goo blog サービス終了のお知らせ 

碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

デイリー新潮で、「じゅん散歩」10周年について解説

2025年08月01日 | メディアでのコメント・論評

 

 

今日もユルすぎる

「じゅん散歩」がスタートから10年に 

「高田純次」が作り出した

“視聴者との共犯関係”

 

「一歩歩けば、そこにひとつの出会いが生まれる」をテーマに高田純次(78)が街を歩く散歩番組「じゅん散歩」(テレビ朝日・平日9:55〜10:25 ※主に関東ローカル)が、まもなく10周年を迎える。

これを記念して7月28日から年末までスペシャル企画を放送。第1弾の“台湾スペシャル”では、高田が日本を飛び出して台湾に降り立った。もちろん海外でも相変わらずテキトーだ。そんな番組がなぜこんなにも長く続いているのか。

テレ朝の散歩シリーズは、地井武男の「ちい散歩」(2006年4月3日〜12年5月4日・全1518回放送)に始まり、加山雄三の「若大将のゆうゆう散歩」(12年5月7日〜15年9月25日・全865回放送)、そして「じゅん散歩」(15年9月29日〜)へと続いている。

中でも「じゅん散歩」はシリーズ最長で、すでに放送2000回を超えている。

シリーズを見続けているメディア文化評論家の碓井広義氏は言う。

 「『ちい散歩』はその地域の人や物を、地井さんの目線で発見して魅力を伝えるという正統派の旅番組の縮小版といったイメージでした。そこに地井さんの人柄もはまって、番組は散歩ブームの火付け役となりました」  

だが、地井さんは病に倒れ、「ゆうゆう散歩」へと引き継がれた。

「一方『ゆうゆう散歩』は、加山さんの大名行列のような番組でした。彼にとってはなんにも興味がないと街を歩かされていように見えました。街の人やお店の人に対して、なんだか偉そうに映ってしまうところも鼻につきました」(碓井氏)  

若大将だからだろうか……。そんな加山も“80歳になるまでに設計している船を完成させたい”と3年半で降板。それを引き継いだ「じゅん散歩」が10年になる。何が違うのか。

高田純次を野放し

「『じゅん散歩』のすごさは、番組の基本が変わっていないことです。長く続く番組は何かとイジりたくなってくるものですが、番組開始から何もイジっていません。だから生き延びているのだと思います。変な演出を加えたりしていたら、僕も見るのを止めていたと思います」(碓井氏)  

何が変わっていないのだろう? 

「“ユルさ”に尽きると思います。『じゅん散歩』がスタートした頃、地上波は散歩番組であふれていました。今も続いている『ブラタモリ』(NHK)や『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ)、マツコ・デラックスの『夜の巷を徘徊する』(テレ朝)もありましたが、どれも散歩番組を標榜しながらいろいろな演出がなされています。演出する側がこの街ならこれを見せたいとか、この人を取り上げたいとか、事前取材をした上で台本を作って出演者を連れて行く。ところが、『じゅん散歩』の場合は、本当に野放しと言うのか、ロケをする街だけ決めて歩いているように見えます」(碓井氏)  

番組のチーフディレクターは雑誌のインタビューで「僕らは街を用意するだけです」と明言している(「ロケーションジャパン」23年5月15日発売号)。

「番組スタッフだって『このケーキ屋さんいい感じだな』と思うことだってあるでしょう。それでも『高田さん、今日はここに入ってください』とは言わず、野放しにしておいて彼はお店に乗り込んでいく。よくある散歩番組なら、そこでお店とか人の魅力を引き出していこうとするんだけど、『じゅん散歩』にはそれがない。だから見ているほうだって、そのお店に行ってみたいとは思わない……」(碓井氏)  

それでいいのか? 

テキトーを楽しむ

「視聴者はテキトーな高田純次を楽しんでいるのです」(碓井氏)  

しかも、高田のテキトーには3つのパターンがあるという。

「まず、お店に立ち寄るとき、普通なら『テレビ朝日の『じゅん散歩』という番組で……』とか言うんだけど、高田さんの場合、例えばラーメン屋なら『テレ朝の《日本一のラーメン屋を探せ! 》っていう番組なんだけど』とかでたらめの番組名を名乗る」(碓井氏)  

テキトーな自己紹介で店内に入ると、店員とのやりとりだ。

「まれに面白い店員の方もいるけれど、素人ですから毎回そんなに面白い人は出てきません。それでも高田さんは、相手が面白かろうがそうでなかろうが、素人には関心がない。相手にかかわらず、自分勝手なリアクションで済ましてしまう」(碓井氏)  

テキトーなリアクションである。さらに……。

「テキトーなコメントです。高田さんは飲食店で何かを食べても、その味を視聴者に伝えようなんて思っていません。美味いのか不味いのかもわからないし、高田さんに関心がなければ味に触れないときさえある。これはすごいことですよ」(碓井氏)  

最近はNHKですら食レポくらいのことはやっている。

視聴者との共犯関係

「散歩番組や旅番組といえば、彦摩呂じゃないけれど食べたり飲んだりしたら誉めまくる。ある意味それが番組の命だったりするわけですが、『じゅん散歩』にはそれがない。視聴者は高田さんのテキトーな自己紹介とテキトーなリアクション、そしてテキトーなコメントを楽しんでいるんです。だからといって高田さんに感心しているわけでもない。“今日もテキトーだねえ”“相変わらずいい加減だなあ”って、非常に屈折した楽しみ方をしているんです」(碓井氏)  

シリーズの中でも異色だ。

「高田さんといえば昔から“テキトー”と“いい加減”をウリにしてきた人ですが、そもそもは俳優ですし、全部が素であるはずもない。『じゅん散歩』では視聴者が求める高田純次をやってくれているんだと思います。一方、視聴者は『じゅん散歩』で街の魅力を発見しようとか、新しいトレンドを知ろうなんてことは思っていません。高田さんと視聴者との共犯関係で番組が成立し、10年間も続いたと言えるのかもしれません」(碓井氏) 

高田は「じゅん散歩」が10年続いたことについてコメントを発表している。

《あっという間の10年間でしたけど、僕もある程度の歳を重ねてきているから、この先続けられてあと20年かな? 》(番組公式ホームページより)

 「まったく相変わらず……。でも、そんな高田さんから僕らは、テキトーでいいんだよ、いい加減でいいんだよ、人生楽しけりゃ、というメッセージを受け取っているわけです。もちろん高田さんは、そんなメッセージなど出しませんけど。高田さんも78歳ですが、視聴者も一緒に歳をとってきているわけです。たとえ高田さんが杖をつかないと歩けないようになっても、電動車椅子に乗るようになっても、番組を続ける気があるのなら続けてもらいたいですね。しんどい人だって散歩をしたいという超高齢化社会になっている中、前例のない番組を作っている高田さんにこそ実践してほしいと思います」(碓井氏)

(デイリー新潮 2025.07.31)

 


東京新聞で、自民党「高市早苗氏」についてコメント

2025年07月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

<こちら特報部>

自民の「右傾化」急加速か 

高市早苗総裁誕生なら「スパイ防止法」制定も現実味?

保守系野党も前のめりで

 

参院選で与党が惨敗した。世間の目は石破茂首相の進退に向くが、目を離せないのは自民党の今後もだ。参政党をはじめ、保守系の政党が議席を伸ばす中、今以上に右派の色合いを強める危惧も。かねて右派が望んだ政策、特にスパイ防止法の制定が現実味を帯びてこないか。(西田直晃、木原育子)

◆「もう一回、党の背骨をがしっと入れ直す」

参院選で傾いた自民党。既に党総裁への意欲をにじませた人物がいる。高市早苗氏だ。投開票直前の18日には地元・奈良県の演説で「私なりに腹をくくった。もう一回、党の背骨をがしっと入れ直す」と述べた。

2021年の総裁選で安倍晋三元首相に支持された高市氏。思い返されるのが、総務相時代の対応。2016年、政治的公平性を欠くと判断した放送局に対し、電波停止を命じる可能性に言及した。

メディア文化評論家の碓井広義氏は「安倍氏も放送への介入が目立ったが、高市氏は考えを継承したよう。現在に至るまで撤回していない」と語る。

保守色とも右派色とも指摘される高市氏の政治姿勢。参院選では、似た色合いを持つ他党が躍進した。目を見張るのが、参政党。比例票では自民党や国民民主党に次ぎ、742万票を獲得している。

◆参政党の新憲法構想案は「戦前回帰」?

参政党は新憲法構想案で「国家の自立」をうたい、先の大戦を「侵略戦争ではない」と喧伝(けんでん)してきた。沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は「顕著なのは戦前回帰。自主防衛を打ち出しており、徴兵制も現実味を帯びる」と話す。

外国の軍隊の駐留廃止も掲げているものの、ジャーナリストの布施祐仁氏は「人権侵害や生活不安を理由に基地縮小を求める沖縄の人と違い、国家主義のために対米従属を解消する論理だ」と解説する。

かたや自民党。参院選では「違法外国人ゼロ」などを標榜(ひょうぼう)。右派の歓心を買おうとした様子がうかがえたが、あえなく惨敗した。自民はどうなるか。躍進した他党に負けじと、今以上の右傾化を進めるのか。

◆杉田水脈氏ら保守色の強い議員が落選

政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「右寄りの立場で中心を占めるなら高市氏、萩生田光一氏らの顔が浮かぶ」と語る。

両氏はともに安倍氏と近い人物だ。そして高市氏に関しては、重要経済安保情報保護・活用法を巡り、中国の脅威を念頭に置いた「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入を主張。改憲を訴えるほか、選択的夫婦別姓の導入には慎重で、靖国参拝を続けてきた。

ただ、先々の見通しは難しいという。今回の参院選では、保守色の強い議員が落選した。元陸上自衛官の佐藤正久氏、アイヌ民族や在日コリアンらへの差別発言を繰り返した杉田水脈氏、LGBTなど性的少数者への理解増進法の採決に加わらなかった山東昭子氏や和田政宗氏らが含まれる。

