碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

テレビの「通販番組」について

2009年04月30日 | メディアでのコメント・論評

新聞社から、テレビの「通販番組」についての取材を受ける。

うーん、通販番組。

今や、通販番組は、テレビ局にとって、貴重な“ドル箱”(何だか懐かしい表現だなあ)だ。

そりゃそうだろう。

新聞や雑誌と違って、映像(動画)と音声で商品を紹介できる上に、名の知れたタレントさんや俳優さんが「これ、いいですねえ」と感心し、番組によってはテレビ局の看板を背負った局アナまで登場して「おススメ」するのだ。

確かに売れます。

でも、でもですねえ、テレビ局が制作する通販番組の多くが、「情報番組」として流されているのは、いかがなものか。

テレビ局側は「商品情報も情報ですから」と言うはずだ。

まあ、確かに情報ではありますが、通常の「情報」と同じでいいのか、どうか。

商品を、その番組を通じて売っているわけで、ならば、その商品にマイナスになる「情報」は伝えたりしないでしょう。

出演のタレントさんも、局アナさんも、「この商品、いいところはコレコレですが、駄目な点もありまして・・・」なーんて言わないもんなあ。

「いい情報」だけが流される。

しかし、テレビ局も、今さら、通販番組は「情報番組」ではなく、これは長めの「コマーシャル」です、とも言えないし。

もしも言ったら、放送におけるCMの比率を決めたルールに抵触してくる。

さてさて・・・。

それはさて置き、本筋以外に、取材を受けて面白かったことがある。

来校した記者さんが、他大学にいる私の知り合いの先生の、ゼミでの“教え子”だったことだ。

その先生に呼ばれて、何度か、そちらのキャンパスに行き、学生さんたちとも、メディアの現在や、メディアへの就職をめぐって、話をしたことがあるのだ。

こうして実際に新聞記者として活躍している先輩がいることは、後輩たちにとっても勇気づけられることだろう。

いやあ、ご縁であります。

雑誌『広告批評』、ついに最終号

2009年04月29日 | 本・新聞・雑誌・活字


本当に終わりなんだなあ、と思った。

白い表紙に「30年間 ありがとうございました。」の文字。

雑誌『広告批評』、ついに最終号である。

創刊時から、ほぼ全部を購入し、読んできた。

広告とかCMとかに留まらない、いわば“文化”や“時代”に関する総合誌として読んできた。

この雑誌が伝えてくれたのは、たぶん、“ものの見方”だったのだ、と思う。

特に、番組にも出ていただいた天野祐吉さんには、ある意味で「育ててもらった」部分が、すごくある。

私より先に、この最終号を手にした娘が、巻末の天野さんの文章「広告批評の三十年」と、いろんな企業からの“さよならメッセージ広告”を読んで、「泣けちゃった」と言っていた。

例えばソフトバンクのものは、あのホワイト家の世帯主、白いワンちゃんが涙を流しているビジュアルに、「広告批評はもう叱ってくれないぞ!(ソフトバンクは、さみしいぞ!)」のコピー。

今、大学生の娘にとっても、高校時代からの愛読誌を失ったことになる。


書棚から、印象深いものを、取り出してみた。

1986年の6・7月合併号。分厚い。特集は「東京名物評判記」だ。

役者、戯作者、娘、瓦版屋などの“評判”が並んでいる。つまり<人物評判記>である。

パラパラとめくれば、「瓦版屋」(マスコミ人)の中には、久和ひとみさんがいる。逸見政孝さんもいる。

「絵師」のページには、伊丹十三さんがいる。岡本太郎さんもいる。

さらに「楽師」なら、尾崎豊さんや、懐かしのラジカルTV(原田大三郎+庄野晴彦)まで登場しているのだ。

「誰が、どんな評判になっていたのか」を通じて、1986年の6月のこの国が、どんなだったか、“体感”できる。


こうして、バックナンバーを次々と開いていくと、確かに何かが変化してきたことを実感する。しかも同時に、「何も変わっちゃいないんじゃないか」と思ったり・・・。

流行と不易、と言ってしまえば理に落ちるが、一つの雑誌が映し出してくれていたものは、(少なくとも私にとって)とても大きかったのだ。

天野さん、島森(路子)さん、ありがとうございました! 

