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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「続・続・最後から二番目の恋」じんわりと温かい世界観

2025年04月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

前シーズンにはなかった「老いと死」も

じんわりと温かい世界観で描かれる

 

小泉今日子×中井貴一

「続・続・最後から二番目の恋」

フジテレビ系

 

小泉今日子と中井貴一のダブル主演「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)が始まった。

2012年に第1期、14年が第2期だったから、吉野千明(小泉)や長倉和平(中井)とは11年ぶりの再会になる。

何より、2人の関係性が大きく変わっていない様子にホッとする。

ちょっとしたことで口論になることも、それでいて互いに認め合っていることも以前と同じだ。長倉家のリビングで交わされる日常会話にも心地よい懐かしさがある。

その一方で、2人ともちゃんと年齢を重ねている。千明はテレビ局の定年まで1年を切った59歳。和平は定年後も市役所で働く63歳。

今回は前シーズンにはなかったテーマが織り込まれている。それは「老いと死」だ。

千明は平坦な舗道で転倒し、和平の肩は当たり前のように痛む。しかも千明の上司と和平の同期が突然亡くなり、それぞれにショックを受ける。

千明が言う。「さみしくない大人なんていない。大人は自分の時間が有限なことも、今から素晴らしい大きなことが起きないことも知っているから」。

老いはリアルタイムの現実であり、死も遠い未来のことではない。

千明が続ける。「でも、老いることを一緒に笑ってネタにして共に生きる人がいれば、何とか乗り切れるんじゃないか」。

脚本の岡田恵和が描き出す世界観は、今回もじんわりと温かい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.04.22)

 


多部未華子『対岸の家事』達者な演技で「専業主婦あるある」

2025年04月16日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

見どころは

多部の達者な演技による「専業主婦あるある」

多部未華子主演

「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」

TBS系

 

多部未華子と〝家事ドラマ〟は相性がいい。「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)は5年前。多部が演じたのは、仕事は出来るが家事は苦手なキャリアウーマンだ。スーパー家政夫(大森南朋)との関係を軸に、女性にとっての「仕事と家事」が描かれていた。

今回の「対岸の家事~これが、私の生きる道!~」(同)は、結婚後の「家事と育児」がテーマ。主人公の詩穂(多部)は2歳の娘がいる専業主婦だ。一見、ゆとりのある生活だが、実際はさまざまな葛藤を抱えている。

かつては、「働くママ」である礼子(江口のりこ)に「専業主婦なんて絶滅危惧種」と揶揄され、とても傷ついた。最近も、公園で知り合った育休中の官僚・中谷(ディーン・フジオカ)から、「専業主婦は贅沢です」などと言われる始末だ。

確かに、統計によれば共働き世帯が増加する中で専業主婦は減少している。とはいえ、「共働きが当たり前の時代」に反しているという理由で、専業主婦に罪悪感を抱く必要はないはずだ。

しかし、詩穂が時々「世界から取り残されたような気がして」不安を感じるのも事実。専業主婦を選んだのは自分であり、辛いとか寂しいとか言ってはいけないのではないかと怖くなったりする。

そんな苦みも含んだ「専業主婦あるある」が、このドラマの見どころだ。多部の達者な演技がそれを具現化している。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.04.15)

 


朝ドラ「あんぱん」愛と勇気の物語に期待

2025年04月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK朝ドラ「あんぱん」

見る者を元気にする

「愛と勇気の物語」に期待

 

連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)がスタートした。今田美桜が演じるヒロインのモデルは、漫画家・やなせたかしの妻、小松暢(のぶ)だ。

やなせの代表作といえば「アンパンマン」。絵本としてスタートし、テレビアニメ「それいけ!アンパンマン」(日本テレビ系)で国民的キャラクターとなった。空腹で困っている人に「自分の顔を食べさせる」という前代未聞のヒーローだ。

