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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

中井貴一『母の待つ里』疑似的なふるさとや家族を求める

2025年09月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

フィクションを承知で

疑似的なふるさとや

家族を求める心理を描く

 

中井貴一主演

「母の待つ里」

 

昨年、NHK BSで放送された、中井貴一主演「母の待つ里」(全4話)。第15回衛星放送協会オリジナル番組アワードでグランプリを受賞したこの作品が、総合の土曜ドラマ枠で始まった。

松永徹(中井)が東北のひなびた駅に降り立つ。大手食品会社の社長である徹にとって、実に40年ぶりの帰郷だった。

記憶もおぼろげな山里の風景。だが、母(宮本信子)は笑顔で息子を迎え入れ、懐かしい手料理でもてなしてくれる。単身者の徹は久しぶりの安らぎを感じるが、なぜか母の名前が思い出せない……。

心温まる母子物語かと思っていたら、突然ミステリアスな雰囲気に。ドラマはその理由を明かしてくれる。

これはカード会社が高額で提供する「ホームタウンサービス」という体験型の特典。母親も村の住人たちも、いわばテーマパークのキャラクターなのだ。

徹は再び架空の「ふるさと」と「母」に会いに行く。そして過疎の村で一人暮らしを続ける母に「さみしくないか」と問いかける。

すると、こう言われてしまった。「おめさんたちのほうが、おらよりずっとさみしいのではねえか?」

フィクションを承知で疑似的なふるさとや家族を求める心理は極めて現代的だ。本作が一筋縄ではいかないドラマだと分かる。

原作は浅田次郎。脚本が映画「私をスキーに連れてって」などのベテラン、一色伸幸だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.09.02)

 


上川隆也「能面検事」達者な演技で難役をこなす

2025年08月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

達者な演技で難役をこなす

上川隆也主演

「能面検事」

 

検事が主人公のドラマといえば、真っ先に思い浮かぶのは木村拓哉主演「HERO」(フジテレビ系)だ。

独特の発想や洞察力もさることながら、堅物のイメージが強い検事とは真逆のジーンズとダウンジャケットの久利生公平が新鮮だった。

上川隆也主演「能面検事」(テレビ東京系)の原作は中山七里による同名小説。

主人公の不破俊太郎(上川)は大阪地検のエースだ。どんな事件にも表情ひとつ変えずに臨むことから「能面検事」と呼ばれている。

しかし、不破の無表情は時に怒りであり、迷いであり、悲しみでもある。達者な演技の上川だからこそ可能な難役だ。

これまでに女子高生殺害事件、ストーカー殺人などだけでなく、「国有地払い下げ」に関わる贈収賄事件も手掛けてきた。このドラマ、意外と社会派の面もあるのだ。

現在、不破は最大の危機に陥っている。駅前広場での「無差別殺人」、地検内部での「爆破事件」、殺人犯の釈放を要求する「地検立てこもり事件」が連続で発生した。

無差別殺人を「就職氷河期世代を切り捨てた社会への復讐」と言い張る犯人。彼を「ロスジェネ世代の代弁者」だと支持する者たち。

背後にいるのは「ロスト・ルサンチマン」と称する謎の人物だ。しかも不破は何者かに刺されてしまった。

本作は29日が最終回。不破が事件の全貌を明らかにする瞬間を待ちたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.08.26)

 

 


戦後80年ドラマ『八月の声を運ぶ男』被爆を伝える意味

2025年08月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「被爆者とは何か」

「被爆を伝える意味とは何か」

という難しいテーマに挑んだ

戦後80年ドラマ

『八月の声を運ぶ男』

 

13日に放送された「八月の声を運ぶ男」(NHK)は実話に基づくドラマだ。元長崎放送記者でジャーナリストの伊藤明彦。長年たった一人で全国を歩き、1000人以上の被爆者の声を録音して残した。2009年に72歳で亡くなっている。

ドラマの主人公は伊藤がモデルの辻原保(本木雅弘)だ。自費による被爆証言取材活動を続ける中で九野和平(阿部サダヲ)という被爆者に出会う。彼が語る壮絶な半生は辻原の心を大きく揺さぶった。

