碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【旧書回想】  2021年5月後期の書評から 

2023年01月31日 | 書評した本たち

 

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20215月後期の書評から

 

 

田澤拓也『1976に東京で』

河出書房新社 1980円

開高健賞作家の自伝的青春小説である。青森出身の「私」が、出版社に就職したのは1976年の春。週刊誌編集部での新人時代と、70年に入学してからの学生時代が交互に語られる。学内のマドンナだったKとの同棲、そして学生結婚。だが取材や原稿書きの面白さを知った頃、2人の関係が揺らいでくる。また新たな女性Fの出現も、私を大きく変えていく。昭和の東京を漂流する、若き魂の物語だ。(2021.04.30発行)

 

岸 惠子

『岸惠子自伝―卵を割らなければ、オムレツは食べられない』

岩波書店 2000円

女優・岸惠子の凄さは美貌と演技力だけではない。知性と思い切りの良さが加わっていることだ。共演の鶴田浩二を知らずに挑んだ初主演作。『君の名は』で大スターとなるが、自由を求めてノイローゼに陥った。またフランス人映画監督との恋を成就すべく、名作『雪国』を自身への訣別の作品にして海を渡った。信条は、「うまい女優」であるより「いい女優」であれ。波乱に富んだ88年だ。(2021.05.01発行)

 

田村景子:編著『文豪たちの住宅事情』

笠間書院 1980円

作家の住居は仕事場でもある。安息の地であると同時に戦場だ。どこに住むのか。どんな家で暮らすのか。それは作品にも関わってくる。志賀直哉が自己を見つめた、尾道の棟割長屋。谷崎潤一郎が『細雪』に取り組んだ、神戸の和風木造住宅。池袋の家の土蔵を書斎とした江戸川乱歩。寺山修司は青森から上京した母と渋谷NHK裏のアパートに住んだ。仮の宿から終の棲家まで、家と文学の伝説が語られる。(2021.05.10発行)

 

森 秀治『探偵はここにいる』

駒草出版 1650円

ホームズや明智小五郎から名探偵コナンまで。活字や映像で探偵は根強い人気を誇る。本書は実在の探偵たちを取材したノンフィクション。リアルな活動の内幕に迫っている。圧倒的に多いのは浮気調査だ。対象者を尾行し、証拠の動画を撮り、浮気相手の名前や住所などを割り出す。彼らはなぜ探偵になったのか。依頼者の人生にどこまでコミットするのか。人間という多面体の実像が浮かび上がる。(2021.05.13発行)

 

著者・編者:ロザムンド・キッドマン・コックス

『世界一の動物写真』

日経ナショナルジオグラフィック社 3960円

世界的権威を誇る自然写真コンテスト「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」。本書はその50周年を記念して出版された写真集だ。一流のプロから優れたアマチュアまでの受賞作品が収められている。氷原で寄り添う大きなクマと小さなキツネ。イソギンチャクの隙間から外をのぞくクマノミ。南極の夕暮れを背にする皇帝ペンギンたち。奇跡のような一瞬だからこその美しさだ。(2021.04.19発行)

 

石原慎太郎『あるヤクザの生涯 安藤昇伝』

幻冬舎 1540円

安藤昇は特攻隊の生き残りだ。いずれ必ず死ぬなら「したい放題をし尽して死ねばいい」と覚悟を決めた。戦後の渋谷を席巻した組長が自らを語る形で書かれた、ノンフィクションノベルだ。学生中心の愚連隊が異色のヤクザ組織へと成長する過程がスリリングだが、武器は「知」と「血」だった。横井英樹襲撃事件や安藤組解散の真相。映画俳優としての自分。さらに女たちとの交情も実名で明かされる。(2021.05.10発行)

 

紀田順一郎:監修、荒俣宏:編『平井呈一 生涯とその作品』

松籟社 2640円

戦後、欧米の怪奇文学をわが国に紹介した功労者、平井呈一。編者の荒俣は中学時代から平井の薫陶を受けてきた。そんな愛弟子が、師匠の生涯を調べ、新事実も掘り起こして書き上げたのが「平井呈一年譜」だ。精緻にして膨大な記述は、分厚い本書の半分を占める。さらに平井の未発表作品、評論、随筆、解説などが収められている。翻訳家・研究家の枠を超えた、文人としての実像が立ち現れる。(2021.05.19発行)