初回の冒頭、ナレーションの林田理沙アナウンサーが言う。「これから始まるのは世界一弱くて世界一カッコ悪いヒーロー、アンパンマンを生み出した夫婦の物語」だと。

漫画家の水木しげる夫妻をモデルにした朝ドラ「ゲゲゲの女房」がそうだったように、これは2人が主人公のドラマだという明快な宣言だった。

脚本は「花子とアン」などの中園ミホ。実在の人物たちの実人生を踏まえながら、巧みな設定を施している。やなせたかしが妻となる小松暢と出会ったのは27歳の時。職場の高知新聞社だった。

しかしドラマでは小学校の同級生となっている。いわば幼なじみだ。ドラマの序章で柳井嵩(木村優来)と朝田のぶ(永瀬ゆずな)の少年少女時代を同時に描くことによって、その絆の強さをしっかりと印象づけたのだ。

そして今後、今田美桜と北村匠海が本格的に登場する。見る者を元気にする「愛と勇気の物語」を期待したい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.04.08)

 


「浦沢直樹の漫勉neo」に、大友克洋登場!

2025年04月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日本漫画の世界を変えた大友克洋

NHK Eテレ

「浦沢直樹の漫勉neo/大友克洋」

 

漫画家の執筆現場に密着し、創作の秘密に迫るドキュメント「浦沢直樹の漫勉neo」(NHKEテレ)。3月29日に1年ぶりの放送があり、漫画界のレジェンドともいえる大友克洋が登場した。

浦沢によれば、ボブ・ディランやビートルズの出現で音楽がガラッと変わったように、大友は日本漫画の世界を変えた。一体何が凄かったのか?

浦沢が選んだのは「AKIRA」ではなく「童夢」だ。浦沢はもちろん、江口寿史など多くの漫画家にも影響を与えた作品である。

その「原画」を前に大友自身が制作過程を語り、浦沢が解説しながら質問していく。何ともぜいたくな時間だ。

登場人物が向き合って会話する場面での小津安二郎的「正面切り返し」。物語の流れの中に別のシーンが挿入されることで生まれる「モンタージュ(編集)感」。今は常識になっていることが、ここから始まったのだ。

大友は言う。「映画、音楽、ファッション、いろんなものが入ってきて作品になる。漫画の中だけで漫画を作ってるわけじゃないんだよ」と。

さらに浦沢が「私の人生を変えた原稿」と呼ぶのが、超能力を持つ老人が暗闇の中に浮かぶシーンだ。

首に巻いた複雑なコードの連なりをホワイト(修正)なしで描いている。大友はこの一発勝負を「呪術」と笑った。

漫画表現のレベルやスタンダードを変えた「童夢」。再読してみたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.04.01)

 


「アド街ック天国」放送1500回&30周年に拍手!

2025年03月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

街と人に対する

旺盛な好奇心で魅力を伝える

「アド街ック天国」

祝!放送1500回アド街30周年SPECIAL

 

テレビ東京系「アド街ック天国」が始まったのは1995年の春。22日に「祝!放送1500回アド街30周年SPECIAL」が放送された。

冒頭は初代МC(秘書)の八塩圭子をはじめ、大江麻理子、須黒清華、片渕茜、そして現在の中原みなみまで5人の女性アナウンサーが集合した回想座談会だった。それぞれの初登場シーンや、初代司会者だった愛川欽也との絶妙な“からみ”が何とも懐かしい。

本編では「アド街の30年、BEST30」と名づけたランキングを発表。「ディープな横丁」、「名物店主」、「スターシェフ」、「銭湯」といった項目が並んだ。

それらを見ていて感心するのは街と人に対する旺盛な好奇心だ。紹介されるのは観光スポット的な名所だけではない。地元の人しか知らないような店や場所に注目し、そこに暮らす人たちも含めて街の魅力を伝えていく。

何よりVTRの映像・編集・ナレーションのセンスがいい。押しつけがましい演出ではなく、自在な「遊び心」がある。

また二代目司会者・井ノ原快彦など出演者たちが気取らず飾らず、程よく素顔を見せるスタジオも好感度を高めている。

番組全体に独特の知性と品があり、しかもオシャレなのだ。それが30年を経た今も変わっていない。この番組に立ち上げから携わってきた演出家・菅原正豊と制作会社ハウフルスに拍手だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.03.25)

 


