2025.04.29
妹思いの姉役 新鮮に
東急電鉄 シリーズCM
「いいこと、つづくよ、どこまでも。」
春になると思い出す。大学生になり、実家を離れて始めた一人暮らしだ。最寄り駅は東横線の日吉だった。以来、半世紀が過ぎた今も東急沿線に住んでいる。
東急電鉄の新CM「いいこと、つづくよ、どこまでも。」シリーズが登場した。出演しているのは俳優の畑芽育(はた めい)さん。
「鉄道ネットワーク拡充篇」では、東京へ遊びに来た妹(清島千楓さん)と東急の電車に乗る。いくつもの路線と繋がるアクセスの良さを教え、「こっちに住みたくなってきたでしょ?」と誘う。
また、木の香りが漂うサスティナブルな駅舎に驚く妹に、東京での就職を勧めるのが「環境篇」だ。
畑さんといえば、愛すべき妹というイメージがある。昨年春のドラマ「9ボーダー」(TBS系)では三姉妹の三女。同年秋の「若草物語~恋する姉妹と恋せぬ私~」(日本テレビ系)でも四姉妹の末っ子を演じていた。
そんな畑さんだからこそ、妹思いの姉役が新鮮に感じられる。俳優を起用したCM制作は東急初の試み。好感度アップに貢献しそうだ。
(日経MJ「CM裏表」2025.04.28)
<MediaNOW!>
「オンラインカジノ“人間操作”の正体」
事実集積3年、核心部分にメス
4月20日に放送されたNHKスペシャル「オンラインカジノ“人間操作”の正体」。視聴する前、タイトルの強い言葉が目を引いた。
オンラインカジノ(略称オンカジ)が重度のギャンブル依存症を引き起こすことは知られている。
とはいえ、人間操作と正体の文字が羊頭狗肉(ようとうくにく)にならないかと危惧したのだ。結果的には次々と明らかになる事実にクギ付けとなった。
取材班は海外の専門家と国際共同調査チームを結成する。参加したのはAI(人工知能)やデータの倫理問題を専門にする弁護士や、デジタル上の隠された痕跡を追跡する研究者ら。
オンカジの運営主体「オペレーター」がイギリスのギャンブル関連企業であることを突き止め、日本のギャンブル依存症当事者の個人情報の開示請求を行った。入手した資料にはオンカジへのアクセスの日時、賭け金や勝敗などが全て記録されていた。
このデータの流れを追って、発見したのは個人の情報を最大限に収集する「データ管理プラットフォーム」と呼ばれる組織だ。
集めた情報や行動履歴を分析し、利用者の動向を予測する「プロファイリング」が行われていた。ここまでだけでも、オンカジがギャンブルですらないことが分かる。
粘り強い取材は続き、欧州のオンカジ創始者の一人にたどり着く。顔や名前を出したことにも驚くが、その証言がすさまじい。オンカジは「依存症になるようにデザインされている」と明かしたのだ。
行動心理学者が開発に関わり、洗練されたアルゴリズムで利用者を引きずり込む。オンカジは「新しい麻薬」と言い切った。
さらにオンカジの生みの親とされる男性との接触にも成功する。シルエットで登場し、「この恐ろしいものを開発したのは私です」と告白した。
彼によれば、利用者の内実を把握するために端末から個人情報を盗み取る。個々の「仮想の人格」を作って未来の行動を予測。オンカジにのめり込むよう囲い込んでいくというのだ。
タイトルに偽りはなかった。オンカジによるギャンブル依存症は「仕組まれたもの」であり、利用者を奴隷にする「人間操作」だった。取材班は3年という歳月をかけてオンカジの闇を暴き、核心部分にメスを入れたのだ。
しかもスクープと言える内容にもかかわらず、番組は終始冷静だった。疑問があれば徹底的に探り、事実を淡々と積み上げていく。
そして何がどこまで明らかになったのかを見る側と共有しながら進んでいた。ドキュメンタリーの底力を示す出色の一本だった。
(毎日新聞 2025.04.26 夕刊)
<NHKプラスでの視聴>
NHKスペシャル オンラインカジノ “人間操作”の正体 - #オンラインカジノ - NHKプラス
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
後藤正治
『文品(ぶんぴん)~藤沢周平への旅』
中央公論新社 2640円
本田靖春を追った『拗ね者たらん』などで知られる著者が、藤沢周平の人生風景を点描しながら作品の跡をたどる。権力に翻弄されても意地と矜持を失わない下級武士たちを描いた『暗殺の年輪』。作風の飛躍に挑んだ『用心棒日月抄』。普通の人々の日常と人生の機微が詰まった『橋ものがたり』。文品とは文章が品格に優れていることを指すが、それは藤沢周平という作家の人間像にも重なっている。
