碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】 猛暑の中で、咲く。

2022年08月10日 | 気まぐれ写真館


夏ドラマが描く、働く女性たちの「現在」

2022年08月09日 | 「北海道新聞」連載中の放送時評

 

 

夏ドラマが描く、

働く女性たちの「現在」

 

猛暑の中、夏ドラマが出そろった。傾向としては“働く女性”の活躍が目立っている。

まず、「競争の番人」(フジテレビ-UHB)では、元刑事の白熊楓(杏)が異動先の公正取引委員会で、審査官の小勝負勉(坂口健太郎)とコンビを組んでいる。地味な組織だが、企業の「ズル」を許さない役割を果たしているのが公取委だ。

自分のペースで仕事を進める小勝負に、やや振り回され気味の楓。しかし、その正義感と行動力は小勝負との組み合わせに生かされており、新機軸のサスペンスドラマを盛り上げている。複数のホテル間で行われていた、ウエディング費用のカルテルを突き崩した最初のエピソードも見応えがあった。

次は「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」(TBS-HBC)だ。石田硝子(有村架純)は弁護士の業務を助ける、東大卒のパラリーガル。高卒で弁護士資格を持つ羽根岡佳男(中村倫也)をサポートしている。

普通の人が日常生活の中でトラブルに遭遇したとき、頼りになるのが近所の町医者のような弁護士、マチベンである。2人が扱うのも、自動車販売会社での社内いじめや、小学生がゲームに多額のお金を使った騒動などだ。

しかも、出来事の奥にある社会問題に触れているのがこのドラマの特徴だ。それが企業のパワハラ問題だったり、教育格差の問題だったりする。これまでのところ硝子の活動が限定的で存在感が薄いことが残念だ。有村と中村の役柄が逆でもよかったかもしれない。

さらに、女性の“仕事ドラマ”として健闘しているのが、「魔法のリノベ」(カンテレ制作・フジテレビ系―UHB)だ。今年の春クールに放送されていた「正直不動産」(NHK)が、家という大きな買い物にまつわる具体的なエピソードを、ユーモアを交えて描いていた。同じような傾向のドラマかと思っていたが、ひと味違うものになっている。

現在の建物に新たな機能や価値を加えて、より暮らしやすくするのが「リノベーション」だ。新築に比べたら桁が違うとはいえ、住人にとっては小さくない負担となる。だからこそ会社の利益や自分の業績よりも、依頼人の思いを優先して最適の提案をする、主人公の真行寺小梅(波瑠)に好感が持てるのだ。

3本のドラマに共通する要望がある。現実社会で働く女性たちが抱えている困難を、もう少し物語に取り込んでくれないだろうか。単なる個人の問題でも、女性だけの問題でもないことを伝える必要があるからだ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2022.08.06) 


【旧書回想】  2020年9月前期の書評から

2022年08月08日 | 書評した本たち

 

 

 

【旧書回想】

週刊新潮に寄稿した

2020年9月前期の書評から

 

 

杉本貴司『ネット興亡記~敗れざる者たち』

日本経済新聞出版 2200円

日本人のインターネット利用者が10人に1人もいなかった1990年代半ば、新たな産業の創生に挑んだ若者たちがいた。ヤフーの孫正義、サイバーエージェントの藤田晋、楽天の三木谷浩史、ライブドアの堀江貴文などだ。本書では彼らが体験した栄光と挫折の軌跡から、後に続くmixiLINEメルカリといったサービスの隆盛の裏側までを一望できる。いわばIT版「大河ドラマ」だ。(2020.08.25発行)

 

坪内稔典『俳句いまむかし』

毎日新聞出版 1980円

「同じ季語」で詠まれた新旧の俳句が並ぶ。その数、二百組で四百句。俳句読本としてシンプルかつ魅力的なコンセプトだ。たとえば春の章には種田山頭火「春の雪ふる女はまことうつくしい」と連宏子「春の雪語れば愛が崩れそう」。また秋なら東西三鬼「中年や遠くみのれる夜の桃」と三代寿美代「桃すする他のことには目もくれず」。毎日新聞で十年をこえる連載「季語刻々」から選ばれた。(2020.08.30発行)

