2024.08.31
アイツ
展覧会「 ヨシタケシンスケ展かもしれない」にて
みなさまも、
こんな世の中ですが、
少しでも気分が
楽になれる習慣を見つけて、
日々を過ごして
いきましょうね。
ヨシタケシンスケ
インタビュー「今、息をしていることが一番大切」
朝日新聞 2024.08.26
「孤独のグルメ」と並ぶ定番へ
栗山千明主演
「晩酌の流儀3」
栗山千明が金曜深夜に帰ってきた。ドラマ25「晩酌の流儀3」(テレビ東京系)である。
シーズン1の放送は一昨年の夏。まだ続いていたコロナ禍の中、「家飲み」に注目したグルメドラマだった。
自分の家で、誰にも気兼ねすることなく、好きな酒を好きな料理と共に味わう。一見当たり前の行為に新たな価値を見出したのだ。
不動産会社勤務の伊澤美幸(栗山)は、一日の終わりにおいしい酒を飲むことが無上の喜びだ。食材を調達して料理を作り、晩酌に臨む。
今回もこの基本構造は変わらないが、いくつかのマイナーチェンジが行われた。
まず、引っ越しをしたことによる出会いがあった。商店街の魚屋(友近)や肉屋(ナイツの土屋伸之)だ。彼らとのからみが晩酌へのいい助走となっている。
しかも、これまで行きつけだったスーパーの店長や店員も出てくるのが嬉しい。知った顔がいる安心感はシリーズ物には必要だ。
そして、大きな変化は晩酌の酒にある。美幸はいつもひたすらビールを飲んできた。
しかし今回、1杯目はビールだが、2杯目にバリエーションが生まれたのだ。
ジンソーダ、緑茶ハイなどが登場し、先週はハイボールだった。料理とのマッチング具合も見る側にとって晩酌のヒントとなる。
食も酒も身近な存在だが、奥の深いテーマだ。「孤独のグルメ」と並ぶ定番を目指して欲しい。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.28)
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
伴野文夫
『二人のウラジーミル~レーニンとプーチン』
藤原書店 2420円
今年、没後100年となるレーニン。本書は、彼の「失敗の本質」を解明しようとする一冊だ。著者によれば、マルクスはコミュニズムが国有化経済だとは書いていない。またプロレタリア独裁を国家の位置にはめ込むのもレーニン独自の考えだった。つまり、ソ連は「マルクスが考えた国」ではなかったのだ。現在も続くプーチンの武力侵略に、著者はレーニンにつながる歴史的な大ロシア主義を見る。
朝倉圭一『わからないままの民藝』
作品社 2970円
著者は飛騨高山で民藝の器を扱う店を営んでいる。民藝に対する想い、飛騨地方と民藝運動の関わり、そして古民家を移築再生して始めた店について綴ったのが本書だ。柳宗悦を軸に民藝の百年を概観し、花森安治や日下部礼一を通じて飛騨民芸運動の流れを辿る。誰かに必要とされる実用性、環境に生かされる無名性、気軽で身近な廉価性など、無理にわかならくてもいい民藝の魅力が見えてくる。
大野裕之
『チャップリンが見たファシズム~喜劇王の世界旅行1931-1932』
中公選書 2420円
喜劇王は悩んでいた。トーキーの時代に入り、無声映画の衰退は必至だ。1931年、不安をかき消すように、新作『街の灯』のPRを兼ねた世界旅行に出る。ガンディー、アインシュタイン、チャーチルなどと面談し、人間と時代について考え続けた。さらに日本では「五・一五事件」に遭遇。暗殺の標的にさえなってしまう。「旅行記」をはじめ、多くの資料から浮かび上がる、素顔のチャップリンだ。
菊地成孔(きくちなるよし)大谷能生(おおたによしお)
『楽しむ知識~菊地成孔と大谷能生の雑な教養』
毎日新聞出版 2530円
『東京大学のアルバート・アイラ―』の著者たちによるトリッキーな新刊だ。他者の「対談本」を触媒とした「対話集」である。登場するのは、坂本龍一・高橋悠治『長電話』、蓮實重彦・柄谷行人『闘争のエチカ』、山田宏一・和田誠『たかが映画じゃないか』など。しかも、これらは2人が「時代」や「文化」や「自分」を語るためのネタなのだ。遠慮も謙遜も一切なし。刺激的なオトナの教養書だ。
(週刊新潮 2024.08.29号)
まねしたくなる仲野さんの持論
明星食品
一平ちゃん夜店の焼そば
「混ぜない男」篇
俳優・仲野太賀さんはNHK朝ドラ「虎に翼」でヒロイン(伊藤沙莉さん)の夫を演じた。昼は銀行で働き、夜は大学で学ぶ真面目な青年だった。
そして、「新宿野戦病院」(フジテレビ系)では白いポルシェを乗り回す、チャラ系の美容皮膚科医だ。真逆のキャラクターだが、噴出する〈素のおかしみ〉は共通している。
そんな仲野さんが明星食品「一平ちゃん夜店の焼そば」のCM「混ぜない男」篇に出演中だ。
「からしマヨネーズ」のコクがアップしたと知り、「やばいよ、やばいよ、やばいの俺だけ?」と大ハシャギ。
