今日は、先日facebookに現れた案内に基づいて横須賀市芦名にある浄土宗の古刹・浄楽寺にやって来ました。こちらには、鎌倉時代を代表する大仏師運慶の壮年期作の仏像が収蔵庫に安置されていて、今日は秋の御開帳日ということで知り合いの方と参詣することにしたのです。
JR逗子駅からバスに揺られること20分余りで
金剛山勝長寿院浄楽寺に到着しました。
こちらは現在、鎌倉・材木座にある光明寺の末寺ですが、詳しい創建年は不明ですが、寺伝ではかつて鎌倉時代に三浦半島一帯を治めていた和田義盛が建立した七つの阿弥陀堂のひとつとされ、同寺が建永元(1206)年に台風で倒壊した際、源頼朝発願の鎌倉三大寺のひとつ勝長寿院の一部を移築し、院号も受け継いだとされています。
現在の本堂は江戸時代に再建されたものです。本堂の前には
堂内から伸ばされた御縁柱が立てられ、参拝客は柱に結ばれた晒を手にしながら、御本尊との御縁を結んでいました。
本堂には運慶作の阿弥陀三尊の模刻が安置されていて、実際の御像は全て本堂裏の収蔵庫に安置されています。こちらにおわしますのは、来迎相の阿弥陀如来と勢至、観世音両菩薩像、そして毘沙門天像と不動明王像の五体です。
これらの御像は元々、源頼朝が父・源義朝の菩提を弔うために、奈良仏師の成朝に造らせたものを当寺に遷座したと伝えられてきました。しかし、毘沙門天像の胎内に収められていた銘札の発見によって、これら五体の御像は文治5(1189)年に鎌倉彫刻の第一人者たる大仏師運慶が小仏師10名を率いて和田義盛と令夫人のために造立したということが記載されており、世間を驚かせました。
これらの御像は戦前に一度国宝に指定されました。しかし、戦後の見直しで国宝指定が取り消しとなり、現在は国指定重要文化財となっています。ただ、運慶作であることは間違いなく、奈良・京都に作品が集中している中での関東地方での貴重な作例となっていて、横須賀では『横須賀に国宝を!』と盛り上がっているそうです。
五体はいずれも檜の寄木造りで、
阿弥陀三尊は、極楽浄土から往生者を迎えようとする来迎の御姿です。中尊の阿弥陀如来の光背は早来迎を表す雲が象られていて、脇侍両菩薩はそれぞれに片足を半歩前に踏み出して往生者を迎え入れる体制をとっています。肉付きのよい男性的な面持ち、量感豊かな体躯、丁寧に刻まれた衣文の襞などに、運慶仏特有の写実性が見て取れます。
毘沙門天は四天王の一人多聞天が独立した天部で、武士の守護神として武家に好まれました。この御像は如何にも運慶仏らしいお顔立ちで、甲冑の上からでも筋肉の張りが分かるような堂々たる体躯や水晶の嵌め込まれた玉眼の輝きと相俟って、拝する者に圧倒的な存在感をもって迫ります。
不動明王像は小柄ながら、引き結んだ口や天地眼に見開かれた玉眼、引き締まった筋肉の表現力は、さすが運慶作とされるだけのことはあります。ただ、不動明王の背後にある平板な迦楼羅炎光背は、後の時代の補作と思われます。運慶なら、もっと迫力ある炎の形を刻み出したでしょう。
因みに運慶が、如来像や菩薩像の目を木地に直接彫り入れる『彫眼』を、不動明王像と毘沙門天像といった天部像の目に水晶を嵌め込む『玉眼』を使い分けるようになったのは、こちらの浄楽寺尊像からなのだそうで、そうした意味でも大変歴史的意義の深い貴重な御像といえるのではないでしょうか。
14時から副住職による法話があり、15時からは『十夜法要』というものが始まりました。そこで大活躍したのが
このお稚児さん達です。彼等は正装した僧侶と一緒に内陣に入って、御本尊の宝前に供物を供えたり、僧侶の後について堂内を回ったりと、儀式の要所要所で役割を果たしていました。法要も平読みの読経だけでなく、経文に節をつけて朗詠する声明(しょうみょう)もあり、鉦や太鼓を打ち鳴らしながら『南無阿弥陀仏』の名号を唄う御詠歌もありと、かなり音楽的な内容のものとなっていました。
法要の中盤では僧侶達の手によって散華(さんげ)が撒かれました。
通常、散華の儀式というのは極楽浄土で天から美しい花弁が降り注ぐさまを模したもので、仏様に向けて紙で花弁形に拵えた散華を撒きます。しかし、今日の僧侶たちは散華を参拝者の方に向けて投げてよこしていました。恐らく参拝者へのサービス(?)なのかも知れませんが、おかげで
ちゃっかり散華を頂くことができました。とりあえず我が家の仏壇にしまっておこうと思います。
また、先日熱海の帰りに来宮神社に参拝した時に持参していなかったので、今回は御朱印帳を携帯していきました。それで、
『秋の御開帳』と書かれた特別版御朱印を頂戴してきました。
法要を堪能してから、御一緒した知り合いの方の御友人が鎌倉でカフェを開いておられるとのことで行ってみることにしました。
鶴岡八幡宮に続く若宮大路の中程に、合資会社湯浅物産館という趣深い建物があり、その建物内の奥まったところに久時(ひさき)というカフェがありました。ここは元々倉庫だったところを改装して作った店舗とのことでしたが、
昭和初期の趣を上手く残しながらリノベーションされた、落ち着いた空間となっています。オーナーさんは私が御一緒していた知り合いの方とのかつてのバイク仲間だそうで、積もる話に花を咲かせていらっしゃいました。
こちらの二階は今時珍しい写真館となっていて、閉店後だったにも関わらず室内を見学させて頂くことができました。随所に大正から昭和初期にかけての意匠が見られる、素晴らしい空間でした。今回はあまり時間が無かったので、いつかまた改めて拝見させて頂くことにして失礼しました。
生憎の空模様ではありましたが、それでも関東地方では珍しい運慶仏を間近に拝観でき、素敵なカフェで美味しいコーヒーも頂けて、実に有意義な一日となりました。
浄楽寺の運慶仏は通常は拝観予約が必要ですが、春と秋の御開帳日には予約なしでも拝観出来ます。ただし、いずれの場合も雨天は拝観停止となりますので、詳細は浄楽寺のfacebookまたはTwitterを御参照下さい。