっている。

法医解剖医の三澄ミコト(石原)の勤務先は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。警察や自治体が持ち込む遺体を解剖し、死因をつきとめる。科捜研の女ならぬ、UDIラボの女だ。警察官ではないから捜査権はない。ただし調査や検査を徹底的に行う。

第1話の案件は青年の突然死。警察の判断は「虚血性心疾患」(心不全)だったが、検査の結果、心臓には問題がなかった。薬物による急性腎不全の疑いが出てくるが、肝心の毒物が特定できない。そこに遺体の第1発見者で婚約者でもある女性が現れる。しかも彼女の仕事は劇薬毒物製品の開発だったが、この後に予想外の展開が待っていた。

さらに驚かされたのが第3話で、ほぼ全編が法廷劇になっていた。舞台となったのは主婦ブロガー殺人事件の裁判。ミコトは代理の証人として出廷する。被告は被害者の夫(温水洋一)で、妻から精神的に追い詰められたことが動機だという。しかしミコトは証拠である包丁が真の凶器ではないことを法廷で指摘する。被告もまた無実を主張しはじめた。

この回で出色だったのは、最初は検察側の証人として法廷に立ったミコトが、次の裁判では被告側の証人へと転じて検事(吹越満)と戦ったことだ。この意外性たっぷりな展開こそ野木脚本の成果だろう。何よりミステリー性とヒューマンのバランスが絶妙で、テンポは快調だが急ぎ過ぎない語り口が上手い。ま

た役者たちが脚本によく応えている。石原はパワーを自在に調節する堂々の座長ぶり。同僚の一匹狼型解剖医、中堂(井浦新)のキャラクターも際立つ。今後もミコトと中堂のコンビネーションが物語を動かしていくはずで、「不条理な死」を許さないプロたちを描く新感覚のサスペンスとして注目だ。

(北海道新聞 2018年02月06日)


「紅白」視聴率は低いのか

2018年01月10日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、昨年大みそかの「NHK紅白歌合戦」について書きました。


「紅白」視聴率は低いのか
 あらためて考えるテレビの力

昨年の大みそか、「第68回NHK紅白歌合戦」が放送された。平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は前半の第1部が35・8%、後半の第2部は39・4%。特に第2部は「視聴率歴代ワースト3」だったことから、悪い意味で話題となった。

しかし視聴率だけで評価するのは一面的過ぎるのではないか。ネット社会の進展に伴い、視聴者側におけるテレビの優先順位は下がり続けてきた。また番組を放送時に見るのではなく、録画などで好きな時間に見る「タイムシフト視聴」も日常化している。

かつてヒットドラマといえば視聴率が20%以上のものを指していた。いまや15%で十分ヒット作と呼ばれ、10%で及第点といわれる時代だ。またバラエティー番組でも、年間平均で15%を超えるのは「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ―STV)や「ザ!鉄腕!DASH!!」(同)など数少ない。

そんな中で、約4割もの人が同じ番組をリアルタイムで見たことに驚くべきなのだ。いまだに「紅白」がそれだけの求心力を持っているのかと、逆に感心したと言っていい。

全体の出来としては、明らかに前年のほうが上だった。出場者と曲目の選定、歌う順番、ステージ美術、映像設計、司会進行、さらに楽曲とリンクしたミニ・ドキュメンタリーなども含め、視聴者の「求めているもの=見たいもの」と、制作側が「創りたいもの=見せたいもの」のバランスが絶妙だったのだ。

今回、内村光良の臨機応変な司会ぶりは確かに見事だった。しかし、誰もがNHKの「LIFE!~人生に捧げるコント~」を見ているわけではない。同番組を前提とした演出が目立つことが気になった。また後出しジャンケンのような形で出場を発表した安室奈美恵と桑田佳祐だが、制作側が思うほど視聴者にとって「ありがたい存在」だったかどうか。

美術セットとしては、ステージ上に巨大なパネルが設置され、歌い手ごとに様々な映像を背後に映し出した。使い勝手はいいだろうが、安上がり感は否めない。加えて凡庸で退屈なカメラワークが多いことも残念だった。

とはいえ約40%もの視聴率を獲得したのは事実だ。「紅白」という一つの番組だけでなく、テレビというメディアの現在とこれからを探るケーススタディ(事例研究)の対象にすべきだろう。同じ内容を、多くの人に、同時に届けることができる“テレビの力”を再認識すると共に、その力を何に使うのか、どう生かすのか。今年、送り手側はあらためて考えてみて欲しい。

(北海道新聞 2018年01月09日) 