「一口目は絶対混ぜないのよ。だって辛子マヨ、感じたいっしょ?」と持論が披露されると、見る側もつい真似したくなる。
実は、「新宿野戦病院」に他社のカップ焼きそばが実名で登場する。塚地武雅さん演じる看護師長の大好物という設定だ。
しかし、主演の仲野さんがこのCMで「一平ちゃん」を推したことで、〝焼きそば界隈〟は一気にヒートアップしてきた。猛暑とはいえ、夏バテなどしている場合ではない。
(日経MJ「CM裏表」2024.08.26)
常に歩(あり)き、
常に働くは、
養性(ようじょう)なるべし。
なんぞいたづらに休みをらん。
人を悩ます、罪業(ざいごふ)なり。
*養性=養生
鴨 長明『方丈記』
近所のスーパーで、「ひよこちゃん」と (2024.08.23)
カップヌードルミュージアムで、日清食品創業者・安藤百福氏と
宮藤官九郎(クドカン)脚本『新宿野戦病院』(フジテレビ系)の舞台は、新宿・歌舞伎町にある「聖まごころ病院」です。
ヒロインは日系アメリカ人の元軍医、ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)。
英語と日本語(岡山弁)のバイリンガルで、外科医を探していたこの病院で働くことになりました。
当初、新宿・歌舞伎町という「地域限定」の設定から、クドカン作品の『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、2000年)や『木更津キャッツアイ』(同、03年)のような「地元ドラマ」を連想しました。
しかし考えてみれば、ヨウコにとっての歌舞伎町は、生まれ育ったとか、ずっと生活してきたという意味での「地元」ではありません。
聖まごころ病院の院長・高峰啓介(柄本明)の娘とはいえ、歌舞伎町に入り込んできた者であり、いわば「異分子」です。
ところが、その異分子が周囲に影響を及ぼし、変えていく。
その構造は、同じクドカン脚本の朝ドラ『あまちゃん』(NHK、13年)を思わせます。
一般的な朝ドラのヒロインたちは、さまざまな体験を重ねることで成長し、変化していく。
だが、『あまちゃん』の天野アキ(能年玲奈)は、ちょっと違いました。
東京から、母・春子(小泉今日子)の地元である北三陸にやって来て、成長はしたかもしれませんが、基本的に当人の本質は変わらない。
むしろアキという「異分子」に振り回されることで、徐々に変化していくのは周囲の人たちのほうでした。
それは北三陸の人たちも、戻った東京で出会った人たちも同様です。
その様子が想起させたのは、文化人類学者・山口昌男が言うところの「トリックスター」でした。
いたずら者のイメージをもつトリックスターは、「一方では秩序に対する脅威として排除されるのであるが、他方では活力を失った秩序を更新するために必要なものとして要請される」(山口『文化と両義性』)からです。
アキが北三陸に現れた時、地元の人たちにとっては「天野春子の娘」という〝脇役〟にすぎませんでした。
また、アキはアイドルを目指して上京しましたが、本当に待たれていたのは「可愛いほう」のユイ(橋本愛!!)であり、「なまってるほう」のアキは、いわばオマケ(笑)でした。
ところが、いつの間にか、人々の中心にアキがいた。
「トリックスターは脇役として登場しながらも、最後には主役になりおおせる」(山口『文化記号論研究における「異化」の概念』)のです。
ならば、ヨウコもまた、歌舞伎町という地元に降臨した、稀代のトリックスターなのかもしれません。
日系アメリカ人っぽい英語と、岡山生まれの日本人である母親(余貴美子)から受け継いだ岡山弁が入り交じるヨウコの語り。それはクドカンらしい〝発明品〟です。
見る側を引き込む、独特の迫力と不思議な説得力があります。
「(英語で)私は見た。負傷した兵士、病気の子供。運ばれて来るときは違う人間、違う命。なのに死ぬとき、命が消えるとき、(岡山弁で)皆、一緒じゃ!」
続けて、「(英語で)心臓が止まり、息が止まり、冷たくなる。(岡山弁で)死ぬときゃ、一緒。それがつれえ。もんげえつれえ」
もんげえつれえ(すごく辛い)からこそ、「平等に、雑に助ける」。
「Yes」か「No」の判断が難しい時も、英語の“Yeah”と日本語の”いや“のちょうど中間を狙った、「イヤ~」で乗り切っていく。
そんなヨウコの存在は、チャラ系医師の高峰亨(仲野太賀)をはじめ、患者も含めた周囲の人たちを少しずつ、だが確実に変え始めています。
クドカンが30代で書いた「池袋」「木更津」、40代の「北三陸」、そして50代での「新宿・歌舞伎町」。
『新宿野戦病院』は、20年を経たクドカン「地元ドラマ」の令和進化形と言えるのではないでしょうか。
「今日より若い日は来ない」
日々これを念頭に置きながら、
全ての行動に
移していくことができたら良い。
森川 葵『じんせいに諦めがつかない』
“地元ドラマ”として、一見の価値あり!