 

筑摩書房編集部:編

『コロナ後の世界~いま、この地点から考える』

筑摩書房 1650円

「現在進行形の危機」である新型コロナウイルス。人間と社会の「これから」をどう捉えたらいいのか。12人の論客たちが寄稿している。免疫学の小野昌弘は「免疫の疾患」として冷静に分析する。精神医学の斎藤環は反復の可能性を踏まえて「インターコロナ」の世界と呼ぶ。そして社会学の大澤真幸は国家や経済の新たな姿を探っていく。問われているのは「どのような価値を守るべきか」だ。(2020.09.01発行)

 

中村桂子『こどもの目をおとなの目に重ねて』

青土社 1980円

生命科学を専門とする著者が、「生命誌」の視点から語りかけるエッセイ集だ。ロボットやAIなど機械論が氾濫する中、「人間は生きものであり、自然の一部」だと静かに訴える。グローバル化した金融資本主義社会が、生活者の願いとは逆の方向に動くこと。宮沢賢治の童話はこどもたちに「この世界ではあらゆることが可能」と伝えるために書かれたこと。こどもの目で人間と社会を捉え直す。(2020.09.10発行)

 

中野京子『中野京子の西洋奇譚』

中央公論新社 1870円

人はなぜ「怖い話」に惹かれるのか。平穏な日常からの一時離脱。苦境にある人にとっては現実逃避。ドイツ文学者である著者がどちらの望みも叶えてくれる。「ハーメルンの笛吹き男」に隠された底知れぬ残酷さに怯え、「ファウスト伝説」の基となった実在のファウスト博士の過酷な運命に震えあがる。さらに『エクソシスト』『タイタニック』といった「怖い映画」の異色ガイドとしても有効だ。(2020.09.10発行)

 

村岡俊也『新橋パラダイス~駅前名物ビル残日録』

文藝春秋 1760円

新橋駅前に2つの名物ビルがある。西口のニュー新橋ビル。東口は新橋駅前ビル。ほぼ半世紀前に建てられたビルの中は完全に昭和だ。「日銭って面白い」と笑う図書館司書だった立ち呑み屋のママ。母親が開いた西洋居酒屋を守る自称ぼんぼん息子。また焼きビーフンが名物の台湾料理店は有名人も特別扱いしない。新橋で働く人にはオアシス。訪問客にとっては大人の迷宮。それが新橋パラダイスだ。(2020.09.15発行)

 


【気まぐれ写真館】 「立秋」の月

2022年08月07日 | 気まぐれ写真館

2022.08.07


【旧書回想】  2020年9月前期の書評から

2022年08月07日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

週刊新潮に寄稿した

2020年9月前期の書評から

 

 

山極寿一『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』

家の光協会 1430円

霊長類学者でゴリラ研究の泰斗によるエッセイ集だ。人生を砂場で学んだ人や、泥酔に学んだ人はいるが、ゴリラから教わったのは著者だけだろう。たとえば、ゴリラの父親は「えこひいき」をせずに子どもを叱り、そして守る。またゴリラは「個性は言葉では説明できない」ことを教えてくれる。「相手の行動がすべて」なのだ。京都大学総長でもある著者にとって、キャンパスは熱帯のジャングルか。(2020.08.20発行)

 

落合正範『力石徹のモデルになった男~天才空手家 山崎照朝』

東京新聞 1650円

ちばてつやの漫画『あしたのジョー』に、力石徹が初めて登場したのは『週刊少年マガジン』1968年6月2日号。生みの親は原作者の高森朝雄(梶原一騎)だ。モデルは大山倍達が主宰する「極真会」の黒帯、山崎照朝だった。大山が強さを認め、梶原が愛した山崎とはどんな男だったのか。群れない。金も名声もいらない。ただ強くなることだけを目指した、孤高の空手家の実像に迫る力作評伝だ。(2020.08.29発行)

 