日曜劇場「陸王」 個性と力量光る福澤克雄の演出

2017年12月08日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、日曜劇場「陸王」について書きました。


個性と力量光る福澤克雄の演出

日曜劇場「陸王」(TBS―HBC)の舞台は、埼玉県行田市にある老舗足袋メーカー「こはぜ屋」。昔ながらの足袋作りだけでは会社の将来が危ういと考えた、4代目社長の宮沢(役所広司)が新製品の開発に乗り出す。それがランニングシューズ「陸王」だ。

当初、銀行は実績がないことを理由に融資を渋るどころか、20人しかいない社員のリストラを強要してきた。しかし宮沢は、「これ(陸王)は、こはぜ屋100年の歴史を支えてきた社員から託された“たすき”です!社員たち一人一人がこのたすきを繋ぐランナーなんです」と言ってそれをはねつける。

その後も難題が待ち構えていた。試作品が出来ても、大手メーカーに囲い込まれている一流のランナーは履いてくれない。見込んだ茂木選手(竹内涼真)をサポートできるようになるまでには多くの時間を費やした。素材の調達も大変で、シューズの底に最適な「シルクレイ」という新素材の特許を持つ飯山(寺尾聰)の協力を得るのに苦労した。さらに、ようやく手に入れた本体部分の繊維素材も大手に横取りされてしまう。

こうした「立ちはだかる壁」を次々と設定することで物語に起伏が生まれ、それを乗り越える姿に見る側の共感が広っていく。原作はドラマチックな展開に定評がある池井戸潤の小説。脚本の八津弘幸をはじめとする制作陣も、「半沢直樹」「下町ロケット」などの“池井戸ドラマ”をヒットさせてきた面々だ。

中でも福澤克雄ディレクターの存在が大きい。池井戸作品以外にも日曜劇場の「南極物語」や「華麗なる一族」などを手がけてきたが、“男のドラマ”の見せ方が実に巧みなのだ。物語の流れにおける緩急のつけ方。登場人物のキャラクターの際立たせ方。映像におけるアップと引きの効果的な使い方などに「福澤調」と呼びたくなる個性が光る。

かつてTBSのドラマ部門には、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の久世光彦、「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」の大山勝美や鴨下信一といった看板ディレクターがいた。いつの頃からか「映画は監督のもの」で、「ドラマはプロデューサーのもの」という雰囲気が出来ている。

しかし、ドラマもまた演出家の個性と力量で、作品の出来が左右されるはずなのだ。画面を見ただけで福澤ディレクターの演出だとわかる作品は、「久世ドラマ」などと同様、「福澤ドラマ」と呼んでいい。そんな“署名性のあるドラマ”を見る楽しみが、この「陸王」にはある。

(北海道新聞 2017.12.05)

定番から意欲作まで並ぶ、今期ドラマは豊作

2017年11月13日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、今期のドラマ2本を取り上げました。


定番から意欲作まで並ぶ
今期ドラマは豊作

3ヶ月ごとに新しくなる連続ドラマだが、安心の「定番」から刺激的な「意欲作」までが見られる今期は豊作と言っていい。売れ筋の定番としては「相棒」、「科捜研の女」、そして「ドクターX~外科医・大門未知子~」(いずれもテレビ朝日―HTB)がある。中でも米倉涼子主演「ドクターX」の充実度が目を引く。それは制作側がヒットシリーズという立場に安住していない証拠だ。

このドラマでは、基本的な世界観は変えずに、細部を時代や社会とリンクさせながら変えてきている。たとえば初回、舞台となる東帝大学病院に初の女性院長(大地真央)を誕生させた。彼女のモットーは「患者ファースト」。医療に清廉性を求めることから、ニックネームは「マダム・クリーン」だ。結局、不倫問題でクビを切られたが、新シリーズ開始のインパクトとしては十分だった。

また、この女性院長をわずか1週だけで舞台から下ろした。ドラマ全体の贅沢感とスピード感を大事にした結果だろう。その一方でブレない大門はもちろん、神原(岸部一徳)や麻酔科医の城之内(内田有紀)、蛭間(西田敏行)とその取り巻き(遠藤憲一)などの“変わらなさ”にホッとする。流行と不易の絶妙なバランスがここにある。 

そして注目の意欲作が、クドカンこと宮藤官九郎脚本の「監獄のお姫さま」(TBS―HBC)だ。すっかり人気脚本家となったクドカンだが、変わらない“やんちゃ”ぶりが微笑ましい。クドカンドラマの特色は、キャラクターが物語を生むことだ。登場人物たちはこれまでどう生きて、何をしてきたのか。それが見事にストーリーに繋がっていく。

