碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『ALWAYS 三丁目の夕日'64』に拍手

2012年01月31日 | 映画・ビデオ・映像

映画『ALWAYS 三丁目の夕日'64』を観てきた。

で、「いやあ、良かったなあ」と手ばなしです(笑)。

第1作の舞台は1958(昭和33)年だったけど、3作目の今回は東京オリンピックがあった1964(昭和39)年だ。

三丁目の人々にも6年の月日が流れたわけで、その分、物語も厚みを増したというか、深まっています。

古沢良太さんの脚本は、最近だと『探偵はBARにいる』に続いて観たことになる。

茶川(吉岡秀隆)と淳之介のブンガクをめぐるエピソード。

茶川と故郷の父親との関係。

お年頃となった六子(堀北真希)の恋。

そんなあれこれをスクリーンで見ながら、正直、何回か泣けました(笑)。

出演陣で言えば、堤真一も、薬師丸ひろ子も、ますます役柄そのもので。

ビジュアルのほうで言えば、冒頭の三丁目の路地から一気に空へと舞い上がるカメラは快感。

まるで当時の東京上空をヘリで飛んでいるように、東京タワーの向こうに東京湾が広がっているのが見える。

東京タワーのてっぺんを俯瞰で眺めるなんて出来ないもんなあ。

隣にはボーリング場の「タワーボール」もあったし。

東京オリンピックの開会式で、航空自衛隊のブルーインパルスが五輪を空に描く様子を見せてくれたのが嬉しかった。

新幹線のゼロ系と呼ばれる最初のタイプが出てくるのも感激モノ。

でも、それ以上に、茶川の実家が信州・松本にあるという設定なので(山崎貴監督も高校まで松本)、中央線を懐かしい急行列車が走るのがまた格別だった。

私が松本の高校を卒業して上京した頃は、よくこの黄色い電車で帰省したものです。

「ありえない世界」を見せてくれるVFXもいいけど、「かつてあった世界」を見せてくれるVFXも嬉しいのだ。

そして、カラーテレビ、「ひょっこりひょうたん島」のテーマ曲、「おそ松くん」のシェー、エレキギター、コーラの販売機など、次々と出てくる懐かしのアイテムに、こちらは笑顔が続きます。

