碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 佐々木 譲 『真夏の雷管』ほか

2017年09月30日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

佐々木 譲 『真夏の雷管』
角川春樹事務所 1728円

北海道警察シリーズの最新作だ。ホームセンターで発生した窃盗事件を追う、大通り署刑事三課の佐伯宏一。狸小路の店で工具を万引きした少年を探す、生活安全課の小島百合。別々だった出来事が同心円を描き始めた時、真夏の札幌を揺るがす爆破事件が見えてくる。


三島由紀夫 
『告白 三島由紀夫 未公開インタビュー』

講談社 1620円

三島由紀夫の自決は昭和45年11月25日。その約9か月前に行われたインタビューが発見された。録音テープの中の三島が、文章に余白がないことを自らの欠点とするなど、快活かつ率直に文学と人生を語っていて驚かされる。何度も話題になる『太陽と鉄』も併録だ。


梅原猛、川勝平太 『日本思想の古層』
藤原書店 1944円

西洋哲学、東洋思想、さらに日本文化研究と孤高の歩みを続けてきた梅原。経済史研究家で静岡県知事の川勝。対談形式で梅原の軌跡をたどりながら、この国の基礎理念だという天台本覚思想「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」の意義を探る。梅原哲学の到達点を知る一冊だ。


澤田隆治 
『私説 大阪テレビコメディ史
 ~花登筐と芦屋雁之助』

筑摩書房 2376円

著者は『てなもんや三度笠』『ズームイン!! 朝』『花王名人劇場』などを手がけてきた伝説のテレビ制作者。昭和30~40年代の大阪のテレビ界が、作家・花登筺と役者・芦屋雁之助という異能の2人を通じて描かれる。一個人の回想に留まらない、貴重な放送文化史だ。

(週刊新潮 2017.09.28号)

明かされた『やすらぎの郷』誕生の秘密と、ひとりの「女優」

2017年09月29日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



4月に始まったドラマ『やすらぎの郷』も、今週末で幕を閉じます。やがて最終回がやってくるのはわかっていましたが、来週からこのドラマが流れないことを寂しく思う人は多いのではないでしょうか。

私もその一人なだけに、脚本の倉本聰さんが雑誌のインタビューで、自分自身が「やすらぎロス」になりそうだと語っているのを読んで、仲間を見つけたような嬉しさがありました。

最終週ということで、このドラマをどんなふうに着地させるのか、注目しているのですが、さすがに『ひよっこ』とは異なるので、何組もの幸せなカップルを誕生させて終わりというわけにはいきません(笑)。

そんなラスト前に、物語の一つの「謎」が解けたことと、その背景について、少し書いてみたいと思います。


老人ホーム「やすらぎの郷」は、なぜ生まれたのか?

その「謎」とは、“芸能界のドン”加納英吉(織本順吉)は、なぜ私費を投じて、テレビ人専用の老人ホーム「やすらぎの郷」を作ったのか、ということです。

先週の第121話。加納が亡くなる直前に、海軍参謀時代からの友人で秘書でもある川添純一郎(品川徹)が、菊村栄(石坂浩二)に説明してくれました。


川添「大道道子さんをご存知でしょう」

間。

栄 「――友人でした」

川添「彼女の不慮の死がきっかけでした」

音楽――消える。

栄。

川添「彼女は昔、加納プロの所属でした」

栄 「――」

川添「加納はあの娘を、我が子のように可愛がってました。しかし彼女はあいつを裏切り、他所の事務所に移籍しました」

栄 「――」

川添「怒る。というより、あいつは悲しかったみたいです」

栄 「――」

川添「だから黙って、云うがままにさせました。本当に云うがままにさせたンです。でもあいつの傘下のプロダクションや、テレビ局が勝手に気をまわし、あいつを恐れて大道道子を使わなくなった」

栄 「――」

川添「それから先は御存知でしょう」

栄 「――(かすかにうなずく)」

川 添「彼女には仕事が全く来なくなり、彼女は精神に異常を来し、その為友だちもどんどん離れ、芸能界から忘れられて――3年位経っていましたか――アパートで独り死んでいるところを、死後1週間たって発見された」