平民金子
『幸あれ、知らんけど』
朝日新聞出版 1870円
著者名は「へいみんかねこ」と読む。1975年大阪生まれの文筆家・写真家だ。国内外を転々とし、現在は神戸在住。本書はどこか日記のようなエッセイ集だ。夏の屋外プールと降り出した雨の組み合わせの「楽しさ」は、天ぷらうどんに天かすをふりかけるのと同じ。また図書館はいくら読んでも終わらない「本の海」だが、海を泳ぐ魚はその大きさに絶望しない。そんな言葉と感性がやみつきになる。
近藤健児
『世界文学全集万華鏡~文庫で読めない世界の名作』
青弓社 2640円
古書店の均一本コーナーなどで見かける世界文学全集の端本。それがお宝に見えてくる異色の読書案内だ。なじみの薄い作家はもちろん、有名どころの隠れた名作が興味深い。ディケンズの初の歴史小説にしてミステリである「バーナビー・ラッジ」、スタインベックが大恐慌下の農業労働者を描いた三部作の一つ「疑わしい戦い」など、文庫で探しても見当たらない作品ばかり。まさに万華鏡だ。
(週刊新潮 2025年4月24日号)
20日のNHKスペシャル
「オンラインカジノ “人間操作”の正体」。
いやはや、
予想を超える
すさまじい内容でした。
オンカジは
スマホなどで誰でもアクセス可能ですが、
その先には
とんでもない世界が待ち構えている。
そのことを
徹底取材で明らかにしています。
特に
「作られたギャンブル依存症」の検証は
衝撃的でした。
詳しいことは
毎日新聞の連載コラムで
書かせていただきました。
明日(土)の夕刊に
掲載される予定です。
番組は、
以下のNHKプラスで
視聴可能ですので、
関心のある方は
ぜひ
ご覧ください。
NHKスペシャル オンラインカジノ “人間操作”の正体 - #オンラインカジノ - NHKプラス
今月、新たな朝ドラがスタートしました。『花子とアン』などの脚本家、中園ミホさんによる『あんぱん』です。
今田美桜さんが演じるヒロイン・朝田のぶのモデルは、「アンパンマン」で知られる漫画家・やなせたかしの妻、小松暢(のぶ)。
北村匠海さんの柳井嵩(たかし)は、もう一人の主人公と言えるでしょう。
漫画家の水木しげる夫妻をモデルにした朝ドラ『ゲゲゲの女房』と同様、二人三脚で歩む「夫婦物語」です。
大事なことを、セリフの形で明確に伝えるのが、中園さんの脚本術です。
第1週から2週にかけて、のぶと嵩の子ども時代が描かれましたが、随所に「熱のある言葉」が埋め込まれていました。
まず導入部で、漫画家となった嵩が独白します。
「正義は逆転する。簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ、決してひっくり返らない正義って何だろう。お腹すいて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」
いわば、アンパンマンの原点です。
1919年生まれのやなせは40年に召集を受けました。中国の上海近郊で終戦を迎えましたが、弟の千尋は22歳で戦死しています。
敗戦によって正義が逆転するのを目の当たりにしたやなせは、生涯を通じて「逆転しない正義」を求め続けました。
また、のぶが嵩をいじめる同級生たちを懲らしめると、母の「バタコさん」ならぬ羽多子(江口のりこさん)が諭します。
「なんぼ自分が正しい思うたち、乱暴はいかん。痛めつけた相手に恨みが残るだけやき。恨みは恨みしか生まんがや」
こちらは、アンパンマンの基本精神です。
さらに、のぶの父・結太郎(加瀬亮さん)が急死した際、「ジャムおじさん」ならぬヤムおんちゃん、屋村草吉(阿部サダヲさん)が嵩に言いました。
「たった一人で生まれてきて、たった一人で死んでいく。人間って、そういうもんだ。お前の父ちゃんも、あのちび(のぶ)の父ちゃんも、俺も、お前も、あのちびも。人間なんて、おかしいなあ」
これは5歳で実父を亡くした、やなせ自身の人生哲学でもあります。
第3週では、のぶが自分の将来を決めました。師範学校に進学して、教師になることを目指そうというのです。
のぶの背中を押したのは、亡き父が遺した忘れられない言葉でした。
「そのまんま自分を曲げんと、まっすぐ大きゅうなれ。海の向こうやったら、男に負けんばあ、活躍しゅう女の人がこじゃんと(大勢)おる。日本も、じきそういう時代がくる。おなごも遠慮せんと、大志を抱きや!」