ランチの数だけ物語があった、NHK「サラメシ」

2025年03月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

14年間〝ランチの数だけ物語があった〟

NHK「サラメシ」最終回

 

先週13日、「サラメシ」(NHK)が最終回を迎えた。スタートは2011年5月。サラリーマンの昼食にスポットを当てるというコンセプトも、中井貴一のナレーションも新鮮だった。

メインのコーナーは「〇〇に昼が来た!」。企業や個人の昼食を軸にしながら、仕事ぶりや家族とのつながりも紹介していた。

他に視聴者からの投稿コーナー「みんなのサラメシ」などが並んだ。

中でも番組名物ともいえるのが「あの人が愛した昼メシ」だ。今は亡き著名人が愛した品々を取り上げ、その人の歩みや人柄にも触れていく。

いくつか記憶に残る人とメニューがある。名優・笠智衆が大好きだった北鎌倉「光泉」のいなりずし。淀川長治が試写会の帰りに立ち寄った赤坂「うなぎ奈加川」のうな重。

松本清張が足繁く通った西荻窪「こけし屋」のポークカレーなどだ。ぬくもりのある<素顔の人物伝>になっていた。

最終回には沖縄・首里城の再建に携わる漆職人や、小豆島で昔ながらのの醤油作りに励む職人などが登場。

最後だからと特別な趣向を施さず、いつも通りに徹していたことに美学を感じる。14年間、制作してきたのはテレビマンユニオンだ。

エンディングのナレーションは「昼ご飯の番組なんて続かないと言われましたが、僕らは信じてみました。ランチの数だけ物語はあるはずだと」。まさにその通りだった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.03.18)

 


「119エマージェンシーコール」は、隠れた良作ドラマ

2025年03月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

管制員と通報者とのやりとりがスリリングな良作

清野菜名主演

「119エマージェンシーコール」

 

清野菜名主演「119エマージェンシーコール」(フジテレビ系)の舞台は横浜市消防局指令課。119番通報を受付け、出動指令を発する部署だ。

制作に当たり同市の協力を得ていたが、途中でクレジットが取り下げられてしまった。「中居正広問題」の影響であり、ドラマ自体のせいではない。

粕原雪(清野)は新人の司令管制員だ。通報が入ると、まず「消防ですか、救急ですか」と問いかけ、事態を確認・把握した上で消防車や救急車を出動させていく。

ドラマの多くの部分が指令センターの室内場面だ。当初、見ていて退屈するのではないかと思ったが、杞憂だった。

管制員と通報者とのやり取りが何ともスリリングなのだ。頼りになるのは音声だけ。見る側は雪と一緒に耳をすませながら現場の状況を想像する。

しかも雪は優れた聴覚を持つ。かすかな音声も正確に聞き取ることが可能だ。そこから問題解決のヒントを見つけたりする。

先日は山で遭難した少年と雪の姉・小夏(蓮佛美沙子)のエピソードが描かれた。小夏は失声症のため通常の会話が難しい。雪の能力がフル稼働する回だった。

度々、管制員としては逸脱した行動をとる雪だが、命を守ることへの真摯な思いは伝わってくる。

生きることにちょっと不器用だが、応援したくなるキャラクターであるヒロインを清野が好演。隠れた良作となっている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.03.11)

 


『事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇』が迫った、指名手配犯「最期の日々」

2025年03月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

『事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇』

桐島の最期の訴えは、

「自分の名前で最期を迎えたい」

 

昨年1月、神奈川県内の路上で倒れていた男が救急搬送された。内田洋という70歳のがん患者だ。入院から11日後、内田は突然「警察を呼んでくれ」と言い出し、自分の本当の名前は桐島聡だと告白した。しかも、その数日後に死亡してしまう。

1974年から翌年にかけて発生した連続企業爆破事件。桐島は犯行グループの一人であり、50年近くも逃亡を続けてきた。それがなぜ自ら名乗り出たのか。2月24日に放送された「事件の涙/桐島聡 “仮面”の逃亡劇」(NHK)は、その最期の日々に迫っていた。

番組は桐島の軌跡を辿りながら、どんな人間だったのかを探っていく。彼が40年以上も住んでいたアパートにも初めてカメラが入った。残された便箋には「やみだ。やみが人間を創造する」などと記されていた。