しかし、やがて証言に登場する献身的な姉の存在が不確かなものとなっていく。九野が語っていたのは事実か、夢想か。辻原は煩悶する。

時は1970年代。被爆者に対する誤解や差別は現在の比ではない。家族にも明かしていない被爆体験を語ることを拒む人も多かった。辻原は「語るべき」であり、「聞くべき」と信じて被爆者を訪ね歩いてきた。

九野に対しては、彼の中に「出会ってきた多くの被爆者が住んでいる」という思いに行き着く。語ったのは「本当の話」だと。

戦後80年は被爆80年でもある。このドラマは「被爆者とは何か」「被爆を伝える意味とは何か」という難しいテーマに挑み、見る側に多くのことを考えさせてくれた。

脚本が池端俊策。演出は柴田岳志だ。ここに主演の本木も加わり、司馬遼太郎原作「坂の上の雲」(09~11年、NHK)のチーム復活となった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.08.19)

 


木村文乃「愛の、がっこう。」絶妙なバランスの恋愛ドラマ

2025年08月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

絶妙なバランスを保つ

真夏の恋愛ドラマ

木村文乃主演

「愛の、がっこう。」

 

夏場の恋愛ドラマは難しい。暑苦しいのは勘弁だし、爽やかばかりじゃ物足りない。木村文乃主演「愛の、がっこう。」(フジテレビ系)は絶妙なバランスを保っている。

小川愛実(木村)は高校の現国教師。生真面目だが職場では浮いている。また恋愛には奥手で交際相手(中島歩)とも距離がある。公私共に「迷える子羊」状態だ。

そんな愛実が人気ホストのカヲル(ラウール)と出会った。しかも読み書きが苦手な彼に「文字」を教えることになる。秘密の個人授業は恋愛感情抜きのはずだったが……。

教育者と夜の世界に生きるホスト。その立場の隔たりが物語を駆動させていく。当初は「教える喜び」で動いていた愛実。一人の男性としてカヲルを意識し始めるが、必死で自制している。

カヲルもまた、客ではない一人の女性としての愛実にひかれるが、ホストの自分が彼女の足かせになることを恐れている。優しさゆえに交錯する「もどかしさ」こそが、このドラマの身上だ。

木村は年齢相応とされる「分別」と、純粋な「本心」との間で揺れる30代後半女性を繊細に演じている。またラウールはその容貌もフルに生かしながら、背負った現実と向き合う青年を好演。このキャスティングの妙が効果を生んでいる。

脚本は「昼顔」(フジ系)などのベテラン、井上由美子。ついクセになる真夏の恋愛ドラマだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2025.08.13)

 

 


ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」と宮沢賢治

2025年08月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「宮沢賢治的世界観」が

物語に奥行きを与えている

磯村勇斗主演

「僕達はまだその星の校則を知らない」

 

磯村勇斗主演「僕達はまだその星の校則を知らない」(カンテレ・フジテレビ系)は、学校ドラマの新機軸だ。

主人公の白鳥健治(磯村)は学校に派遣された弁護士(スクールロイヤー)。教育現場で発生する様々な問題に法的な観点から関わっていくという設定が新鮮だ。

また舞台の私立高校が面白い。少子化の影響で男子校と女子校が合併した新設校なのだ。生徒にも教員にも共学化による混乱や葛藤がある。

これまでに校則問題、いじめ、盗撮といった今日的テーマが登場。「制服は自由でいいのか?」「失恋はいじめなのか?」など刺激的な問いかけの展開があった。

そして、何より白鳥のキャラクターがユニークだ。幼い頃から文字や音に色や匂いを感じるが、周囲からは浮いてしまう。集団行動を強いる学校は苦手だった。好きなのは自然、特に星や植物だ。

そんな白鳥に、脚本の大森美香は宮沢賢治のイメージを重ねていく。言葉や発想には賢治を思わせる要素が点在しており、「賢治ファン」の現代文教師・幸田珠々(堀田真由)も彼が気になる。

物質的豊かさや効率主義とは一線を画し、自然との調和や宇宙的な視点を軸とする「宮沢賢治的世界観」が物語に奥行きを与えているのだ。

磯村は民放連ドラ初主演。型破りな弁護士を気負うことなく演じており、一見の価値がある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.08.05)

 


映画「レオン」を彷彿とさせる、斎藤工「誘拐の日」

2025年07月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

サスペンス、コメディ、ヒューマンが

絶妙のバランスつの展開は

映画「レオン」を彷彿とさせる

 