画面の中の本当に細かいところまで、実によく気を配ってあるのです。

観客の年齢層は高かったから(笑)、それぞれが自分の1964年と重ねながら観たんじゃないかなあ。

今回は、あえて3Dではなく普通のバージョンで観たので、もう一度、3Dのほうも観てみようと思う。

いやあ、これ、ハマります(笑)。

今週の「読んで(書評を)書いた本」 2012.01.30

2012年01月30日 | 書評した本たち

集英社文庫の「いきなり文庫化!」で、東野圭吾『歪笑小説』を読みました。

文庫オリジナルの「笑」シリーズ、今回は出版業界篇。

編集者や作家などの生態が、まさにブラックな戯画として描かれています。

ありそうな話、実際にいそうな人も登場するけど、いいのかなあ(笑)。


で、今週の「読んで(書評を)書いた本」は、以下の通りです。

伊集院 静 『星月夜』 文藝春秋 

椎名 誠 『足のカカトをかじるイヌ』 本の雑誌社

秋山豊寛 『来世は野の花に』 六耀社 


* 上記の本の書評は、『週刊新潮』(2月2日号)
  に掲載されています。




北海道脱出、危機一髪

2012年01月29日 | 日々雑感

札幌駅で空港行きの列車に乗った途端、猛烈な雪になり、「視界不良のため減速します」のアナウンスがあって徐行運転。

それでも千歳駅で途中下車して、我が食堂である「柳ばし」に立ち寄った。



暖簾をくぐれば、おとうさん、おかあさんが元気な声で「お帰りなさい」と言ってくれる。



今回は、どうしても「生姜焼き」が食べたくなって注文。

私のお気に入りの一つです。

おかあさん特製の「呉汁(ごじる)」と共にいただきました。

「大豆を水に浸し磨り潰したペースト」を呉というんだね。

一緒に出てきた「おから」も絶品でした。



ごちそうさまです。


空港では、すでに「雪のための遅延」が発生していて、私は予定より1時間早い便に変更。

雪は衰えることなく降り続け、本を読みながら待ち続ける。

ときどき聞こえてくるアナウンスは、他の路線の「欠航」だったりして。

とはいえ、千歳科学技術大学での単身赴任時代、東京ー千歳を6年間で250往復した経験から、どのくらいの強さの雪で、東京行きが欠航になるのか、大体わかります。

だから、「この時間で、この程度の降りと明るさなら、まあ何とかなるよなあ」と思っていました。

結局、「予定より1時間早い便」が出発したのは、その便が出発するはずの時間から2時間半後。

飛んでくれて、よかった。

その後の「元々乗るはずだった便」がどうなったのかは知りません(笑)。

北海道脱出、危機一髪でありました。

冷凍庫状態の札幌で番組出演

2012年01月28日 | テレビ・ラジオ・メディア

札幌に来ています。

朝はマイナス11度。日中もマイナス5度くらいで、冷凍庫状態。

市内をぐるぐる回りながら、いつもの3番組に生出演でした。

朝4時起床。

5時にはHTB「イチオシ!モーニング」のスタジオ入り。


MCの谷口アナと石沢アナ(手前)。


芸能コーナーの担当は、いつものオクラホマ・河野さんに代わって、
その相方である藤尾さんでした。

ドコモの通信障害などについてコメント。


次にUHB「のりゆきのトークDE北海道」へ。


局舎玄関前。


本番直前の“番組の顔”佐藤のりゆきさん(背中)と榊アナ。


お料理は苦手だという榊アナお手製の「牛すじの煮込み」。
貴重品です(笑)。


午後、HTB「イチオシ!」へ。


坂の上のHTB。


玄関前の「オンちゃん」雪像。もうすぐ「雪まつり」だ。


司会の森さやかアナ(中央)と女性スタッフの皆さん。


中継現場の依田アナ。

野田首相の2009年の街頭演説、「マニフェストに書いてあることは命がけで実行。書いてないことはやらないのがルール」発言などに関してコメント。




2011年 テレビは何を映してきたか(6月編)

2012年01月27日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回はその6月編。

当時は、まだ菅直人首相だったが、「東日本大震災への対応に一定のメドがついた段階で退陣」の意向を示唆した。

それが2011年の6月でした。


例によって文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです。


2011年 テレビは何を映してきたか(6月編)


「下流の宴」 NHK

テーマもストーリーもいまいちだったNHK「マドンナ・ヴェルデ~娘のために産むこと」。同じ「ドラマ10」の枠で「下流の宴」が始まった。

主人公(黒木瞳)は医者の娘で国立大を出て、高学歴の夫(渡辺いっけい)がいて、というプチセレブ系妻。唯一の悩みは高校を中退してフリーター稼業という息子(窪田正孝)の存在だ。この息子が同じくフリーターの女の子(美波)と結婚すると言い出したから大騒ぎになる。

注目は「息子のため」と言いながら、実は自分の価値観と理想の家庭像を壊されることが許せない母親だ。このあたりがテンポよく戯画的に描かれているのは、脚本の中園ミホが林真理子の原作を上手にアレンジした成果。今後の展開も気になる。

ただ、困ったのが肝心の黒木である。「私(黒木本人)は違うけど、愚かな母親ってこうよね」という意識が前面に出て、あらゆる演技がオーバー気味。もっと言えば、わざとらしいのだ。

ヒステリックな場面を「ほら、これがヒステリックな女よ」。コミカルな場面を「ね、私ってコミカルな芝居もいけるでしょ」とこれ見よがしに演じられると、見る側は一気にシラケてしまう。

今回の役どころであるアラフィフ世代も、原田美枝子や田中美佐子など女優の層は厚い。NHKが過剰に黒木瞳をありがたがる理由は何だろう。
(2011.06.06)


「シロウト名鑑」 テレビ東京

昨今、番組制作費は減る一方だ。元々他局より少ない予算のテレビ東京も例外ではない。ならば低予算を嘆くより、いっそ逆手に取ろうという作り手たちの遊び心が、深夜バラエティ「シロウト名鑑」(金曜放送)を生みだした。