6年前、女子刑務所で4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)が出会った。出所した彼女たちは、EDO(えど)ミルク社長の板橋(伊勢谷友介)を拉致する。彼の婚約者をめぐる殺人事件で逮捕された、先代社長の娘(夏帆)の冤罪を晴らすのが目的だ。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンはこの密室空間を活用しながら物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えている。加えて、このドラマでは刑務所時代の「過去」と2017年12月という設定の「現在」が錯綜する。一見分かりづらいかもしれないが、時間軸を操ることはドラマならではの醍醐味。クドカンに翻弄されるのもまた、このドラマならではの楽しみだ。

(北海道新聞 2017年11月07日)



朝ドラ「ひよっこ」は、なぜ名作と言える一本となったのか

2017年10月03日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、先月末にゴールした朝ドラ「ひよっこ」を総括しました。


名作に育った「ひよっこ」
私たちの戦後史そのもの

先週末、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」が幕を閉じた。開始直後は「主人公が地味だ」「話が進まない」といった声も聞こえたが、半年間で名作と言うべき一本となった。

その最大のポイントは、谷田部みね子(有村架純)というヒロインの設定にある。ここしばらく続いた実在の人物がモデルやモチーフの「実録路線」とは異なり、あくまでも架空の人物だ。

しかも、みね子は「とと姉ちゃん」の小橋常子のように雑誌を創刊したり、「べっぴんさん」の坂東すみれのように子供服メーカーを興したりはしなかった。

また実在の女性ではないから、人生の結末どころか、明日さえも見えない。まさに無名で、何者でもないみね子だが、家族や友だちを大切にしながら懸命に働き、明るく生きていた。そんな等身大のヒロインだからこそ、見る側は応援したくなったのだ。

さらに脇役たちが単なる脇役にとどまらず、それぞれ魅力的なキャラクターとして描かれていたことも、このドラマの長所だ。故郷・奥茨城の人たち。ラジオ工場で一緒に働いた「乙女寮」の仲間たち。赤坂の「すずふり亭」と「あかね荘」の面々。今もどこかで元気に暮していてほしい、愛すべき人々である。

次が時代設定だ。最終的に、このドラマは昭和39年から43年まで4年間の物語だった。まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。そして、この国が経済大国へと変貌していく40年代。

そのちょうど境目、東京オリンピックが開催された昭和39年から物語が始まったことも有効だった。私たち日本人が何を得て、その代わりに何を失ってきたのかを感じさせてくれたからだ。

同時に視聴者は「タイムトラベル(時間旅行)」も楽しめた。東京オリンピック、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組の隆盛、そしてツイッギーとミニスカートブームなど、同時代を生きた人には懐かしく、知らない世代には新鮮なエピソードが並んだ。

東京オリンピックの時に高校3年生だったみね子は、逆算すれば昭和21年生まれということになる。いわゆる戦後第一世代であり、この年に公布された「日本国憲法」と、いわば同期生だ。

憲法とみね子。戦後に誕生し、少しずつ成長しながら周囲を支え、また周囲に支えられてきた姿も、どこか重なるものがある。それだけに、今年71歳のみね子がどんな女性になっているのか、気になるのだ。無名のヒロインの歩みは、私たちの「戦後史」そのものだったのだから。

(北海道新聞 2017年10月03日)


この夏の”企画賞”ドラマと、”熱演賞”俳優

2017年09月07日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ下北沢ダイハード」と「香川照之の昆虫すごいぜ!」について書きました。


この夏の企画賞「下北沢ダイハード」
熱演賞は「昆虫すごいぜ!」の香川照之

「下北沢ダイハード」(テレビ東京―TVH)は、今期ドラマの“企画賞”だ。描かれるのは、演劇の街・下北沢を舞台にした「人生最悪の一日」。脚本は小劇場の人気劇作家11人による書き下ろし。いわば深夜に開催された「小劇場フェスティバル」である。

たとえば、「裸で誘拐された男」の脚本は演劇チーム「TAIYO MAGIC FILM」の西条みつとし。SM趣味の国会議員(神保悟志)が、女王様(柳ゆり菜)の命令で全裸のままトランクに詰め込まれる。しかも手違いのため、トランクが紛れ込んだのは「誘拐事件」の現場だった。「こんな姿で文春にでも出たらアウトだあ」とあせりまくる国会議員がおかしかった。

また「違法風俗店の男」の脚本・演出は、ユニット「男子はだまってなさいよ!」の細川徹だ。俳優の光石研がドラマの中で「俳優・光石研」を演じる仕掛け。公演前に入った風俗店で、警察の手入れに遭遇する。脳内をテレビ番組「実録 警察庁24時!」の映像が駆け巡った光石は、起死回生のアドリブ勝負に出る。