栄 「――」

川添「あの事件が全てのキッカケでしたよ」


・・・ドラマというフィクションの世界であることは承知していますが、かつて倉本さんのドラマでヒロインを演じ、後に孤独死した女優さんが思い浮かびました。

それを決定づけたのは、今週25日に放送された第125話です。菊村が、川添から聞いた話を仲間たちに伝えていました。



栄 「一つはもちろん、姫(九条摂子=八千草薫)のことさ。それともう一つはな」

一同「――」

間。

栄 「大道道子のことだったそうだ」

聞き入る冴子(浅丘ルリ子)たち。

栄 「俺を含めて、あいつは最後、みんなから孤立して、――死後一週間して一人アパートで死んでいるのを発見されたじゃないか」

一同「――」

栄 「加納さんはあいつのことを、娘みたいに可愛がってて、――だけどあいつは勝手に独立した。――みんながそのことで加納さんに気を使って、それでテレビ界の仕事から完全に干された」

一同「――」

栄 「そのことで加納さんはショックを受けて――自分の責任を痛感したんだそうだ」

一同「――」

栄 「一時代、みんなに愛されたものが、――あんな死に方をしていいのかってね」

マヤ(加賀まりこ)の目に涙が浮かんでいる。

栄 「やすらぎの郷の、それがそもそものきっかけだったらしいよ」

冴子の目もじわっとうるんでくる。

マロ(ミッキー・カーチス)「可愛かったもんなア! あの時代の洋子は」

大納言(山本圭)「市川崑さんの撮った有名なウイスキーのCMがあったよなア」

マロ「うン」

大納言「あン時の洋子、最高だったね」

栄。

その耳から、オールデイズが遠のいていく。

栄のクローズアップ。

洋子のCMの声がささやく。

声 「すこし愛して。ながーく、愛して」

栄。

――グラスを口へ運ぶ。

その目から突然涙が吹き出す。

はるかから流れてくるトランペットの音。


・・・「洋子のCMの声」は、紛れもない大原麗子さんでした。市川崑監督が演出した、「サントリーレッド」のテレビCM。1977年から数年続いた人気シリーズです。

中でも記憶にあるのは、登山に行く夫のために荷造りをしている大原さん。レッドをセーターでくるみ、リュックに入れようとしますが、自分を置いてゆく夫がちょっと恨めしくなり、リュックを蹴飛ばします。痛がる大原さんに、あのハスキーな声がかぶります。「すこし愛して。ながーく、愛して」

ドラマでは声だけでなく、画面に彼女の写真も挿入されました。大道道子を演じているのは、まさしく「女優・大原麗子」です。

先週発売された女性週刊誌で、倉本さんが語っていました。

「(富良野に移り住んで40年)ここに小屋を建てて、最初に泊まりに来たのが女優の大原麗子(享年62)でした。あれだけの大スターが孤独死して、3日も発見されなかった。異常な死でしたよね。あまりに衝撃が大きくて、近しい人間としてはこたえました。実は、彼女の死が『やすらぎの郷』の執筆に深くかかわっています。

テレビ局の人間と違ってぼくら現場の人間はフリーの一匹狼で、何の保障もない。俳優だって、売れなくなったら事務所から捨てられちゃうだろうし。そんな老いた一匹狼たちを受け入れるのが“やすらぎの郷”です」(女性セブン 2017年9月28日号)

もちろんドラマの中での設定は、実際の大原さんそのままにはなっていませんが、彼女を“大道道子役”とすることでイメージを鮮明にし、また大原さんへの哀悼の意を表したわけです。


大原麗子主演の倉本ドラマ『たとえば、愛』

以前、倉本さんと差し向かいで、「倉本ドラマ」について話をさせていただいた時、大原麗子さんのことが話題になりました。

大原さんは、高倉健さん主演の『あにき』(77年、TBS)で、健さんの妹を演じました。そして2年後の『たとえば、愛』(79年、TBS)は、大原さんが主役となったドラマです。10年以上もラジオの深夜番組のDJ(ディスクジョッキー)を務めている、九条冬子の役でした。

共演は津川雅彦さんと原田芳雄さん。原田さんが「前の夫」で、津川さんが「再婚相手」。ふと2人の間で揺れてしまう冬子が、かなり素敵でした。豊島たづみさんが歌っていた主題歌、『とまどいトワイライト』も忘れられない一曲です。

この『たとえば、愛』を、倉本さんは「愛着のある1本」として挙げて、大原麗子という稀有な女優を惜しみ、またその亡くなり方を嘆いていました。

自身の“最後の連ドラ”になる可能性もある『やすらぎの郷』で、約40年ぶりに大原麗子さんが倉本ドラマに“出演”したことを、たぶん倉本さんは誰よりも喜んでいると思います。

さて、愛すべき女優へのオマージュも、無事果たしました。残るは、かつて菊村が愛した若手女優の孫娘・榊原アザミ(清野菜名)へのモヤモヤした思い(笑)などの決着でしょうか。ゴールは今週末の金曜です。

山本耕史が好演する、“日本一の無責任男”植木等

2017年09月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載中のコラム「TV見るべきものは!」。

今週は、NHK土曜ドラマ「植木等とのぼせもん」について書きました。

NHK土曜ドラマ
「植木等とのぼせもん」
“ミスター無責任”を山本耕史が好演!