タレントを出せば金がかかる。だから素人がメイン。だが、素人を面白く見せるには知恵と技が必要。そこで「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」の人気脚本家・宮藤官九郎と、放送作家の細川徹を進行役とした。番組構成もできる出演者、実にリーズナブルではないか。

またテーマ設定のゆるさがこの番組の身上だ。見た目と歌声のギャップを味わう「巣鴨でスーザン・ボイルを探せ!」。人気子役・芦田愛菜ちゃんにあやかった「スーパー子役を探せ!」。いきなり「ルパン3世を探せ!」なんてのもあった。

そして先週が「赤羽でAKB48を探せ!」だ。町をぶらぶら歩いて出会った、キャバクラのお姉さんや居酒屋の呼び込みの女の子を勝手にスカウト。“本家”の前田敦子と大島優子の壮絶な戦いをよそに、「じゃあ、この娘をセンターで」などと適当に配置していくのが笑える。しかもこれを「AKB48総選挙」の開票翌日に放送するしゃれっ気と批評性も買いだ。

「低予算・隙間狙い・アイデア勝負」というテレビ東京のお家芸をしっかり体現した1本である。
(2011.06.13)


「奇跡ゲッター ブットバース!!」 TBS

土曜夜8時といえばかつてはゴールデンタイムの王様だった。とくにTBSは「8時だヨ!全員集合」というお化け番組を擁して、長年この王座に君臨したものだ。現在は「奇跡ゲッター ブットバース!!」を放送中。スタート時は「これは奇跡だ!という人物や現象をお届けする」とのフレコミだったが、今やほとんど迷走状態だ。

先週の「芸人どん底月収ベストテン~夫を支える芸人いい妻NO.1決定戦」もひどかった。もっとも低かった月収を「どん底月収」と名付け、ランキング形式で当の芸人とその妻を紹介していくのだ。芸人で収入が低いのは売れていないからで、視聴者は名前も顔も知らない芸人ばかりを見せられることになる。

第3位は「くらげライダー」の松丘慎吾で、どん底月収9800円。第2位のラジバンダリ西井は7500円。そして第1位が元「R(ろっこつ)マニア」の松丘慎吾で、スバリ0円。だが、これのどこを笑えというのだろう。

ちなみに司会はネプチューンだが、彼らは立派な収入を得ているはず。また、この番組のプロデューサー氏の父親はTBSの朝番組を仕切るみのもんたで、ギャラが高額なことで有名。そういうスタッフや出演者が、売れない芸人はそんなものだとして、低収入ぶりを笑いのネタにしている。そのセンスが情けない。土曜8時が泣いている。
(2011.06.19)


「リバウンド」 日本テレビ

連続ドラマ「リバウンド」(日本テレビ)の主演は相武紗季だ。相手役は速水もこみち。この組み合わせはすでに3度目である。最初は06年の「レガッタ~君といた永遠~」(テレビ朝日)だ。ボート部マネージャーと有力選手だったが、平均5%台という低視聴率で沈没。途中で打ち切りとなった。当時の速水に「陰のあるスポーツ選手」という役柄は難しかったのだ。

2度目は08年の「絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~」(フジテレビ)で、派遣OLとその恋人だった。この時は速水をロボットにするという奇策が功を奏し、平均視聴率13%台と善戦した。そして今回はケーキ依存症の女の子とパティシエだ。二人の恋愛模様をダイエットとリバウンドの揺れ動きにからめて描いている。

相武が体重78キロのおデブさんに変身する特殊メイクが話題となっているが、それだけじゃない。結婚と仕事、友情と恋、家族と自分など、20代の女性たちが直面する課題をさりげなく織り込んでいるのだ。いわば成長物語である。

これまでの平均視聴率は11%台で、パッとするものではない。しかし、超丸ポチャのリバウンド女さえ愛すべき存在に見せてしまう相武のコメディエンヌぶりが数字を補っている。速水も相武に引っ張られる形で好演。忌まわしき“「レガッタ」の呪い”からの脱出を果たせるかもしれない。
(2011.06.27)