 


【気まぐれ写真館】 2023.01.30の夕景

2023年01月30日 | 気まぐれ写真館


【旧書回想】  2021年5月前期の書評から 

2023年01月30日 | 書評した本たち

 

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20215月前期の書評から

 

 

松任谷正隆『おじさんはどう生きるか』

中央公論新社 1650円

音楽プロデューサーの著者は今年70歳になる。自称「おじいさん見習いのおじさん」の目に、世の中や自分はどう映っているのか。誰もが我慢しない時代。著者が大事にするのはルールよりマナーだ。そこには自由度がある。喧嘩のマナー。女性を見る時や年下と接する際のマナー。そしてコロナ感染をめぐるマナーも。「僕は人より順応性がない」と告白する、著者ならではの気づきが新鮮だ。(2021.03.25発行)

 

辻 真先『二十面相暁に死す』

光文社 1980円

江戸川乱歩作品への敬意に満ちた、『焼跡の二十面相』から2年。待望の続編が登場した。敗戦の翌年、明智小五郎と小林少年の偽者が現れ、羽柴家秘蔵の「黄金の厨子」を奪う。続けて銀座・太田垣美術店の「魔道書」も盗まれる。いずれも復活した怪人二十面相の仕業だ。立ち向かう明智と小林少年。進駐軍が君臨する不穏な時代を背景に、細部まで再現された少年探偵シリーズの世界が楽しめる。(2021.03.30発行)

 

赤石晉一郎『完落ち~警視庁捜査一課「取調室」秘録』

文藝春秋 1760円

ロス疑惑、宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件、そして地下鉄サリン事件。その全てに捜査員として関わったのが、警視庁捜査一課の大峯泰廣だ。取調室という閉じた空間の中で、間合いとタイミングと言葉を駆使して容疑者と対峙する。たとえば宮崎勤に「心の闇」などなく、あくまで「わいせつ目的」だったことを暴いた。〝伝説の刑事〟が遭遇した現場の軌跡は、そのまま昭和・平成事件史である。(2021.04.15発行)

 

落合博満『戦士の食卓』

岩波書店 1650円

前作『戦士の休息』で、著者は無類の映画通であることを知らしめた。第2弾の本書は「食の哲学」だ。プロのスポーツ選手は食べることも仕事。選手から監督へという軌跡と共に、愛する故郷・秋田の米、鍋料理の全国行脚、酒の効用、人と器の関係などが語られる。好き嫌いが激しかった食生活を改善し、体を作り直すことで三冠王へと導いた信子夫人が明かす、「落合家の食卓」秘話も出色だ。(2021.04.14発行)

 

川本三郎『映画のメリーゴーラウンド』

文藝春秋 1980円

ウディ・アレン『女と男の観覧車』で始まった話が、舞台であるコニー・アイランドの名物、ホットドッグを介して『ペーパー・ムーン』に飛び、さらに2018年公開の『レディ・バード』へと繋がっていく。まさに「映画の尻取り遊び」だ。洋画、邦画、旧作、新作、ジャンルさえも超えた連想を可能にしているのは豊富な知識だけではない。細部への眼差しが象徴する、著者の映画愛のなせる業だ。(2021.04.15発行)

 

長濱 治『奴は・・・』

トゥーヴァージンズ 4950円

写真集である。ただし被写体は、可愛いアイドルでもモデルの美女でもない。『HELL‘S ANGELS 地獄の天使』で知られる写真家が40年にわたって撮り続けた作家、北方謙三だ。街を背にスーツとソフト帽で立つ。ジーンズに革ジャンで歩く。時にはタンクトップで竹刀を振る。2ショットの相手が高倉健でも、その風圧に負けない男がここにいる。ハードボイルドはジャンルではなく生き方そのものだ。(2021.04.30発行)

 

コロナ・ブックス編集部:編

『トキワ荘マンガミュージアム―物語のはじまり』

平凡社 2200円

若き日の手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫などが暮らした伝説のアパートが「トキワ荘」だ。1982年に解体されたマンガの聖地が、昨年ミュージアムとして甦った。木造の建物、ギシギシ鳴る階段、ふすまの柄、さらに窓からの景色まで当時の雰囲気を再現している。本書はガイドブックであると同時に昭和へとワープするタイムマシンだ。トキワ荘が満室の頃、それはマンガの青春時代でもあった。(2021.04.21発行)