◆世間も右寄り「危うさが響かなくなっている」

角谷氏はこうした状況を踏まえ、「仮に総裁選が行われても、何が求心力になるか分からないどん底の状況だ」と語る。

一方で「安保政策の観点では、主要政党のほとんどが何年も前から右傾化しており、自公だけではなく、国民も立民も維新も大して違わない」とも。

異論が挟まれない現状をこう懸念する。「右寄りの考え方に世間の感覚が慣らされてしまい、極右的な考え方の危うさが国民に響かなくなっている」

今後懸念されるのが右派色の強い政策実現、特にスパイ防止法の制定だ。

(東京新聞「こちら特報部」2025.07.24)

 


スポーツニッポンで、斎藤工主演「誘拐の日」 について解説

2025年07月24日 | メディアでのコメント・論評

 

 

斎藤工主演テレ朝「誘拐の日」 

評論家が語る“視聴者ドハマりのワケ” 

魅力と今後のポイントとは

 

俳優の斎藤工主演のテレビ朝日ドラマ「誘拐の日」(火曜後9・00)が話題だ。同名韓国ドラマが原作で、不器用な誘拐犯(斎藤)と永尾柚乃演じる天才少女の絆を描くミステリー。

金銭目的で誘拐した少女が記憶喪失になり、さらに主人公は少女の両親殺害の濡れぎぬも着せられる。その中で、少女とバディとなって逃走劇と真犯人捜しを展開している。

主人公のマヌケな部分を天才少女が補う凸凹感や、事件に潛む謎が視聴者を引きつけ、Tverでの第1話見逃し配信回数は200万回を突破している。

今作の魅力やポイントをメディア文化評論家の碓井広義氏に聞いてみた。  

――今作の最大の魅力、視聴者の心を捉えているポイントはどこにあると思うか?  

「タイトルに“誘拐”とあることから、被害者がいて、犯人がいて、それを追う刑事がいてという一般的な“クライム・サスペンス”を連想する人が多いかもしれません。

しかし、本作は違います。事件自体も、登場人物たちも単純ではないからです。最大の注目点は、政宗(斎藤さん)と凛(永尾さん)の関係性でしょう。いわゆる犯罪者でも被害者でもありません。

政宗は基本的に善人である“マヌケな誘拐犯”。凛は類を見ない“記憶喪失の天才少女”。そんな2人が力を合わせて苦境から脱しようとする。まさに前代未聞のバディドラマです。

誘拐犯と誘拐された少女が、逃避行や真相究明に挑む相棒となる。時にいがみ合いながらも仲は深まり、やがて本物の父娘のように見えてくる。

サスペンス、コメディー、ヒューマンが絶妙のバランスを保ちながらの展開は、ふと映画『レオン』を想起させます。政宗と凛の関係性の変化・深化が、軽妙なやりとりと相まって、このドラマ最大の見どころとなっているのです」  

――韓国版との大きな違いは?

「韓国版でユン・ゲサンが演じる主人公のキム・ミョンジュン。自分が誘拐した11歳の少女に顎で使われ、逃げた妻にも頭が上がらない情けない男です。

ちょっとぼんやりな3枚目ですが、どこか憎めないキャラクターが魅力となっています。日本の俳優では、大泉洋さん、ムロツヨシさん、阿部サダヲさんといった名前が思い浮かぶかもしれません。ところが、そんな役柄を、あの斎藤工さんが演じている。それが韓国版との大きな違いでしょう。

斎藤さんといえば、どこかミステリアスな役を演じることが多いイメージがありますよね。それが少女に振り回される、まぬけな誘拐犯で、挙句の果てには、おならまでする主人公。もう“新鮮”以外ありません。しかも、かなりハマっている(笑い)。

イケメン俳優がこうした役を無理に演じる時の寒々しさも皆無です。思えば、斎藤さんは覆面芸人『人印(ピットイン)』として『R-1ぐらんぷり』に挑戦したり、東京NSCにも入学したキャリアを持っています。役に徹するためなら、かっこいい自分を捨てられるし、ピエロになることもできる人です。今回、そんな経験が存分に生かされていると思います。

そして、もう一つ韓国版との大きな違いが、記憶喪失になる天才少女の年齢設定です。韓国版のユナが演じるロヒは、11歳という設定。日本版の永尾柚乃さん演じる七瀬凛は、8歳の設定。

子供にとって3歳の年齢差は大きい。韓国版を見ていると、大人が圧倒される天才少女の発言は確かに11歳くらいでないとリアリティーがありません。これを8歳という設定でも納得させているのは永尾柚乃さんの存在感と演技力に尽きます。多分、柚乃さんでなければ、この役は成立しなかったでしょう。

バラエティー番組で観る永尾柚乃さんは、たった8歳という年齢ながら、大人びた発言で大人たちを驚かす頭脳明晰(めいせき)な天才子役。まさに“人生何周目?”と言われるゆえんです。そんな彼女だからこそ、8歳の設定で大人顔負けのせりふを口にしても、そこには説得力があるのです」  

――斎藤さんと永尾さん以外の配役についてはどうか?  

「私が注目しているのは、失踪した妻・汐里を演じる安達祐実さんですね。第3話で、実は自分がHIVに感染しているという衝撃の告白があり、“そんな事情があったんだ”と視聴者の涙を誘いました。

しかし、よくよく考えると、第2話で政宗からの電話に出なかったり、芽生の世話をすると約束していながら病院に通っていなかったりと、一筋縄ではいかない怪しい人物なのかもしれません。

第3話では、政宗を巡って凜と汐里がお互いの腹を探り合う、絶妙なやりとりが印象的でした。“どうしてうち(七瀬家)を狙ったの?”と切り込む凛。“私は殺してない!”と突っぱねる汐里。平成の天才子役・安達祐実と令和の天才子役・永尾柚乃の“新旧・天才子役対決”は実に見応えがありました。

また、Snow Manの深澤辰哉さんが演じている山崎弁護士も注視しています。第3話では、江口洋介さん扮する須之内刑事に、山崎が過去に凛の家庭教師をしていた事実を話します。山崎は堰(せき)を切ったかのように凛の天才ぶりに関して雄弁に語りました。

しかも須之内刑事たちが帰った後には、一人、窓の外をボーっと眺めている山崎が意味深に映し出されます。その表情が悪いことをたくらんでいるようにも見えるし、凛のことを思って物思いにふけっているようにも見える。果たして山崎は敵なのか、味方なのか?この先、キーパーソンの一人になってくる予感がします。なんと言っても大人気のSnow Manですから(笑い)」  

――今後の考察ポイントは?  

「第1話の冒頭、1995年に先代の栄作院長と思われる人物が、刃物を持った男に病院内で襲われ、院長が子供たちに囲まれている肖像画に血が飛び散るシーンがありました。

しかし、副理事長室の写真では、栄作元院長が凛を抱いていることから、比較的最近まで生きていたことになります。では、95年の事件の被害者は誰なのか、という謎が残っています。謎が二重三重に張り巡らされているミステリアスなストーリー。考察ファンにはたまらないドラマなのではないでしょうか。

もちろん、“凛の両親を殺害したのは誰か?”という犯人捜しのミステリーも大いに気になるポイントです。医学博士の水原由紀子(内田有紀さん)や病院副理事長の七瀬富雄(長谷川初範さん)も含め、登場人物全員にどこか怪しい部分があり、1話ごとに謎が深まっていくのも面白いですね。

WEB上にあった視聴者の感想の中に、“政宗や凛も、まだ容疑者リストから外すことはできない”という声があったのには、“たしかに、そういう見方もできるな”と膝を打ちました。

また政宗は緊張すると頭痛がするらしく、ラムネをポリポリかじると、それが和らぐ。これなど韓国版にはなかった設定であり、何かの伏線になっているのではないかと思っています。

他にも原作の韓国ドラマにはない日本版オリジナルの要素が随所に見られるので、もしかしたら、真犯人も韓国ドラマとは違ってくるかも知れませんよ(笑い)。

ですから、韓国ドラマを最後まで見て結末を知っている人も楽しめるはずです。政宗と凛、2人の逃避行はどこに向かって、どんな結末にたどり着くのか?その時、2人の関係性はどうなっているのか?最終回まで目が離せません」  

◇碓井 広義(うすい・ひろよし)メディア文化評論家。慶大法学部卒。博士(政策研究)。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大文学部新聞学科教授を経て現職。編著「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」ほか。

(スポニチアネックス 2025.07.23)

 

 


デイリー新潮で、南野陽子「客員教授」就任について解説

2025年06月02日 | メディアでのコメント・論評

 

 

客員教授に就任「南野陽子」は大学で何を教える? 

専任教授「いとうまい子」との“違い”

 

歌手で俳優の南野陽子(57)が神戸松蔭大学(兵庫県神戸市)の客員教授に就任する。あまり聞き覚えのない大学名だが、この4月から共学化した神戸松蔭女子学院大学が改称したのだという。共学となった大学でナンノの役割とは? 