安野光雅『私捨悟入』

朝日新聞出版 1760円

94歳の著者は『旅の絵本』などで知られる画家。『算私語録』シリーズをはじめとする軽妙なエッセイも多い。本書には317の短文が並ぶが、ふと思ったこと、感じたことが簡潔に述べられていく。テレビCMが痛快でないのは「自慢に尽きる」から。また昨日まで絵と思わなかったものを「絵ということにした」のがピカソの凄さだ。各文の頭に「子曰く」と置きたい、安野版『論語』である。(2020.08.30発行)

 

鴻上尚史、佐藤直樹『同調圧力~日本社会はなぜ息苦しいのか』

講談社現代新書 924円

劇作家の鴻上は言う。「同調圧力」とは「みんな同じに」という命令だ。多数派や主流派の集団による「空気に従え」という無言の命令である。その背景には「世間」という日本的システムがある。鴻上は世間学が専門の佐藤と共にコロナ禍で露呈した世間と同調圧力の正体を探っていく。相互監視の日常。正義が氾濫するネット。多様性の否定。「不寛容の時代」を生き抜くための指南書である。(2020.08.20発行)

 

チャック・へディックス:著、川嶋文丸:訳

『バード~チャーリー・パーカーの人生と音楽』

シンコーミュージック・エンタテイメント 2750円

「バード」の愛称をもつ天才サックス奏者、チャーリー・パーカー。生誕100年を記念する最新評伝だ。1940年代半ば、バードはビバップというジャズ革命を起こした。亡くなったのは55年。まだ34歳だった。全盛期のバードはヘロインを打てば打つほど演奏がすばらしくなり、いつまでもソロを吹きつづけたという。そんな伝説も含め、資料調査と徹底検証によって描かれる新たなバード像だ。(2020.09.01発行)

 

斎藤美奈子『中古典のすすめ』

紀伊國屋書店 1870円

中古典は著者の造語で「古典未満の中途半端に古いベストセラー」のことだ。登場するのは60年代から90年代初頭にかけて出版され、話題を呼んだ48冊。たとえば住井すゑ『橋のない川』(61年)は「いまだからこそ効くストレートパンチ」だが、イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』(70年)は「みんなだまされた怪評論」と手厳しい。強気の80年代、地味な90年代と中古典は時代も映し出す。(2020.09.10発行)

 


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(4)

2022年08月06日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(4)

 

創造の原点は、想像によって別世界へ入ること

今も脚本を書くこと自体が最高の楽しみであり、熱中できることだと言う倉本。その「原点」はどこにあるのだろう。

「想像することでしょうね。想像は自由ですから。あのオードリー・ヘプバーンが遊びにきて、富良野を案内してるとか。今、マリリン・モンローがそこから入ってきたらどうなるんだろうとか。まあ、僕にとってのミューズ(女神)だから登場人物が一時代古いんだけど(笑)。かなり飛びますよ、僕の想像は。これって眠ってる時の夢じゃなくて、目が覚めてる時の想像です。実は想像癖っていうのがガキの時からあって、常に想像を巡らせてる。 戦時中の空襲の時、防空壕で、怖いわけよ。ズドンズドンってそこらに爆弾が落ちてくるわけだから。その時親父だったか、おふくろだったか、僕に空襲の怖い音なんか聞かないで『別のことを考えなさい』って言ったんだよね。あれが元なのかもしれない。息子を楽にしてあげたいと思ったんだろうな、きっと。 学童疎開の時も、先生に言われた気がする。腹が減ったとか、田舎の子たちが意地悪だとかじゃなくて、他のこと考えろって。例えば、海で泳いでる時の楽しさ。『お前は昨日まで15mしか泳げなかったんだけど、今日はほら、20mも泳げた。もうちょっと頑張ると25mだ』って。そんなふうに集中してると、すっと想像が湧いてくる。あっちの世界に入っていく。 この想像によって別の世界に入っていくってことが、僕の創作の原点なんじゃないだろうか。想像と創作は、きっと死ぬまでやめられませんね」

 

倉本聰の3つの信条

1. 1日3cm、1ヵ月で1m。毎日ゆっくりでも続けること。

「地面に埋まった大きな岩も、時間をかければ少しずつ動かすことができる。創作も同じで毎日机に向かって書くことが大事です。1日休めば、回復に3日かかってしまいます」

2. 怒りはエネルギーだがクールダウンすることが必要。

「怒りは創作のエネルギーになる。ただし書くことは非常に冷静な作業で、怒ったままでは書けません。だから怒りを一度心の中に落としこむ。自分を抑えてクールダウンします」