アトム、ロボジー、アシモ

2012年01月26日 | 「東京新聞」に連載したコラム

『東京新聞』に連載しているコラム「言いたい放談」。

今回は、ロボットのおはなしです。


 ロボットが好き


ロボットに弱い。いや、戦ったことはない。わけもなく好きなのだ。多分小学生時代の「鉄腕アトム」や「鉄人28号」による“すり込み”だと思う。
    
公開中の矢口史靖監督「ロボジー」は“なんちゃってロボット”の物語だ。二足歩行ロボットが完成しなくて困った開発チームが、あるおじいさんをロボットの躯体(くたい)の中に入れ、その場しのぎをしたことから始まるてんやわんや。この愛すべき偏屈ジイサンを演じているのがミッキー・カーチス(五十嵐信次郎の芸名で出演)で、役柄と実像がないまぜの快演が楽しめる。

SF作家のアイザック・アシモフが作った「ロボット3原則」がある。①人間を傷つけてはならないし、傷つけられることも許してはならない。②人間の命令に従わなくてはならないが、①に違反しない場合に限る。③自分自身を守らなくてはならないが、①と②に違反しない場合に限るというものだ。

「ロボジー」の極めて人間的なロボットは、人の体だけでなく、気持ちをも傷つけまいと奮闘する。いつかアトムのような「こころやさしい」ロボットが誕生する日が来るのだろうか。と思っていたら、ホンダの二足歩行ロボット「アシモ」(由来はアシモフ)の開発者が酒気帯び運転で事故を起こしていたとのニュース。運転代行ロボットが登場するのは、かなり先になりそうだ。

(東京新聞 2012.01.25)


『日刊ゲンダイ』で、冬ドラマについて解説

2012年01月26日 | メディアでのコメント・論評

『日刊ゲンダイ』で、今期のドラマについて解説をしました。

「中高年世代におススメする」(笑)という趣旨の特集記事です。


冬ドラマ 
これから見ても面白いのはこれ


「家政婦のミタ」の大ヒットでドラマが盛り上がっているが、今クールはどうか。「家族」や「絆」をテーマにして、各局の名人デューサーは二匹目、三匹目のドジョウを狙っているというのだが。そこで日刊ゲンダイ本紙は魂胆ミエミエのドラマはバッサリとカットし、中高年が楽しめるドラマを厳選――。

「おじさん世代が今から見ても絶対損しないドラマは、フジテレビの『最後から二番目の恋』と『ストロベリーナイト』、それとTBSの『運命の人』の3本。

共通するのは、ヒロインにいずれも結婚経験があり、脂の乗った熟女世代ということです」(上智大学教授の碓井広義氏=メディア論)


まず、「ストロベリー」は累計160万部超の誉田哲也のミステリーが原作。“殺人ショー”を開催する組織と警察の攻防が描かれている。スーツ姿の竹内結子の胸元がはだける瞬間がセクシーと評判だ。

「『運命の人』は山崎豊子のベストセラーが原作です。誰もが知っている沖縄返還密約をスクープした西山事件がテーマで見ごたえは十分。

セットにお金をかけていて、昭和30~40年代の雰囲気がリアルに描かれている点も中高年は楽しめます。本木雅弘の愛人役の真木よう子と、妻役の松たか子の“競艶”にも注目です」(碓井広義氏=前出)


「最後から」の小泉今日子の役柄は45歳・独身のテレビプロデューサー。鎌倉市役所勤務の長倉和平(中井貴一)との大人の恋模様がコミカルタッチに描かれている。

これから出てきそうな濡れ場シーンは必見だし、昨年、NHK朝の連続テレビ小説「おひさま」をヒットさせた岡田恵和の練りに練った脚本は安定感がある。

(日刊ゲンダイ 2012.01.25)

秋学期の授業が終了

2012年01月26日 | 大学

今週、「テレビ制作」や「メディアと文化(大衆文化論)」など秋学期の授業が続々と終了した。

ここから期末試験ウイーク、そして入試と続いていく。

まずは、おつかれさまでした。




















中谷美紀「聖なる怪物たち」は“夜ドラ(夜の昼ドラ)”

2012年01月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

『日刊ゲンダイ』に連載中の番組時評「TV見るべきものは!!」。

これまで月曜日の掲載だったが、今週から火曜日に移った。

今回、取り上げたのはテレ朝の「聖なる怪物たち」です。


期待できそうな
中谷美紀の目ヂカラが怖い
“夜ドラ”