南野といえば、「おまんら、許さんぜよ!」が決め台詞だったドラマ「スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説」(フジテレビ・85年)のセラー服姿や、映画「はいからさんが通る」(87年)の袴姿を思い出す人も少なくないだろう。ちなみに、今年2月に放送されたバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」(NHK)では“卒業式に女学生が袴をはくのはなぜ?”との問いに、彼女の袴姿がブームのきっかけだったと結論づけた。それほど人気を誇った80年代のトップアイドルだった。

その南野が大学教授である。彼女が系列の松蔭中学・高校に在籍していた縁もあるようだが(高校2年の3学期から堀越高校に編入)、最終学歴は高卒だったはず……。

元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏に聞いた。

「84年に放送された『不良少女とよばれて』(TBS)で人気となった女優のいとうまい子さん(60)も今年4月、情報経営イノベーション専門職大学の専任教授に就任しました。ただし、彼女は2010年に早稲田大学人間科学部に入り直し、同大学院の修士課程と博士課程も修了したロボット工学の専門家です。一方、南野さんが就任するのは客員教授です。専任教授のような学位や資格も必要ありません。客員教授というはまさにゲストですから、常に大学に来なければいけないとか、毎週、決まった授業を受け持つわけでもなく、自分の専門分野の講演とか特別授業をされる方が多いですね」(碓井氏)

学生は彼女から単位がもらえるのだろうか。

「通年の授業の中での特別講義とか、複数回の連続講義みたいなもので単位にするところもあると思います。南野さんの場合は分かりませんが……」(碓井氏)

大学は何のために芸能人を客員教授に迎えるのだろう。

共学化と新学科

「例えば、シンガーソングライターの松任谷由実さんの夫で音楽プロデューサーの松任谷正隆さんは、東京工科大学や京都造形芸術大学で客員教授をされています。俳優では佐藤浩市さんが東北芸術工科大学、竹中直人さんが母校の多摩美術大学の客員教授、また、映画監督の北野武さんが東京芸術大学の特別教授に就任されたこともありました。芸術系の大学が多いですが、それぞれが自身の専門分野で後進の育成に務めるという意味合いがあるのだと思います」(碓井氏)

南野には何が求められたのだろう。

「南野さんの場合、大学側の事情という面もあるのではないでしょうか。少子化が進む今、地方の大学では定員割れのところも多くなっていますから」(碓井氏)

昨年、神戸松蔭女子学院大の定員割れを報じた新聞があった。

《神戸松蔭女子学院大(神戸市灘区)は1日、2025年4月から名称を「神戸松蔭大学」に変更し、男女共学化する予定と発表した。(中略)少子化が進む中、入学者は2020年度の584人から23年度には243人へと半減。社会的に多様性が重視される傾向が強まったこともあり、女性に限定せずに受け入れることを決めたという》(読売新聞・大阪版:2024年3月2日朝刊)

「定員割れを脱しなければ、閉校や統廃合の可能性も出てきます。そうした危機感の中で間口を広げるというのが、今回の共学化ということでしょう。さらに、神戸松蔭大は来年度、文学部の日本語日本文化学科を人文社会学科に改称するそうです。彼女はここにキャスティングされる可能性があります」(碓井氏)

セーラー服コスプレの元祖

神戸松蔭大の公式サイトには、人文社会学科の紹介として次のように記されている。

《今、日本の文化が海外から注目されていることは、みなさんもご存じのことでしょう。アニメやゲームといったサブカルチャーはもちろんのこと、日本の文学作品が映画化され、さらには日本の伝統文化の世界に飛び込むために来日する人もいるほどです。(中略)「日本文化のプロフェッショナル」として、世界で活躍できる力を身につけたいと思う人を待っています! 》

「日本のサブカルチャーは海外で大変な人気を得ています。インバウンドが真っ盛りの今、日本の文化に接して日本好きになったり、日本びいきになったりする外国人がたくさんいるわけです。そのきっかけが日本のアニメだったりJポップだったりします。コスプレでセーラー服を着る外国人も少なくありませんが、『スケバン刑事』はセーラー服コスプレの元祖と言えるのでは。女学生の袴姿はまさしく日本の文化ですし」(碓井氏)

南野が“日本文化のプロフェッショナル”? 

「その通り。もちろん大学側は、そんなことが理由だとは言わないでしょう。彼女はカンボジア親善大使に任命されたこともありましたから、国際親善に造詣が深いのでグローバルな人材を育てるのに役立つといった名目になるのかと思います。でも、彼女がある意味、日本文化の頂点のひとつを極めたことは間違いないのですから」(碓井氏)

大学にとっては客寄せパンダにもなり得るが、彼女にメリットはあるのだろうか。

「80年代のトップアイドルだった彼女も、数年前に日曜劇場『半沢直樹』(TBS)に登場して話題になった程度で、俳優としてレギュラー的に起用されるわけでもなく、音楽番組に出演するわけでもありません。ましてや、元夫が業務上横領や贈賄の罪で逮捕されたマイナスイメージもまだ消えたとは言い難い。そんな彼女が講演をするとしても、神戸松蔭大学客員教授という肩書きが入って、グローバル社会とか日本文化といった演題をつければ箔も付きますし、マイナスイメージも払拭できるでしょう。大学内で講演でもやれば、学生だけでなく父母も来るかもしれません」(碓井氏)

ちなみに、ボクシングの元WBC世界ライト級チャンピオンで俳優としても活躍したガッツ石松(75)も2008年、最終学歴が中卒でありながら広島国際学院大の客員教授に就任して世間を驚かせた。

「10敗以上してもなお世界王者に昇りつめたガッツさんの不屈の人生を語った講演は非常に好評だったそうです。しかし、広島国際学院大は残念ながら2023年に閉校に……」(碓井氏)

はたして、スケバン教授は学生を呼び寄せることができるのか。

【デイリー新潮編集部】

 


デイリー新潮で、「続・続・最後から二番目の恋」を解説

2025年04月22日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「小泉今日子と中井貴一の空気感に癒される」 

ベテランだらけの異色の月9

「続・続・最後から二番目の恋」が

高視聴率スタート

 

小泉今日子(59)と中井貴一(63)がW主演する月9ドラマ「続・続・最後から二番目の恋」(フジテレビ)がスタートした。2012年に放送された「最後から二番目の恋」の第3弾シリーズで、14年に放送された第2シリーズから実に11年ぶり。役柄も出演者もそのまま年をとった。

そもそも第1シリーズが放送された時は《45歳独身女性と50歳独身男性…「まだ恋は終わらない!」》が謳い文句の鎌倉を舞台にした大人の恋愛コメディだった。テレビ局のドラマプロデューサー・吉野千明も、それを演じる小泉も45歳。鎌倉市役所に勤める長倉和平も、それを演じる中井も50歳。時は流れて13年……。

4月12日の初回は、定年まであと1年となった白髪交じりの千明が「セカンドライフセミナー」を受講するシーンから始まった。和平はすでに定年退職しているが、鎌倉市観光推進課の指導監として再任用されている。

和平を中心とする長倉家で朝食を囲むメンツも変わらない。和平の妹で長倉家の長女・典子(飯島直子=57)、次女で双子の姉・万理子(内田有紀=49)、次男で双子の弟・真平(坂口憲二=49)、和平の娘・えりな(白本彩奈=22)、そして長倉家の隣に住む千明――。平均年齢49・8歳という食卓風景だ。

他のキャストを見ても、千明の独身仲間を演じる森口博子(56)と渡辺真起子(56)、第3シリーズから新たに加わった三浦友和(73)と石田ひかり(52)も出演者の平均年齢を押し上げている。“シニア向けドラマ”と揶揄する声もある。実際のところどうなのか、民放プロデューサーに聞いた。

今期2位の好発進

「初回の個人視聴率は5・5%、世帯視聴率は9・4%と二桁に届きそうな勢いです(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)。このところ不調が続いた月9ドラマですが、23年4月期の木村拓哉・主演『風間公親―教場0―』以来の個人視聴率5%超えとなりました。世帯視聴率は阿部寛・主演の日曜劇場『ニュースゲート』の初回14・2%に次ぐ数字です。また、TVerでの再生回数は200万回を突破したそうです」

月9の面目躍如といったところか。だが、もともと「最後から二番目の恋」は、第1シリーズ、第2シリーズとも木曜劇場の枠で放送されていた。それがなぜ今回は月9に? 

「第1シリーズの平均世帯視聴率は12・4%で、小泉さんはギャラクシー賞のテレビ部門で個人賞を受賞しました。彼女は翌13年、NHKの朝ドラ『あまちゃん』に出演。14年の第2シリーズは平均12・9%となり、小泉さんがザテレビジョンドラマアカデミー賞で主演女優賞を受賞するなどもともと評判のいいドラマでした。現在、一連のフジテレビの問題のためスポンサーはもちろん視聴者からもフジは敬遠され、前作の月9ドラマ『119 エマージェンシーコール』は打ち切りの危機まで囁かれたほど。そんな中、月9の起爆剤として『最後から二番目の恋』に白羽の矢が立ったのでしょう。フジの看板ドラマ枠といえばやはり月9ですから、まずそこに注力したのではないでしょうか」

もっとも、不安要素がなかったわけではない。4月7日に放送された「FNSドラマ対抗お宝映像アワード2025春」は4月期の連ドラ出演者が一堂に会する番宣特番だったが、そこに「続・続・最後から二番目の恋」からは誰一人参加しなかったのだ。それを“不穏”と報じたメディアもある。

小泉の稀有な存在感

「撮影が忙しかったためかもしれませんが、プロデューサー側があえて出さなかった可能性も考えられます。お騒がせのフジテレビに巻き込まれないように……。初回には『月9って何曜日の何時からだっけ?』という千明の自虐的な台詞がありましたが、これこそ月9の古いカラーを捨てる意思表示だったようにも思えます。それに小泉さんは以前、バラエティ番組には『絶対出たくない』と語ったこともあります。ベテラン勢もいくら番宣のためとはいえ、正直そういう気持ちの人が少なくないと思います」

と語るのは、メディア文化評論家の碓井広義氏だ。

ではなぜ、ベテランだらけのドラマの数字がいいのだろう。

「私もこのドラマは楽しみにしていた1本で、見終えてホッとしました。11年ぶりの新シリーズとなりましたが、千明も和平も基本的に変わっていなかったからです。小泉さんや中井さんがドラマの役柄と同じ年齢というのもキャラが重なって奥行きを感じます。もちろん脚本の岡田惠和さんは、年を重ねての変化、職場での役割、仲間たちとのプライベート、一人の時の自分を階層的、重層的に描き分けています。会話もドラマというより日常的ですが、ロマンチックなところもありつつ年を取るという不安や心配も差し込んでいる。恋愛関係もありながら、ある程度の距離を保ちつつ、喧嘩しながらも相手を心配する距離感、その空気感に癒されました。これは若手では出せない味だと思います」(碓井氏)

ひょっとして、シニア層だけが見ているということだろうか。

「もしかしたら若い人も見ているかもしれません。出演者たちは素敵な中年、シニア層ですから、自分のちょっと先のケーススタディとして人生の教科書的に見ているかもしれません。中でも小泉さんは、昨年9月期に放送された『団地のふたり』(NHK BS)でも見せた力の抜け加減がいい。無理をしなくてもよく見える独特の余裕があります。今や元アイドルも役者も超えた稀有な存在です。“小泉さんの生き方”がドラマ化されているようにすら思えます」(碓井氏)

それにしても、11年ぶりというのは間が空きすぎではないだろうか。

「2〜3年ごとにやってくれてもいいと思いますけどね。スケジュール的に難しいのなら、年に1回のスペシャルものでもいい。そうなればフジの名作ドラマ『北の国から』の鎌倉版になり得るかもしれません」(碓井氏)