そして、おつかれさまでした!

「ギャラクシー賞」入賞作品、決定!

2009年04月28日 | テレビ・ラジオ・メディア
放送批評懇談会が主催する「ギャラクシー賞」。

その入賞作品が、本日15時に、発表された。


<テレビ部門>
聞いてくたい~きょうも笑いに来ました (テレビ金沢)

SBCスペシャル「福太郎の家」 (信越放送)

ゆりかごは問いかける 赤ちゃんポストの一年 (熊本県民テレビ)

光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日 (東海テレビ放送)

ETV特集 シリーズBC級戦犯①「韓国・朝鮮人戦犯の悲劇」②「“罪”に向きあう時」 (日本放送協会)

映像'08「彼女は嘘をついたのか」 (毎日放送)

NHKスペシャル 戦場 心の傷①「兵士はどう戦わされてきたか」②「ママはイラクへ行った」 (日本放送協会)

映像'08「なぜ警告を続けるのか~京大原子炉実験所・異端の研究者たち」 (毎日放送)

ハイビジョン特集「“認罪”~中国撫順戦犯管理所の6年」 (日本放送協会 NHKエンタープライズ テムジン)

開局50周年記念ドラマ「風のガーデン」 (フジテレビジョン FCC)

NNNドキュメント'09「20ヘクタールの希望 木原美樹27歳、私は『農』に生きる」 (山口放送)

特集ドラマ「お買い物」 (日本放送協会)

開局50周年記念ドラマ「ありふれた奇跡」 (フジテレビジョン FCC)

家族記念日 (中部日本放送)

特別賞
中村敏夫 開局50周年記念ドラマ「風のガーデン」「ありふれた奇跡」(フジテレビ)統括プロデューサー

個人賞
二宮和也 金曜ドラマ「流星の絆」(TBS)感動ドラマ特別企画「DOOR TO DOOR」(TBS)の演技


そして、私も選奨委員をさせていただいている、「報道活動部門」は・・・

<報道活動部門>
消費者不在~幻の魚 クエ偽装 (朝日放送)

「スーパーニュースアンカー」「S-コンセプト」食物アレルギーキャンペーン (関西テレビ放送)

STVニュース シリーズ「そこにある地球温暖化」 (札幌テレビ放送)

利用者自身が植えて維持管理 「鳥取方式」による校庭芝生化普及キャンペーン (日本海テレビジョン放送)

「名ばかり管理職」キャンペーン (日本放送協会)

「VOICE」農水利権追及シリーズ (毎日放送)


