昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……37.義郎の決意

2013年10月17日 | 日記

義郎の決意

優子と聡美の共闘体制が出来上がった翌朝、現場では協力会社の社長が二人、待ち受けていた。顔を見るなり、質問攻めにあった。

「倉田さん、東京で何かあったんですか?」

「ずっと東京にいたのに、突然帰って来たらしいもんなあ」

「グループ会議やりたいってみんなのところに昨日連絡があったみたいですが……」

「声が深刻だったらしいんだよね。俺はたまたま留守だったんだけど……。みんなから連絡があったんで、今朝電話したら、倉田さん、また東京に行ったらしいんだよね」

「倉田興業に、何か経営的な問題でも起きたんですか?」

「噂では、倉田さん、安原さんと一緒に何か大きなことをやろうとしてるって話だけど……。本当か嘘か知らないけど、会社の金注ぎこんでるって話だし……。最近、入金遅いこともあるしなあ。みんな心配してんだよねえ。こんなに景気がいいのにおかしいぞ、って」

「田上さん聞いてるんでしょ?取締役だし、子供の時からの仲間なんでしょ?大きな話なんて我々には関係ないけど、仕事に影響が出るのは困るから、田上さんに聞いてみようってみんなが言うもんで……」

「安原さんが絡んでるんだから、きっとおいしい話なんだよね。……でも、俺たち関係ないもんなあ。倉田さんに勧められて重機も買ってるしなあ」

倉田興業の本業とは無縁の企みが進行しているのは確かだが、義郎に説明できるだけの情報はない。倉田興業の経営状況を説明する術もない。ただただ二人の疑問と不安に頷くばかりだ。

二人はやがて、義郎に問い質しても得るところはないと諦めたのか、「ま、俺たちは現場で頑張るだけだな」「自分の仕事頑張ることにしますか」と声を掛けあい、クルマに乗る直前、「グループ会議、なしと思っていいですか~~?」と叫んで、去って行った。

義郎は、二人のクルマが砂利を蹴立てて去って行くのを茫然と見送った。しかしすぐ、むらむらと勇気が湧いてきた。去った二人の向こうにいる、多くの仲間の不安を取り除くことができるのは自分だけだという思いが募り、勇気となって表れてきたのだった。

東京に行ってみようと思った。達男と公平が大いなる野望を持っている場所、東京に2~3日身を置いてみようと思った。そして、彼ら二人で暮らしている事務所兼用のマンションに行き、彼らと同じ空気を吸いながら話を聞こうと思った。

義郎は、身震いした。河川敷に生い茂る野草が照り返す初夏の日のきらめきが眩しかった。エネルギーが身体から迸っていくような気がした。経験したことのない、突然訪れた興奮だった。

堤防に目を転じると、義郎の現場スタッフが、ブルドーザーの上やユンボの上から、こちらを窺っている。義郎が会社を始めた頃には重機と言えば、辛うじてミニ・ユンボがあるだけだった。隔世の感のある現場の景色に目を細めていると、義郎の思いは決意へと固まっていく。

この現場のすべては、自分が頑張ってきた証だ。しかも、着工して間もない大川堤防の第二期補強工事が完成すると、100年は水害に見舞われることもない、というではないか。こんな大切な仕事が滞ることなどあってはならないのだ。

「さ。仕事だ~~~!仕事だぞ~~~~!」

義郎は手を振った。滅多にない義郎の大声に、目に入るスタッフはみんな笑っていた。

                                       次回は、10月19日(土)予定           柿本洋一

*第一章:親父への旅http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/84e40eba50c5c6bd4d7e26c8e00c71f7

*第二章;とっちゃんの宵山 http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/f5931a90785ef7c8de01d9563c634981

*第三章:石ころと流れ星http://blog.goo.ne.jp/kakiyan241022/e/0949e5f2fad360a047e1d718d65d2795


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