斎藤工 主演

「誘拐の日」

 

韓国ドラマ原作のリメイク作品は、今やテレビ朝日の“お家芸”だ。「六本木クラス」「スカイキャッスル」などに続く新作が斎藤工主演「誘拐の日」である。

新庄政宗(斎藤)は裕福な病院長の一人娘、七瀬凛(永尾柚乃)を誘拐する。難病を抱えた自分の娘の治療費を調達するためだった。彼に実行を迫ったのは、3年前に家を出て行った妻の汐里(安達祐実)だ。

誘拐後、凛の両親が何者かに殺害されていたことが判明する。誘拐と殺人、両方の容疑者となってしまった政宗。警察に追われながら、凛と一緒に真犯人を探す奇妙な逃避行が始まった。

このドラマ、韓国由来ということもありキャラクターが立っている。政宗はどこか善人の「まぬけな誘拐犯」。8歳の凛は「記憶喪失の天才少女」だ。

誘拐犯と誘拐された少女が真相究明に挑む相棒となる。時にいがみ合いながらも2人で力を合わせて苦境からの脱出を目指す、前代未聞のバディドラマなのだ。

いつもはスタイリッシュな斎藤が二枚目半の憎めない誘拐犯を好演。大人と対等に渡り合うヒロインにリアリティを与えているのは、天才少女ならぬ天才子役・永尾だ。

サスペンス、コメディ、ヒューマンが絶妙のバランスを保ちつつの展開は、ふと映画「レオン」を彷彿とさせる。政宗と凛の関係性の変化と深化こそが最大の見所だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.07.29)

 


「しあわせな結婚」松たか子の威力とは?

2025年07月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「見た目はフツーの美女で中身はちょっとヘン」

女性を演じさせたら勝る者はいない松たか子

阿部サダヲ主演

「しあわせな結婚」

 

連続ドラマは「初回」が勝負だ。登場人物はどんなキャラクターなのか。展開されるのはどんな物語なのか。それが見る側を引きつけなくてはならない。

17日放送の阿部サダヲ主演「しあわせな結婚」(テレビ朝日系)は、この夏の新ドラマの中で出色の初回だった。

独身主義を貫いてきた弁護士の原田幸太郎(阿部)が電撃結婚する。相手は入院先の病院で偶然出会った美術教師の鈴木ネルラ(松たか子)だ。

彼女は日本最大の缶詰メーカーの創業家に生まれたお嬢様。亡き母が愛読書の宮沢賢治「銀河鉄道の夜」に出てくるカンパネルラから名づけた。美人だがあまり笑わない。感情を表に出さないので何を考えているのか分からない。

父親(段田安則)や叔父(岡部たかし)も同席の食卓で突然、「レンコンが好き。幸太郎さんはレンコンより好き」などと言い出す。普通なら「オイオイ」だが、松がさらりと口にすると不思議なリアリティーが生まれるのだ。「

カルテット」(TBS系、2017年)や「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ・フジテレビ系、21年)などと同様、「見た目はフツーの美女で中身はちょっとヘン」な女性を演じさせたら、松に勝る者はいない。

初回の終盤、ネルラが抱える過去の殺人容疑が急浮上。一気に「マリッジ・サスペンス」へと転じる趣向は、さすが練達の脚本家・大石静だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.07.22)

 

 


「ちはやふる―めぐり―」令和の高校生のリアルを巧みに

2025年07月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

〝令和の高校生のリアル〟を巧みに表現

當真あみ主演

「ちはやふる―めぐり―」

 

ドラマの続編が映画として製作されることは多い。9日に始まった當真あみ主演「ちはやふる―めぐり―」(日本テレビ系)はその逆だ。映画の続編がドラマになった。

競技かるたに打ち込む高校生たちを描いた、広瀬すず主演の映画「ちはやふる」シリーズ。完結編「結び」の公開は2018年だった。今回のドラマは映画版から10年後という設定である。

主人公は梅園高校2年生の藍沢めぐる(當真)だ。「タイパ重視」で何事にも本気になれなかった彼女が、古文の非常勤講師・大江奏(おおえ・かなで、上白石萌音)と出会う。

奏は高校時代、綾瀬千早(広瀬)と共に競技かるたの全国優勝を果たした。現在は廃部寸前の梅園かるた部の顧問。これまで幽霊部員だっためぐると奏の間で起こる化学反応が前半の見所だ。