テレビ朝日の連続ドラマ「聖なる怪物たち」は病院を舞台にした医療サスペンスだ。主演はイケメン俳優として売れっ子(「平清盛」では源頼朝役)の岡田将生。だからといって若者向けと判断して見ないでおくには惜しい1本である。

そもそも岡田が主役だと思うからいけない。実質は中谷美紀のドラマなのだ。しかも青年医師の物語というより大人たちのドロドロ群像劇。いわば“夜の昼ドラ”である。

外科医の岡田が勤める病院の看護師長が中谷。その妹が加藤あい。加藤は学園グループの御曹司(長谷川博己)と略奪婚するが、流産して子宮摘出手術を受ける。長谷川には前妻との間に息子がいて、このままでは後継者はその子になってしまう。加藤は中谷に代理出産を依頼する、というのが第1回目だった。

謎はいくつもある。番組冒頭で病院に担ぎ込まれて亡くなった妊婦は誰なのか。残された新生児はどうなったのか。早くに両親を亡くして2人で生きてきた中谷・加藤姉妹の過去。岡田を産むと同時に死亡したという母親(佐々木希)の存在。もちろん男たち女たちの愛憎もたっぷりとトッピングされている。

そんな昼ドラならぬ夜ドラで、中谷美紀は持ち前の「目ヂカラ」を遺憾なく発揮。かなり怖い。先が読めないこのドラマのキーパーソンとして君臨し続けるはずだ。

(日刊ゲンダイ 2012.01.24)


2011年 テレビは何を映してきたか(5月編)

2012年01月24日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。

今回は5月編。


例によって文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです。


2011年 テレビは何を映してきたか(5月編)

「探偵Xからの挑戦状!」 NHK 

 NHKが「探偵Xからの挑戦状!」シーズン3を放送している。何かと自粛ムードの世の中で、これは結構贅沢な番組だ。
 まずミステリー作家にオリジナル作品を執筆してもらいドラマ化。その前半が問題編、後半が解決編だ。ドラマの前後や途中には探偵X(竹中直人)とOLの蘭子(長澤まさみ)が登場。番組全体の案内役を務めている。
 先週は北村薫原作「ビスケット」。大学の外国人教師にしてミステリー作家の男が撲殺される。怪しいのは同僚の教授たちだ。事件の鍵となるのは被害者が遺した「ダイイング・メッセージ」で、手のひらの形が犯人を示していた。事件を解決するのは北村作品「冬のオペラ」の名コンビ、探偵の巫(かんなぎ)弓彦(山口祐一郎)とミステリー作家・姫宮あゆみ(水野美紀)だ。2時間ドラマでもいけそうな配役でこれまた贅沢感がある。
 実はこの番組、ケータイとの連動がウリの一つ。小説の問題編を事前に配信し、受信者は犯人を推理して投票。番組の中で投票者数(先週は約6600人)や犯人予測の分布を発表したりするのだ。こういう今どきの仕掛けで目新しさを狙う気持ちはわかる。しかし正直言って、投票に参加していない大多数の視聴者にとっては知りたい情報でもなく、うるさいだけだ。まずはテレビの前の視聴者を楽しませることに集中してもらいたい。
(2011.05.02)


「鈴木先生」 テレビ東京 

 テレビ東京「鈴木先生」は今期連ドラの中で目が離せない1本だ。まず、長谷川博己が演じる中学教師のキャラが際立っている。教育熱心といえば非常に熱心。いつも生徒のことを考えているし、観察眼も鋭い。しかし、それは教室を自分の教育理論の実験場だと思っているからであり、単なる熱血教師とは異なる。
 たとえば担任クラスの男子生徒が小4の女の子と性交渉をもってしまう。レイプだと怒鳴りこんでくる母親。鈴木はこの生徒と徹底的に話し合う。そして、たとえ合意の上でも、自分たちが「周囲に秘密がバレる程度の精神年齢」であることを自覚していなかったのは罪だ、と気づかせるのだ。
 いや、これで解決かどうかは賛否があるだろう。ただこのドラマの真骨頂は、鈴木が思いを巡らすそのプロセスを視聴者に見せていくことにある。“心の声”としてのナレーションはもちろん、思考過程におけるキーワードが文字としても表示されるのだ。いわば頭の中の実況中継である。しかもその中継には生徒である美少女・土屋太凰(つちやたお)との“あらぬ関係”といった妄想さえ含まれる。教師も人間であり男であるわけだが、この時点で「中学生日記」や「3年B組金八先生」との差別化は明白だ。
 原作漫画(武富健治)の画調はやや暑苦しいが、ドラマは映画風処理を施された映像が心地良い。
(2011.05.09)


