
16
それは銀色の町だった。かつて見たことのある、銀色の幻樹のような建物が、密林のように生え群がっていた。毒のような空気をまとい、都市はまるで癌細胞のように地上に繁殖していた。
灰色のリボンのような道が網の目のようにめぐらされ、その上を甲虫のように奇妙なものが走っていた。汚らしい音を立てる機械が、あちこちでのみのようにはねていた。腐ったように甘いにおいのする水が、都市から垂れ流され、それは川の水を黄色く染め、海に注いでいた。
人々は、堕落していた。生殖器を強調した恐ろしく派手な衣服をまとい、あちこちで馬鹿らしい踊りを踊っては、皆にはやし立てられて、喜んでいた。わたしは呆然とした。衝撃から逃れられず、一旦目をそらして、山に隠れた。そして心を落ち着けると、今度はもっとよく観察しようと、また山影から町を覗き、目を細めて、人間たちの暮らしを見つめた。
これは、アトランティスの民よりもひどい。殺され、ごみのように捨てられた人間の死体が、あちこちにある。建物の影では、大勢の男が女をなぶりものにしていた。人間は死毒のような嘘を常に吐き、真実を照らす光からネズミのように逃げ、都市の生活に安住していながら、都市を滅ぼすようなことばかりしていた。
悪徳は腐食した泥のように、あちこちを染めていた。誰もいいことをしなかった。誰も誰かを愛そうとしていなかった。
わたしは目をこすると、また一旦山の影に戻った。そして見たことを冷静に分析しようとした。かつてのリープの絶望期に似ている。バルガモスを作っていた頃、リープ人はあんな顔をしていた。神を疑い、すべての生きる苦しみを神のせいにして、神を攻撃し始めたころのリープ。そのリープに、地球は近づきつつあるのだ。
眠っている間に、何千年もの月日が流れていたに違いない。その間に、生きる苦しみから逃れたいばかりに、人類はふたたびここまで文明を発展させ、安楽をむさぼる堕落の末に、生きる意味そのものを失い、崩壊に向かいつつあるのだ。
なんてことだ。このままでは、地球の民もまた、リープ人のような破滅を味わうだろう。わたしはそれを絶望的に確信した。
どうすればいい。アトランティスの時のような失敗はできない。どうすれば、人間を正しい方向に導けるのか。わたしは考えた。だが、わたしの経験値の中からは、正しい答えが見つからなかった。ならば、未知の可能性にかけるしかない。
夜になると、わたしは山の上に出て、人間世界に向かって、心を投げた。
誰かいないか。わたしはキオ。君たち地球人を愛している。だから地球人を堕落から救いたいのだ。わたしの心に、答えてくれる人間はいないか!
わたしは答えを待った。一人でも協力してくれる人間がいれば、可能性があると思ったのだ。だが答えはない。アトランティスの時のように、人間の心はすべて、暗黒に沈んでしまったのか。スノハの神のように、大いなる神はまた、堕落に溺れた人間を滅ぼそうとなさるだろうか。
わたしは何夜も何夜も、人間世界に呼び掛け続けた。だが答えはなかった。人間はもうだめなのか。地球人もまた、リープ人のように滅ぶのか。そうわたしが、絶望しかけた時だった。
都市の向こうから、かすかな答えが、弱弱しく返ってきた。
…だれ?
それは、銀鈴のようにかわいらしい、澄んだ少女の声だった。
(終わり)