ギャラクシー賞には、この他に、「ラジオ部門」と「CM部門」がある。

テレビ部門は、上記ノミネート14本から、大賞1本、優秀賞3本、選奨10本が選出される。

また、報道活動部門は、上記ノミネート6本から、大賞1本、優秀賞2本、選奨3本が選出されることになる。

最終選考の結果は、6月2日(火)に開催される、『第46回ギャラクシー賞贈賞式』で発表・表彰の予定だ。

映画『スラムドッグ$ミリオネア』は“評判以上”の1本

2009年04月27日 | 映画・ビデオ・映像

早く観たいと思っていた映画『スラムドッグ$ミリオネア』。

ようやく観ることが出来たのだが、いやあ、すごかった。

何がすごいかといえば、やはりインドそのもの、ってことになる。

パンフレットに歌手のチャダさん(懐かしい)が「リアルだ」って書いてるから、きっと、これがリアルなインドなんだろう。

過去と未来の混在というか、混沌とエネルギーというか、むき出しの存在としての人間というか、まあ、結構びっくりだった。

そして、映画としては「脚本」に尽きる。

名物クイズ番組の進行と、主人公である少年の“生きてきた軌跡”とが、絶妙にからみあう構成は見事というしかない。

ダニー・ボイル監督(『トレインスポッティング』)は、最初乗り気ではなかったが、脚本を読んで「やる!」と決めたそうだ。

その脚本は『フル・モンティ』のサイモン・ビューフォイである。本作でアカデミー脚本賞受賞。

少年の成長物語であり、恋愛物語であり、インドという国のドキュメントでもある。

過酷な運命と見える子どもたちだが、「不運だけど不幸じゃない」の言葉が印象に残った。

「スラムの負け犬(スラムドッグ)」を演じるデーヴ・パテルもいいけど、番組司会者(日本なら、みのもんたサン)役のインド人俳優、アニル・カプールも記憶に残る芝居をしている。

音楽も忘れられない。『ムトウ 踊るマハラジャ』のA・R・ラフマーン。
アカデミー作曲賞も納得だ。

結局、感想としては“評判以上”“予想以上”であり、映画は、やはり自分の目で観てみないとわからないものなのだ。

映画館を出たとたん、久しぶりで、「もう一度観たい」と思った。

ギャラクシー賞「マイベストTV賞」年間グランプリの投票

2009年04月26日 | テレビ・ラジオ・メディア
優れたテレビ番組に贈られる「ギャラクシー賞」。

その中の一つが「ギャラクシー賞マイベストTV賞」だ。

これは、一般視聴者の投票で優秀なテレビ番組を選び出すところに特色がある。

審査員は放送批評懇談会の正会員とWeb会員。

Web会員になれば、誰でも投票できる。
http://www.houkon.jp/member/index.html

第1回目のグランプリはNHKドラマ「ハゲタカ」、第2回はTBSドラマ「歌姫」だった。

投票方法は、次のような手順だ。

毎月1回、放送批評懇談会選奨事業委員会が選定する候補番組のなかから、これぞと思う番組を選んで投票。

得票の高かった3本が月間ノミネート番組に選出される。

毎年4月、12か月のあいだに選出されたノミネート番組から、年間のベスト番組1本を選んで投票。

年間のベスト番組投票で、もっとも多くの支持を獲得した番組1本が、<ギャラクシー賞マイベストTV賞>に選ばれる。

私のところにも、先日、放送批評懇談会から、今年の「年間グランプリ」を投票するよう、連絡が入った。

今年の「マイベストTV賞 年間グランプリ」候補、つまり、この1年間、月ごとに選ばれた番組は、以下の通りだ。

2008年
4月度 フジテレビ ラスト・フレンズ
4月度 TBS ROOKIES ルーキーズ
4月度 NHK 土曜ドラマ「トップセールス」
5月度 TBS Around40~注文の多いオンナたち~
5月度 日本テレビ おせん
5月度 フジテレビ 絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット
6月度 NHK 土曜ドラマ「監査法人」
6月度 フジテレビ CHANGE
6月度 日本テレビ ホカベン

7月度 TBS 魔王
7月度 日本テレビ ヤスコとケンジ
7月度 フジテレビ コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命
8月度 NHK NHKスペシャル「熱投 413球 女子ソフト・金メダルへの軌跡」
8月度 日本テレビ 24時間テレビ31「誓い~一番大切な約束」
8月度 テレビ朝日 ゴンゾウ・伝説の刑事
9月度 日本テレビ ザ!鉄腕!DASH!! 大都会の攻防戦!100人刑事から逃げられるかSP
9月度 テレビ朝日 アメトーーーーーーク! 売れ筋家電アニメ芸人ポイント還元ベロSP
9月度 TBS 日曜劇場「Tomorrow~陽はまた昇る」
9月度 テレビ朝日 スペシャルドラマ「歓喜の歌」
9月度 NHK SONGS「沢田研二」