「最後の晩餐~刑事・遠野一行と七人の容疑者」 テレビ朝日 

 先週土曜の夜、テレビ朝日がドラマスペシャル「最後の晩餐~刑事・遠野一行と七人の容疑者」を放送した。主演が佐藤浩市、脚本は「白い巨塔」などの井上由美子。共演者には西田敏行や黒木瞳も並び、期待を裏切らない力作だった。
 恋人を殺されたシェフ(成宮寛貴)が恨みをもつ面々を自分のレストランに招待し、一挙に罰を与えようとする。しかし途中まで、彼らが成宮に殺される理由が視聴者にも、佐藤たち警察側にもわからない。彼らは成宮の恋人の死に直接関係ないからだ。やがて真相が明らかになり、成宮と佐藤が対決するクライマックスがやってくる。
 このドラマ最大のお手柄は遠野一行という魅力的な刑事を“自前”で生み出したことだ。最近のドラマは小説や漫画の原作物が多い。それはそれで面白いが、やはりオリジナル脚本による新鮮な物語も見たいのだ。
 その点、遠野はいい。彼には自分が逮捕した犯罪者(ARATA)の女(斉藤由貴)を妻にしたという過去がある。それは警察組織では許されない結婚であり、かつての相棒・杉崎捜査一課長(六角精児、好演)との反目の原因にもなった。しかも出所したARATAは斉藤由貴に未練があり、彼女の気持ちも揺れ動く。
 こうした背景が遠野の人物像に微妙な陰影をもたせているのだ。続編を見てみたいと思う。
(2011.05.16)


「仕事ハッケン伝」 NHK 

 何度かのお試し放送を経てNHK「仕事ハッケン伝」がレギュラー化された。売り文句は「有名人が特別扱い一切なしで憧れの職業に挑む」だ。
 第1回はペナルティのワッキーが中華レストランチェーンで料理人修業。わずか一週間で一人前になれるはずもないが、何とか客に出せるニラレバ炒めを作り上げた。2回目は博多華丸が最先端IT企業に。仮想空間でのイベント企画に挑んだ。
 真剣に中華鍋を振るワッキーについ感動したりするが、それはあくまでも一週間という期間限定でのこと。タレントもカメラが回っていれば何らかの結果を出すべく必死になるのは当然だ。そもそも、いきなり入ってきた新人に“絵になる”ような仕事をさせてくれること自体、「特別扱い」なのである。またこの番組で扱われるのが有名企業ばかりというのも感心しない。ワッキーは餃子の王将。華丸がサイバーエージェント。以前の単発放送の頃もグーグルやアマゾンであり、今後はユニクロなどが登場する。
 ここ何年も就職氷河期とか超氷河期と呼ばれるが、学生たちの視野の狭さにも遠因がある。有名企業や大企業にばかり目が向いているのだ。実際には、名前は知られていないがキラッと光る会社、規模は小さいが世界的な企業がたくさんある。この番組がハッケンすべきはそんな会社と仕事なのではないか。
(2011.05.23)