3. 常に想像を巡らせる。それこそが創作の原点。

「子供の頃から想像癖があり、常に想像を巡らせています。集中していると、すっと想像が湧いてくる。自由な想像によって別の世界に入っていくことが僕の創作の原点です」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>


往年の「TVチャンピオン」を思い出す、 「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

2022年08月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

往年の「TVチャンピオン」を思い出した

「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

NHK総合

 

目立たない番組だが、見逃すには惜しい1本がある。火曜よる11時「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」(NHK総合)だ。

世の中には、業界団体の内部だけで開催されているコンテストが存在する。一般の人が目にすることのない、超専門的技術や驚きの特殊技能が披露され、競われている。番組はそこにカメラを入れたのだ。

たとえば林業事業者による「木を伐る」技術を競う大会。チェーンソー1台で狙った場所に木を倒す「伐倒」や丸太の「輪切り」などで競い合う。求められるのは正確、安全、速さの三拍子だ。

また「包帯を巻くだけ」のコンテストもある。柔道整復師と呼ばれる人たちが、骨折や捻挫などの損傷部分を固定し、痛みを和らげるのだ。速さはもちろん、実用性や巻きの美しさも評価される。

わずか4分の間に肩の関節、人差し指、両足の関節など5カ所を固定していく決勝。ところが優勝候補の女性が包帯を落としてしまう。彼女はその時点で無念の失格だ。

見ていて、往年の「TVチャンピオン」(テレビ東京系)を思い出した。何人もの「〇〇王」を生んだ人気番組だったが、大きな違いがある。あちらは、テレビが設定した「競技種目」と「ルール」で競い合うエンタメだ。

しかし、こちらは業界全体の発展を目的とするマジな大会。一見地味な内容と超難度テクニックの落差が快感を呼ぶ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.08.03)


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(3)

2022年08月04日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(3)

 

本当に死にたくなった。鬱がひどかった時期

これまで何十年間も、倉本は膨大な数の作品を書いてきた。だが、時には筆が進まないこともあったのではないか。

「ありますよ。何度か鬱にもなったしね。特に富良野に来てからのある時期がひどかった。毎晩、自殺したくて仕方なかった。そんな時、中島みゆきが新しいアルバムのパイロット版を送ってくれたの。それが『生きていてもいいですか』。『異国』とか、『うらみ・ます』とか、名曲揃いのアルバムで、最高傑作だと思うんだけど、とにかく暗い(笑)。夜、ひとりで酒を飲みながら聴いてたら本当に死にたくなった。 ちょうど冬場でね、表はマイナス28℃とか30℃とかだったから、睡眠薬飲んで、ジープの中に入って寝ちゃえば死ねるなと思った。で、うちの玄関って二重扉になってて、風除室があるんだけど、そこで犬飼ってたわけ、北海道犬を。ヤマグチという名前の犬で、山口百恵ちゃんから取って。そのヤマグチが、外に出ようとする僕の上着の端を咥えて、引っ張るんですよ。なんか異様な顔して。それで僕、ハッと我に返った。つまり、山口百恵という生き神と、中島みゆきという死に神が綱引きした結果、何とか生き延びたってわけです(笑)。 それで精神科医の診断を受けたらね、『この季節になると毎年、鬱が出ますよ』と言われた。ところが、春になったらストンとなくなったの。翌年も出なかった。その理由だけどね、ここの自然が僕の入植を許してくれた、受け入れてくれたんだなと思った。無理に抵抗するんじゃなくて、自分を投げだすというか、自然に身を委ねたのがよかったのかもしれない」