 

読売新聞文化部「本よみうり堂」編

『キリンが小説を読んだら―サバンナからはじめる現代文学』

書肆侃侃房 1760円

読売新聞の連載企画「現代×文芸 名著60」が一冊になった。並ぶのは現代を理解するのに有効な小説60冊。選者は英文学者・阿部公彦、詩人・蜂餌耳、そして翻訳家・辛島デイヴィッドの3人だ。生きにくさを感じる心に寄り添う、小川洋子『ことり』。老いの現実を見つめる、水村美苗『母の遺産―新聞小説』。震災後の東北が舞台の佐伯一麦『空にみずうみ』など。いずれも期待を裏切らない名作だ。(2021.04.27発行)


言葉の備忘録313 よき時を・・・

2023年01月29日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

よき時を

目指していこうという

意志力があれば、

それって

実現するんと違うかな。

 

 

宮本 輝 

インタビュー「よき時を思う」

『青春と読書』2023年2月号

 

 

 


【旧書回想】  2021年4月後期の書評から 

2023年01月28日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20214月後期の書評から

 

 

軍土門隼夫『衝撃の彼方 ディープインパクト』

三賢社 1650円

著者はベテランの競馬ライター。月刊誌『優駿』好評連載の単行本化だ。2002年3月、北海道のノーザンファームで鹿毛の牡馬が生まれた。後に最強・最速の競走馬となる、ディープインパクトだ。04年末にデビューし、競馬の歴史を塗り替える活躍を見せる。その強さの秘密は何だったのか。父はサンデーサイレンスだが、血統だけでは王者になれない。馬と人とが織りなす運命の物語がそこにある。(2021.03.25発行)

 

湊かなえ『ドキュメント』

角川書店 1650円

高校放送部が舞台の小説『ブロードキャスト』の続編。主人公の町田圭祐は、コンテストに向けて仲間たちとドキュメンタリー作りに取り組む。取材対象は陸上部だ。ドローンが導入されたこともあり撮影は順調に進んでいく。ところが映像を確認すると、陸上部に所属する同級生が煙草を手にする姿が映っていた。これは一体何を意味するのか。伝えることの醍醐味と怖さが一挙に押し寄せてくる。(2021.03.25発行)

 

太田英昭『フジテレビプロデューサー血風録~楽しいだけでもテレビじゃない』

幻冬舎 1430円

フジテレビが「楽しくなければテレビじゃない」を標榜していた1980年代。著者は情報系番組の新機軸として『なんてったって好奇心』を立ち上げる。その後も『ニュースバスターズ』『ザ・ノンフィクション』、さらに『とくダネ!』も手掛けた。本書は自称「センチメンタル・ジャーニー」な回想記だ。安請け合いを自覚しながら、常に攻めの番組作りを貫いた男が語る、テレビ屋が輝いていた時代。(2021.04.05発行)

 

倉本聰『古木巡礼』

文藝春秋 2145円

本書は不思議な「聞き書き」だ。何しろ語るのが樹齢何百年の古木なのだから。京都弁で幕末から平成までの日本を回想する、建仁寺の松。原爆を生き延びた、長崎のクスノキ。処理できない猛毒のゴミを嘆く、福島の桜。長い歳月の中で遭遇した数々の出来事、そして現在の思いが明かされる。底流にあるのは人間の所業に対する怒りだ。それは古木たちの話に耳を傾けた、著者自身の怒りでもある。(2021.04.15発行)

 

ヤマザキマリ『ヤマザキマリ対談集―ディアロゴスDialogos』

集英社 1650円

豊富な海外経験と幅広い知見が生きる、初の対談集だ。軸となるテーマは「運動」。竹内まりやは「女の人生はまるでトライアスロン」と語り、養老孟司は農業や家事のように「生きるために動く」のが人間本来の姿だと言う。また2年前に亡くなった兼高かおるの「見るだけが旅じゃない、五感で感じること」という言葉も貴重だ。他に内田樹、釈宗徹、中野信子、平田オリザなど刺激的な対話者が並ぶ。(2021.03.31発行)