10月度 TBS 金曜ドラマ「流星の絆」
10月度 フジテレビ 風のガーデン
10月度 TBS ブラッディ・マンデイ
11月度 NHK プレミアム10「天国の扉をノックしろ~長瀬智也・30歳のいま~」
11月度 日本テレビ 夢をかなえるゾウ
11月度 TBS SCANDAL
12月度 日本テレビ 驚きの嵐!世紀の実験 学者も予測不可能スペシャル5
12月度 TBS 社会科ナゾ解明TV ひみつのアラシちゃん!
12月度 テレビ朝日 ミュージックステーションスーパーライブ2008

2009年
1月度 テレビ朝日 金曜ナイトドラマ「歌のおにいさん」
1月度 フジテレビ VS嵐~最強王者決定戦~
1月度 TBS 情熱大陸「長瀬智也」
2月度 TBS 金曜ドラマ「ラブシャッフル」
2月度 テレビ朝日 開局50周年記念ドラマスペシャル「警官の血」
2月度 フジテレビ トライアングル
3月度 TBS 感動ドラマ特別企画「DOOR TO DOOR~僕は脳性まひのトップセールスマン」
3月度 TBS '09 WORLD BASEBALL CLASSIC 第2ラウンド、決勝ラウンド


うーん、こうして見ると、なかなかの力作揃い。豪華なラインナップだ。

この中から1本の<年間グランプリ>。

さあ、アナタなら、どれを選びますか?

舞台『その男』の男たち

2009年04月25日 | 舞台・音楽・アート


舞台『その男』を観た。

池袋の東京芸術劇場に着いた途端、ロビーで、「真実ちゃん」こと女優の熊谷真実さんに会う。着物姿だった。

以前、紀行番組に出演してもらったが、会うのは本当に久しぶり。ロケで行った各地の話で盛り上がるうちに、1ベルが鳴った。

さて、『その男』だ。

池波正太郎さんの原作、「ラッパ屋」の鈴木聡さんの脚本、ラサール石井さんの演出、そして主演が上川隆也さん。

いいメンバーだ。

幕末から昭和までを生き抜いた、一人の男の物語。

激動の時代の中で、主人公の虎之助(上川)は、“流れ”に飛び込むのではなく、その流れを見つめながら生きることを貫く。

剣の戦いがあり、恋があり、笑いがあり、涙もあり、という舞台で、休憩が2度入る長丁場でありながら、飽きることもない。

素直に楽しんだ。

上川さんは、相変わらずの“舞台映え”だった。自分自身を、シリアスにもコミカルにも操ることができる技は見事。

そして、虎之助の師匠・池本茂兵衛を演じる平幹二朗さんの圧倒的な存在感。舞台に出てくるだけで、明らかに空気が変わるのだ。

鈴木さんの脚本は、長い物語を、場面転換を多用することでテンポよくさばいていた。

ラサールさんの演出は、芝居のメリハリをつけながら観客を引っ張っていた。

そうそう、よく知る「ラッパ屋」の面々が出ていたのも嬉しい。かわら版屋の福本伸一さん、和尚の木村靖司さん、遊女の弘中麻紀さんなどだ。


舞台が終わって、芸術劇場前の広場でやっていた「池袋古本市」。

その後は巨大書店の池袋ジュンク堂。

それぞれで“収穫”もあり、満足の池袋行きでした。

ドラマとCMの“危険な関係”

2009年04月24日 | メディアでのコメント・論評

昨日発売の『日刊ゲンダイ』(4月24日付)に、ドラマとCMの関係についてのコメントが載った。

記事のタイトルは「連ドラ、CM、タイアップ出演のありがた迷惑」。

ドラマを見ていれば、何度かCMが入る。それは当然なのだが、そのCMに、ドラマの出演者が登場するケースが目立つのだ。最近は、特に。

記事は、なぜそうなってしまったのかを説明していく。

その主な理由は、スポンサー側にとっては“相乗効果”であり、テレビ局にとっては「御社のCMに出ている俳優・タレントが出演していますよ」と“セールス”しやすいからだ。