そんな倉本も世の中に対して腹を立てたり、憤ったりすることは少なくないはずだ。以前、怒りが書くためのエネルギーになるとも語っていた。

 「怒りをエネルギーにするんだけど、書くというのは非常に冷静な作業ですからね。怒ったままじゃ書けない。だから、怒りを一度心の中に落としこむ。自分を抑えてクールダウンする。僕の場合、そんな『間(ま)』を入れる方法がタバコでしょうね。 本質的な気分転換をするには、それぞれのやり方があると思うんだ。でもね、タバコが流行ってた時代のほうが、今よりも平和だったんじゃないか。タバコがなくなってから、みんなイラつき始めたんじゃないかって気がしてしょうがない。 昔もね、煙が迷惑な人もいたでしょうけど、迷惑ってことを言い広げたのは医者なのね。そんなことを皆に気づかせなければ、今みたいな忌避反応は起きなかったはずで、社会を住みにくくしたのは医者だよね(笑)」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>


【気まぐれ写真館】 それにしても、暑すぎでしょう。

2022年08月03日 | 気まぐれ写真館

2022.08.03


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(2)

2022年08月03日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(2)

 

知識ではなく知恵によって生みだすことが「創る」こと

倉本はこれまでも今も、毎日必ず原稿用紙に向かっている。まさに1日3㎝の積み重ねによって、長い連続ドラマもできあがっていくのだ。倉本にとって、書くことは日々を生きることと同義かもしれない。

「書くというより、創るということをしてるんだろうね。『創作』という言葉があるじゃないですか。創と作、両方とも『つくる』でしょ? でも、意味が違うんですよ。『作』の『つくる』ってのはね、知識と金を使って、前例に倣(なら)って行うことです。 それに対して、『創』のほうの『つくる』は、前例がないものを、知識じゃなくて知恵によって生みだすことを指す。この『創』の仕事をしてるとね、楽しいわけですよ。でも、多くの人は『作』をやってる。特に都会のビジネスマンは、ほとんど『作』の仕事をさせられてるじゃないですか。だから、ストレスが溜まるんだと思う。 全部『創』の仕事にしちゃうとね、苦しくもなんともない。肉体的にはハードだけど、寝て起きりゃ直る。でも、『作』ばっかりだと精神的によくない。仕事は、意識して『創』のほうに寄せてくといいんです」 「作る」ではなく、「創る」こと。その姿勢はどんな職業の人間にも有効だし、自分なりの応用ができそうだ。 「創るということは生きることだけど、遊んでいないと創れない。同時に、創るということは狂うことだと思う。だから、『創るということは遊ぶということ』『創るということは狂うということ』『創るということは生きるということ』というのが僕の3大哲学ですね」

「遊ぶ」にしろ、「狂う」にしろ、倉本だからこそ到達した境地だと言える。「もう少し説明してもらえますか」とお願いしてみた。

 「僕の言う『遊ぶ』ってのは、楽しむことだよね。自分が楽しむ。実はね、今、全11回の連続ドラマの新作を書いてるんですよ。放送の予定も、何もないシナリオです。それを、僕はすごく楽しんで書いている。シノプシス(粗筋)の段階で何度も書き直して、でもその都度、内容は螺旋状の進み方でよくなっていく。楽しんでいないと、そんなアウフヘーベン(高い次元への進化)は起きないですよ。 それから、『狂う』ってのは、熱中するってことでしょうね。今は書籍なんかで使うと、すぐ差別用語だって削られちゃうけど、意味合いとしては熱中するということ、もっと言えば熱狂することだと思う」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>


【気まぐれ写真館】 猛暑日の夕景

2022年08月02日 | 気まぐれ写真館

2022.08.02


「GOETHE(ゲーテ)」倉本聰さんへのインタビュー(1)

2022年08月02日 | 本・新聞・雑誌・活字

photo by H.Usui

 

 

【独占インタビュー】

87歳・倉本 聰は、

なぜ60年以上も書き続けられるのか?