 

神永 暁『辞書編集者が選ぶ美しい日本語101~文学作品から知る一〇〇年残したいことば』

時事通信社 1760円

著者は37年のキャリアを持つ辞書編集者。そんな言葉のプロが選んだ「美しい日本語」で、最も多いのは感情表現だ。夏目漱石『硝子戸の中』に出てくる「ゆかしい」。梶井基次郎が『冬の日』で3回も使った「切ない」。自然描写では田山花袋『田舎教師』の「濡れそぼつ」や堀辰雄『大和路・信濃路』の「木洩れ日」また人間関係の描写では森鴎外『雁』の「さようなら」のひと言も印象に残る。(2021.03.31発行)

 

保阪正康『石橋湛山の65日』

東洋経済新報社 1980円

石橋内閣の成立は昭和31年(1956)12月。だが約2ヵ月後に脳梗塞で倒れた。65日は内閣総理大臣としての在任期間だ。記録的な短さだが、著者は石橋を「信念を貫こうとする強い意思」を持つ人物として高く評価する。大日本主義を否定する小日本主義、反ファシズムの平和主義、共同体的感情を超えた論理主義などを信条とした石橋。政治不信の今、「保守とは何か」を問い直すには格好の評伝だ。(2021.04.08発行)

 


【旧書回想】  2021年4月前期の書評から 

2023年01月27日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20214月前期の書評から

 

 

平岩弓枝『嘘かまことか』

文藝春秋 1430円

『御宿かわせみ』シリーズなどで知られる著者。脚本家としても朝ドラ『旅路』や『肝っ玉かあさん』といった人気作を生んできた。90歳の現在も健筆は変わらない。この最新エッセイ集では、神社の一人娘だった少女時代から恩師・長谷川伸との交流まで貴重な思い出が語られる。さらに「損得勘定だけでは世の中の歯車はうまく回らない」と世相にも言及。滋味あふれる幸福論になっている。(2021.03.10発行)

 

沢野ひとし『真夏の刺身弁当~旅は道連れ世は情け』

産業編集センター 1210円

相変らず、なかなか旅に出られない。そんな不満を埋めてくれる旅エッセイ集だ。表題作は高校時代に親しくなった割烹料理屋の娘との成田山参りだが、甘酸っぱい話はこれだけだ。「自由の場」「思考する場」としての山登り。北京で建築を、ハイラルで餃子を堪能する物見遊山の旅もいい。また長期滞在のロスアンゼルスでは、暮らすような旅の面白さも知る。旅の思いに「賞味期限」はないと著者。(2021.03.15発行)

 

岩瀬達哉『キツネ目~グリコ森永事件全真相』

講談社 1980円

1984年3月、江崎グリコの江崎勝久社長が誘拐・監禁された。やがて自力で脱出したが、会社への脅迫が開始される。犯人グループは「かい人21面相」を名乗り、前代未聞の劇場型犯罪として世間を騒がせた。本書はこの未解決事件の真相に迫るノンフィクションだ。警察や被害者側の新証言はもちろん、犯人たちと格闘し拉致された人物への取材が光る。何人もの人生を変えてしまう難事件だった。(2021.03.09発行)

 

白取千夏雄『「ガロ」に人生を捧げた男~全身編集者の告白』

興陽館 1430円

元『ガロ』副編集長の白取千夏雄が亡くなったのは4年前。51歳だった。本書はその2年後に出版された自伝『全身編集者』の復刻版だ。白取は名物編集者だった長井勝一の薫陶を受けた、自称「最後の弟子」。90年代末の『ガロ』休刊や青林堂の分裂騒動にも深く関わった。その後、2005年に白血病となり、さらに癌を抱えるなど波乱の人生が続く。伝説の漫画誌に半生を投じた男が放つ、捨て身の光芒。(2021.03.15発行)

 

向田邦子:著、碓井広義:編『少しぐらいの嘘は大目に~向田邦子の言葉』

新潮文庫 605円

ドラマ『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』の脚本家であり、エッセイ『父の詫び状』や小説『思い出トランプ』などでも知られる向田邦子。今年は「突然あらわれてほとんど名人」と言われた彼女の没後40年に当たる。本書は「全作品」から精選された名文・名ゼリフをテーマ別に編んだ、文庫オリジナル。「女のはなしには省略がない」をはじめ、鋭い観察眼から生まれた刺激的な言葉が並ぶ。(2021.04.01発行)