私のコメントとしては・・・

「ドラマを見ている視聴者は、物語の中に入り込んで役者が演じる役柄を楽しんでいるのです」

「それなのに、合間に流れるCMにも同じ役者が出ていると、いきなり現実に引き戻されてしまう」

「今にも死んでしまうかもしれない役なのに、CMでは明るく笑っていたり、ダーティな役なのに、CMではさわやかな好青年だったりするケースもあるから、興ざめです」

「テレビ局は、広告を売るために、なりふり構っていられないのでしょうが、視聴者を単なる消費者としてとらえるのはやめた方がいい」

「ドラマのCM放送のあり方を、改めて見直すべきです」


以前は、ドラマに出ている役者さんのCMを挿入することに、もう少し“遠慮”があった。

それが今では、「タダで見てるんだから我慢しろ」と言わんばかりに露骨、そして当たり前のようになっている。それはちょっと違うだろう。

ドラマファンのためにも、やはり一考が必要、と思うのだ。

「草剛容疑者」の事件

2009年04月23日 | テレビ・ラジオ・メディア
今朝のことだ。

今日の午後、取材を受けることになっていた新聞社から電話が入った。

記者さんが、「急遽、事件の取材に出ることになりまして・・・」と、すまなそうにおっしゃる。

聞けば、SMAP・草くんだった。

まだ全体はよくわからないけど、「公然わいせつ容疑で逮捕」ってやつだ。

そういえば、「とくダネ!」も途中で報じていたっけ。

昨夜、というか今朝の明け方、「赤坂の桧町公園で、全裸で騒いでいた」そうだ。「通報で駆けつけた警官相手に、手足をばたばたした」とも。

どうしたんだろうね、草くん。

「酔っ払って全裸」も、お花見のお客さんなら、ここまで騒ぎにならないけど、SMAPとなれば、そうもいかない。

出演番組をどうするか。CMはどうするか。テレビ局や代理店は、それこそバタバタしているはずだ。

そんな中で、鳩山邦夫総務相の発言の話が聞こえてきた。

「なんでそんな者をイメージキャラクターに選んだのか。恥ずかしいし、最低の人間だ。絶対許さない」と言ったとか、言わないとか。

例の「地デジ、よ~し!」というCMや推進ポスターで、さぞご立腹だろうが、「最低の人間」は言いすぎでしょう。

「アナタはどの程度の人間ですか?」と聞きたくもなる。

各メディアは、今のところ、「草容疑者」と呼んでいるようだ。

以前の、稲垣吾郎サンが事件を起こしたときは、「稲垣メンバー」という、面妖な呼称が使われた。メディア側、特にテレビが事務所に遠慮した結果だった。

草容疑者をめぐって、またしばらくは、連日騒がしい“報道”が続きそうだ。

まあ、公園で全裸になるかどうかはともかく、人間、酔って騒ぎたいときも、あるよね。

他にも、世の中には、伝えるべき出来事やニュースが山ほどあるので、ほどほどにして欲しいなと思う。

そんな「取材キャンセル」の午後であります。

村上龍『無趣味のすすめ』に思う

2009年04月22日 | 本・新聞・雑誌・活字