「世紀のワイドショー!今夜はヒストリー」 TBS 

 TBSが「関口宏の東京フレンドパーク」の後枠で始めた「世紀のワイドショー!今夜はヒストリー」。そのコンセプトは「歴史上の大事件が起きたある一日にタイムスリップした、テレビ界初の時空超越系ワイドショー」という大胆なものだ。しかし実態は残念な羊頭狗肉と言わざるを得ない。
 まず歴史とワイドショーを結びつけたのは伊丹十三が出演した「万延元年のテレビワイドショー」(テレビ東京・1976年)が最初だ。もしも万延元年(1860年)にテレビが存在したらという設定で、幕末の経済問題をワイドショー形式で見せていた。また歴史の現場にタイムスリップしてレポートするのは、NHK「タイムスクープハンター」のスタイルだ。
 再現ドラマの中の過去の人物にインタビューする手法は、終戦秘話を描いた「欧州から愛をこめて」(日本テレビ・75年)をはじめ、現在のNHK「歴史秘話ヒストリア」でも使われている。さらに「歴史上のある一日」にスポットを当てる発想は、まんまNHK「その時歴史が動いた」である。
 他の番組の成果を取り入れるなら、それを踏まえてどれだけのオリジナリティを生み出せるかどうかが重要だ。番組で最も印象に残るのが、「みのもんたの朝スバッ!」を思わせる<業界最大級ボード>に貼られた紙をベリベリと剥がす司会者の姿では情けない。
(2011.05.30)



「AKB48リクエストアワー」をライブ配信で

2012年01月23日 | テレビ・ラジオ・メディア

「AKB48リクエストアワー セットリストベスト100 2012」。

東京ドームシティで、日曜まで4日間にわたって行われた、AKB48の音楽イベントだ。

その最終日の模様を、ネット配信のライブ中継で見た。

部屋の片づけをしながらだけど(笑)。

何より、全体の仕掛けというか、システムが興味深かった。

コンサートを会場で見る。映画館で中継を見る。そしてネットで見る。

ファンたちは3つの経路の中から選択し、参加したわけだ。

特にネット派は、映像が「引き」に限られているとはいえ、無料。

それでも会場の雰囲気、パフォーマンスのライブ感は十分に伝わってきた。

突然の「バンド演奏」披露もびっくり(笑)。

テレビの横並びに、こういうのが当たり前のように存在しているのが今のメディア環境なのだ。

あらためて、「面白いなあ」と思う。

ちなみに、トップは昨年に続き「ヘビーローテーション」でした(笑)。


NHK海外ニュース番組に「富永愛」は必要か?

2012年01月22日 | テレビ・ラジオ・メディア

土曜の夕方、NHKが18時10分から放送している「NHK海外ネットワーク」。

今週、世界で起きたことがコンパクトにまとめられ、わかりやすい解説も付いて、とても有益な番組なのだが、なぜかモデルの富永愛が出てきたりする。

確かに「日本とパリを拠点に活動する国際派モデル」がフレコミです。

とはいえ彼女に、海外ニュースに関する解説やコメントを求めているわけじゃないはずで、多分、一般の人、素人の代表を置いているつもりなんでしょう。

でも、こういう演出って必要なのかなあ、といつも思う。

まあ、ミニスカートでの立ち姿は、日本人離れした見事なものかもしれないけど、これって何か視聴者へのサービスのつもり?

というか、海外ニュース番組の中で、富永愛、見たいですか?(笑)





今週の「読んで(書評を)書いた本」 2012.01.22

2012年01月22日 | 書評した本たち

遅ればせの「東京・神奈川に初雪」以来、連日の寒さ。

昨日も、ユーミンの曲の懐かしいタイトルを思い出させる、まんま「冷たい雨」(笑)の一日でした。

こんな日に似合う本はないかと思って手にしたのが、佐伯啓思さんの新刊『反・幸福論』(新潮新書)。

第3章のタイトルなんて、すごい。

<「無縁社会」で何が悪い>となっているのだ。

日本の近代社会は、ずっと「無縁社会」を実現することにまい進してきたじゃないか、という話です。

これは佐伯さんが重要だという「死生観」にも関係する問題。

あれやこれやの「この国の偽善」を衝く本の内容は、かなり説得力がありました。


で、今週の「読んで(書評を)書いた本」は、以下の通りです。

恒川光太郎 『金色の獣、彼方に向かう』 双葉社 

中嶋嶺雄 『日本人の教養』 朝日新聞出版

松尾由美 『煙とサクランボ』 光文社 

森 功 『狡猾の人』 幻冬舎

岩田健太郎ほか 『有事対応コミュニケーション力』 技術評論社



* 上記の本の書評は、『週刊新潮』(1月26日号)
  に掲載されています。


『ロボジー』のミッキー・カーチスがすごい

2012年01月21日 | 映画・ビデオ・映像

映画『ロボジー』を観てきた。

『ウオーターボーイズ』『スウイングガールズ』『ハッピーフライト』と観てきた矢口史靖監督だ。

試作品の二足歩行ロボットが完成しなくて、困った開発チーム3人が、あるジイサンをロボットの中に入れて、“その場しのぎ”をしちゃったことから起きるてんやわんや(笑)。