 

大塚英志『「暮し」のファシズム~戦争は「新しい生活様式」の顔をしてやってきた』

筑摩書房 1980円

コロナ禍が続く中、「新しい生活様式」「新しい日常」といった言葉にも慣れてしまった。だが、批評家である著者は「戦時下」との類似を警戒する。1940年に近衛文麿が発足させた大政翼賛会。この「新体制運動」は第二次世界大戦への参画準備だった。著者は当時の婦人雑誌、小説、新聞まんが、女学生の制服などを検証し、「生活」や「日常」が国策に組み込まれる過程を明らかにしていく。(2021.03.15発行)

 

竹宮恵子『扉はひらく いくたびも~時代の証言者』

中央公論新社 1650円

竹宮恵子は日本を代表する女性漫画家の一人だ。石ノ森章太郎に熱中した少女時代から現在までの半生を語っている。萩尾望都など仲間でライバルたちとの交流。作品との格闘。特に『風と木の詩(うた)』や『地球(テラ)へ…』などの名作が生まれるプロセスの回想は貴重だ。90年代に入ると、竹宮は「古典」や「歴史」の描き下ろしに取り組む。戦後マンガの歴史と共に歩み、今も挑戦を続ける姿勢が刺激的だ。(2021.03.25発行)


言葉の備忘録312 ものを・・・

2023年01月26日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

ものを創るってのは、

人間が

一番遠くまで行ける手段なんだよ。

 

 

雪平響子(夏木マリ)の言葉

ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』#2

2023.01.24放送

 

 

 


【気まぐれ写真館】 0°Cの月

2023年01月25日 | 気まぐれ写真館

2023.01.25


【気まぐれ写真館】 2°Cの夕暮れ

2023年01月25日 | 気まぐれ写真館

2023.01.25


作り手の「音楽と音楽家への敬意」が感じられる、日テレ『リバーサルオーケストラ』

2023年01月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

『リバーサルオーケストラ』

作り手の

音楽と音楽家への敬意が

感じられる

 

門脇麦主演「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ系)は、久しぶりに登場した音楽ドラマだ。リハーサルならぬ「リバーサル」とは、逆転とか反転を意味する。

元天才ヴァイオリニスト・谷岡初音(門脇)が、優秀だが毒舌家の指揮者・常葉朝陽(田中圭)と共に、地方の崖っぷちオーケストラを再生する物語だ。

初音には、自分の演奏活動が家族に犠牲を強いていると思い込み、表舞台から消えた過去がある。欧州で活動していた朝陽は、市長の父(生瀬勝久)から強引に地元オーケストラの再建を任された。

門脇も田中も、訳アリの音楽家を硬軟自在の演技でしっかり造形している。

しかも、ヒロインがヴァイオリニストとして復活することだけでなく、オーケストラという集団とメンバーたちの〝生きる道〟を探るストーリーになっている点が面白い。

さらに注目したいのは、このドラマがクラシック音楽を大切に扱っていることだ。音楽担当としてNHK・Eテレ「クラシックTV」などで知られる、ピアニストの清塚信也が参加している。

またドラマの中の児玉交響楽団の演奏は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるものだ。たとえば初音がはじめて楽団と一緒に演奏したロッシーニの「ウイリアム・テル」序曲も、わずか数分とはいえ十分聴き応えがあった。

作り手の「音楽と音楽家への敬意」が感じられるドラマだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.01.24)

 


言葉の備忘録311 すべての・・・

2023年01月24日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

  すべての出来事は物語であり、

  かつ、

  ハッピーエンドなんだ。

 

 

  小西マサテル

『名探偵のままでいて』

 (「このミステリーがすごい!」大賞 大賞受賞作)

 

 

 


言葉の備忘録310 自分に・・・

2023年01月23日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

「自分にしかない武器を持つ」

「自分を分析する力」

「毎日を大事に」

 

 

  三苫 薫(サッカー日本代表MF)

  サッカー少年への3つの言葉

  東京新聞 2023.01.20

 

 

 


【新刊書評】2022年10月後期の書評から 

2023年01月22日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年10月後期の書評から

 

