★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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街のカラス(5)

2009年09月07日 | 短編小説「街のカラス」
 「ありがとうございますぅ」
 と連発し、さらに大声で泣き出して、化粧が溶け出した黒い涙をぼろぼろこぼし始めた。
 よく見ると女は、年の頃は50歳をゆうに超えているセレブなおばさまのようで、顔を覆う両手の指には大きな宝石のついた金の指輪が何個も光っている。
 それを見た紫のラメ服男は、細い目をさらに針のように細く光らせた。
 しばらく、女の泣くがままにまかせ、泣き声が鼻水のすすり音に変わった頃に、ラメの紫服男が口を開いた。
 「奥様、今日は奥様にすばらしいものをご紹介いたします。奥様のように、周りの陰陽のバランスが不安定な方にとても良いものです。」
 そう言いながら、ベランダに転がっていた花瓶と同じものを、うやうやしく女の前においた。
 ベランダの花瓶と違うところは、口が油紙でふさがれ縁の部分を金色の紐で縛ってあるぐらいだ。
 「これは『陰陽の壷』といって、陰と陽のバランスが崩れたときに、余分な方の気を溜めてくれる壷なのです。また、余分な気だけではなく、いつの間にか忍び寄ってくる邪気も溜めることができます。邪気というのは本来、奥様のような清らかな人は本能的にわかるものです。なんか変だなと思ったらこの壷に向かって息を吹きかけてください。壷は邪気を吸い取って溜めてくれます。」


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