村上龍さんの新刊『無趣味のすすめ』を読む。

自分が大学生だった70年代からの読者なので、いまだに「龍さん」と呼びたくなる。

このエッセイ集、いわば「テレビ東京『カンブリア宮殿』の村上龍」の本だと思えばいい。番組で会った方々をめぐるエピソードも多い。

主な対象はビジネスマンだが、誰にも心当たりのあることや、逆に気がつかずにいたことをすっと指摘してくれる。

たとえば、<目標>について、「本当は水や空気と同じで、それがなければ生きていけない」と書く。

「目標を持っていなければ、人は具体的にどういった努力をすればいいのかわからない。ものごとの優先順位もつけられない」のだ。

そうかもしれません。

また、<読書>に関して、「どんな職業の人でも、読書をするかしないかが問題ではなく、どんな情報を自分は必要としているかを自分で把握できるかどうかが問題である」

確かに。

<品格と美学>をめぐっては、「仕事に美学や品格を持ち込む人は、よほどの特権を持っているか、よほどのバカか、どちらかだ」という。

うーん、過激です(笑)。

この本には、村上龍の確信に満ちた言葉があふれている。ビジネスマンにとって有益・有効なものも多い。それはそれで大いに参考にしていただけばいいと思う。

その一方で、33年前に、学生下宿の一室で、刊行されたばかりの『限りなく透明に近いブルー』を読んだときの、そう軽くないインパクトを思い出す。

そのインパクトゆえに、こうして今も“村上龍が書くもの”を読み続けているのだが、「(龍さんも)思えば遠くへ来たもんだ」という個人的な感慨も、ないとはいえないわけです。


無趣味のすすめ
村上龍
幻冬舎

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「デジタルシネマ演習」始まる

2009年04月21日 | 大学


新学期の授業が始まっている。

今年度から新たな演習科目を立ち上げた。

「デジタルシネマ演習」だ。

デジタルシネマは、一般的に「撮影にフィルムカメラではなく、ビデオ機材を使って制作される映画、もしくは上映・配給にフィルムを使わない映画である」といわれている。

最近だと、ソダーバーグ監督がゲバラを描いた『チェ』などが、デジタルシネマのカメラ「RED」で撮られている。

ただし、上映は施設の関係もあり、フィルムで行われていた。

この講座では映画という言葉を広い意味のコンテンツに置き換えて、「デジタルシネマとは、撮影・編集を含む制作段階から上映・公開までをデジタルで行う映像コンテンツ」と定義している。

いずれデジタルシネマ・カメラ「RED」も導入する予定だが、まずは映像制作の基本、デジタルシネマの基礎、そしてシナリオ研究から始めたい。

定員25名の演習は、大教室での授業と違って、学生一人一人の顔が見える。

自己紹介を聞く限り、なかなか意欲のあるメンバーが集まったようで、これからの半年が楽しみだ。

TBSとSONYの“融合”!?

