2024.09.18
何十年も寝かした結果の付加価値
小泉今日子・小林聡美
「団地のふたり」
(NHKBS)
プレミアムドラマ「団地のふたり」(NHKBS)の舞台は、築58年になる夕日野団地だ。
大学非常勤講師の野枝(小泉今日子)とイラストレーターの奈津子(小林聡美)。2人はこの団地で生まれ育った幼なじみだ。
若い頃は結婚や仕事で他の街に住んだりしたが、今は団地の実家で暮らしている。どちらも55歳の独身だ。
このドラマで最も魅力的なのは彼女たちの関係性かもしれない。保育園に始まり、小学校も中学校も同じ地元の公立で、ずっと親友だった。今は奈津子が作った夕食を差し向かいで楽しんでいる。
昔のことも今のことも、たわいない話を延々と続けられる相手がいるシアワセ。
野枝が仕事で落ち込んだ時、奈津子は何も聞かずにわざとバカなことを言って笑わせる。そして「大丈夫、私はノエチ(野枝の呼び名)のいいとこも悪いとこも知ってるから」と励ますのだ。
そんな2人の日常は淡々としているが、小さな出来事は起きる。野枝の兄(杉本哲太)が保存していたオフコースなどの古い「楽譜」を、奈津子がフリマアプリで出品すると高額で売れたのだ。
何十年も寝かした結果の付加価値。「この団地も立ってるだけでそうなったらいいなあ」と奈津子。「そうなったら素敵だね」と野枝。
見ているこちらもつい、「人間もそうだといいね」と応じたくなったのは、このドラマの滋味のせいだ。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.17)
追いつめられたら荒野へ逃げろ。
どこでもいいからスタコラサッサ。
はてしない荒野へ流浪すればいい。
嵐山光三郎
『老人は荒野をめざす』
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
富永京子
『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史~サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』
晶文社 2750円
1973年、渋谷パルコが開業した。雑誌『ビックリハウス』がパルコ出版から創刊されたのはその2年後だ。読者からの投稿が主軸のサブカルチャー誌だった。社会学者の著者はこの雑誌を梃子にして、社会運動退潮後の若者たちが政治に無関心だったとする通説を検証。彼らは政治性・対抗性を避けたのではなく、運動の規範性や教条主義を拒否したことを明らかにしていく。50年後の名誉回復だ。
宮辺 尚『遠藤周作と劇団樹座の三十年』
河出書房新社 2420円
文芸誌の編集者だった著者は作家・遠藤周作を担当していた。遠藤が座長を務めた素人劇団「樹座(きざ)」には、1977年の第5回公演「カルメン」から20年にわたって関わった。ミュージカル「風と共に去りぬ」への挑戦。「カルメン」を引っ提げてのニューヨーク公演。そしてロンドン公演「椿姫入り蝶々夫人」も成功する。参加者に「樹座は人生!」と言い続けた遠藤の情熱が甦る一冊だ。
ピーター・バーク:著、井山弘幸:訳
『博学者~知の巨人たちの歴史』
左右社 4950円
博学者とは「百科全書的な学問的知識への旺盛な関心の持ち主」を指す。本書は歴史学の泰斗による、総合的知識人の肖像だ。アイザック・ニュートンは神学、錬金術、聖書年代学にも通じていた。またスウェーデンのクリスティーナ女王の家庭教師は哲学者デカルトだった。好奇心や集中力や想像力はもちろん、遊びの要素も含む才能の持ち主たちだ。知識の分業化が進んだ今、より輝いて見える。
(週刊新潮 2024.09.12号)
人間とは
ただ雑多なものが流れて通る
暗渠(あんきょ)であり、
くさぐさの車が轍(わだち)を残してすぎる
四辻(よつつじ)の甃(いしだたみ)に
すぎないやうに思はれる。
暗渠は朽ち、
甃はすりへる。
しかし一度はそれも
祭りの日の四辻であったのだ。
(暗渠=地下に埋まった水路)
三島由紀夫 『宴(うたげ)のあと』
「8月31日」の夜に
10代の若者たちにとって8月下旬は鬼門だ。夏休みが終わるのが怖い。学校に行きたくない。誰を頼ればいいのか分からない。自分を追い込んだ結果、9月の新学期を待たずに自殺してしまう者も少なくない。