(デイリー新潮 2025.04.21)


東京スポーツで、「フジテレビ問題」について解説

2025年04月12日 | メディアでのコメント・論評

 

 

〝きっかけ〟はフジテレビ

復活の〝きっかけ〟は「報道」

識者が再建のポイントを分析

 

 

【フジテレビ中居騒動の深層 最終回】

元タレントの中居正広氏(52)の女性トラブルに端を発したフジテレビを巡る一連の問題は、元国民的グループのリーダーが芸能界を引退し、巨大メディアの経営陣が交代する展開になった。

3月31日に発表された第三者委員会の調査報告書では「人権意識の欠如・ガバナンスの機能不全」とフジは厳しく批判された。

約40年間にわたって取締役を務め、同局を実質支配していたとされる日枝久氏が退任。経営陣の大部分が入れ替わった。そしてフジは人権・ガバナンス・コンプライアンス強化の対応策を打ち出した。それでも同局が信頼を取り戻すには長い道のりが待ち受けているという。

元上智大学文学部教授でメディア文化評論家の碓井広義氏はこう分析する。

「企業風土を改善して、今回の一件で受けたネガティブなイメージを払拭するには一体何年かかるんだろうと思います。現状いろいろなことをしてますが、対症療法にしか見えないんですよね。一回潰してチャラにして、それでも民放の一つとして必要ならゼロから作っていくというぐらいのことをしないといけないのではないか」

実際、第三者委員会の調査報告書の公表後もスポンサーの多くがいまだ離れたままだ。

碓井氏はフジがスポンサーを取り戻すのには「きっかけ」が必要だと言う。

「フジテレビ全体のイメージが改善しないと大企業は広告を出せませんが、それを示すのも難しい。例えばフジテレビについてどう思いますかっていう世論調査が行われて、視聴者、消費者のプラスの声が過半数を上回るとか。そういったきっかけがないと厳しいでしょう」

スポンサーが戻らない現状が続けば、当然番組予算は削られる。商品である番組のクオリティー低下は必至だ。フジ関係者も「視聴率の取れる番組にはもちろん予算が必要。今後スポンサーが戻らなければドラマ、バラエティーはかなり厳しい戦いになるでしょう」と不安を口にする。

これまでのようにバラエティーやドラマに大きい予算をかけるのは難しい。だとすればどうすればいいのか。

碓井氏は「報道」に活路を見いだす。

「報道はそもそもバラエティーやドラマほどにコストをかけなくてもいいし、そもそもテレビメディアのあるべき姿は世の中の闇を暴いたり、社会問題に光を当てること。テレビならではの強みとしての報道にしっかり力を入れてやっていくというのは一つの打開策かもしれません。そうすることで世間の印象が変わることが期待できますから」

今回の一連の問題の遠因には、テレビという巨大メディアのゆがんだビジネス優先志向があると碓井氏は言う。だからこそ、女性の人権をないがしろにしてまでも番組出演する人気タレントの機嫌を取ろうとするわけだ。

「もちろん、民放がビジネスを重んじるのは当然ですが、権力監視といったメディア本来の役割『報道』がもう一方にある。その部分にクリエーティブを発揮してほしいと思います。テレビでしかやれないコンテンツとしての番組を一回立ち返って考えてみるといい。そうしないとズルズル後退していく感じがします」

フジテレビは本当に変わることができるのか。真価が試されるのはこれからだ。

(東京スポーツ 2025年4月11日)

 

 


週刊新潮で、「フジテレビ問題」についてコメント

2025年04月08日 | メディアでのコメント・論評

 

 

フジテレビ「調査報告書」の全貌

「第二の日枝久」に懸念

 

日枝氏が3月27日の取締役会を欠席したことについて、フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の金光修社長(70)は「腰椎の圧迫骨折で入院中のため」と説明。健康が回復しても、表舞台からはこのまま退場する運びとなりそうなのだが、

「これは金光のクーデターですよ」

そう声を潜めて言うのはフジの元重役である。

「株式会社富士テレビジョン(現在のフジHD)を設立し、フジサンケイグループの土台を築いたのは池田勇人内閣時代に財界四天王の一人として知られた水野成夫です。しかし、1968年に水野は脳溢血で倒れ、鹿内信隆がグループの実権を握りました。その鹿内家をクーデターで追い出して権力を掌握したのが日枝氏だったわけですが、金光氏は日枝氏を本人の意に反して権力の座から追い落とした。OBの間では金光氏がクーデターに成功したとの見方が広まっています」(同)

この点、フジ関係者もこう述べる。

「報告書によれば、港浩一前社長(72)氏の後任人事は金光氏が主導して清水賢治氏(64)に決めたとのことです。一方、金光氏はその人事について、日枝氏に報告こそ行っているものの、“(日枝氏の)影響力の行使があったとは認定できなかった”とも。金光氏は清水氏の社長就任をはじめとする人事を通じて、日枝氏から権力を奪取したと見るべきです」

まわりに子飼い

金光氏は78年に早稲田大学第一文学部を卒業後、西武百貨店に入社。83年にフジに中途入社し、人気料理番組「料理の鉄人」の企画に携わった経歴を持つ。2009年に経営企画局長に就任し、経営企画畑を歩んだ。19年6月から現在のフジHDの社長職にあり、21年6月から22年6月まではフジの社長も兼任している。

前出の元重役が言う。

「金光氏は今度の人事で日枝氏と同様に、まわりに子飼いを配しました。たとえばフジHDの取締役(常勤監査等委員)及びフジの監査役を兼任することになる柳沢恵子さん(60)は現在、フジの人事局上席HRアドバイザーという立場ですが、もとは経営企画畑で、金光氏の下で働いていた。金光氏がフジの社長時代に早期退職制度を導入してリストラを断行した際、人事局に局長職として送り込まれたのが彼女でした」

このほか、深水良輔フジHD新専務執行役員(63)、皆川知行フジHD新常務執行役員(60)らも経営企画畑出身で金光氏の息がかかっているという。

「金光氏は権力欲の強い人間でね。今から7年前、日枝氏を乗せた送迎車が大雪のために首都高のトンネル内で渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなったことがありました。その時、金光氏は車両部を通じて日枝氏の窮状を知ると、日枝氏の元に駆け付けてトンネル内から救出したのです。この一件は当時、社内でもうわさになりました。“そこまでやるかね”と皆であきれたものですが、翌年、彼は中途採用ながらフジHD社長に抜てきされました」(同)

権力欲の塊と見られた日枝氏。その日枝氏に取り入ってフジHD社長の椅子を手に入れ、ついにはフジ全体を牛耳るに至った金光氏は「第二の日枝久」なのか。

もっとも、現役の社員たちは今のところ刷新人事を歓迎している。

「6月の人事で3割以上の女性役員登用、役員の世代交代、取締役の半減などが実現されることになりますが、何といっても日枝氏の寵愛を受けてきた政治部出身者とバラエティー畑の幹部が一掃されるのが大きい。彼らこそ日枝相談役と共に会社をむしばんできたがんでしたから」(フジの中堅社員)

一方、社会部出身である安田美智代氏(55)のフジHD取締役への抜てきはサプライズだった。

「安田さんは現在、フジHD経営企画局グループ経営推進担当局長兼開発企画統括という立場ですが、取締役への登用は人事慣行から言えば“飛び級”ですよ。彼女は司法キャップや社会部デスクを歴任したバリキャリ。ニューヨーク支局員時代は9・11に遭遇し、緊迫の現場をリポートしたことでも知られています」(同)

実力重視の人事に見えるが、彼女も現場を離れてからは経営企画畑。やはり金光氏の身内びいきがうかがえよう。

人事公表のタイミングに疑問

企業ガバナンスに詳しい青山学院大学名誉教授の八田進二氏は、報告書に関しては、

「女性トラブルの内容が克明に記されていて驚きました。また、日枝体制が結果的にフジの人権軽視の社内風土を醸成した点もしっかり書かれていたと思います」

と評価するが、刷新人事公表のタイミングに関しては次のように疑問を呈する。

「数日後に第三者委員会の報告書が出るというのに、なぜ急いで日枝氏の退任を含む新人事を公表せねばならなかったのか。早期の信頼回復につながっていません。そもそも、第三者委員会は問題の原因を究明し、それを踏まえた上での再発防止策を提言するものです。新人事はその策を実現するために、どのような新執行部が望ましいかを考えて行わなければならなかったわけで、これでは筋が違います」

元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏も同様の意見だ。

「確かに日枝氏の退任発表のタイミングはおかしかった。スポンサーが戻ってこない現状で、日枝氏退任という最大のカードを先に切らねばならぬほど、金光氏らは追い込まれていたのでしょう」

果たして、フジは刷新人事と報告書をバネに危機から脱却できるのか。大手広告代理

店元社員で桜美林大学准教授の西山守氏が言う。

「テレビCMにはタイムとスポットの2種類があります。タイムは番組提供のCMで、スポットは時間枠のCMです。4月クールのタイムの契約は2月末ごろまでには済ませておく必要があるので、4月以降もCMは戻ってきません。スポットに関しては出稿企業が、フジテレビの対応や世論次第で、復活するか否かを検討することになるのです」

しかし、金光氏が「第二の日枝久」として組織を私物化し、刷新が見せかけに終わるのならば、フジは中居氏同様、世間の信頼を取り戻せず、再生の計画も絵空事になろう。

(週刊新潮 2025年4月10日号)

 


産経新聞で、フジテレビ「体制刷新」について解説

2025年03月28日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「古い体制と決別の意思、社内外に覚悟示す」 

フジテレビ体制刷新で碓井広義氏

 

フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスが27日、日枝久取締役相談役の退任や取締役の人員半減など、経営体制の一新を発表したことについて、メディア文化評論家の碓井広義氏は次のように話した。