植木等の名を知る世代も限られてきた。しかし戦後芸能史を語る際には欠かすことのできない俳優であり、コメディアンであり、歌手であることは間違いない。

満島ひかり主演「トットてれび」で黒柳徹子とテレビ草創期を描いたNHK土曜ドラマが、今度は植木等に挑んでいる。「植木等とのぼせもん」だ。

昭和30年代後半の約4年間、植木の運転手兼付き人を務めた若き日の小松政夫を、物語の“狂言回し”にしたことがこのドラマの特色だ。

昭和36年、「ハナ肇とクレージー・キャッツ」が、植木等の歌で「スーダラ節」という大ヒットを飛ばす。翌年には映画「ニッポン無責任時代」「ニッポン無責任野郎」も大人気。植木は“ミスター無責任”のイメージと共にスターとなった。だが、植木本人は「無責任男」でも「面白い男」でもない。寺の子として生まれ育った真面目な男である。そんな植木が大マジメに無責任男を演じたからこそ、「植木等」は面白かったのだ。

このドラマでは、「こんな歌を歌っていていいのか」と悩みながらも、世間が求める笑いを届けようとするマジメ男を、山本耕史が懸命に演じている。本人に似せることよりも、植木の心情や人柄の表現に意識を向けた芝居に好感がもてる。

また小松政夫役の志尊淳も「のぼせもん(お調子者)」を熱演。全8回は今週から後半戦だ。

(日刊ゲンダイ 2017.09.27)

【気まぐれ写真館】 オープンした、北門  2017.09.26

2017年09月27日 | 気まぐれ写真館
秋学期開始に合わせて完成、オープンした北門


書評した本: 池内 紀 『闘う文豪とナチス・ドイツ』ほか

2017年09月26日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

困難な中も続けたマンの日記を繙く

池内 紀 
『闘う文豪とナチス・ドイツ』

中公新書 886円

北杜夫『どくとるマンボウ青春記』では、旧制高校の寮がトーマス・マン『魔の山』に喩えられる。「ありとある人種が集まって、息の長い比較するものとてない物語が進行してゆく」と。これが喩えとして成立していたように、かつてはマンも『魔の山』も、当たり前の教養だったのだ。

昨年、邦訳『トーマス・マン日記』全10巻が完結した。1933年1月にヒトラー政権が成立した直後、国外で講演旅行中だったマンは帰国差し止めの対象とされてしまう。それは長い亡命生活と日記の始まりだった。池内紀『闘う文豪とナチス・ドイツ トーマス・マンの亡命日記』は、マンがこの困難な時代をどう生き、何を思っていたのかを探った力作だ。

マンが堅持した日記の原則がある。まず、たとえ短いメモ程度でも毎日書くこと。また日記のつけ方にも型があり、執筆中の小説の経過、その日の体調、そして世界情勢と続く。中でも記された世界情勢は、「ドキュメントとして並外れて優れている」と著者。マンは複数の新聞を読み較べ、情報の精度を確認していた。

本書を読み進めると、ナチスに対するマンの立ち位置がわかってくる。キーワードは「共犯の罪」だ。ある体制を容認するどころか、有利にはかることを「第一級の犯罪行為」と捉え、ナチスを「許し、肥大させ、暴走させた罪」をドイツ国民と共有しようとしたのだ。しかもそれが容易ではなかったことも、現代の私たちは知っておくべきだろう。


下川 裕治 
『シニアひとり旅 
 ~バックパッカーのすすめ アジア編』

平凡社新書 864円

著者のデビュー作は27年前の『12万円で世界を歩く』。本書は同世代に向けたアジアガイドだ。上海で探す金子光晴の住居。タイから陸路で越える国境。ソウルの専門店で知る韓国料理の奥深さ。各国の歴史を踏まえ、現在の街や人と向き合う旅の流儀は変わらない。