劇団「東京サンシャインボーイズ」の三谷幸喜、劇団「大人計画」の工藤官九郎など、演劇人であると同時に、ドラマの優れた書き手でもある人たちがいる。今回参集した11人の「劇作家」の中から、第2、第3の三谷幸喜やクドカンが出てくるかもしれない。


この夏の“熱演賞”は、不定期放送のEテレ「香川照之の昆虫すごいぜ!」である。元・昆虫少年の香川がカマキリの着ぐるみ(その監修も香川自身)を着用して「カマキリ先生」となり、原っぱや河川敷で昆虫採集にまい進する。子供向け番組とは思えない、想像を超えるインパクトがあった。

以前の「モンシロチョウ」編でも、まるで座頭市の仕込み杖のような速さで捕虫網を切り
返し、次々と捕獲していった香川。チョウの腹を指でそっと押さえ、「この伝わるチカラ
がたまらない」と子供のように感動していた。香川、実にいいヤツである。

そして最新作のテーマは「タガメ」だ。きれいな水にしか生息しないにもかかわらず、小魚やカエルを食べる、どう猛なタガメ。香川はタガメを殺人犯に、自らをタガメ捜査一課長に見立て、全国の子供たちの助けを借りて大追跡を敢行する。

結局、4時間をかけて全長7センチの大物を「現行犯逮捕」した。最後は疲労で声も出ず、腰が痛いと正直に告白する51歳の名優。いいヤツな上に、すごいぜ!香川。 

(北海道新聞 2017年09月05日) 

80年代の原作を生かして、現代を描くドラマ2本

2017年08月04日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「黒革の手帖」と「ハロー張りネズミ」について書きました。


「黒革の手帖」「ハロー張りネズミ」
80年代の原作を生かして現代を描く

ドラマ「黒革の手帖」(テレビ朝日―HTB)が好調だ。原口元子(武井咲)は銀座にある高級クラブのママ。しかし以前は派遣の銀行員だった。銀行が隠す不正な預金を横領し、それを元手に店をオープンしたのだ。

原作は1980年に出版された松本清張の同名小説で、これまでに何度もドラマ化されてきた。中でも13年前の米倉涼子主演作の印象が強い。同じ役を武井が演じると報じられた時は、「若過ぎる」とか「銀座のママのイメージと違う」といった声も聞こえたが、杞憂だったようだ。

普通のOL役では、やや浮いてしまうような武井の美貌が、夜の銀座という“異世界”で存分に生かされている。また衣装やメイクだけでなく、その落ち着いた立ち居振る舞いと表情で造形された「銀座で一番若いママ」が見事にはまった。

さらに今回のドラマ化のオリジナル部分として、亡くなった父親が残した借金のために、元子と母親が苦労した過去をきちんと描いている。そのため、悪女であるはずの元子に、見る側が“肩入れ”する余地が生まれた。脚本の羽原大介の作戦勝ちである。成功を収めたかに見える元子だが、この先に試練が待ち受けていることは必至で目が離せない。

瑛太主演「ハロー張りネズミ」(TBS―HBC)の原作は弘兼憲史の漫画。こちらも80年代の作品だ。やはり何度か映像化されているが、今回の演出・脚本は、「まほろ駅前番外地」(テレビ東京―TVH)や「リバースエッジ 大川端探偵社」(同)の大根仁監督である。

「あかつか探偵事務所」は、所長の風かおる(山口智子)、調査員の七瀬五郎(瑛太)と木暮久作(森田剛)という3人だけの小さな所帯だ。大手が請け負わない「こぼれ仕事」や「汚れ仕事」が回ってくる。

たとえば交通事故で娘を失った男(伊藤淳史)の依頼は、同じ事故で危篤状態の妻に、娘の元気な姿を見せたいというものだ。五郎たちは、その娘に似た女の子を求めて奔走する。また自殺した父親(平田満)の汚名を晴らそうとする娘(深田恭子)が現れる。こちらは前後編で、爆破シーンもある豪華版だ。深田の「謎の美女」ぶりも板についている。

瑛太の飄々とした演技が心地よく、また森田と山口も大根演出のおかげで、笑える“ヤンチャ感”が出ている。さらに情報屋がリリー・フランキー、平田満の右腕だった男が吹越満といったキャスティングも効いている。猥雑さや品のなさを作品の熱量に転化させる“大根ワールド”全開の一本だ。

(北海道新聞 2017年08月01日)