2009年04月20日 | テレビ・ラジオ・メディア


昨日は、慶大時代の教え子の結婚式。

教え子は新婦のほうで、TBSのディレクターだ。キャリアも10年を超える。

初めてお会いした新郎はSONYだった。

会場である某所は、都心とは思えないほど広くて静かな敷地に、鹿鳴館を設計したコンドルの手になる建物が悠然とそびえている。

庭園も見事で、オープニングはその庭での乾杯。そして、バルコニーからの写真撮影だった。

室内に入ってからの披露宴は、まあ、いってみればTBS対SONYのがっぷり四つ(笑)である。

司会は新婦と同期のTBS女性アナ。俳優の谷原”ハンサム”章介さんや占星術の鏡リュウジさんの姿も見える。

新郎・新婦、それぞれの「主賓挨拶」は、両社の役員の方々。社風やカラーやご時勢も反映していて、聞き処の多いスピーチだった。

私の出番は宴の終盤近く。「新婦の大学時代の恩師で・・・」というご紹介で席を立った。

このスピーチだが、両論併記ならぬ、もう完全な新婦寄り。

「新婦さえシアワセになれば、新郎なんてどうなってもいいんです」などと話しはじめた。乱暴だ。

しかも、すでに披露宴開始から2時間近い。それなりにアルコールも回っていた。話は進む・・・

「放送業界も明日は何があるかわからない時代です」

「しかし、TBS&SONYの連合軍であれば乗り切れる、かもしれません」

・・・などと、つい最近まで「楽天」対策で大変だった放送局の前で、トンでもない(いや、それほどトンでもなくもない)合従連衡を提唱しいていたのだ。

しかし、これが両社の皆さんには大いにウケてしまい、スピーチを終わって、TBSとSONYの役員お二人とも笑いながら言葉を交わした。

「メディア再編」の動きは、常に水面下で進んでいる。

「ギャラクシー賞」審査会

2009年04月18日 | テレビ・ラジオ・メディア


ここ数日、ひたすらDVDを見ている。

いや、映画ではない。

全国各地で放送された「報道活動」が収められた、何枚ものDVDだ。

放送批評懇談会が主催する、テレビ界の大きな“賞”である「ギャラクシー賞」。

その報道活動部門の選奨委員を務めさせていただいているのだ。

半期ごとの審査会が近づくと、選奨委員は、東京をはじめ各地のテレビ局から送られてきた番組を、それこそメモを取りながら、延々と見続けることになる。

そうやってきちんと評価した上で、審査会に出席するわけだ。

この審査会の面白さは、それぞれの委員が、どんな番組を、どんな理由で“選奨”するか、にある。

そこには各自のテレビ観や報道観が表れるから、自分が高く評価したものが他の委員からコテンパンだったり、まったく違った角度からの評価があったりする。

「へえ~、そういう見方もあるんだなあ」と素直に思うこともあれば、「いや、そりゃないでしょう」と反論することもある。そのやりとりが楽しい。

いつも思うことだが、このギャラクシー賞に限らず、芥川賞も直木賞も、「受賞作を決める」という作業を通じて、実は、選ぶ側こそが試されているのだ。

現在、ギャラクシー賞報道活動部門は、次のようなメンバーで選考が行われている。

委員長:坂本 衛  副委員長:碓井広義  委員:麻生千晶、今村庸一、小田桐誠、上滝徹也、小林英美、鈴木典之、田原茂行、露木 茂、山田健太


今期の審査会は、本日開催である。

『週刊新潮』の検証記事をめぐって

2009年04月17日 | 日々雑感


昨日発売の『週刊新潮』に、「朝日新聞襲撃事件の実行犯を名乗る男の手記を4週続けて掲載した」件に関する、早川編集長の署名記事が掲載された。

基本的には、「週刊新潮もまた騙されたのだ」ということが書かれている。

さっそく、『朝日新聞』は今朝の社説で、これに反駁した。

タイトルも、<週刊新潮―「騙された」ではすまぬ>と強い調子だ。

本文には・・・

〈こうして「ニセ実行犯」に騙(だま)された〉と題する編集長名の記事は、男の話に翻弄(ほんろう)された経緯に長行を費やし、裏付けが不十分だったことは認めた。

ところが、肝心なことは書かれていない。襲撃事件の被害者である朝日新聞が証言は虚偽だと指摘したことにいったんは反駁(はんばく)した同誌が、突然、考えを百八十度変えた説得力ある理由が明らかにされていない。

編集長が強調したのは「騙された」という被害者の立場である。これで、報道を任とする媒体の姿勢として納得を得られるものだろうか。

・・・とある。

うーん、確かに。

騙されたことは分かったが、その奥の部分が十分には明かされていないということか。ちょっと「バンキシャ!」問題での日本テレビにも似ている。

『読売新聞』は、社説で「誤報を認め、謝罪したのは当然だが、発行元の新潮社は、編集部任せではなく、第三者を交えた調査委員会で原因と背景を徹底検証し、責任を明確にすべきだ」と主張。