當真は令和の高校生のリアルを自然に表現して巧みであり、ライバル役・原菜乃華の生き生きとした表情も目が離せない。

また、かつての登場人物たちの存在も物語に奥行きを与えている。海外で活動している千早の様子が映し出され、かるた部の仲間・駒野勉(森永悠希)とも再会できた。

できれば、千早と因縁の深かった綿谷新(新田真剣佑)やクイーンこと若宮詩暢(松岡茉優)の現在も見てみたい。

映画版の主要スタッフが参加しており、懐かしさと新鮮さで二度おいしい続編となっている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.07.15)

 


「DOPE 麻薬取締部特捜課」過去の名作にどこまで迫れるか

2025年07月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「アクション・エンターテインメント」を標榜

過去の名作にどこまで迫れるか

高橋海人×中村倫也

「DOPE 麻薬取締部特捜課」

 

週末の夜に楽しむエンタメとして悪くない。金曜ドラマ「DOPE 麻薬取締部特捜課」(TBS系)である。

物語の舞台は近未来の日本だ。そこでは謎のドラッグ「DOPE(ドープ)」による事件が頻発している。この麻薬には、脳の働きを急激に活性化させ、本人も抑制できないほどの運動能力や「特殊な力」を覚醒させる作用があるからだ。

立ち向かうのは麻薬取締部特殊捜査課、通称「特捜課」。所属するのは「異能力」と呼ばれる特殊な力を持つ面々だ。新人の才木(高橋海人)は未来予知。陣内(中村倫也)は動体視力。他にも腕力や聴力や記憶力に秀でた者たちがいる。

初回のDOPE服用者「ドーパー」による人質立てこもり事件でも、各人の異能力が発揮されていた。

異なる力を持つメンバーがチームとして戦うわけだが、映画「アベンジャーズ」などと比べるとその能力は地味な印象。標榜する「アクション・エンターテインメント」は今後に期待だ。

むしろ本作と比較すべきは2010年に同じTBS系で放送された、「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」だろう。

天才的な頭脳のヒロイン(戸田恵梨香)が、未来予知や念動力といった特殊能力(=スペック)を駆使する犯罪者たちに挑んでいた。そんな過去の名作にどこまで迫れるか、注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.07.08)

 

 


NHK「激突メシあがれ」は、アマチュア版「料理の鉄人」

2025年07月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

プロにはない自由な発想が楽しい

アマチュア版「料理の鉄人」

「激突メシあがれ〜自作グルメ頂上決戦〜」

 

3人の料理人が腕前を披露する。「激突メシあがれ〜自作グルメ頂上決戦〜」(NHK)である。ただし彼らはプロではない。料理が最高の趣味というアマチュアたちだ。

まず番組がテーマを提示し、全国から自信作を募集する。決戦に臨むのは書類審査で選ばれた3人だ。事前の仕込みはOKだが、一人前の食材費は1000円以内。これまでにラーメン、カレー、ギョーザ、自作パンなどで競い合ってきた。

先日のテーマは「そば」だ。福島の女子高生は、ヒシの実を練り込んだそばとザリガニを使った麻辣湯(マーラータン)のつけ汁。埼玉の営 業マンは、1日熟成させたそばと玉ねぎの葉でパスタ風のアレンジ。そして東京の主婦は、自ら畑で育てたそばにカキなどの海鮮を合わせていた。

この番組の見所は、挑戦者たちのキャラクターと料理へのこだわりだ。趣味だからこそ、普段は時間も手間もかけ放題。プロにはない自由な発想が楽しい。家族や周囲の人たちも登場するドキュメントは、それぞれの人生をうかがわせる。

決勝の審査ポイントは味、見た目、オリジナリティ、食材の生かし方などだ。優勝した女子高生は故郷の町への地元愛を、そばという料理の中に凝縮させていた。

司会は高瀬耕造アナウンサー。いわばアマチュア版「料理の鉄人」であり、料理版「魔改造の夜」でもあるこの番組を優しく盛り上げている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!! 2025.07.01)

 