登場人物たちへの敬意と共感に支えられた脚本。それを体現していくのは、脇役にいたるまで骨太な俳優陣。
この「熱量」があれば、半年の間、安心して朝ドラを楽しむことができそうです。
前シーズンにはなかった「老いと死」も
じんわりと温かい世界観で描かれる
小泉今日子×中井貴一
「続・続・最後から二番目の恋」
フジテレビ系
小泉今日子と中井貴一のダブル主演「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)が始まった。
2012年に第1期、14年が第2期だったから、吉野千明(小泉)や長倉和平(中井)とは11年ぶりの再会になる。
何より、2人の関係性が大きく変わっていない様子にホッとする。
ちょっとしたことで口論になることも、それでいて互いに認め合っていることも以前と同じだ。長倉家のリビングで交わされる日常会話にも心地よい懐かしさがある。
その一方で、2人ともちゃんと年齢を重ねている。千明はテレビ局の定年まで1年を切った59歳。和平は定年後も市役所で働く63歳。
今回は前シーズンにはなかったテーマが織り込まれている。それは「老いと死」だ。
千明は平坦な舗道で転倒し、和平の肩は当たり前のように痛む。しかも千明の上司と和平の同期が突然亡くなり、それぞれにショックを受ける。
千明が言う。「さみしくない大人なんていない。大人は自分の時間が有限なことも、今から素晴らしい大きなことが起きないことも知っているから」。
老いはリアルタイムの現実であり、死も遠い未来のことではない。
千明が続ける。「でも、老いることを一緒に笑ってネタにして共に生きる人がいれば、何とか乗り切れるんじゃないか」。
脚本の岡田恵和が描き出す世界観は、今回もじんわりと温かい。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2025.04.22)
「小泉今日子と中井貴一の空気感に癒される」
ベテランだらけの異色の月9
「続・続・最後から二番目の恋」が
高視聴率スタート
小泉今日子(59)と中井貴一(63)がW主演する月9ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ)がスタートした。2012年に放送された「最後から二番目の恋」の第3弾シリーズで、14年に放送された第2シリーズから実に11年ぶり。役柄も出演者もそのまま年をとった。
そもそも第1シリーズが放送された時は《45歳独身女性と50歳独身男性…「まだ恋は終わらない!」》が謳い文句の鎌倉を舞台にした大人の恋愛コメディだった。テレビ局のドラマプロデューサー・吉野千明も、それを演じる小泉も45歳。鎌倉市役所に勤める長倉和平も、それを演じる中井も50歳。時は流れて13年……。
4月12日の初回は、定年まであと1年となった白髪交じりの千明が「セカンドライフセミナー」を受講するシーンから始まった。和平はすでに定年退職しているが、鎌倉市観光推進課の指導監として再任用されている。
和平を中心とする長倉家で朝食を囲むメンツも変わらない。和平の妹で長倉家の長女・典子(飯島直子=57)、次女で双子の姉・万理子(内田有紀=49)、次男で双子の弟・真平(坂口憲二=49)、和平の娘・えりな(白本彩奈=22)、そして長倉家の隣に住む千明――。平均年齢49・8歳という食卓風景だ。
他のキャストを見ても、千明の独身仲間を演じる森口博子(56)と渡辺真起子(56)、第3シリーズから新たに加わった三浦友和(73)と石田ひかり(52)も出演者の平均年齢を押し上げている。“シニア向けドラマ”と揶揄する声もある。実際のところどうなのか、民放プロデューサーに聞いた。
今期2位の好発進
「初回の個人視聴率は5・5%、世帯視聴率は9・4%と二桁に届きそうな勢いです(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)。このところ不調が続いた月9ドラマですが、23年4月期の木村拓哉・主演『風間公親―教場0―』以来の個人視聴率5%超えとなりました。世帯視聴率は阿部寛・主演の日曜劇場『ニュースゲート』の初回14・2%に次ぐ数字です。また、TVerでの再生回数は200万回を突破したそうです」
月9の面目躍如といったところか。だが、もともと「最後から二番目の恋」は、第1シリーズ、第2シリーズとも木曜劇場の枠で放送されていた。それがなぜ今回は月9に?