「このタイミングで人事改革を決めるのは、第三者委員会の調査結果が出たらすぐに走り出せる体制づくりと受け取れる。役員の人数が多ければ意思決定に時間がかかるし、忖度が入り込む余地もできる。人数を減らすのは大事だし、女性比率を上げたり平均年齢を下げたりしたのも重要なポイントだ。1980、90年代の古い体制と決別し、次世代に引き渡す意思を示したといえ、評価できる人事改革だと受け止めている。日枝久氏の退任も大きい。フジテレビが飛躍する原動力となった功績は大きいが、古き良き時代のテレビマンやフジの風土の象徴でもあった。大きな存在だっただけに、フジの新しい経営陣が社外にも社内の若い世代に対しても、覚悟を見せつけたといえる」

(産経新聞 2025.03.27)

 


日刊ゲンダイで、「芳根京子」について

2025年03月27日 | メディアでのコメント・論評

『まどか26歳、研修医やってます!』での芳根京子さん

 

フジテレビ春ドラマ

「波うららかに、めおと日和」で

芳根京子にかかる重圧 2クール連続主演

 

芳根京子(28)が4月24日スタートのフジテレビ系木曜劇場枠「波うららかに、めおと日和」に主演することが発表された。芳根は同ドラマ枠では初主演となる。

原作は漫画アプリ「コミックDAYS」(講談社)で連載中の同名コミックで、昭和11年を舞台に縁談で交際ゼロ日婚した新婚夫婦を描いたラブコメディー。夫役には、NHK朝ドラ「虎に翼」にも出演していた俳優、本田響矢(25)が抜擢された。

芳根が演じる主人公・江端なつ美は、関谷(旧姓)家の四姉妹の三女。ある日、父親に突如「嫁ぎ先が決まった」と告げられ、帝国海軍の江端瀧昌(本田響矢)と結婚することになる。「写真」相手の結婚式をあげ、夫不在の“夫婦生活”を始めるが、その後、女性に不慣れな夫と出会い、次第に心を通わせていく、という筋立て。

フジテレビといえば、元タレントの中居正広氏(52)と女性のトラブルに端を発した一連の問題の渦中。この時期になっても、まだ同枠で放送されるドラマのみが発表されていないという異例の事態になっていた。テレビ誌記者が声をひそめてこう話す。

「発表が遅れたことには、一連の騒動の影響を感じざるを得ない。看板ドラマ枠である『木曜劇場』にしては、作品の企画もキャスティングも物足りないレベル。いかにこのドラマ枠を埋めるのが厳しかったのかがうかがえます」(テレビ誌記者)

フジは現在、ドラマ枠に限らず、スポンサーが復帰するかは全くの未知数。今後、公にされるであろう「第三者委員会」の報告書次第の状態だ。

ともあれ、主演の芳根は18日に最終回を迎えたTBS系「まどか26歳、研修医やってます!」に続き、2クール連続ドラマ主演ということになる。このところ、主演やヒロイン役を立て続けに演じ続け、所属事務所の先輩である篠原涼子(51)に代わってすっかり事務所の看板を背負う存在に成長した。

その演技力は関係筋からの評価は高く、日刊ゲンダイ連載「テレビ見るべきものは!!」で、メディア文化評論家の碓井広義氏もこう評している。

「ハマっているのは、ヒロインの若月まどか(芳根)が医師ではなく研修医だからだ。病院内の各科を順番に回りながら経験を積み、将来の専門を決めていく。未熟な者が切磋琢磨する修業の旅。そんな『成長物語』が芳根にはピッタリだ」

さらに現場からはこんな声も聞こえてくる。

「人柄に申し分がなく、スタッフの評判も上々。ただ、いろいろ自分と向き合ったりするヒマもないほど働き続けているので、そろそろ勤続疲労に陥らないかが危惧されている」(映画業界関係者)

厳しい状況でこなす主演ドラマだけに、女優としての試練になりそうだ。 

(日刊ゲンダイ 2025.03.24)


デイリー新潮に、テレ東「大江麻理子アナ」について寄稿

2025年03月18日 | メディアでのコメント・論評

 

「大江麻理子」はなぜ

「女性アナウンサー」のロールモデルとなれたのか 

“かわいい”女子アナ文化に染まらなかった理由

 

テレビ東京の大江麻理子アナウンサー(46)が6月末に同局を退社する。退社後はフリーで活動したり他局の番組に出演したりする予定はないとのことだが、ファンにとっては寂しい限り。そこで、大学教授時代は“アカデミズム界、随一の大江ファン”とも評されたメディア文化評論家の碓井広義氏に、改めて彼女の魅力と果たした役割を語ってもらった。

 *********

 2月20日、テレビ東京の大江麻理子アナウンサーが6月末に退社することが報じられた。フェリス女学院大学を卒業し、テレ東に入社したのは2001年。ほぼ四半世紀もの間、第一線で活躍してきたことになる。

 現在は経済報道番組『ワールドビジネスサテライト』のメインキャスター(金曜担当)を務めているが、その姿もやがて見られなくなる。惜別の意味も込めて、大江麻理子という「奇跡」を振り返ってみたい。

 初めて大江を認識したのは入社から2年後の03年、『出没!アド街ック天国』だった。同局には悪いが、「テレ東にこんな清楚で美しい人がいたのか」と驚いた。

 しかも、愛川欽也をはじめとするクセのある出演者たちを上手にあしらい、転がしながら番組を切り回していたからさらに驚いた。

 07年からは『モヤモヤさまぁ〜ず2』のアシスタントを務める。さまあ〜ずの2人にその生真面目ぶりをからかわれたり、逆に彼らをやさしく諫めたりしつつ、街をぶらぶらと散歩した。天然でありながら知的で品がある大江は、実にチャーミングだった。

 10年続けた『アド街』と6年に及んだ『モヤさま』によって、大江の人気は中高年から若者にまで広がっていった。

 もしも、あの状態が続いていたら、大江は今とは違った風景の中にいたかもしれない。なぜなら、本人が自身をどう思っていようと、「人気女子アナ」というレッテルを貼られることで進む方向が決まってしまうからだ。

 では、大江が歩んだ時代の女子アナとは一体どんな存在だったのか。

「女子アナ」と「女性アナウンサー」

 女子アナをめぐって参考になる一冊がある。元TBSアナウンサーで現在はタレント、エッセイスト、ラジオパーソナリティの小島慶子が2015年に上梓した初の小説『わたしの神様』(幻冬舎)だ。

 物語の舞台はズバリ民放キー局。主人公は「私にはブスの気持ちがわからない」と言い切る人気女子アナだ。

 誰よりもスポットを浴びようと競い合い、同時に地位と権力を求めてうごめく男たちとも対峙する彼女たち。この小説はテレビドラマでは簡単には描けない物語になっていた。

 低迷しているニュース番組がある。キャスターを務めてきた佐野アリサが産休に入ることになり、抜擢されたのは人気ランキング1位の仁和まなみだった。

 育児に専念する先輩と、これを機にさらなる上を目指す後輩。フィクションであることは承知していても、彼女たちの言葉は著者の経歴からくる際どいリアル感に満ちている。

 たとえば、ニュース番組担当の女性ディレクターは「ほんと、嫌になるわ。顔しか能のないバカ女たち」と女子アナに手厳しい。

 当のまなみは心の中で言い返す。

「この世には二種類の人間しかいない。見た目で人を攻撃する人間と、愛玩する人間。どれだけ勉強したって、誰も見た目からは自由になれないのだ」

 さらに――

「どんなに空っぽでも、欲しがられる限りは価値がある。(中略)他人が自分の中身まで見てくれると期待するなんて、そんなのブスの思い上がりだ。人は見たいものしか見ない」

 また、この女性ディレクターがアナウンサー試験に落ちた自分の過去を踏まえて断言する。

「これは現代の花魁(おいらん)だと気付いた。知識と教養と美貌を兼ね備えていても、最終的には男に買われる女たちなのだ。(中略)自分で自分の値をつり上げて、男の欲望を最大限に引きつけるのだ。その才覚に長けた女が生き残る世界なのだと」

 果たして、女子アナに関するこれらの物言いは、極端に露悪的な表現だろうか。そうとは言い切れないのが当時の女子アナの実態だ。小説ならではのデフォルメの中に、小説だからこそ書けた真実が垣間見える。

 1980年代、「楽しくなければテレビじゃない」をモットーに視聴率三冠王の地位に就いたフジテレビが、女性アナウンサーをいわば「社内タレント」としてバラエティ番組に起用していった。

 それがウケたこともあり、以後、歌って、踊って、かぶりモノも辞さない「女子アナ」が各局に続々と誕生していく。

 小島は常々、TBSの局アナ時代を振り返り、「自分は局が望むような“かわいい女子アナ”にはなれなかったし、なりたいとも思わなかった」と語っている。

 できれば「女子アナ」ではなく、一人のアナウンサーとして仕事を全うしたかったというのだ。しかし、それは許されなかった。

 小島がTBSに在籍したのは1995年から2010年にかけてだ。小島の小説はその頃の体験がベースとなっている。01年にアナウンサーとなった大江が、どんな空気の中で活動していたのかを想像する強力な補助線となる。

「稀有なキャスター」としての大江

 転機は2008年秋から『田勢康弘の週刊ニュース新書』で進行役を務めたことだ。この番組は政治ジャーナリストで日本経済新聞の客員コラムニストである田勢をメインコメンテーターにしたニュースショーだった。

 いわば田勢のワンマン番組で、その個性や発言に反発する視聴者も少なくない。しかし、大江が居てくれたことで田勢の灰汁が中和され、番組に視聴者目線や日常目線を取り込むことができた。

 ここでの大江は「女子アナ」ではなく「女性アナウンサー」として機能しており、幅広い社会的テーマと向き合うことで報道系のキャリアを充実させた。

 13年、大江はニューヨーク支局に赴任。翌14年に帰国すると、テレ東の看板番組『ワールドビジネスサテライト』のメインキャスターに就任する。

 それから現在までの10余年、担当曜日の変化はあってもテレ東の「報道の顔」として十二分に役割を果たしてきた。

 しかし、思えば大江は稀有なキャスターだ。まず、看板キャスターという肩書からくる威圧感がない。また「番組の主である私」という自己顕示感がない。「政治や経済が分かっている」といった虚勢も張らない。

 よく勉強しているが、そのまま披歴したりしない。知識や情報を自分の中に取り込み、しっかり咀嚼した上で自分の頭で考える。各分野の専門家にも敬意は払うが、単純な迎合はしない。常に疑問や異論も含めて視聴者に伝えようとしてきた。