驚いたのは宇賀神寿一が証言したことだ。桐島と同じ「東アジア反日武装戦線/さそり」のメンバーで、20数年前に刑期を終えて出所している。桐島は真面目で思いやりのある人間だったと回想し、「無名戦士として死にたくなかったのだろう」と語っていた。

また「自分の名前で最期を迎えたい」という桐島の言葉を聞いた看護師によれば、それは逃亡完遂の勝利宣言などではなく、辛い人の最期の訴えだった。そこにあるのは、真相を明かすことなく逝った指名手配犯が見つめた「闇」の深さだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.03.04)

 


出色のヒューマンミステリー「憶えのない殺人」

2025年02月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

認知症で身に憶えのない犯行でも

罪になるのかを問うヒューマンミステリー

小林薫主演

「憶えのない殺人」

(NHKBS)

 

22日夜に放送された特集ドラマ「憶えのない殺人」(NHKBS)。高齢化社会が抱える難題に挑んだ、出色のヒューマンミステリーだった。

佐治英雄(小林薫)は元警察官。長年、郊外の町の駐在所に勤務してきた。退職後に妻を亡くして今は一人暮らしだが、気がつかないうちに認知症が進んでいた。

ある日、刑事の北嶺亜弓(尾野真千子)が訪れる。近所で起きた殺人事件の捜査だった。被害者の桧沢肇(西村和泉)は、かつて佐治がストーカー事件で逮捕した男だ。

しかも犯行時刻の前後、現場に近いコンビニの防犯カメラに佐治の姿が記録されていたというのだ。

佐治の混乱と不安が始まる。潔白であることは自分がよく知っている。しかし、認知症で記憶自体が誤ったものだとしたらどうだろう。

殺された桧沢に対して憎しみにも似た感情を持っていたことや、正義が正義として通らない世の中に憤りを感じていたことも事実だ。佐治は徐々に自分が信じられなくなっていく。

今や認知症は珍しいものではない。身に憶えのない犯行でも罪になるのか。一歩間違えると、記憶のない人間に罪をなすりつける冤罪につながるのではないか。視聴中、さまざまな思いが交差した。

脚本は朝ドラ「あさが来た」などの大森美香によるオリジナル。演出は土曜ドラマ「正義の天秤」などを手掛けてきたベテラン、片岡敬司だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.02.25)

 


芳根京子には、「成長物語」がよく似合う

2025年02月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「成長物語」がよく似合う

芳根京子主演

「まどか26歳、研修医やってます!」

 

芳根京子の連続ドラマ初主演は2015年の「表参道高校合唱部」(TBS系)だった。

あれから10年。何本もの主演作を経てきたが、今回はかなりのハマり役だ。「まどか26歳、研修医やってます!」(同)である。

ハマっているのは、ヒロインの若月まどか(芳根)が医師ではなく研修医だからだ。病院内の各科を順番に回りながら経験を積み、将来の専門を決めていく。

未熟な者が切磋琢磨する修行の旅。そんな「成長物語」が芳根にはピッタリだ。

泌尿器科では膀胱がんの女性患者(佐々木希)と出会った。入院で大切な仕事を失った彼女は絶望し、膀胱の全摘手術を拒否する。

まどかは、彼女が好きな格闘技を梃子にしながら前向きな気持ちを引き出していく。

また消化器内科には、末期がんの男性患者(小久保寿人)がいた。

抗がん剤治療から緩和ケアへと移行する中、まどかは患者のために何が出来るのかと悩む。それは医師とは何かという根本的な命題に通じている。

このドラマの長所は、シリアスと軽みのバランスの良さだ。シビアな医療現場と今どきの若者である研修医の素顔を巧みに交差させていく。

双方を繋いでいるのは、奥田瑛二や佐藤隆太などが好演する先輩医師たちだ。

まどかが模索する「患者との向き合い方」は、そのまま現在の医療に対する問いかけでもある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.02.18)