綾瀬はるか「ひとりでしにたい」コメディエンヌの才能発揮

2025年06月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

1年半ぶりのドラマ主演で

コメディエンヌとしての才能を存分に発揮

 

綾瀬はるか主演

「ひとりでしにたい」

 

21日に始まった綾瀬はるか主演「ひとりでしにたい」(NHK)は、笑いながら人生の最期を学ぶ「終活ドラマ」だ。

山口鳴海(綾瀬)は39歳の学芸員。未婚・子なしの一人暮らしだ。ある日、憧れのキャリアウーマンだった伯母が孤独死して、ショックを受ける。

突然、鳴海は「婚活」に走るが、同僚の那須田優弥(佐野勇斗)から「結婚すれば安心なんて昭和の発想」と言われ、愕然とする。孤独死を回避するための「終活」に取り組むことにした。

綾瀬にとっては昨年1月の「義母と娘のブルース」正月スペシャル以来、1年半ぶりの主演作だ。コメディエンヌとしての才能を存分に発揮している。

「ひとりで死にたくない!」と叫んだり、「何も考えてなかった」と落胆したり、「ひとりで生きるって、そんなに悪いこと?」と自問してみたりと大忙しだ。

初回の終盤、鳴海が壁に貼っていた「ひとりでしにたくない」という手書きのポスターが床に落ち、そこに飼い猫が寝そべる。

文字の一部が隠れて、「ひとりでしにたい」と読める。鳴海が覚醒する印象的なシーンだ。

確かに、終活は高齢者だけのものではない。鳴海が言うように「ひとりできちんと生き、きちんと死ぬための準備」と考えれば年齢は無関係だ。

終活を入口にして、「よく死ぬには、よく生きなければならない」ことも学べそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.06.24)

 


「天城越え」に挑戦した生田絵梨花は大健闘

2025年06月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

歴代の女優たちも演じた

〝ハナ〟役に挑んだ生田は大健闘

 

生田絵梨花主演

「天城越え」

NHKBS

 

先週末、NHKBSで放送されたのが生田絵梨花主演「天城越え」だ。

昭和31年、望月次郎(萩原聖人)は小さな印刷会社を営んでいた。ある日、老年の田島刑事(岸谷五朗)から過去の捜査資料の印刷を頼まれる。

事件が起きたのは大正15年。天城峠で男の死体が発見される。名前も不明の流れ者だった。当時、現場付近には遊女のハナ(生田絵梨花)と14歳の少年がいた。田島たちはハナの犯行を疑い……。

原作は松本清張。これまで何度か映像化されてきた。ドラマでヒロインを演じたのが大谷直子、田中美佐子。映画は田中裕子だ。

生真面目な表情が印象的な大谷のハナ。明るさが切なさを生んだ田中美佐子のハナ。そして田中裕子は可憐さと妖艶さを併せ持つハナを見事に具現化していた。

そんな諸先輩に挑んだという意味で、今回の生田は大健闘だろう。ハナの持つ心根の優しさも、運命を受け入れようとする諦念も見る側に伝わってきた。現在の生田が全力を出し切っていた。

本作で残念だったのは、設定を大正15年の3月としていたことだ。

スケジュール上の問題かもしれないが、原作も他の映像作品も6月末である。ハナが峠を「裸足」で越える姿も、少年が一夜を過ごす「氷室」も、初夏だからこそ生きてくる。

清張の原作は短編だ。読む側には想像する余地があり、映像化も制作陣の腕が試される。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.06.17)

 


家族を奪われた者たちの復讐譚『イグナイト』

2025年06月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

最愛の家族を奪われた者が挑む

復讐譚の結末は?

間宮祥太朗主演

「イグナイト―法の無法者―」

 

間宮祥太朗主演「イグナイト―法の無法者―」(TBS系)は、異色のリーガルサスペンスだ。

新米弁護士の宇崎(間宮)が飛び込んだのは、轟(仲村トオル)が代表を務める法律事務所。「争いは起こせばいい」が口癖である轟の指示で、いくつもの案件と向き合ってきた。