「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」
深夜ドラマの醍醐味は、ゴールデン・プライムタイムではお目にかかりそうもない作品と出会えることだ。今期のドラマ24「錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜」(テレビ東京系)は、まさにそんな1本となっている。
小さな清掃会社の社長を務める大助(賀来賢人)。そこで働く幼なじみの裕ちゃん(柄本時生)。同じく社員で2人の後輩・一平(落合モトキ)。錦糸町は3人にとっての故郷であり地元だ。
そしてもう一人、錦糸町出身のルポライター・坂田(岡田将生)がいる。地元で起きたワケありな事件を調べ、QRコードを利用して公表していく謎の男だ。若手企業家を支援する補助金の不正受給。違法なフィリピンパブ。女性社員を困らせるセクハラ上司。さらに、女子中学生の飛び降り自殺の真相も探っている。
とはいえ、ドラマ全体として大きな筋の物語が展開されるわけではない。清掃の依頼先での出来事や、行きつけの喫茶店や居酒屋でのやりとりが、ゆるやかに描かれていく。
また、車椅子生活となった裕ちゃんと大助の過去の因縁はあったりするが、ヘンに重く扱ったりしていない。俳優たちの演技も含め、いわゆるドラマチックな作りとは距離を置いた見せ方と空気感がやけに心地いい。
何かと賑やかな「新宿野戦病院」(フジテレビ系)とはひと味違う “地元ドラマ”として、一見の価値ありの佳作だ。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.08.20)
ミニオンのボブ
チャンスには
ドアノブが付いていない
自分の手では開けられない
誰かが開けてくれた時に
迷わず飛び込んで行けるか
映画『ちはやふる―結び―』
〈Media NOW!〉
夏ドラマが探る「親子」と「家族」
多様な在り方 幸福とは何か
連続ドラマの重要な「設定」が重なることがある。例えば今年の春ドラマでは「記憶喪失」がそうだった。「約束~16年目の真実~」(日本テレビ系)、「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBS系)、「9ボーダー」(同)、「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系)、そして「366日」(同)などだ。
1年間に膨大な数のドラマが作られている現在、こういうことが起きてもおかしくない。また設定までいかなくても、ドラマの「キーワード」といったものが同時多発することも少なくない。この夏は「親子」もしくは「家族」がそれかもしれない。
目黒蓮主演「海のはじまり」(フジテレビ系)は、1人の青年がその存在さえ知らなかった娘の父親になっていこうとする物語だ。月岡夏(目黒)は大学時代、交際していた南雲水季(古川琴音)から一方的に別れを告げられた。
7年が過ぎて水季の訃報が届き、彼女が残した海(泉谷星奈)と出会う。海と接触する機会が増える中で、親子として一緒に暮らしたい気持ちも膨らんできた夏。
しかし、自分にそれが許されるのか。現在の恋人である百瀬弥生(有村架純)を巻き込むことにもためらいがある。脚本の生方美久は、その構成力と繊細なセリフで彼らの揺れる心情を丁寧に描いていく。
思えば、妊娠も出産も経ていない男はいつから父親になるのだろう。また親子という関係は血のつながりだけではないはずだ。夏と海、そこに弥生も加わった時、どのような家族が成立するのか。このドラマが描く、親子や家族の在り方から目が離せない。
もう1本は松本若菜主演「西園寺さんは家事をしない」(TBS系)だ。アプリ制作会社で働く西園寺一妃(松本)は38歳の独身。仕事は好きだが、家事は大嫌い。最近、家賃収入が見込める賃貸付き物件の中古住宅を購入した。
ところが、その賃貸の部屋に同じ会社のエンジニア・楠見俊直(松村北斗)と4歳の娘・ルカ(倉田瑛茉)が住むことになる。幼い娘を抱えて仕事と家事の両立に追われる楠見を助けることで、一妃の気ままな1人暮らしは一転。大家と店子(たなこ)の関係を超えた、一つ屋根の下の生活が始まった。
しかも、この「偽(にせ)家族」状態が快適なだけでなく、楠見への恋心さえ芽生えてきた。今も亡き母への気持ちが強いルカも巻き込みながら、偽物から本物の家族へと変化していくのか。そんな3人にとっての幸福とは何なのか。こちらも今後に注目だ。
(毎日新聞 2024.08.17夕刊)