広瀬すず「クジャクのダンス、誰が見た?」近年の主演作の中では最も役柄に無理がない

2025年02月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

広瀬すず主演

「クジャクのダンス、誰が見た?」

近年の主演作の中では

最も役柄に無理がない

 

連続ドラマに必要なのは、見る側に「この先はどうなる?」と思わせる牽引力だ。広瀬すず主演「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系)は、まさに続きが見たくなるサスペンスである。

大学生の山下心麦(広瀬)は、元警察官の父・春生(リリー・フランキー)を放火で失った。捕まったのは遠藤友哉(成田凌)。22年前の東賀山事件で春生が逮捕した、死刑囚・遠藤力郎(酒向芳)の息子だった。

物語は春生が心麦に遺した手紙で急展開する。もしも自分が誰かに殺され、名前を挙げた人物が逮捕されたら、それは冤罪だ。手紙に添えた金で弁護士の松風義輝(松山ケンイチ)を雇って救えと。そのリストの中に遠藤友哉もいたのだ。

元警察官殺害事件と東賀山事件。2つの事件が複雑に絡んで謎を生んでいく。誰もいないジャングルで、クジャクは本当に踊っていたのか。知るのはクジャクだけだという寓話も効いている。

広瀬は、事態に動揺しながらも「前を向くかどうかは、私が決めます」と宣言するヒロインと自然に同化している。近年の主演作の中では最も役柄に無理がない。また、松山もちょっとクセのある弁護士がよく似合う。

原作は浅見理都の同名漫画。脚本はNHKで放送中の「東京サラダボウル」と同じ金沢知樹だ。原作の良さを生かしながら、構成とセリフに非凡な脚色力を見せている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!! 2025.02.04)

 


「法廷のドラゴン」は 飛び切り異色のリーガルドラマ

2025年01月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

上白石萌音「法廷のドラゴン」は

飛び切り異色のリーガルドラマ

 

これまで数多くのリーガルドラマが作られてきたが、上白石萌音主演「法廷のドラゴン」(テレビ東京系)は飛び切り異色の一本だ。

ヒロインの天童竜美(上白石)は、かつて女性初のプロ棋士を期待された将棋の天才。そんな彼女が一転して弁護士となった。

このドラマの面白さは、一にも二にも竜美が法廷を将棋盤に、裁判を対局に見立てて戦っていく趣向にある。

第1話は、押し買いの被害に遭った女性(松坂慶子)が夫の遺品を取り戻す、遺品返還請求訴訟だった。

竜美は、相手が玉を盤の隅に移動させて金や銀で脇を固める「穴熊囲い」の戦法を選ぶと予測。同様の囲いをつくる「相穴熊」で対抗する。だが、飛車に例えた証人という「駒」が悪手となり、苦戦を強いられる。

第2話では大学教授(加藤雅也)の研究を女性清掃員(山口紗弥加)が毀損したとする、損害賠償請求訴訟を担当。

彼女を救うための「捨て身の一手」として、両者が失ったものを比較する戦法に出る。それは、互いの持ち駒を点数化して勝敗や引き分けを決める「持将棋」の応用だった。

難しい裁判とわかっていても、「指す前から勝負が決まっている対局なんてありません!」と竜美。

何でも将棋に置き換える思考は、将棋に詳しくない者にとっても新鮮で興味深い。法廷で上白石が披露する、着物に袴の凛とした姿も見どころだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2025.01.29)

 


「プライベートバンカー」バブル崩壊期の若者たちの 30年後を見るようで…

2025年01月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

バブル崩壊期の若者たちの

30年後を見るようで…

唐沢寿明主演

「プライベートバンカー」

 

面白い題材を持ってきたものだ。木曜ドラマ「プライベートバンカー」(テレビ朝日系)である。プライベートバンカーとは、富裕層のための資産管理・運用を専門とする金融のプロフェッショナルだ。

主人公の庵野甲一(唐沢寿明)が際立っているのは、顧客の資産を守るためならどんな雑務も厭わず、あらゆる手段を駆使することだ。

現在の雇い主は外食業界のドン、天宮寺丈洋(橋爪功)。その依頼で、投資詐欺に遭った老舗だんご屋の主人・飯田久美子(鈴木保奈美)を救ったり、天宮寺家の長男で常務取締役の努(安井順平)が抱える愛人問題を解決したりしてきた。