「第1シリーズの平均世帯視聴率は12・4%で、小泉さんはギャラクシー賞のテレビ部門で個人賞を受賞しました。彼女は翌13年、NHKの朝ドラ『あまちゃん』に出演。14年の第2シリーズは平均12・9%となり、小泉さんがザテレビジョンドラマアカデミー賞で主演女優賞を受賞するなどもともと評判のいいドラマでした。現在、一連のフジテレビの問題のためスポンサーはもちろん視聴者からもフジは敬遠され、前作の月9ドラマ『119 エマージェンシーコール』は打ち切りの危機まで囁かれたほど。そんな中、月9の起爆剤として『最後から二番目の恋』に白羽の矢が立ったのでしょう。フジの看板ドラマ枠といえばやはり月9ですから、まずそこに注力したのではないでしょうか」
もっとも、不安要素がなかったわけではない。4月7日に放送された「FNSドラマ対抗お宝映像アワード2025春」は4月期の連ドラ出演者が一堂に会する番宣特番だったが、そこに「続・続・最後から二番目の恋」からは誰一人参加しなかったのだ。それを“不穏”と報じたメディアもある。
小泉の稀有な存在感
「撮影が忙しかったためかもしれませんが、プロデューサー側があえて出さなかった可能性も考えられます。お騒がせのフジテレビに巻き込まれないように……。初回には『月9って何曜日の何時からだっけ?』という千明の自虐的な台詞がありましたが、これこそ月9の古いカラーを捨てる意思表示だったようにも思えます。それに小泉さんは以前、バラエティ番組には『絶対出たくない』と語ったこともあります。ベテラン勢もいくら番宣のためとはいえ、正直そういう気持ちの人が少なくないと思います」
と語るのは、メディア文化評論家の碓井広義氏だ。
ではなぜ、ベテランだらけのドラマの数字がいいのだろう。
「私もこのドラマは楽しみにしていた1本で、見終えてホッとしました。11年ぶりの新シリーズとなりましたが、千明も和平も基本的に変わっていなかったからです。小泉さんや中井さんがドラマの役柄と同じ年齢というのもキャラが重なって奥行きを感じます。もちろん脚本の岡田惠和さんは、年を重ねての変化、職場での役割、仲間たちとのプライベート、一人の時の自分を階層的、重層的に描き分けています。会話もドラマというより日常的ですが、ロマンチックなところもありつつ年を取るという不安や心配も差し込んでいる。恋愛関係もありながら、ある程度の距離を保ちつつ、喧嘩しながらも相手を心配する距離感、その空気感に癒されました。これは若手では出せない味だと思います」(碓井氏)
ひょっとして、シニア層だけが見ているということだろうか。
「もしかしたら若い人も見ているかもしれません。出演者たちは素敵な中年、シニア層ですから、自分のちょっと先のケーススタディとして人生の教科書的に見ているかもしれません。中でも小泉さんは、昨年9月期に放送された『団地のふたり』(NHK BS)でも見せた力の抜け加減がいい。無理をしなくてもよく見える独特の余裕があります。今や元アイドルも役者も超えた稀有な存在です。“小泉さんの生き方”がドラマ化されているようにすら思えます」(碓井氏)
それにしても、11年ぶりというのは間が空きすぎではないだろうか。
「2〜3年ごとにやってくれてもいいと思いますけどね。スケジュール的に難しいのなら、年に1回のスペシャルものでもいい。そうなればフジの名作ドラマ『北の国から』の鎌倉版になり得るかもしれません」(碓井氏)
(デイリー新潮 2025.04.21)
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
椎名誠『哀愁の町に何が降るというのだ。』
本の雑誌社 1980円
1981年に登場したスーパーエッセイ『哀愁の町に霧が降るのだ』。本書はそのリメイク版だ。2年前に逝去した木村晋介や沢野ひとしとの出会い。疾風怒濤の共同生活。命も危うかった大事故。そして不思議な人妻との初体験。発掘された記憶や今だから言えることも多い。前作のエピソードを含め、44年を経た現在の回想は甘さとほろ苦さの絶妙なブレンドだ。個人を超えた「昭和の青春譚」である。
下川裕治『70歳のバックパッカー』