 政治や経済の難しい話題も、大江という変換装置、もしくは濾過装置を介することで、視聴者は「我がこと」としてのニュースと正対することができた。それでいて大江は、人気保持のためにと視聴者に媚びることもなかった。常に凛とした大江であり続けたのだ。

 退社後の大江は何をするのか。どのように進むのか。それは伝えられていない。

 しかし、たとえテレビというメディアから完全に去るとしても、女性アナウンサーという生き方の鮮やかな「ロールモデル」として、多くの人の記憶に残ることは確かだ。

 大江麻理子という「奇跡」がテレビ界の「伝説」となる日も遠くない。
(一部、敬称略)

碓井広義(うすい・ひろよし)
メディア文化評論家。1955年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大学文学部新聞学科教授などを経て現職。新聞等でドラマ批評を連載中。著書に倉本聰との共著『脚本力』(幻冬舎新書)、編著『少しぐらいの嘘は大目に――向田邦子の言葉』(新潮文庫)など。

デイリー新潮編集部


nippon.comに、『阿修羅のごとく』について寄稿

2025年02月13日 | メディアでのコメント・論評

 

 

是枝裕和と向田邦子の化学反応が生んだ

『阿修羅のごとく』

 

是枝裕和が挑んだ「リメーク」

是枝裕和監督の『阿修羅のごとく』(全7話)がNetflixで世界配信されている。物語の舞台は1979年から翌年にかけての東京。定年退職後、嘱託で仕事をしている竹沢恒太郎(國村隼)・ふじ(松坂慶子)夫妻と4人の娘が主な登場人物だ。

ある日、娘たちは父に若い愛人がいることを知って驚く。母には内密のまま事態を収拾しようと動きだすが、彼女たちもそれぞれの事情や葛藤を抱えていた。

長女の綱子(宮沢りえ)は夫に先立たれ、華道の師範をしている。社会人の息子は家を出ており一人暮らしだが、妻子ある料亭の主人(内野聖陽)との不倫関係が長い。

また次女の巻子(尾野真千子)は、夫の鷹男(本木雅弘)と息子と娘がいる専業主婦だ。暮らしは安定しているが、夫には浮気の疑惑がある。

三女の滝子(蒼井優)は図書館勤めの独身。生真面目な性格と黒ぶち眼鏡が特徴で、美しい姉たちにはコンプレックスを抱いている。恋愛や性への興味はあるが、踏み出す勇気がない。

そして四女の咲子(広瀬すず)は喫茶店で働いている。3人の姉たちと比べると学校の成績は悪いが早熟だった。今は新人プロボクサーと同棲中だ。

普段は別々に暮らしている四姉妹だが、父の浮気という「事件」がきっかけで頻繁に顔を合わせることになる。それまで水面下にあった、互いに対する愛憎や言えなかった本音も表出してくる。

思えば、家族とは不思議なものだ。父、母、子として日々を過ごし、互いを熟知しているはずなのに、家族が家族でいられるのはあくまでも期間限定。何かをきっかけとして、家族の中に他者を垣間見ることもある。

是枝は映画『そして父になる』や『万引き家族』など、これまでも「家族」をテーマに秀作を生んできた。今回も当たり前だと思っていた家族との日常の背後に広がる非日常の闇を丁寧に描き出していく。

この作品は配信開始と同時に国内外で高く評価されているが、忘れてはならないのは「リメーク作」だということだ。

オリジナルは、多くの名作ドラマの脚本を手がけた向田邦子(1929~81年)の『阿修羅のごとく』である。NHKで79年にパート1、80年に続編のパート2が放送された。

今回は向田の脚本をベースに是枝が新たな脚本を書き、演出している。新旧の両作を比較するといくつかの変更点はあるが、全体として原作である「向田脚本」に忠実に作られている。そこには強いリスペクトがある。

ドラマにとって重要なのは、登場人物のキャラクターとセリフ、そしてストーリーの三つだ。それを具体的に表現しているのが脚本である。脚本はドラマの設計図であり海図なのだ。是枝に映像化を促した向田脚本の存在こそ、この作品の源泉と言えるだろう。

「脚本家・向田邦子」の軌跡

向田邦子は1929年11月に東京の世田谷で生まれた。7歳の時に日中戦争が始まり、 45年の敗戦時には15歳だった。

50年、実践女子専門学校(実践女子大学の前身)を卒業すると、財政文化社に入って社長秘書を務める。2年後には出版の雄鶏社に転職。洋画雑誌「映画ストーリー」の編集に9年近く携わった。

日本でテレビ放送が始まったのは53年のことだ。その5年後に向田は出版社に在籍したまま、脚本家の世界へと足を踏み入れる。

64年に始まった森繁久彌主演の大家族ドラマ『七人の孫』(TBS系)、71年には人気シリーズ『時間ですよ』(同)に参加。評価が高まる中で書き上げたのが74年の『寺内貫太郎一家』(同)だ。向田は44歳になっていた。

気に入らないことがあれば怒鳴り、ちゃぶ台をひっくり返して家族に鉄拳を振るう貫太郎は、どこか懐かしい「昭和の頑固オヤジ」そのものだ。

実は、この頃までホームドラマを支えていたのは「母親」だった。50年代の終わりから約10年も続いたドラマシリーズ『おかあさん』(同)はもちろん、70年代前半のヒット作『ありがとう』(同)も母親を中心とする物語だ。その意味で「父親」を軸とした『寺内貫太郎一家』は画期的なホームドラマだったのである。

ところが、75年に向田は乳がんの手術を受けることになる。現在よりも、がんという病気が恐れられていた時代だ。向田も自身の問題として「死」について思い巡らすが、それは同時に「今後どう生きるか」の問題でもあった。

77年の『冬の運動会』(同)は、他人である靴屋夫婦の家に自分が求めていた「家庭」を見いだそうとする青年(根津甚八)の話だが、これ以降、向田が書く家族劇の「緊張度」は一気に高まっていく。

それまでのホームドラマにはあまり見られなかった、家族の「影」や「闇」の部分にメスを入れたのだ。人間の本音に迫るリアルでシリアスなホームドラマ。これから先の人生は「自分が書きたいものを書く」という覚悟の表明だった。

そして79年に登場したのが『阿修羅のごとく』(NHK)だ。性格も生き方も違う四姉妹(加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン)を軸に、老父母、夫や恋人も含めた赤裸々な人間模様が映し出され、向田ドラマの代表作の一つとなった。

それから約1年後、向田は台湾取材中の航空機事故で亡くなってしまう。

向田邦子との「化学反応」

前述のように、是枝版『阿修羅のごとく』における重要な場面では、向田の脚本がそのまま使われている。

例えば、父親のコートにブラシをかけながら小学唱歌をのんびりと歌っている母親…

「♪でんでん虫々 かたつむり」

コートのポケットの中からミニカーが一つ、転がり出る。妻が浮気に感づいていないと思い込んでいる夫。愛人が産んだ子供にプレゼントするつもりなのだ。

母親は黙ったままミニカーを手のひらに載せ、しばらく見ている。

「♪お前のあたまはどこにある」

畳の上でミニカーを走らせたりする母親。だが、いきなりそのミニカーを襖(ふすま)に向かって、力いっぱい叩(たた)きつけるのだ。穏やかだった母親の顔が、一瞬、鬼の形相に変わる。

「♪角出せ、やり出せ、あたま出せ」

突然電話が鳴って、母親はいつもの様子に戻る。

「もしもし、竹沢でございます。──ああ咲子(四女)、あんた元気なの?」

見ていて、実に怖い。こういうシーンを、さらりと入れ込んでくるのが向田の凄(すご)みだ。

その一方で、是枝は脚本の大胆なアレンジも行っている。オリジナルでは第3話の終わりに置かれた、鷹男のセリフを最終回である第7話のラストにもってきたのだ。

談笑する四姉妹を、滝子と結ばれた勝又(松田龍平)と一緒に眺めながら・・・

勝又「仲いいんだか悪いんだかわかりませんね、あの4人」

鷹男「ああ、阿修羅だねえ」 

勝又「え?」

鷹男「女は阿修羅だよ」 

勝又「阿修羅?」

鷹男「阿修羅はインドの神様でさあ、外っかわは仁義礼智信を標榜してるけどねえ、人の悪口言うのが好きでさあ」

すると姉妹たちが、「何か言った?」と笑いながら睨(にら)む。

では、第3話の終わりはどうしたか。是枝は、このセリフの代わりに漱石の『虞美人草(ぐびじんそう)』の終わりの文章をテロップで提示する。

悲劇は喜劇より偉大である。

粟か米か、是(これ)は喜劇である。

あの女かこの女か、是も喜劇である。

英語か独乙(ドイツ)語か、是も喜劇である。

凡(すべ)てが喜劇である。

最後に一つの問題が残る。

生か死か。

是が悲劇である。  『虞美人草』より

悲劇であり喜劇でもあるこのドラマを象徴して見事だった。

こうしたアレンジと同時に、是枝は四姉妹の「現代化」を繊細な手つきで行っている。オリジナル版では、どこか男性に対して遠慮する女性像が描かれていた。当時の価値観を反映していたとも言える。それが是枝版では微調整され、随所に彼女たちの秀逸な自己主張が見て取れる。

半世紀近く前という設定であるにもかかわらず、家族や男女を巡る「普遍的な実相」があぶり出されていくこの物語は、まさに是枝作品であり向田ドラマだ。

 

碓井広義

メディア文化評論家。博士(政策研究)。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大学文学部新聞学科教授を経て現職。新聞各紙でドラマ評を連載中。編著『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮文庫、2021年)、倉本聰との共著『ドラマへの遺言』(新潮新書、2019年)、『脚本力』(幻冬舎新書、2022年)などがある。

是枝裕和と向田邦子の化学反応が生んだ『阿修羅のごとく』 | nippon.com

 

 


産経新聞で、「フジテレビ会見」についてコメント

2025年01月30日 | メディアでのコメント・論評

 

 

フジ会見 異例の10時間超

社員関与 改めて否定

「女性のプライバシー優先」

 