このドラマの特色は、物語を通じて「資産」や「投資」や「相続」に関する制度や仕組みが明かされ、そこから生まれるサスペンスや悲喜劇を堪能できることだ。

また唐沢が演じる庵野のキャラクターが見る側を飽きさせない。銀髪に黒ぶちメガネ。雨傘を手にした英国紳士風のたたずまい。金融の知識や経験から繰り出す奇手・奇策。時々、カメラ(視聴者)に向って独白するが、その本心は見通せない。

そんな庵野を「マネーの師」と決め、弟子入りしたのが、だんご屋の久美子だ。

唐沢と鈴木が並ぶと、往年の青春ドラマ「愛という名のもとに」(フジテレビ系)が思い浮かぶ。バブル崩壊期の若者たちの30年後を見るようで、何やら感慨深い。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.01.21)

 


「東京サラダボウル」奈緒のレタス頭は・・・

2025年01月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

奈緒×松田龍平

「東京サラダボウル」

レタス頭も

ただのファッションではなさそうで・・・

 

ドラマ10「東京サラダボウル」(NHK)は、ひと味違う警察ドラマだ。

鴻田麻里(奈緒)は東新宿署・国際捜査係の刑事。外国人による事件と向き合うが、国籍に関わらず困っている人を放っておけない。特徴はレタスを思わせる緑色の髪だ。

有木野了(松田龍平)は警視庁・通訳センター所属の中国語通訳人。対象者の事情には関心を示さず、淡々と仕事をこなす男だ。

立場も性格も異なる2人が、まるでバディのような形で案件に取り組んでいく。

初回では行方不明となった中国人女性を探し回った。その過程で麻里は有木野が持つ捜査能力に気づく。実は元刑事だったのだ。

「どんなに被疑者に寄り添おうとしても彼らは必ず嘘をつく。それに警察官だってクズはいる」と有木野。そんな彼の過去も徐々に明らかになるはずだ。

一方、「裏側に何かあっても、自分の目で見たこと以外は信じたくない」と言う麻里も、何かしら事情を抱えている。レタス頭もただのファッションではなさそうだ。

麻里によれば、東京都の外国人居留者は約68万人。この数字は、たとえば船橋市や静岡市の人口より多い。

東京は人種が溶け合う坩堝(るつぼ)ではなく、違う人たちが混在するサラダボウルなのだ。

麻里と有木野、この異色コンビを通じて普段は見えない、または見ようとしない東京の断面が露呈してくるかもしれない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.01.14)


Nスぺ「“冤(えん)罪”の深層」は、調査報道の秀作

2025年01月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKスペシャル

「“冤(えん)罪”の深層

〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」

深層と闇に迫った調査報道の秀作だ

 

年末年始特番の喧騒がようやく下火となった先週末、ガツンとくるドキュメンタリーが放送された。NHKスペシャル「“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」である。

大川原化工機は横浜市にある化学機械製造会社だ。5年前、社長ら経営者3人が公安部に逮捕された。軍事転用可能な精密機械を中国などに不正輸出した容疑だった。

身に覚えのない彼らは無実を主張したが、無視される。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。末期のがんだったが、最後まで保釈は許されなかった。ところがその死から5カ月後、突然起訴が取り消される。「冤罪」だったのだ。

これまでも取材陣は公安部の捜査を検証する番組を作ってきた。第3弾の今回は、入手した部内会議の音声記録を軸に独自取材が展開される。驚くのは録音の内容だ。

最前線の捜査員たちは「いずれ国家賠償請求訴訟になる」と疑問や不満を抱えていた。一方、幹部たちは無理筋を承知で事件化へと突き進んでいく。

本当に中国の軍事組織とつながっているかではなく、「それらしい絵」を作ることが重要だったのだ。背後には自身の組織内評価への強い執着があった。やがて幹部たちは昇任を果たし、退職後も取材拒否を続けている。

個人的な欲が組織を動かし、警察による犯罪を生む。その深層と闇に迫った調査報道の秀作だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2025.01.08)