産業編集センター 1650円
デビュー作『12万円で世界を歩く』から35年。本書は「人生という旅」を振り返るエッセイ集だ。学生時代に体験した初の海外はタイ。後にバンコクは第二の故郷になる。27歳で新聞社を辞め、エチオピアとスーダンを歩いた。それからずっと旅暮らしだ。何を求めての旅なのか。なぜバングラディシュで小学校を開校したのか。これからはどんな旅になるのか。元祖バックパッカーは立ちどまらない。
樋口尚文『砂の器 映画の魔性』
筑摩書房 2750円
開から半世紀が過ぎた今も観る者の心を揺さぶる名作『砂の器』。しかし、その映画化は一筋縄ではいかなかった。映画評論家の著者が新たな資料を駆使して制作の裏側に迫る。映画の印象とは異なる松本清張の原作。橋本忍の大旦な脚本。そして野村芳太郎の緻密な演出。この関係性が「絢爛たるメロドラマ」を生んでいく。中でも終盤の捜査会議、コンサート、父子の旅の同時進行は圧巻だ。
(週刊新潮 2025年4月17日号)
NHKスペシャル
「オンラインカジノ “人間操作”の正体」
4月20日(日)
[総合] 午後9:00~9:49
芸能界やスポーツ界を震撼させた「オンラインカジノ」問題。国内での利用経験者は警察庁の推計で336万人にのぼっている。
海外のサイトであっても、日本からアクセスして利用すれば刑法の賭博罪にあたる。違法行為であるにもかかわらず、生活が破綻するほどにのめり込む人が後を絶たないのは、いったいなぜなのか。
NHKは3年にわたってこの問題を徹底取材。そこから見えてきたのは、スマホを通じて利用者のあらゆる情報が収集され、運営側によって意図的に依存症へと導かれていく、いわば“人間操作”ともいえる実態だ。
謎に包まれたその運営組織の正体とは?
(番組サイトより)
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
ゲリラ的な遊び心に満ちた企画は
ユルそうでひねりが効いた計算あり
菅原 正豊:著、戸部田 誠(てれびのスキマ):構成
『「深夜」の美学
「タモリ倶楽部「『アド街」演出家のモノづくりの流儀』
大和書房 1,980円
テレビ東京系『出没!アド街ック天国』がスタートしたのは1995年春のことだ。先月、30周年と放送1500回を記念する拡大スペシャル版も放送された。
開始当時から番組に携わってきたのが、制作会社ハウフルスを率いる演出家・菅原正豊だ。その名前を知る人は多くないかもしれない。
しかし、『アド街』をはじめ菅原が手掛けた番組を見たことがない人は少ないだろう。
『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)、『愛川欽也の探検レストラン』(同)、『平成名物TV いかすバンド天国』(TBS系)、『タモリのボキャブラ天国』(フジテレビ系)、『どっちの料理ショー』(日本テレビ系)などだ。
共通するのは、それまでになかった斬新な企画であること。ゲリラ的な遊び心に満ちていること。しかも番組全体がオシャレで上品さや知性も漂わせているのだ。
これらを生み出してきた菅原正豊とは一体何者で、演出術とはどんなものなのか。
菅原は言う。「本当のマニアックはテレビにはならない。(略)『王道』をいかに崩せるか」だと。全部がパロディから始まっており、「いかに脇道で面白いことをやるかっていうことばかり考えていた」。
基本は気分次第。「ほとんどその時々の自分の生理で考えている」から、確固たる演出論はない。従って「この本に書いてあることは、全部、後付けと言い訳です」と笑う。
だが、額面通りには受け取れない。ユルく作っているように見えて、相当な計算をしているのがスガワラ流だ。
演出はストレートではなく、ひねりを効かせる。「普通にカッコいいことをしたら、照れちゃう」からで、出演者にも「素敵に恥をかかせる」のがディレクターの腕だ。
さらに「“みんな”がつくった番組はおもしろくないですよ。テレビって、“誰か”がつくるものなんですよ」と明かす。番組は商品ではなく作品だという矜持だ。
(週刊新潮 2025年4月17日号)