 

久住昌之『勝負の店』

光文社 1650円

著者は『孤独のグルメ』の原作者。散歩中や旅先で遭遇した飲食店をめぐるエッセイ集だ。事前に店情報のリサーチはしない。出会い頭の想像力と勇気で中に入るのだ。東京都武蔵野市で常連客と店の関係を思いつつ、「肉じゃが」にほっこりする。杉並区高円寺ではアナログレコードが並ぶ棚で70年代を回想し、「ピーマン炒め」を味わう。いずれも自然体でありながら、一期一会の真剣勝負だ。(2022.09.30発行)

 

草思社編集部:編『作家の老い方』

草思社 1760円

「老い」は誰にもやって来る。しかも日々初体験だ。本書には老いに触れたエッセイや小説など23篇が並んでおり、作家たちの老いに対する認識や思いを知ることが出来る。たとえば、生きることの真義は「日常の充実」にあると金子光晴。あさのあつこは、老いたら「自前のモノサシ」を持つことが大事だと言う。さらに、老いを「無用のようで、なければ窮する」と看破したのは古井由吉だ。(2022.10.03発行)

 

菊池由貴子『わたしは「ひとり新聞社」~岩手県大槌町で生き、考え、伝える』

亜紀書房 1980円

著者は東日本大震災を経験する中で、全国紙や県紙への違和感を覚えた。地域紙の廃刊もあり、震災の翌年に『大槌新聞』を創刊する。まちづくりに関する記事がメインで、取材・執筆・発行を一人で行う新聞だ。後に復興政策や震災検証を巡って町政と対立するが、地域課題を取り上げ続けた。本書は成功物語ではない。ある町民の奮闘の記録だ。「知ってほしいこと」を伝える原点がここにある。(2022.10.04発行)

 

土井伸彰『新海誠~国民的アニメ作家の誕生』

集英社新書 990円

『君の名は。』や『天気の子』などで知られる新海誠。アニメーション研究・評論家の著者は、独自の視点で人と作品を解読していく。先行する宮崎駿や庵野秀明との違いは、スタジオに所属することなく、個人作家として歩んできたことだ。現実を否定せず、肯定していく世界観。アニメを現実とのつながりや意味を生み出すものと捉える姿勢。読後、新海作品の見方が劇的に深化するはずだ。(2022.10.22発行)

 

安藤 聡『英文学者がつぶやく 英語と英国文化をめぐる無駄話』

平凡社 2640円

小学校でも英語学習が行われる時代。それが実用性重視でないことを祈りたい。明治学院大教授の著者も「役に立たないことを敢えて学ぶと、予期せぬ驚愕や感動がある」と言っている。本書は「どうでもいい無駄話や雑学を集めた」ものだ。英国女王のクイーンズ・ングリッシュが、ヘタな英語に聞こえるのはなぜか。ビールズを生んだのは、なぜリヴァプールだったのか。含蓄とユーモアの二重奏だ。(2022.10.05発行)

 

伊野孝行、南辛坊『いい絵だな』

集英社インターナショナル 2420円

著者の2人はイラストレーターだ。世代は異なるが、美術についてムズカシイことではなく、楽しい話がしたいという共通点があり、この対談集が生まれた。リアリズム絵画とレンズの関係。印象派が醸し出す未完成の魅力。つげ義春「ねじ式」とシュールレアリスム。中でも、イラストレーターは「芸」がないと注文が来ないが、現代美術は「理屈」が言えたら成立するという南の指摘が秀逸だ。(2022.10.10発行)

 

豊田恭子『闘う図書館~アメリカのライブラリアンシップ』

筑摩書房 1760円

最近の公共図書館は利用者が多い。単に本が読めるだけではない、多様な楽しみを提供してくれるからだ。本書は「図書館先進国」アメリカに関するレポートである。それは知識や文化の共有の場であり、情報提供サービスの拠点であり、地域に開かれた「場」であったりする。さらに大学と市民、住民と行政をつなぐ役割を果たす図書館は地域を触発する装置であり、貴重な「社会資本」でもある。(2022.10.15発行)

 


【気まぐれ写真館】「寒かった土曜日」の夕景

2023年01月21日 | 気まぐれ写真館

2023.01.21

 