場面場面のネタで笑いつつも、ストーリー全体としては、なーんか少し足りないというか、いまひとつ欲しいというか、惜しいというか。

ただ、「ロボットじいさん」となるミッキー・カーチス(今回は五十嵐信次郎の芸名で出演)はすごいねえ。

偏屈ぶりがあっ晴れ。

役柄と実像がないまぜになってるんじゃないかと思える、ほんと名演だ(笑)。

開発チーム3人は、『ウオーターボーイズ』にも出ていた濱田岳がよかったけど、1人でいいから「一般的に知られた人」が欲しかった。

「ロボットおたく」の工学系女子大生を演じた吉高由里子は頑張っていたけど、演技はややオーバー気味で、誇張が過ぎたように思う。もっと普通に芝居してもOKだったんじゃないかな。

作品トータルで70点(笑)。

映画館じゃなく、後からビデオで観てもよかったのかもしれないけど、
まあ、矢口作品ということで納得した次第です。


『週刊新潮』で、ドラマ「ラッキーセブン」についてコメント

2012年01月20日 | メディアでのコメント・論評

フジの月9、その最新作が「ラッキーセブン」だ。

威光が落ちたといわれながらも、やはり注目の枠であり、さっそく『週刊新潮』が記事にしている。

その中でコメントしております。


6人の探偵を束ねる
「松嶋菜々子」のミタ効果

1月スタートの連続ドラマでは、最大の話題作だ。フジテレビの『ラッキーセブン』(月曜夜9時)。何たって、視聴率40%“ミタさん”の登場である。

東京・北品川、スタッフ6人の小さな探偵社が舞台。嵐の松本潤はじめ、瑛太、仲里依紗、大泉洋、角野卓造と、探偵役には、アイドルからベテランまで個性的な面々が揃った。

そんな彼らを束ねるのが、女性社長の松嶋菜々子なのだ。

「昨年11月上旬に男性キャストが発表され、力が入っていると評判に。さらに師走に女性陣の発表。『家政婦のミタ』で視聴率沸騰中の松嶋を日テレから引っこ抜き、フジは“超豪華キャストが実現!”と胸を張っていましたね」(放送記者)

直後に『ミタ』最終回が驚異の40.0%をマーク。期待はいやが上にも高まったのだが・・・。

「これは大人が見るべきドラマじゃないですね」と、失望感をあらわにするのは、上智大学の碓井広義教授(メディア論)だ。

「良く言えばライトな感覚の探偵ドラマなんでしょうが、現実味がなく、すべて雰囲気で成り立っている感じ。その中で、アングラの格闘技場に潜入した松潤と瑛太が闘う場面があるのですが、妙にリアルで浮いてしまっています。

松嶋は探偵社の場面にところどころ出てくるだけで、彼女である必要性を感じない。今後、見せ場が用意されているのかもしれませんが、次回を見る気がしませんね」


大泉ファンの女性は、「映像はスタイリッシュで、アクションも激しい。ならば、それに徹すれば良いのに、コミカルな場面や、ヒューマンな泣かせのシーンがあったり、どれも中途半端な印象。

初回では登場人物のバックボーンが描かれていないので、とりあえず次も見てしまいそうですが」

16日の初回視聴率は16.3%。女社長は家政婦の“6割安”でありました。

(週刊新潮 2012.01.26号)


・・・・ずっと「若者の恋愛」を描いてきた月9が試みた「探偵もの」。

「週刊新潮」の読者層はともかく(笑)、ドラマを含めテレビを見ることが少なくなっている若い衆を、松潤と瑛太の二枚看板で少しでも呼び戻すことが出来れば、フジテレビとしては大成功でしょう。