今後に生かすという意味で、「第三者を交えた調査委員会」による検証もありかもしれない。

ただ、一点気をつけたいのは、今回の件によって、雑誌ジャーナリズム全体が萎縮したり、ヘンに自主規制したりすることはないか、ということだ。

いや、もちろん誤報が許されるという話ではない。

個人的には、いわゆる「新潮ジャーナリズム」のファンでもあるので、きちんと決着をつけた上で、他誌では読めない、書くべきこと、伝えるべきことを誌面で展開して欲しいのだ。

NHKスペシャル「JAPANデビュー」問題について『週刊新潮』でコメント

2009年04月16日 | メディアでのコメント・論評

本日発売の『週刊新潮』。

巻頭特集のタイトルは、<歴史歪曲と「台湾人」も激怒したNHK「超偏向」番組>である。

リードには「史実を枉げ、日本の台湾統治を徹底的に貶めたNHKドキュメンタリーの「超偏向」ぶりに抗議が殺到している。日本の視聴者ばかりか出演した台湾人も激怒するこの番組、中国、台湾との外交関係にも影を落としそうなのだ」とある。

記事は、番組内容を紹介しながら、「誤り」や「歪曲」、「公正さを欠く」部分などを指摘。全体として「超偏向」番組であるというわけだ。

櫻井よし子さん、台湾研究フォーラムの永山英樹会長をはじめ、何人かの識者、専門家も登場して、その「偏向」について話をしている。

先日取材を受けた私の談話は、記事のほぼ最後。

例によって記者さんがまとめたコメントとしては・・・


「NHKのドキュメンタリーの作り方は『プロジェクトX』が“成功”を収めた頃から変わってきた」

「分かりやすさを優先し、本来は複雑な世の中を白黒の2つに単純化することでドラマティックな物語を生んだが、同時に不都合な真実には敢えて触れないといった不実さも生まれたのです」

「しかし、以前に比べれば、現在の視聴者のメディアリテラシー(メディアの情報を鵜呑みにせず批評的に解読する力)は高まってきています」

「今回の騒動は、番組スタッフがそのあたりを甘く見過ぎた結果とも言えるでしょう」

このシリーズは、問題の「アジアの“一等国”」が第1回目であり、これから何本も放送される。引き続き、注目していきたい。


それから、同じ『週刊新潮』今週号には、<朝日新聞「阪神支局」襲撃事件~「週刊新潮」はこうして「ニセ実行犯」に騙された>と題した、早川清編集長と取材班による長文が掲載されている。

この問題については、あらためて整理したいと思う。
 

「テレビと広報」に関する“緊急座談会”

2009年04月15日 | メディアでのコメント・論評

月刊誌『広報会議』の“緊急座談会”に参加した。

最近の、「バンキシャ!」や「報道ステーション」など、主にテレビ報道の場で発生している問題を踏まえ・・・

「こうしたメディアの動向は、広報担当者にとってどの程度影響を与えるものか。また、広報担当者として、誤報やミスリードにどのように対応していくべきか」がテーマだった。

座談会の参加者は、大阪経済大学客員教授で経済評論家の岡田晃さん、元日本コカ・コーラ広報担当副社長の山根一城(やまね・かずき)さん、そして私の3人。

詳細は、雑誌が出たときに読んでいただくとして、「広報担当者は、テレビの“メディア特性”を十分に理解し、トレーニングも重ねた上で、対応していくことが重要」といった内容になっている。

岡田さんは日経新聞からテレビ東京という経歴で、また山根さんも、かつてBMWジャパンの辣腕広報マンだった方。ちなみに山根さんの兄上が、ノンフィクション作家の山根一眞さんだ。お二人の話は、いずれも具体的で、的確で、かつ面白い。

取材をする側、取材をされる側、それぞれが考えるべきこと、取り組むべきことも確認できた。

「3人のユニットでセミナーでもやりましょうよ」と山根さん。

それくらい盛り上がった座談会だった。

掲載は『広報会議』の6月号。5月初旬の発売(だから緊急)だそうです。


広報会議 2009年 05月号 [雑誌]

宣伝会議

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