作業員のサイロ転落事故、大学ラグビー部の自殺未遂問題、そして大病院の看板医師による医療過誤などだ。

宇崎たちの取り組みは、いずれも「無法」や「違法」などではなく、頭と足を使った意外と地道なものだ。脚本も練られており、リーガルドラマとしてよく出来ている。

しかし、このドラマの核となるのは5年前に起きたバス事故だ。薬を飲んでハンドルを握った運転手の操作ミスとされたが、実は自動運転システムのエラーが原因だった。

背後にいるのは、システムの開発会社と癒着している内閣官房長官の石倉(杉本哲太)だ。

宇崎は亡くなった運転手の息子であり、轟はこの事故で高校生だった一人娘を失っている。2人にとっての真相究明は、弁護士としての責務であるだけでなく、最愛の家族を奪われた者が挑む復讐でもあるのだ。

飯のタネとなる弁護活動をヨコ軸、石倉を追い詰める復讐譚(たん)をタテ軸として進んできた本作も最終コーナーを回った。

「イグナイト」とは着火のこと。ならば、完全燃焼の結末を見てみたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.06.10)

 


桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」が教えてくれたこと

2025年06月04日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

無理せず自分を大切にする

生き方を教えてくれた

 

桜井ユキ主演

「しあわせは食べて寝て待て」 

 

先週、桜井ユキ主演「しあわせは食べて寝て待て」(NHK)が完結した。

主人公は38歳で独身の麦巻さとこ(桜井)。膠原(こうげん)病になったことで生活が一変してしまう。仕事は週4日のパート勤めに。住居も家賃5万円の古い団地になった。

隣りの住人は美山鈴(加賀まりこ)。彼女は居候の羽白司(宮沢氷魚)と暮らしている。

元々は仕方なく始めた団地生活だったが、鈴たちとの出会いと薬膳料理を知ったことで、さとこの中で何かが変わり始める。

物語の進行と共に薬膳が身近になっていく。たとえば、杏仁豆腐の原料はあんずの種で、喉の調子を整えてくれる。

お粥には胃腸を守り体力を補う効果がある。そして体の中の潤いを補ってくれるのがニンジンだ。見る側も自分で自分をいたわる養生の道を知った。

さらに、印象に残るセリフがいくつもあった。病気を抱えた自分が許せないさとこに鈴が言う。

「これまでの自分と比べるから、しんどくなるんじゃない? こう考えたらどうかしら、新しい自分になったんだって」

また、幸せになることについて司が言う。

「一歩一歩ですよ、きっと山登りみたいなものなんです」

やがて、さとこも「未来は不安ばかりじゃない。何か自分に出来ることを見つけていけたら」と前を向いていった。

このドラマが教えてくれたのは、無理せず自分を大切にする生き方だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.06.03)

 


昭和文化の香りを漂わせる「PJ~航空救難団~」

2025年05月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

昭和文化の香りを漂わせる

自衛隊訓練生たちの物語

内野聖陽主演

「PJ~航空救難団~」

 

過去にも自衛隊を描いたドラマはあった。綾野剛が航空自衛隊の広報官に扮した「空飛ぶ広報室」(TBS系)。町田啓太が陸上自衛隊の新人を演じた「テッパチ!」(フジテレビ系)などだ。

そして今期の内野聖陽主演「PJ~航空救難団~」(テレビ朝日系)は、航空自衛隊に実在する救難活動の精鋭部隊が舞台。この部隊のメンバーとなることを目指す訓練生たちの物語である。

第1の見どころはリアルな訓練シーンだ。見ている側も息が詰まりそうな水中での救助。山では自分たちも遭難しそうな険しい崖をよじ登る。神尾楓珠や前田旺志郎たちが、文字通り体を張った演技を見せている。

そして、彼ら以上に熱いのが主任教官の宇佐美(内野)だ。「一般社会で許されなくても、ここでは俺が許す!」と豪語。コンプラ無視の過酷な訓練を課す。

しかも、必死で頑張る訓練生に対して「お前は何があっても逃げなかった。アッパレ!」と励ますことも忘れない。どこか昭和のスポ根ドラマを見るようだ。

いや、それだけではない。不屈の精神と正義感の「仮面ライダー」。根性で夢を叶える「巨人星」。「熱中時代」や「3年B組金八先生」の型破り教師が発していた熱量。そんな昭和文化の香りも漂っている。

紅一点の女性訓練生(石井杏奈)は去ったが、他者の命を救うための訓練はまだまだ続く。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.05.27)