そんな8月の終わり、31日の夜に生放送されたのが「ハートネットTV #8月31日の夜に。」(NHK Eテレ)だ。10代が抱える憂うつや、生きるのが辛(つら)いという気持ちを語り合っていこうとする番組だった。
スタジオには司会を務めるミュージシャン・作家の尾崎世界観、モデル・タレントの井手上漠、精神科医の松本俊彦、そして絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケがいる。
番組の軸となるのは10代の投稿だ。学校について、「周囲の普通と自分の普通の違いが分らない」「嫌われていて居場所がない。早くこの世から居なくなりたい」といった切実な声が並ぶ。
また将来について、「やりたいこともなく、未来に希望が持てない」「頑張れない自分のまま大人になるのが怖い」などの不安が寄せられた。
それに対して松本は、辛いことをノートに書くなど「言葉にしてみること」を勧める。ヨシタケは辛い時には自分の顔を描いたと言い、「自分を俯瞰(ふかん)で見るなど客観視すること」で少し楽になったと体験を語っていく。
そして、後半には印象深い投稿文が登場した。
「無理に全てを前向きに頑張ろうとしなくていいし、綺麗(きれい)なところを取り繕った私じゃなくて、過去の辛かったことも、失敗も、弱さも、嫌も、全部持って大人になりたい。今はこうやって後ろ向きに前を向けるおかげで、以前よりもずっと楽に生きられています」
この言葉は同世代の胸に響いたのではないか。ヨシタケも「後ろ向き=自分にとってのポジティブ」と考えて、「今日は絶対前向きにならないぞ」と自分で決める日があっていいと笑った。
この番組で際立っていたのは、スタジオの大人たちが全員、上からの目線ではなく、同じ悩みを持つ地続きの人間として10代と向き合っていたことだ。
たとえ偶然でも構わない。番組を見たおかげで「8月31日を乗り切れた」という10代が一人でもいてくれたらと思う。
(しんぶん赤旗「波動」2024.09.12)
旅先の〝ありのまま〟と向き合う
一人旅が心地いい
玉城ティナ主演
「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」
玉城ティナ主演の連ドラ「鉄オタ道子、2万キロ」(テレビ東京系)が放送されたのは2022年1月から3月だった。
家具メーカーで営業の仕事をしている大兼久道子(玉城)は、大の鉄道好きだ。出張先で地元の鉄道を楽しむのはもちろん、2日の有給をとって列車に乗り込み、ローカル駅や秘境駅を目指す。
2年前は、駅舎が民宿を兼ねる函館本線の比羅夫駅に始まり、福島県・会津鉄道の大川ダム公園駅、地下40mのトンネルにある新潟県の筒石駅などを訪れていた。
先週木曜の深夜に流された「秩父編」は2年ぶりの新作の前編だ。開通55周年の西武秩父線に乗り、終点の西武秩父駅で降りた道子は、横瀬駅までのんびりと歩く。
途中で小さな滝を眺めたり、アニメの聖地巡りの男女と出会ったりするが、ドラマチックなことが起きるわけではない。
横瀬駅前の食堂で食べるのも、ごく普通の野菜カレーだ。名所や名物には無関心な道子だが、食堂のおばちゃんの話には耳を傾ける。窓から見える武甲山を削って生まれたセメントが戦後、東京のビルや高速道路の建設を支えたというのだ。
初めてのホームに降り立った時、必ず「ここ、どこだよ……」とつぶやく道子。その上で、行った先の「ありのまま」と自然体で向き合っていく。そんな道子流一人旅が心地いい。
後編は12日(木)深夜に放送される予定だ。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.09.10)
ておくれ君
展覧会「 ヨシタケシンスケ展かもしれない」にて
ひとの人生は
タイミングがすべて
映画『イコライザー THE FINAL』
9月8日(日)
午前6時15分~
UHB北海道文化放送
『談談のりさん+(プラス)』に
出演します。
テーマは、
「札幌ドームの赤字問題」
放送後、
下記の番組サイトで
「ノーカット完全版」が
配信されます。
談談のりさん+(プラス) | 番組情報 | UHB 北海道文化放送