仮名日記

ネタと雑感

やすいはなし(オッパイと×××)

2007年12月28日 | 文化
 タモリが『笑っていいとも!』を始める前にレコードで出したアルバムの1,2,4作目がCDで再々発されました。1作目と2作目はアルファミュージックから再発されたCDを持っているので、3作目『タモリ3-戦後日本歌謡史-』の復刻を期待していたけれど、著作権の関係か今回もCD化ならず。これは、最初のレコードも発売が延期されたうえ、紆余曲折のすえ新星堂のみでの限定販売されたが、ほどなく廃盤になった問題作である。
 その経緯は、雑誌『レコード・コレクターズ』2007年9月号の「アルファの宴」という連載に詳しい。廃盤にされた理由を簡単にまとめると、戦後の歌謡曲『リンゴの唄』から『ロックンロール・ウィドウ』まで、歌詞のみならず旋律も含めてパロディーにしたら、著作権侵害・名誉毀損に問われたのである。著作権はともかく名誉毀損とは。パロディーという形式が社会的に認められていなかったということだろう。

 CD屋店頭の試聴器に1作目『タモリ』が並んでいるのを見かけ、何気なく手に取って裏面を見たら、帯に気になる文言が。4トラック目の「CMブラジャー・ミシン」がアルファ版の音源を一部変更して収録している旨の但し書きである。どこが違うのかとその場で試聴してすぐに判った。
 削られた部分をアルファ版から起こしてみる。この「CMブラジャー・ミシン」はラジオCMのパロディーになっており、オーダーメイドのブラジャーとして、Aカップ・Bカップ、優勝カップと挙げた後に「オッパイが片方しかない方たちのために『ワンカップ』も揃えております」というところである。
 何だろう。乳ガン治療のために乳房を切除したなど、何らかの理由で片方の乳房が欠損している女性たちを傷つけるからってか。実際に抗議があったのかどうか判らないが、あまりにも過剰な配慮ではないだろうか。井上陽水の「自己嫌悪」(めくらの男が似顔絵を描いてもらって「似ている」と呟くというたいそう鬱な歌詞)でさえ、かつてはアルバム『氷の世界』から削られていたが、いまはそのまま発売されているというのに。
 この改変をするにあたってどのくらいの葛藤があったのだろう。原形が差別・偏見を助長するか否か、この自主規制が表現の自由にどのように影響を与えるか、真剣に考え尽くした末の結果だろうか。ちょっとしたお笑いのネタだから、削ったってかまわないと軽く考えたのではないか(一方で、過去の作品の歴史的価値を考慮して、という言葉ですべてが許されるとするのも安易な思考停止であり、不誠実さにおいて自主規制と大差はない)。もしそうならば、表現による軋轢をさらに覚悟せねばならない『タモリ3』の、同じレーベルからの再発はほとんど期待できないということになる。