【新刊書評】2022年10月前期の書評から

2023年01月21日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年10月前期の書評から

 

 

和田菜穂子『山手線の名建築さんぽ』

エクスナレッジ 1980円

著者は気鋭の建築史家だ。大学の教壇に立ちながら、近現代建築の魅力を広めるツアーも実施している。本書には、山手線で行けるレトロ建築、街のシンボル的存在、さらに有名建築家が手掛けた建物などが並ぶ。優美なアール・デコ建築は目黒の庭園美術館(旧朝香宮邸)。渋谷の松濤美術館は孤高の建築家・白井晟一の傑作だ。本書を片手に山手線を一周する、贅沢な散歩が似合う季節になった。(2022.09.13発行)

 

柴 裕之『青年家康~松平元康の実像』

角川選書 1870円

来年のNHK大河ドラマは『どうする家康』。徳川家康が主人公の大河は3度目だが、今回は特に青年期が焦点となる。本書は若き日の家康をテーマとしており、ドラマの予習を兼ねた家康入門に最適だ。歴史学者である著者は、まず家康が登場するまでの経緯を丁寧に辿る。その上で、今川家での人質時代を独自の視点で検証。単なる忍耐の人ではなかった家康の新たな人物像が浮かび上がってくる。(2022.09.14発行)

 

戌井昭人『厄介な男たち』

産業編集センター 1870円

俳優、劇作家、小説家などの顔を持つ著者のエッセイ集だ。「自分にふりかかった厄介ごとを振り返った」一冊となっている。サウナでテレビの撮影隊に遭遇。タオルで顔を隠したが、股間はそのままだった。箱根の温泉施設では女子用のスクール水着を着た男性を目撃。嬉々として自撮りする姿から目が離せない。どこか間抜けな所業のオンパレードだが、一番の厄介男は著者自身かもしれない。(2022.09.14発行)

 

小田嶋隆『小田嶋隆のコラムの向こう側』

ミシマ社 1980円

今年6月、コラムニストの小田嶋隆が65歳で亡くなった。相手が権力者であれ社会であれ、忖度も自己顕示も抜きで切り込む姿勢が痛快だった。本書は生前最後の1本を含む遺稿集にして傑作集。コロナ禍のこの国と人を見つめ、自身の病についても語っている。商業メディアの「言った者勝ち」を嗤う、独自の視点。突然「結論を述べる」と言い出す、自在な表現。失われた才能をひたすら惜しむ。(2022.08.30発行)

 

川本三郎『ひとり遊びぞ 我はまされる』

平凡社 2420円

2018年から21年にかけての日々を記した、日付のない日記である。78歳で一人暮らしの著者は、映画を見る、本を読む、ローカル線の旅に出るなど、基本的に「好きなこと」だけをしている。荷風や台湾への傾倒はもちろん、小淵沢の駅舎で五所平之助監督の『わかれ雲』を思う。新海誠監督『君の名は。』で、複数の鉄道が交差する実在の風景に感心する。ひとり遊びの達人には自由の風が吹く。(2022.09.21発行)

 

ジョージ・オーウエル:著、吉田健一:訳『動物農園』

中央公論新社 2200円

オーウェルの小説『動物農場』が世に出たのは1945年8月。農場で飼われていた動物たちが農場主を追い出し、理想の共和国を作ろうとする。しかし独裁者となった豚が恐怖政治を断行する衝撃作だ。当時の「ソビエト神話」への疑問と警鐘。革命が独裁体制や専制政治を招く危険性を描く寓話として極めて現代的だ。本書は吉田健一の名訳と描き下ろしの絵による新装版。時代を超えた予見性に驚く。(2022.09.25発行)

 

藤原学思『Qを追う~陰謀論集団の正体』

朝日新聞出版 1870円

「Q」とは米国政府の機密情報にアクセス可能といわれる人物。そしてQの信奉者たちが「Qアノン」だ。彼らが発信する根拠のない情報はSNS上で拡散され、世界に影響を与えている。日本も例外ではない。著者はQを追って足かけ3年にわたる取材を行った。たどり着いたのが、アジア系米国人のロン・ワトキンスだ。果たして彼はQなのか。陰謀論が蔓延する背景も含め、ネット社会の闇に迫る。(2022.09.25発行)