(1)

 

『前略おふくろ様』や『北の国から』など、人々の心に残る名作を生みだしてきた脚本家、倉本聰。80歳を過ぎて『やすらぎの郷』や『やすらぎの刻~道』を手がけただけでなく、87歳の現在も”新作”に挑んでいる。北海道・富良野に倉本を訪ねた目的は、たったひとつだ。なぜ60年以上も書き続けられるのか。それが知りたかった。

文明社会では時間が金銭として換算される

富良野市街から少し離れた森の中に、倉本聰の仕事場がある。天井が高い丸太造り。目の前に木々の緑が広がる大きな窓。富良野塾を開いていた頃からのアトリエである。執筆や点描画の制作、そして客人と向き合うのもこの場所だ。

「富良野に移住したのは42歳の頃なんです。そこからもう一度人生が始まっちゃった。自分の身体の中のエネルギーを使う生活がね。それまでは頭で生きてたというか、都会人の感覚でしたから。 ところが、こっちに来たら全然違うことがわかった。都会の生活って全部、何かの代替エネルギーで暮らしてるよね。でも、ここでは自分のエネルギーで暮らすしかない。しかも、知識なんて全然役に立たないことを思い知った。知恵で生きないとダメだって」

1981年から20年以上も続いた、代表作『北の国から』。主人公の黒板五郎(田中邦衛)一家が、廃屋で暮らし始めた第1話を思いだす。確か、五郎のモチーフはロビンソン・クルーソーだったはずだ。

「このアトリエに入ってくる時、通った林道があるでしょ? 移住当時はまったく整備されてなくて、でっかい岩が路面にはみだしてたんです。いつもクルマの片輪が乗り上がるんで、移動したい。でも、自分の力じゃどうにもならない。その時、近所の農家の青年に『あの岩を動かしたいんだけど、あなただったらどうする?』って聞いてみた。 そしたらね、『やらねばならんなら、やるよ』って言うんだ。 『どうやって? 道具も重機も何もないんだけど』って心配したら、『剣先のスコップを持ってきて、岩の回りを掘る』と。ぐるっと掘って、岩をむきだしにする。次に丸太をテコにして、じわじわと四方から浮かしていく。『丹念にそれをやったら、1日に3㎝ぐらい動くんでないかい? 30日(1ヵ月)もやったら1mは動く』って当たり前のように言われた。 これにはひれ伏しちゃったね。つまり、僕らの感覚では1日に3㎝ってのは動かないって範疇(はんちゅう)ですよ。でも、1日3㎝とはいえ、確かに動くんだ。文明社会のなかでは、時間が金銭として換算されちゃってるよね。そういう考え方はもうやめようと思った」

<「GOETHE(ゲーテ)」2022年8月号より>

 

 


【新刊書評】2022年3月後期の書評から 

2022年08月01日 | 書評した本たち

鳩サブレ―の手動式クリーナー「hatoson 810」

 

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年3月後期の書評から

 

 

塩澤幸登『人間研究 西城秀樹』

河出書房新社 2970円

西城秀樹が亡くなったのは2018年5月。63歳だった。本書はその全体像に迫る画期的な一冊だ。まず著者が雑誌『平凡』などに書いてきた、リアルタイムの肖像がある。さらに1972年のデビューから全盛期を経て死後まで、各時代の新聞や雑誌に載った多くの記事も資料的価値が高い。浮上してくるのはアイドルという概念を超えた「昭和期のあたらしい文化創出をになった人間」としての西城秀樹だ。(2022.02.25発行)

 

尾崎一雄:著、萩原魚雷:編『新編 閑な老人』

中公文庫 990円

「令和の時代に尾崎一雄?」と言う勿れ。新鮮な驚きに満ちた小説と随筆が並ぶ、文庫オリジナルだ。確かに尾崎は私小説作家だが、苦悩を拡大鏡で見せる人ではない。その不思議な明るさは「厭世の果ての楽天」だ。人生の切なさを承知の上で、「この世に生きていることが楽しい」と言い切る。描き出される生活の喜びや人生の肯定感がやけに胸にしみるのは、むしろ今の時代だからこそかもしれない。(2022.02.25発行)

 

芦原 伸『旅は終わらない~紀行作家という人生』

毎日新聞出版 2090円

現在76歳の著者は、雑誌『旅と鉄道』『SINRA』などの元編集長。自伝的エッセイ集である本書は、人生もまた旅であることを実感させてくれる。北大卒業後、鉄道ジャーナル社を経てフリーランスに。記者・編集者・経営者という三足の草鞋も珍しい。代表作『へるん先生の汽車旅行―小泉八雲と不思議の国・日本』は、著者ならではのノンフィクションであり、元祖“旅する評伝作家”の真骨頂だ。(2022.02.28発行)

