今日もユルすぎる
「じゅん散歩」がスタートから10年に
「高田純次」が作り出した
“視聴者との共犯関係”
「一歩歩けば、そこにひとつの出会いが生まれる」をテーマに高田純次(78)が街を歩く散歩番組「じゅん散歩」(テレビ朝日・平日9:55〜10:25 ※主に関東ローカル)が、まもなく10周年を迎える。
これを記念して7月28日から年末までスペシャル企画を放送。第1弾の“台湾スペシャル”では、高田が日本を飛び出して台湾に降り立った。もちろん海外でも相変わらずテキトーだ。そんな番組がなぜこんなにも長く続いているのか。
テレ朝の散歩シリーズは、地井武男の「ちい散歩」(2006年4月3日〜12年5月4日・全1518回放送)に始まり、加山雄三の「若大将のゆうゆう散歩」(12年5月7日〜15年9月25日・全865回放送)、そして「じゅん散歩」(15年9月29日〜)へと続いている。
中でも「じゅん散歩」はシリーズ最長で、すでに放送2000回を超えている。
シリーズを見続けているメディア文化評論家の碓井広義氏は言う。
「『ちい散歩』はその地域の人や物を、地井さんの目線で発見して魅力を伝えるという正統派の旅番組の縮小版といったイメージでした。そこに地井さんの人柄もはまって、番組は散歩ブームの火付け役となりました」
だが、地井さんは病に倒れ、「ゆうゆう散歩」へと引き継がれた。
「一方『ゆうゆう散歩』は、加山さんの大名行列のような番組でした。彼にとってはなんにも興味がないと街を歩かされていように見えました。街の人やお店の人に対して、なんだか偉そうに映ってしまうところも鼻につきました」(碓井氏)
若大将だからだろうか……。そんな加山も“80歳になるまでに設計している船を完成させたい”と3年半で降板。それを引き継いだ「じゅん散歩」が10年になる。何が違うのか。
高田純次を野放し
「『じゅん散歩』のすごさは、番組の基本が変わっていないことです。長く続く番組は何かとイジりたくなってくるものですが、番組開始から何もイジっていません。だから生き延びているのだと思います。変な演出を加えたりしていたら、僕も見るのを止めていたと思います」(碓井氏)
何が変わっていないのだろう?
「“ユルさ”に尽きると思います。『じゅん散歩』がスタートした頃、地上波は散歩番組であふれていました。今も続いている『ブラタモリ』(NHK)や『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ)、マツコ・デラックスの『夜の巷を徘徊する』(テレ朝)もありましたが、どれも散歩番組を標榜しながらいろいろな演出がなされています。演出する側がこの街ならこれを見せたいとか、この人を取り上げたいとか、事前取材をした上で台本を作って出演者を連れて行く。ところが、『じゅん散歩』の場合は、本当に野放しと言うのか、ロケをする街だけ決めて歩いているように見えます」(碓井氏)
番組のチーフディレクターは雑誌のインタビューで「僕らは街を用意するだけです」と明言している(「ロケーションジャパン」23年5月15日発売号)。
「番組スタッフだって『このケーキ屋さんいい感じだな』と思うことだってあるでしょう。それでも『高田さん、今日はここに入ってください』とは言わず、野放しにしておいて彼はお店に乗り込んでいく。よくある散歩番組なら、そこでお店とか人の魅力を引き出していこうとするんだけど、『じゅん散歩』にはそれがない。だから見ているほうだって、そのお店に行ってみたいとは思わない……」(碓井氏)
それでいいのか?
テキトーを楽しむ
「視聴者はテキトーな高田純次を楽しんでいるのです」(碓井氏)
しかも、高田のテキトーには3つのパターンがあるという。
「まず、お店に立ち寄るとき、普通なら『テレビ朝日の『じゅん散歩』という番組で……』とか言うんだけど、高田さんの場合、例えばラーメン屋なら『テレ朝の《日本一のラーメン屋を探せ! 》っていう番組なんだけど』とかでたらめの番組名を名乗る」(碓井氏)
テキトーな自己紹介で店内に入ると、店員とのやりとりだ。
「まれに面白い店員の方もいるけれど、素人ですから毎回そんなに面白い人は出てきません。それでも高田さんは、相手が面白かろうがそうでなかろうが、素人には関心がない。相手にかかわらず、自分勝手なリアクションで済ましてしまう」(碓井氏)
テキトーなリアクションである。さらに……。
「テキトーなコメントです。高田さんは飲食店で何かを食べても、その味を視聴者に伝えようなんて思っていません。美味いのか不味いのかもわからないし、高田さんに関心がなければ味に触れないときさえある。これはすごいことですよ」(碓井氏)
最近はNHKですら食レポくらいのことはやっている。
視聴者との共犯関係
「散歩番組や旅番組といえば、彦摩呂じゃないけれど食べたり飲んだりしたら誉めまくる。ある意味それが番組の命だったりするわけですが、『じゅん散歩』にはそれがない。視聴者は高田さんのテキトーな自己紹介とテキトーなリアクション、そしてテキトーなコメントを楽しんでいるんです。だからといって高田さんに感心しているわけでもない。“今日もテキトーだねえ”“相変わらずいい加減だなあ”って、非常に屈折した楽しみ方をしているんです」(碓井氏)
シリーズの中でも異色だ。
「高田さんといえば昔から“テキトー”と“いい加減”をウリにしてきた人ですが、そもそもは俳優ですし、全部が素であるはずもない。『じゅん散歩』では視聴者が求める高田純次をやってくれているんだと思います。一方、視聴者は『じゅん散歩』で街の魅力を発見しようとか、新しいトレンドを知ろうなんてことは思っていません。高田さんと視聴者との共犯関係で番組が成立し、10年間も続いたと言えるのかもしれません」(碓井氏)
高田は「じゅん散歩」が10年続いたことについてコメントを発表している。
《あっという間の10年間でしたけど、僕もある程度の歳を重ねてきているから、この先続けられてあと20年かな? 》(番組公式ホームページより)
「まったく相変わらず……。でも、そんな高田さんから僕らは、テキトーでいいんだよ、いい加減でいいんだよ、人生楽しけりゃ、というメッセージを受け取っているわけです。もちろん高田さんは、そんなメッセージなど出しませんけど。高田さんも78歳ですが、視聴者も一緒に歳をとってきているわけです。たとえ高田さんが杖をつかないと歩けないようになっても、電動車椅子に乗るようになっても、番組を続ける気があるのなら続けてもらいたいですね。しんどい人だって散歩をしたいという超高齢化社会になっている中、前例のない番組を作っている高田さんにこそ実践してほしいと思います」(碓井氏)
(デイリー新潮 2025.07.31)