共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

気怠い暑さにヴィラ=ロボス〜ベルリン・フィル・ピクニックコンサートによる《ブラジル風バッハ第5番》

2024年06月22日 17時17分35秒 | 音楽
今日は、日中また暑くなりました。本当に、この晴天を昨日見せてもらいたかったと思わずにいられません…。

それにしても、こう暑いとなんにもやる気になりません。普段、すぐにやる気を失くす支援級の子どもたちを叱り飛ばしておいてナンですが、私だって仕事でなければグダグダしていたいのです…。

そんな暑さのお供に最適な音楽が、ヴィラ=ロボスの《ブラジル風バッハ》です。《ブラジル風バッハ》(Bachianas Brasileiras)は、



ブラジルの作曲家エイトル・ヴィラ=ロボス(1887〜1959)の代表作です。楽器編成や演奏形態の異なる9つの楽曲を集成した曲集ないしは組曲で、個々の作品の成立年代も1930年から1945年までと様々です。

《ブラジル風バッハ》という日本語訳は、

「ブラジルの民俗音楽とバッハの作曲様式の融合」

というヴィラ=ロボスの意図をうまく捉えてはいますが、原題の「バッハ風・ブラジル風の音楽」という本来の意味を必ずしも反映してはいないため、現在では訳さずに《バシアーナス(あるいはバキアーナスまたはバッキャーナス)・ブラジレイラス》とも呼ばれています。

ヴィラ=ロボスはパリに遊学した際に新古典主義音楽の洗礼を受けており、その影響もあってか「トッカータ」「フーガ」といった題名の擬似バロック的な楽章が含まれる反面、「エンボラーダ」「カイピラの小さな汽車」のように民族的な題名をもつものも見受けられます。内容としては、8台のチェロのための第1番のように題名に比較的忠実なもの、小オーケストラのための第2番のようにジャズの影響が顕著なもの、ピアノの管弦楽のための第3番のように新古典主義の理想により忠実なもの、チェロアンサンブルとソプラノのための第5番のように国民楽派の傾向が鮮明なものなど、様々に分かれています。

それでも、民族的なリズムや旋法による旋律を多声的に処理するという姿勢においては第1番から第9番まで首尾一貫しています。それゆえに『現代版(またはブラジル版)のブランデンブルク協奏曲』と呼ばれることもある作品群です。

そんな中から、今回は最高傑作との呼び声高い《ブラジル風バッハ第5番》をご紹介しようと思います。






《ブラジル風バッハ第5番》は、1931年から1945年にかけて作曲されました。ソプラノと8台のチェロのためという独特な組み合わせが絶妙な効果を発揮し、ヴィラ=ロボスの作品の中では演奏される機会が最も多いものです。

全体はカンティレーナ(アリア)とダンサ(マルテロ/槌のひびき)の2つの楽章から成っていますが、この2曲は作詞者も作曲時期も違うもので、後でつなげられたものです。ヴォカリーズと短い歌詞のついた叙情に満ちた美しいカンティレーナと、一転して速いテンポの躍動感溢れるダンサの2つの曲趣の違いは歌い手に高度なテクニックと幅広い音楽性を要求していますが、ソプラノ歌手に言わせると、

「これほど魅了される曲は他にそう多くはない」

ともいいます。

歌詞の内容は


カンティレーナ(アリア)

(ヴォカリーズの後に)

夕暮れ 美しく夢見る空に
薔薇色の雲がゆったりと浮かぶ
柔らかい月が夕暮れを飾り
うっとりと化粧をする
優しい乙女のように
美しくなりたいと願い
空と大地に自然が叫ぶ!

その悲しい訴えに鳥たちは静寂を作り
海はすべての富をさらけ出す
甘美な月の光は胸に迫り
郷愁を掻き立てる
薔薇色の雲がゆったりと浮かぶ

(ハミングによるヴォカリーズ)


マルテロ(ダンス)

イレレ、カリリの山里の小鳥よ
私の恋人マリアはどこに?
ああ、愛を歌ったギターはもうない
イレレ、お前の笛が悲しみを運んでくる

お前の歌がそよ風のように
森の奥から聞こえてくる
イレレ、お前の歌を放て
もっと歌え
カリリの里を連れてきて

歌えカンバシラ
歌えジュリチ
歌えイレレ
歌え痛みを

マリアよ目を覚ましておくれ
夜は開けたんだ
森の小鳥たちよ一斉に歌うのだ!
ベンチヴィよ、サビアよ!

ラリアリアリア〜
森の歌い手サビア
森の哀しいサビア
お前の歌がそよ風のように
森の奥から聞こえてくる

イレレ、カリリの山里の小鳥よ
私の恋人マリアはどこに?
愛を歌っていたギターはもうない
ああ、愛を歌ったギターはもうない
イレレ、お前の笛が悲しみを運んでくる

お前の歌がそよ風のように
森の奥から聞こえてくる
イレレ、お前の歌を放て
もっと歌え
カリリの里を連れてきて

ああ!!


というものです。因みに、カリリとはブラジル北東部にある地方の名前で、イレレ・カンバシラ・ジュリリ・ベンチヴィ・サビアはブラジルに棲む鳥の名前です。

そんなわけで、今日はヴィラ=ロボス作曲の《ブラジル風バッハ第5番》をお聴きいただきたいと思います。2008年にヴァルトビューネで開催されたベルリン・フィルのピクニックコンサートから、アナ・マリア・マルティネスのソプラノ、グスターヴォ・ドゥダメルの指揮による、ベルリン・フィルのチェロアンサンブルによる演奏でお楽しみください。



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