 

江成常夫『花嫁のアメリカ 完全版』

論創社 3960円

戦後、進駐軍兵士と結婚して海を渡った「戦争花嫁」。1978年に彼女たちを取材した写真集が『花嫁のアメリカ』だ。そして20年後、再び会いに行った江成は『花嫁のアメリカ/歳月の風景 1978-1998』を上梓する。本書は2冊の合本だ。結婚する際に受けた非難。渡米後の慣れない生活と故国への思い。自分の手で築いてきた、それぞれの幸福。凝縮した歴史が人物の形となり、何かを問いかけ続けている。(2022.03.01発行)

 

 


【気まぐれ写真館】 「超リアルアート」みたいな・・・

2022年07月31日 | 気まぐれ写真館

2022.07.31


【新刊書評】2022年3月前期の書評から 

2022年07月31日 | 書評した本たち

鳩サブレ―の手動式クリーナー「hatoson 810」

 

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年3月前期の書評から

 

 

安居智博『100均グッズ改造ヒーロー大集合~切ってつないでトンデモ変身!』

平凡社 1980円

本書に並ぶのは、見たことがありそうで存在しない人形たちだ。アーティストの著者が新品の日用品を切り刻み、それをつなぎ合わせて創作している。食べ物の間仕切りが素材のヒーロー「バラーン」。車の初心者マークから生まれたロボット「ワカバ―」。少量の醤油などを入れるタレビンを45個使った「大醤軍」も堂々たる姿だ。大胆な発想、秀逸なデザイン、確かな造形力も併せて楽しめる。(2022.02.09発行)

 

伊集院 光『名著の話~僕とカフカのひきこもり』

KADOKAWA 1650円

古今東西の名著を読み解く、Eテレ『100分de名著』。司会の伊集院光は博識だが、それを披歴したりしない。むしろ知らないこと、分からないことを武器に専門家に食い下がるのだ。カフカ『変身』を「虫=役に立たない」というキーワードで読む。柳田国男『遠野物語』とラジオパーソナリティの相似性を発見。そして神谷美恵子が『生きがいについて』で本当に伝えたかったことも浮上してくる。(2022.02.16発行)

 

石原大史『原発事故 最悪のシナリオ』

NHK出版 1870円

「最悪のシナリオ」とは、危機全体における現在地を確認し、打つべき対策を判断する指針。いわば危機管理の要諦である。10年前の福島第一原発事故の際、どんなシナリオが存在し、いかに運用されたのか。著者はNHK「ETV特集」班ディレクター。当時の首相をはじめ関係者を徹底取材し、新資料の発掘と解読を進めていく。見えてきたのは極秘シナリオの中身と、この国の危機管理の実相だ。(2022.02.20発行)

 

大竹 聡『ずぶ六の四季』

本の雑誌社 1870円

江戸時代、ひどい酔っ払いは「ずぶ六」と呼ばれた。それを自称する著者はもちろん、大の酒好き。本書は雑誌連載の酒コラム4年半分の大盤振る舞いだ。著者は居酒屋、バー、蕎麦屋、中華屋などでほぼ毎日飲む。多くはごく普通の酒場。酒も肴も当たり前のものだ。そこでの体験と思ったことを淡々と書いているのに、滋味がある。そして読者は知るのだ。「ひとり酒」こそ究極の道楽であることを。(2022.02.23発行)

 

古井由吉ほか『古井由吉対談集成 連れ連れに文学を語る』

草思社 2420円

古井由吉には、どこか“孤高の作家”というイメージがある。しかし本書では、優れた対話者を得たことで自身の文学を率直に語っている。養老孟司とは、還暦を過ぎて始めた古代ギリシャ語の勉強の話が、日本語談義へと発展。平出隆との間では、小説という「器」の不可思議が明かされる。また福田和也との「内向の世代」をめぐるやりとりもスリリングだ。古井の『槿』などを読み返したくなる。(2022.02.25発行)