古井由吉 『楽天の日々』
キノブックス 2592円

79歳の現役作家による最新エッセイ集だ。ある時は漱石や藤村を読み直す。またある時は自作をめぐる解説風回想を綴る。「雨」や「危」など漢字一文字を入り口にした時事的随筆も刺激的だ。さらに1991年発表の短篇小説「平成紀行」まで読めることに感謝。

(週刊新潮 2017年9月21日菊咲月増大号)



カトリック高校対象特別入試 2017.09.24

2017年09月25日 | 大学
24日(日)に行われた、カトリック高校対象特別入試




【気まぐれ写真館】 今月も、いつもの千歳「柳ばし」で  2017.09.23

2017年09月24日 | 気まぐれ写真館
チキンに特製トマトソース



HTB「イチオシ!モーニング」 2017.09.23

2017年09月24日 | テレビ・ラジオ・メディア




ガンちゃんこと岩本さん

オクラホマ藤尾さん

菊池アナウンサー

期待の新人、登場!

福永裕梨アナウンサー




10月から「報道の顔」となる依田アナウンサー

異動前、記念の2ショットです



今週の木村愛里さん


HTB「イチオシ!」 2017.09.22

2017年09月23日 | テレビ・ラジオ・メディア
にぎやかなスタジオ




謎の美人スタイリストさん


オクラホマ藤尾仁志さん


スポーツ担当の小俣彩織さん


ニュース担当の国井美佐アナウンサー



「HTBアナウンス講座」受講生の皆さん




今週の高橋春花アナウンサー

【気まぐれ写真館】 HTB北海道テレビ  2017.09.22

2017年09月23日 | 気まぐれ写真館


ロビーにある「どうでしょう道祖神」

【気まぐれ写真館】 本日も札幌のMY定番  2017.09.22

2017年09月23日 | 気まぐれ写真館
まる山「かもせいろ」

【気まぐれ写真館】 札幌 気温22度  2017.09.22

2017年09月23日 | 気まぐれ写真館
秋晴れの札幌

実力派3人出演「琥珀」 濃密な情感は浅田ドラマの醍醐味

2017年09月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



テレビ東京系 
浅田次郎ドラマスペシャル「琥珀」
濃密な情感こそ浅田ドラマの醍醐味だ

先週金曜の夜、浅田次郎ドラマスペシャル「琥珀」(テレビ東京系)が放送された。放火殺人事件の容疑者で25年間も逃亡を続けている男。そんな過去を知らないまま、男を好きになった人妻。2人が暮らす北陸の港町に、突然刑事が現れて……という物語だ。

殺人逃亡犯と刑事が出てくるとはいえ、派手なアクションも緊迫のサスペンスもない。また男と人妻による濡れ場があるわけでもない。しかし、この3人を寺尾聰(70)、鈴木京香(49)、西田敏行(69)が演じることで、見事な“大人のドラマ”となっていた。

脚本は朝ドラ「ひよっこ」が好調の岡田惠和だ。原作である浅田次郎の短編をベースにしながら、独自のイメージで物語世界を構築していた。寡黙だが実直な男は、なぜ妻と自宅を焼いたのか。明るく振る舞いながらもどこか影のある女は、どんな家庭を持っているのか。

さらに定年を数日後に迎えるはずの刑事は、何を思ってこの町にやってきたのか。岡田は彼らが抱える心の重荷をじっくりと丁寧に、そして優しい目で描いていく。

ラスト近く、男が営む喫茶店「琥珀」の中で、3人の会話が約15分間も続く場面がある。それは告白であり、謎解きであり、人が生きる上で大切なものを提示するクライマックスだった。岡田の脚本と寺尾・鈴木・西田の演技が生み出した濃密な情感こそ、浅田ドラマの醍醐味だ。

(日刊ゲンダイ 2017.09.20)


800万アクセスに感謝です!

2017年09月21日 | テレビ・ラジオ・メディア



本日、この「碓井広義ブログ」のアクセス数が、トータルで800万を超えました。

700万到達が昨年の9月でしたので、この1年間で、プラス100万ということになります。

ありがとうございます!

800万という数字は大きすぎて、実感はあまりないのですが、とにかく、読んでくださっている皆さんに感謝です。

個人のささやかな発信ではありますが、これからも、あれやこれやと書いていきたいと思っていますので、引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

【気まぐれ写真館】 ほぼ完成した、新しい「北門」  2017.09.20

2017年09月21日 | 気まぐれ写真館

秋学期の開始に合わせてオープンする予定