週刊文春が昨年12月26日発売号で元タレントの中居正広さんと女性との会食を巡るトラブルを報じた記事を巡り、フジテレビが1月27日に行った記者会見は、日付を超えて10時間以上に及んだ。

報道関係者ら437人が参加したこの記者会見で、多くの人が抱く疑問は解消されたのか。専門家は「中途半端な感じは否めない」などと物足りなさを指摘する。

第三者委へのつなぎ

17日の会見が正式参加を新聞社と通信社の記者に限定し、動画撮影を認めなかったのとは一転して、27日の会見はオープンで、フジテレビがCMなしで午前2時半過ぎまで中継を行った。

冒頭で港浩一社長と嘉納修治会長が辞任を表明。多くの企業CMの差し替えに至った現状への責任の所在を明らかにした。

メディア文化評論家の碓井広義氏は「開き直ってやれることをやった印象で、株主やスポンサーへの誠意を見せたといえなくもない」と一定の評価を下した。

ただ一方で、「3月末に第三者委員会の調査報告書が出るまでの対症療法やつなぎでしかない。2人の辞任は、段階的に責任を取る道を残したとも言える」と指摘する。

週刊文春は昨年12月、中居さんと女性のトラブルの発端となった会食にフジテレビ社員から誘われたと報道した。

これについてフジテレビは昨年暮れから一貫して否定。会見でも港氏が「聞き取りや通信履歴などを調査した」と根拠を述べ、記者からの追及にも揺らがなかった。

この問題で週刊文春電子版は今月28日、会食に誘ったのは社員ではなく中居さんだったと訂正、「お詫び」を掲載した。

ただ、同誌はフジテレビが女性社員にタレントを「接待」させる場を常態的に設けていたとも報じており、これについて港氏は「気が進まない人もいたのでは」と反省の弁を会見で述べた。

番組終了巡り批判

質疑は、令和5年8月に港氏が中居さんと女性とのトラブルを把握しながら、レギュラー番組終了まで1年半がかかった同局の対応に集中。

港氏は「女性のプライバシーを最優先した」と繰り返し、「番組終了で憶測を呼ぶことを憂慮した」「女性に伝わったら、どう刺激を与えるか心配した」などと釈明した。

こうした判断の是非を問う質問も集中したが、「第三者委員会の調査に委ねる」と繰り返した。

碓井氏は「一般常識と違う常識で動いていなかったのかという記者の問いかけに、フジテレビはちゃんと答えられていなかった」と印象を語った。

フジテレビの対応を問題視した企業の動きについて、新社長に就任する清水賢治氏は「配信広告にも影響が出始めている。4月期の改編のセールスは事実上、止まっている」と厳しい状況を語った。

遠藤龍之介副会長も、今秋に同局と東京都が参加するイベント「東京お台場トリエンナーレ2025」について「予定通りできるとは思わない」と述べた。

「あきれたのでは」

港氏が言いよどむと怒号が飛んだり、記者の長い主張に「早く質問を」と進行役が促したりする場面もあった。

「記者の態度や物言いにも、多くの視聴者があきれたのでは」と碓井氏。会見全体について「長い割にトラブルへの会社の関与も、企業風土の問題も不明瞭で中途半端な感じは否めなかった」としている。

(産経新聞 2025.01.29)


日刊ゲンダイで、テレビ局「政治家の身内」について解説

2025年01月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

有事の“お守り”?

テレビ局「政治家の身内」ゴロゴロの歪んだ思惑

 

フジテレビ問題がここまで社会を騒がす事態になると、24日に召集される通常国会でも取り上げざるを得まい。

すでに放送行政を所管する村上誠一郎総務相は、フジの「なんちゃって」調査委員会に異例のダメ出し。フジの解体や電波停止処分を求める世論が高まれば、国会議員も無視できないだろう。

ただ気になるのは「身内」の存在だ。テレビ局の社員にはなぜかタレントやスポーツ選手ら有名人、さらにはスポンサー企業の子息・子女や親類が多い。

国会議員の2世もご多分に漏れず、ゴロゴロいる。小渕恵三元首相の次女・優子元経産相はTBS出身。石原慎太郎元都知事の長男・伸晃元幹事長も、日本テレビの政治部記者あがりだ。  

渦中のフジも例外ではない。安倍晋三元首相の甥で岸信夫元防衛相の長男・信千世衆院議員は、元フジの社会部記者。同期入社には加藤勝信財務相の長女もいる。

他にも中川昭一元財務相と郁子前衆院議員夫妻の長女や、中曽根康弘元首相の孫(長女の息子)、つまり弘文元外相の甥で康隆衆院議員のいとこもフジに入社している。

加藤鮎子前こども担当相の姉は元TBS社員だが、夫はフジの総務局長。父・紘一元幹事長の娘婿にあたる。

■「オールドメディア」と批判されるゆえん

「テレビ局が多くの政治家の子供を採用することには、何らかのメリットがあるのでしょう。万が一の有事に備えて恩を売っておく、という考えもあるかもしれません。今まさにその有事がフジテレビに起きています。

もちろん子供を“人質”に取るようなロコツなことはしないまでも、仮に身内の職場が停波に追い込まれるような事態になれば、その判断を迫られる政治家側は躊躇するはず。政治家の子供を抱え込めば“切り札”とは言わないまでも、有事の軽減を期待する“お守り”のような存在にはなり得ます。

メディアには『権力監視』という重要な役割があるのに“政治家の身内が内部にいて、まともに政権批判ができるのか″とも言えますし、逆もまたしかりです。日本の政界とメディアのなれ合い関係を感じます」(メディア文化評論家・碓井広義氏)  

この血統優先の旧態依然とした構図こそ「オールドメディア」が批判されるゆえんだ。もはや「魔除け」をありがたがる時代でもあるまい。

(日刊ゲンダイ 2025.01.24)

 


現代ビジネスで、「フジテレビ問題」について解説

2025年01月24日 | メディアでのコメント・論評

 

中居正広「芸能界引退」のウラで

フジテレビの「自滅行為」と

問われる「責任」

 

タレント・中居正広の女性トラブル問題を発端に、フジテレビが窮地に立たされている。渦中の中居は1月23日に突然、引退を発表した。その一方でフジテレビではスポンサー企業のCMの差し止めや見直しが続いており、その数は75社以上にのぼっている。

中居正広が突然の引退発表

フジテレビの社員が、中居と女性との飲み会をセッティングし、その際に「不適切な接待」があったことが報じられて以降、大騒動となっている。

すでにレギュラー番組が打ち切られることが伝えられていた中居は、1月23日に自身のファンクラブサイトを通じ、芸能活動の引退を突然表明した。

《私、中居正広は本日をもって芸能活動を引退いたします。なお、会社であります【(株)のんびりなかい】につきましては、残りの様々な手続き、業務が終わり次第、廃業することと致します》

文中ではトラブルのあった女性や関係者に向けても謝罪し、ファンに向けては、

《ヅラ(※ファンの総称》の皆さん一度でも、会いたかった 会えなかった 会わなきゃだめだった こんなお別れで、本当に、本当に、ごめんなさい。さようなら…》

と別れの言葉を述べていた。

「中居さんは1月9日に発表された声明の中で、トラブルが合ったことを認めた一方で一部の報道について否定、さらに示談が成立したことを報告していました。ただ、『今後の芸能活動について支障なく続けられることになりました』と記していたことから批判が相次いでいました」(週刊誌芸能記者)

引退発表直後には、中居のオフィシャルサイトもSNSも接続することができない状態に。

「一部では心と身体に傷を負った被害者の悲痛な訴えが報じられました。こうした声や事態を重くみたことで、中居さんは引退を決めたのでしょう。ただ、引退したことで記者からの直撃にも『一般人なので』と取材拒否もできる。会見を開く必要もありません。本人は責任をとったように思わせたいのでしょうが、これは‟逃げ”と捉えられてもおかしくはない」(前出の週刊誌芸能記者)

中居は引退したものの、その発端となったフジテレビでは、引き続きこの問題がくすぶり続けることになるだろう。

女性社員による接待は業界で常態化

そもそも、フジテレビはすでに危機的な状況に陥っている。とりわけ悪手だったのは1月17日に開かれたフジテレビ・港浩一社長の記者会見で、騒動に火に油を注ぐ結果となった。

顕著なのがスポンサーの反応だった。トヨタ自動車や花王、キッコーマンなどの企業が同局でのCM差し止めや見直しを始め、その数は75社以上にのぼった。多くの番組でACジャパンの広告が流れる異例の事態となっている。

「企業は自社のイメージが損なわれることを非常に嫌うため、こうした問題が起きれば当然、自社を守るためにCMを差し止めます。これまでも番組や出演タレントが不祥事を起こした際にはその番組のスポンサーが降板する、CMを差し止める、ということは何度もありました。しかし、今回のように放送局自体に“NO”を突きつけるのは初めてのことです。前代未聞というか、歴史的な事件だと思います」

そう説明するのは、元上智大学教授で、メディア文化評論家の碓井広義氏。

番組のプロデューサーやディレクターらが女性アナウンサーや女子社員らを有名タレントとの飲み会や接待の場に呼ぶことはフジテレビだけではなく、「ほかの局でも行われていた」と複数のテレビ局関係者が明かしている。

だが、社員らは女性に危害が加えられないように、タレントらからの無茶な注文からも庇い、先に帰すなどするのが一般的だ。

しかし、一部にはタレントに「上納」するかのようなやり方で、女性アナウンサーや女性社員を利用していた社員らもいたとみられる。もし、フジテレビでハラスメントのあるような接待が日常的に繰り返されていたとすれば、会社の根幹に関わる重大な事態になる。

さらに、港社長の会見で、中居と女性とのトラブルを昨年から把握していたことも問題をさらに深刻なものとした。

「その会見のやり方や港氏の発言も問題でした。まず、会見では、他の報道機関に対して、さまざまな制限をかけていたこと。そもそもテレビという映像を使った報道機関にもかかわらず、映像をシャットアウトするなど、本来ではありえないことが起きました。

報道機関としては、他の企業などでの不祥事が起きたときにはカメラを持ちこんで伝えていくわけですが、今回は自分たちにカメラが向けられるとそれを遮断しようとした。つまり、報道機関としての姿勢そのものが欠如していた大きな勘違いをしることまでが明るみになった」(前出の碓井氏、以下「」も)

被害社員よりも中居正広を守った

トラブルを把握した時点で、同局が動かなかったということも指摘されている。

「これはもう隠蔽したと捉えられてもおかしくない動きをしているわけです。それについて、第三者機関によりきちんと調べたり、事実を確認したりすることが一切なく、まるで何事もなかったかのようにそのままやってきた。

確かに正確なことは出てきていませんけれども、伝えられていることから判断しても、大きな人権侵害が起きていたことは少なくともわかる。

ですが、中居さんという人気タレントを守るため、番組や自分たちの会社を守ることで被害者へのケアではなく、問題をすべて押し込めてしまった。乱暴な言い方をすれば放送局の、テレビ局の自滅行為のような記者会見だったと思います」

前出の碓井氏は「昨年末の週刊誌報道があった時点で、第三者機関による調査を行い、それを踏まえて記者会見を開いていれば、こんな騒動には発展していなかった」と指摘する。

そのため、港社長による記者会見は、あまりにも短絡すぎたと言ってもいいだろう。自分たちの行為がさらなる危機的な状況を引き起こすことを予見できていなかったからだ。

「フジテレビの動きを見ていると、対処療法というか…目の前で起きたトラブルを単に防いでいる感じがします。問題の根本的な部分を理解しないままに、目の前の攻撃をひとつづつかわすことに注力している、問題を誤魔化したい、隠したいという姿勢が続いているように感じます」

問題の本質がわかっていない社員たち

それは朝の情報番組などからも現れている。記者会見の様子や自社の問題を取り上げてはいるが、それは「見せかけにしか過ぎない」と前出の碓井氏は指摘する。

さらに1月20日の「めざまし8」(フジテレビ系)で同局の酒主義久アナウンサー(37歳)の発言も悪手だった。涙ながらに「13年働いてきて一度も辞めたいって思ったことない」と訴えたことも、さらなる波紋を広げたのだ。

「大好きな会社で先輩も後輩も含めて、大好きな仲間がいろいろ苦しんでいる姿を見て……」などと語ったが、この発言には視聴者から批判が相次いだ。

まさにフジテレビの「古き悪しき体質」を象徴するかのような発言。

テレビディレクターの鎮目博道氏は「この発言自体が時代遅れだ」と述べ、「批判されるべきことを認識せず、ただ会社を守ろうとする姿勢が見えている」と批判する。

今回の騒動は、フジテレビの過去20年、30年の体質が現れていることを示している。20年、30年前であれば取り繕えたことであっても、現代では通用しない。

企業のスポンサー離れが、その現れだ。

経営陣は港社長の記者会見で騒動を収束させようと考えたのかもしれないが、むしろ批判の声は高まり、スポンサー企業はドミノ倒しのように離れた。ここまできてようやく危機感を抱き始めたのではないだろうか。

「関係者によると来月中にもフジテレビで放送されるCMは、ほぼゼロになるのではないか、と懸念されています」(全国紙経済部記者)

当の中居は表舞台で発言をすることもなく、電撃引退。フジテレビはスポンサー企業にも見放され、視聴者からは批判が続く。このままでは局の存続にもかかわるのではないか――。

(現代ビジネス 2025年1月23日)


日刊ゲンダイで、「フジテレビ問題」についてコメント

2025年01月21日 | メディアでのコメント・論評

 

 

経営危機も深刻化

果たして国や国会はどう対応?

「フジから免許を取り上げろ」の正論

 

火に油を注ぎ、このテレビ局に真相究明も自浄も任せられないことがハッキリした社長会見。スポンサーは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、恐らく国会でも追及必至、BPOも動き出しそうな中、さあ、政治はどう動く?

  ◇  ◇  ◇

一体、何のための社長会見だったのか。

元SMAPの中居正広の女性トラブルをめぐり、幹部社員の関与が「週刊文春」などに報じられているフジテレビ。昨年来、港浩一社長はじめフジ上層部は「社員の関与はない」と断言し、知らぬ存ぜぬを決め込んできた。先週末の17日にようやく、この問題について会見を開いたものの、あまりにナメた対応に世論は猛反発だ。問題の沈静化どろか、火に油を注ぐ格好になっている。

フジは会見から週刊誌やネットメディアを締め出し、参加できたのは「ラジオ・テレビ記者会」という記者クラブ加盟社のみ。しかも、動画撮影は禁止ときた。テレビ局の会見でテレビカメラ禁止だなんて、噴飯モノだ。会見終了までニュース番組などでの情報発信も認められなかった。では、会見の時間帯にフジは何を放送していたかといえば、トム・ハンクスとメグ・ライアンが共演したラブコメディー映画「めぐり逢えたら」だった。

メディア文化評論家の碓井広義氏が言う。

「フジ上層部は、自分たちが置かれた危機的な状況が分かっていないのではないかと感じさせる会見でした。メディアを制限し、何を聞かれても『調査委員会にゆだる』と繰り返すばかりで、報道機関としての役割を自ら放棄してしまった。フジには検証能力も自浄能力もないと言っているようなものです。こんな会見なら、やらないほうがマシだったかもしれません。阪神・淡路大震災から30年という節目の17日に会見をぶつけてきたことにも違和感を覚えました。この日にメディアが報じなければならないことはたくさんある。それでフジの問題の扱いが小さくなるという計算があったとすれば言語道断です」

■CMは次々と「AC広告」に

フジの港社長は今後、「第三者の弁護士を中心とする調査委員会」を立ち上げると説明したが、時期やメンバーは未定だという。それに、この調査委員会は日弁連のガイドラインに基づく「第三者委員会」とは別物だ。紛らわしい言い方でゴマカしていたが、「第三者の弁護士を中心」とした社内調査では、どこまで独立性が担保されるか分からない。真相究明なんてハナから期待できそうにないのだ。

社長の会見直後からSNSを中心に批判の声がみるみる広がり、スポンサーも蜘蛛の子を散らすようにフジから引き始めた。

すでに大手スポンサーのトヨタ自動車、日本生命保険、明治安田生命保険、NTT東日本などが当面のCM差し止めを決定。フジの放映番組はCMが次々と「公益社団法人ACジャパン」に差し替わっている。 

「スポンサー企業が離れて初めて重大さに気づき、フジ上層部は慌てているのではないか。不祥事発覚などで企業側が個別の番組のスポンサーを降りることはありますが、今回のようにフジテレビという放送局そのものに対して『NO』を突きつけたのは前代未聞です。フジでCMを流すことが自社のイメージを毀損すると判断したナショナルクライアントが、いち早く手を引いた。この流れは止まらず、他社も追随することになるでしょう」(碓井広義氏=前出)

大株主の外資ファンドからの圧力で会見を開いたものの、逆効果でスポンサーが続々と離脱。株価下落や視聴率低下も避けられない。経営危機が深刻化すれば、株主代表訴訟を起こされる可能性もある。

もはや報道機関を名乗る資格はない

発端は中居と女性とのトラブルだとしても、これはフジテレビという組織の問題だ。もはや経営陣が辞めて済む話でもないが、このまま誰も責任を取らなければ、フジを取り巻く環境は悪化する一方だろう。ネットを中心に、「フジから放送免許を取り上げろ」という声も日増しに大きくなっている。

報じられているように、フジ幹部が女性社員をタレントに“上納”することが常態化していたとすれば、重大な人権問題である。そんな暴挙が横行し、見過ごされてきた企業風土は報道機関として適切なのかという疑問が視聴者の間に急速に広がっているし、この問題が表面化してからのフジの対応は組織的な隠蔽と言われても仕方がない。

「公共の電波を預かるテレビ局が取材制限をし、会見の中継もさせないというのでは、国民の知る権利に応えていないことになる。他の企業や政治家の不祥事には、フジも遠慮なくテレビカメラを向けてきたはずです。今後、不祥事会見などで『フジと同様にテレビ撮影はNG』と言われたらどうするのか。悪しき前例をつくったフジには抗議する資格すらないのです。『社会の公器』が聞いて呆れる。フジにはもはや報道機関を名乗る資格はなく、メディアとしての使命を果たすことはできません」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

■ジャニーズと同じ道をたどる

フジはこれまでも「テラスハウス」に出演していた女性が亡くなった件など人権や倫理に関する問題で「放送倫理・番組向上機構(BPO)」からたびたび指摘を受けてきた。今回も、BPOが動き出す可能性がある。

BPOの委員を務めたことがあるジャーナリストの斎藤貴男氏も本紙取材に対し、「この問題こそ、放送界の自主規制機関であるBPOで取り上げるべき」「BPOの審査対象は個別の番組だが、中居さんの出演番組という切り口でフジの問題を取り上げることができるはずだ」と話した。

「人権問題としても、メディアのあり方としても重大な疑義がありますから、今月から始まる通常国会でも取り上げる必要があるでしょう。フジテレビは政治家の子息が数多く入社していることでも有名ですが、そういうコネで不祥事を隠蔽できるような時代ではありません。問題に無理やりフタをしようとしても、世論が許さない。フジテレビが免許事業者としてふさわしいのか、国会できっちり審議すべきです」(五十嵐仁氏=前出)

自民党は第2次安倍政権下で放送法の「政治的公平性」をめぐる解釈変更を画策した。「ひとつの番組でも判断し得るケースがある」と「停波」までチラつかせたものだ。今回は番組どころか、テレビ局全体の問題だが、重大なコンプライアンス違反があった場合、果たしてどう対応するつもりなのか。

ただでさえ少数与党で国会運営は綱渡りなのに、野党の追及は必至だ。創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害問題も、国会の野党ヒアリングなどで被害者が証言して事態が大きく動き出した。事務所が性加害を認め、被害者への補償業務も始まった。

ジャニーズの問題は、長年にわたって見て見ぬふりをしてきたテレビも“共犯者”だが、フジテレビは一連の経緯から何も学んでいないように見える。隠蔽体質や後手後手対応、お粗末会見から火だるまになった流れはそっくりだ。

タレントのテレビ出演やCM起用の見合わせが相次ぎ、結局、ジャニーズ事務所は消滅。このまま行けば、フジテレビも同じ道をたどるしかない。

(日刊ゲンダイ 2025.01.20)